36話 過去への旅 邂逅
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
原因はよく覚えていないが、些細な事だった気がする。
現在なら、気にも留めないだろう。
ただ、何故かわからないが、妙に堪えたのを覚えている。
その日は、朝から講義にも習練にも参加せずに、人気のない近くの森の中に座り込んでいた。
風に揺れる木々が奏でるざわめきに、耳をすまし
ぼんやりと目の前の景色を、見るともなしに見ていた。
昼を廻った頃から小雨がパラついてきて、大きな木の下に避難した。
辺り一面、雨の音だけが響いていて
世界から取り残されたような気分だった。
膝を抱えてうずくまると
「腹が減った・・」
冷えきった腕をさすり、空から落ちる雫を眺めながら、食い物を求める腹を宥めた。
「・・どうしよう」
考えるまでもない。また、あの施設に戻るしかない。
僧兵に志願出来る年になれば、此処を出ていける。それまでの辛抱だ。
僧官達も、喜んで送り出すだろう。
でも、それからーー?
僧兵になり、ただ寺院の言いなりになって、命を落とすまで戦って生きていくのだろうか。
誰を必要とするわけでもなく
誰かに必要とされるわけでもない
人との煩わしさはないが、何かを分かち合うこともない
喜びも、悲しみも
力を求め 強さを手に入れて 何をしようとしているのか。
その力で その強さで 何を護ると云うのだろう。
何を護れるのだろう。
何故だ 今日は心が弱い。
「アーロン」
ハッとして顔を上げれば、雨に煙る中、ブラスカが立っていた。
「今日は、朝から姿が見えないから、捜していたんだよ」
「どうして・・」
「心配だったからーーだけじゃ、ダメかい?」
下を向いて黙ってしまった俺の肩に、ブラスカは手を添えた。
その手は、とても優しかった。
「淋しかったのかい?」
「さみ・・しい?」
おそらく、人から始めて言われた感情。
そして、始めて感じた気持ち。
自分の中に、そんな感情があるとは 思ってもみなかった。
「もっと早く、探しに来られれば良かったのだが・・
心細い思いをさせて、すまなかったね。アーロン」
「何故、あなたが謝るんです」
「何故かな」
微笑むブラスカを見て、俺の瞳から涙が零れ落ちた。
もし俺に、家族というものがいたなら
こんな何気ないひと言に
心が救われたするのだろうか
その日を境に ブラスカが俺の唯一の家族になった。
.
