アルチャコ短編集 ep.1

「アルってさ、本当に俺のこと大切にしてくれてるよね」
「うん?チャコのことは大切だけど、急にどうしたんだ?」

時刻は深夜1時過ぎ、とあるホテルの一室。備え付けのバスローブを身に纏ったチャコは、気怠い身体を預けるようにソファーへ腰を下ろす。鈍く痛む腰に意識を向けつつ、丁寧にタオルで髪を拭いていたチャコは、わしゃわしゃと適当に髪を拭きながら上半身裸のまま浴室から出てきたアルペックへ声を掛けた。

つい30分ほど前まで二人の間に漂っていた恋人同士の甘い雰囲気は、先ほどアルペックと一緒に浴びたシャワーによって汗と共に洗い流され、すっかりいつも通りの二人に戻っている。しかし、チャコが纏うバスローブの隙間から覗く鎖骨や太ももを始めとする、身体中の至る所に咲いた朱色の痕や、アルペックの背中に付けられた真新しいひっかき傷が、先ほどまで二人が身体を重ねていたことを物語っていた。

「もうするの何度目ってくらいなのに、毎回する前に俺が嫌じゃないか確認してくるし」
「そりゃあ、チャコの嫌がることはしないって決めてるし?一緒に気持ち良くなりてえけん!」
「う……それは、俺もそう。あと一人で大丈夫って言ってるのに、お風呂まで一緒に入ってくれるし」
「それはー!前にチャコがお風呂入ってる最中に腰立たなくなって動けんことあったから、チャコんこと心配やし!あと、一緒にお風呂入るの楽しいし?」
「あ、あの頃は!まだ今より慣れてなかっただけで……!でもさ、大切にしてくれるのは嬉しいけど、アルの負担になってない?」

身体を重ねる上でチャコに負担が掛かってしまうのは仕方がないことだが、それを理由にアルペックにまで負担を掛けてしまうのはゴメンだ。それに、負担が大きいことを承知した上で、アルのことを受け入れようと決めたのはチャコ自身である。行為の度におんぶに抱っこなんてもっての外、彼とは恋人同士として対等な関係でいたい。

「うーん。チャコと恋人同士になった時から、ずーっとチャコんこと大切にするって決めてたけん!負担も何もねえ!」
「えっ?」
「オレはチャコんことがしんけん好きで、大事で!チャコが嫌がることはしたくないし、大切な相手なんよ。やけん、負担なんかねえし、これから先も一生大切にさせてほしい!」
「……ありがと。本当に、こういうとこがアルだよね?」
「うん?よう分からんけんど、オレはオレちゃ!」

機嫌良さげな笑みを浮かべながらソファーに腰を下ろしたアルペックが、チャコの身体を労わるようにそっと抱きしめてきた。適当に拭いていたせいで少し乱れたアルペックの髪から、自分と同じシャンプーの匂いがふわりと香り、チャコの鼻を擽る。同じシャンプーを使っているのだから当たり前のはずだが、なぜだか今日はそれがすごく嬉しい。思わずチャコは笑みを洩らした。

「アル、いい匂いする」
「チャコもいい匂いする!お揃いやな!」
「ふふっ、同じシャンプー使ったんだし当たり前でしょ?……さっきの一生って言葉、忘れないからね?」
「オレも忘れんけん、一生大切にする!ずっと一緒に居ような?チャコ!」
「だからそれ……!まぁいいか。アル自身が言葉の意味に気が付く日が来るの、楽しみだなぁ」

恋人からの無自覚なプロポーズの言葉に、いっそこちらから先に伝えてしまおうか?なんて考えたチャコだったが、いつかの未来にやってくるであろう『その日』を楽しみに、慌てて口を噤む。
チャコからの返事はもう決まっている。あとはその日が来ることを楽しみに、願い、待つだけだ。

早く髪乾かさないと風邪引くよ?なんて、誤魔化すように笑ってみせる。きょとんとしながらチャコを抱きしめているアルペックの姿が愛おしくて、チャコは口元を綻ばせた。抱きしめ返すようにしっかりとアルペックの背中に両腕を回し、その肩口に顔を埋める。恋人とお揃いの匂いを確かめるように、チャコは深く息を吸った。
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