37話 過去への旅 彷徨
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「寺院の周りは探したけど、いなかった」
「だとすると、中かーー」
アーロンは、寺院の扉を押した。
まだ参拝する者もない広間は、朝の涼やかな空気を満たしていた。
その厳粛な雰囲気を壊す、耳障りな音が聞こえる。
「ジェクト・・」
アーロンは、思わず額を押さえた。
「どうしたんだい?アーロン」
広間の奥にある客間から、ブラスカが姿を見せる。すぐにでも出立出来るよう、支度は整っていた。
「あぁ、ブラスカ様」
客間と隣り合っている僧官たちの居住区から、女性の僧官が泣きそうな顔で飛び出して来る。
「御起床をお待ちしておりました。其方のガードの方が、深夜、オハランド様の御聖像の前で酒盛りをーー」
確かに、爽やかな空気の中に、酒の匂いが混ざっている。
床に大の字になって、鼾をかいているジェクトの周りには、酒瓶が転がっていた。
ブラスカは、やれやれとため息をついた。
「あ~、アタマ痛え」
そう言いながら、ジェクトは酒の瓶を煽った。
「二日酔いなのに、まだ飲むの?」
酒臭いジェクトに、アヤは唇を尖らせる。
「迎え酒だ、アヤちゃん」
まだ酒を飲まないアヤは、よく分かっていないようだった。
「二日酔いを散らす為に飲む酒だよ、アヤ」
ブラスカが、ちらりと振り返り説明した。
「それにしては、量が多いがな」
「ケッ!」
アーロンの嫌みに、ジェクトは盛大に舌打ちをした。
「何で、あんなに呑んだんだ?」
ビサイド島で見せたのは、やはりカラ元気だったのか
口に出来ずに、酒に逃げたのだろう。
いっそ、愚痴でもこぼしてくれればお互い楽なのに。面倒な男だ。
アーロンは、心の中でため息をつく。
「別にーー宿に泊まった時は、いつも呑んでるじゃねえか」
また、酒を煽る。
「貴様、ガードだろう。そんなことで、ブラスカ様を護れるとーー」
「アーロン、いいじゃないか。ジェクトだって、飲みたい時もあるさ。
この辺りは魔物も少ないし、私も戦えるのだから」
「ブラスカ様がそうおっしゃるなら・・」
助け舟を出すブラスカに、アーロンは仕方なく口を噤んだ。
「但し」
立ち止まって振り返る。
「グアドサラムで会いたい方がいる。だから、幻光河までにしておくれ」
「あ、ああ」
ブラスカの笑みに、ジェクトは酔いが醒める気がした。
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