16話 撤退
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海岸でルッツの遺体を見つけ、取り乱していたガッタも、寺院にたどり着いてようやく落ち着きを見せていた。
もっと早く声を掛けたかったのだが、重傷者を優先していたため、今になってしまった。
固まった血をきれいにし、包帯を巻く。
大きな傷もさほどなく、これなら、大した時間もかからずに治るだろう。
問題は、心の方。
「ガッタさん、大丈夫?」
ユウナを見て、ガッタはやっと口を開く。
「ユウナちゃん、先輩の異界送りはーー」
「うん、ちゃんと送ったよ。だから、安心して」
「有難うーー」
ガッタの目から、涙が零れた。
「これから、どうするの?」
アヤの問いに、ガッタは顔を腕でこすりながら
「ビサイドへ、帰ります」
「そうだね、それがいいよ」
ユウナの笑顔に、ガッタも涙を浮かべたまま、微笑んだ。
アヤも、ガッタの笑顔に、ひとまず安堵した。
「じゃあ、私、このまま寺院で休ませてもらいます」
「お疲れ様、ちゃんと休むんだよ」
「はい、アヤさんもですよ」
アヤは笑うと、扉に手を掛ける。
ユウナは、寺院を出ようとするアヤに、とっさに声をかけた。
「アヤさん!あの!」
ユウナの声に、アヤは立ち止まる。
ユウナはアヤを呼び止めたものの、何も言えなくなり、胸に手を押し当てる。
涙が溢れてきた。
「ユウナ・・」
「あ・・ごめんなさいーーアヤさんとふたりきりになったの、久しぶりだから・・なんだか、胸が詰まって‥」
「ユウナーー私ね」
何かを、決意したように口を開いたアヤを、ユウナが遮った。
「アヤさん、もうアーロンさんと、昔みたいにはーー」
最後まで言えなかったユウナの言葉に、アヤは下を向いた。
「アーロンのことはーーこの10年、忘れたことなんてなかった」
ユウナはアヤの腕を掴み、身を寄せた。
「だったら!どうしてアーロンさんに背中を向けるの?
イヤだよ。お互いのことが好きなのに、拒むなんて。
また、私とアーロンさんとアヤさんと、三人で手を繋ぎたいよ」
ぽろぽろと涙を零すユウナから、アヤは顔を背けた。
「ーーだから」
自分の腕を掴む、ユウナの手を外す。
「好きだからーーダメなの」
そう言い残し、アヤは寺院から出て行った。
残されたユウナは、母親とはぐれて迷子になった子どものように、一頻り泣いた。
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