腕の中の幸福
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「君は器用なのに、とても不器用なんだね」
「?仰っている意味が分かりません。ブラスカ様」
アヤを寺院の地下で助けてから数日後、ブラスカ様に言われた。
ーーベベルの地下には、何かヤバいモノが眠っているーー
ごく一部の僧兵(極秘任務に当たるような)の間では、暗黙の了解事だった。
キノックは興味があるらしく、任務の間にコソコソと嗅ぎ回っていた。
そこに迷い込んだアヤを助けた事が、彼女の口からブラスカ様へ伝わったらしい。
夕餉に招かれ、アヤとユウナが台所で用意をしている間、ブラスカ様は楽しそうに俺の顔を見ていた。
どうも俺は、人に対する嫌悪の気持ちが隠せない代わりに、好意の気持ちも、隠せないらしい。
自分でも気づいていなかったアヤに対する好意を、ブラスカ様には見抜かれていた。
どうかしてると思った。
十も年の離れた、まだ子どものような娘に惚れるなんて。
「気持ちを、伝えてみたらどうだい?」
「しかし・・」
彼女にした振る舞いを考えれば、良くは思われていないだろう。
俺は黙り込んでしまった。
「伝えてみなければ、わからないよ。私とシエラもねーー」
この状況を楽しんでいるとしか思えないブラスカ様に、俺はため息をついた。
ブラスカ様に言われたからではないが、結局、彼女に想いを告げた。
ブラスカ様への義理立てからか、彼女は承諾してくれた。
激務の合間に二人で会っても、気の利いた科白ひとつ言えるわけもなく(キノックなら、きっと言えただろう)
退屈な時間を過ごさせていた。
でも、彼女の紫色の瞳に映る自分の顔は
今まで見たことがない程、穏やかで落ち着いた顔。
エボンの教えの名の元に粛清を繰り返していた俺が、唯一、人間としての優しさを思い出させてくれる場所だった。
雨の降る日、アヤが意を決した顔で切り出した。
「あの・・アーロンさん。もう・・」
逢うのをやめたいと言われる。すぐさまそう思った。
仕方がないか。
彼女はちっとも楽しそうではなかったし。
数ヶ月とは言え、よく付き合ってくれた。
そう思うべきだろう。
だが、これでこの時が無くなると思うと
無性に淋しくなった。
「濡れてる・・」
彼女が雨に濡れる俺に触れ、じっと見つめる。
吸い込まれそうな紫の瞳が名残惜しくて、頬に手を添えた。
拒まない彼女に、躊躇いながら顔を寄せる。
そっと触れた彼女の唇は
とても 暖かかった。
【紫の中の幸せ】
.
1/4ページ
