30話 聖なる泉
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入り口まで歩いてくると、アーロンは奥を覆い隠す木々の一本に寄りかかり、腕を組んだ。
アヤは奥を振り返り、寝ごこちのいい場所を求めて、動いている影を見つめる。
「ユウナ・・やっぱり、旅を続けるのね」
「あぁ。ブラスカのーー娘だからな」
「うん・・」
ベベルに繋がる街道に視線を向けたまま、アーロンは
「アヤ、話してくれ」
俯いて、返事を躊躇うアヤに、更に言葉を重ねる。
「教えてくれ。この十年ーーどうしていたか。責めるつもりはない。いや、そんな資格もない。
ただ、おまえがーーどんな想いで生きてきたかーーそれだけが、知りたい」
アーロンが片腕を広げると、アヤは大人しくその懐に収まった。
厚い胸に身体を預け、忘れようにも忘れられない『あの日』の事を
少しずつ、少しずつ、言葉に紡いでいく。
「あの朝ーーあなたが出て行くのがわかった。
どこに向かうつもりなのかも、何をしに行くつもりなのかも、全部。
でも、後を追えなかった。もう、あそこに行くのは嫌だった。
独りになった旅行公司の中は、物音ひとつしなくて。
外も静かで、ナギ平原を渡る風の音しか聞こえなかった」
アヤは寒くなったのか、口元を震わせた。
それに気づいたアーロンは、片腕で抱き寄せていたアヤの身体を、両腕の袂で覆った。
その温もりにくるまれて、アヤは安堵の息を吐く。
「陽が落ち始めて空が黄昏ると、居てもたってもいられなくて。
剣を持って、旅行公司を飛び出したの」
「俺のせいだ」
アヤの耳元で、アーロンは傷口から毒を絞り出すような声で呻いた。
「違う、アーロンのせいじゃない」
自責の念にかられるアーロンを、宥めるように抱きしめた。
「ベベルへ向かう街道の途中で、マカラーニャの森から現れた魔物に囲まれたところを、助けられたの」
「シーモアにかーー」
胸の中で、小さく頷いた。
「シーモアは、ベベルからマカラーニャ寺院へ向かうところだった。
私が、ベベルへ向かっていたことを知らないシーモアは、そのままマカラーニャ寺院へ運んだ」
アーロンの服の袷を、握り締める。
「気づいたら、まる一昼夜眠っていた。
その間に、私がブラスカのガードだと知ったらしくて、傷が完治するまで引き留められて。
それでも、なんとかベベル寺院に戻って、ユウナに会いに行った」
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