48話 思い出
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頭上から、細かい飛沫となって降り注ぐ熱い湯が、肌を目覚めさせる。
目の前の鏡に映る、胸元に印された幾つもの赤い痕。
それに気づいて、身体がまた熱くなる。
『ーーすまない』
アーロンの声が、頭の中に甦る。
この痕が消えたら、もう、何も遺らない。
私の中の、思い出だけになる。
滲んで来る涙を、必死に抑えた。
タオルで髪を拭きながら浴室から出て来ると、旅行公司の中は珈琲の香りが充ちていた。
アヤは目を閉じて、大きく深呼吸する。
「・・・いい薫り」
香ばしい薫りを胸いっぱいに吸い込み、目を開けた。
「アーロン?」
アヤが名を呼ぶと、アーロンが姿を見せる。
手には、カップを持っていた。
それをテーブルに置くと、二人は向かい合って座る。
「アーロンが淹れてくれた珈琲なんて、何年ぶりかしら・・」
両手でカップを包み、口元まで運ぶ。
「腕が、落ちてないといいがな」
苦笑いする彼に、アヤは微笑みを浮かべる。
カップの淵に唇をつけ、目を閉じて、熱い液体をゆっくり口に含んだ。
香ばしい薫りが、鼻孔を抜ける。
半分眠っていた頭が、スッキリ起きるようだ。
「美味しい」
「・・そうか」
アヤの笑顔に、僅かに安堵を浮かべた。
アヤが珈琲を飲み干す頃、アーロンは自分の上着を手元に引き寄せた。
その上着の袂から、ヨレヨレのリボンがついた、小さな箱をテーブルに置いた。
「・・何?」
箱に目を落とした後、アーロンを見上げた。
「開けてくれ」
そう促され、アヤは箱を手に取った。
結ばれてから、相当時間が経っているらしく、リボンの結び目は固かった。
仕方なく、横にずらしてリボンを外した。
小さな上蓋を持ち上げると、中には指輪が二つ、きちんと収まっていた。
ひとつは、黒味がかった黄金色。
もうひとつは、薄桃色に光る黄金色だ。
「アーロン、これは?」
不思議そうに、アーロンを見た。
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