アルチャコ短編集 ep.1
「なあチャコー、マシュマロとかグミの感触とキスって似てるらしいんだけど、本当なんかなー?」
「えっ?急にどうしたの、アル」
お中元渡しの旅の途中、日没を迎えた二人は街中に建てられたホテルの一室でそれぞれ寛いでいた。ソファーに腰掛けスケボーの手入れを行なっていたチャコだったが、ツインベッドの片方でうつ伏せになっているアルペックから発せられた、突拍子もない言葉に思わず手が止まる。気になってそちらに顔を向けると、アルペックの周りには『ご自由に閲覧ください』というステッカーの貼られた雑誌が何冊か置かれていた。ロビーから部屋へ移動する直前に何かを見つけて手に抱えているなとは思っていたが、どうやら宿泊者向けに用意されていた雑誌を部屋に持ち込んでいたらしい。チャコも手に取ったことのあるメンズファッション誌をはじめ、グルメやビジネスなど興味のあるなし関係なく様々なジャンルの雑誌がアルペックの周りに並んでいたが、なぜか彼は女性向けのエンタメ雑誌と思われるものを手元に置いて眺めていた。
「またそんなに持ってきて……それで、マシュマロが何だって?」
「この雑誌にマシュマロとかグミの感触と、キスした時の感触は似てるって書いてあってな?本当にそうなのか気になってなー」
「なに、その雑誌……でも、なるほどね。気になるってことは、アルってキスしたことないんだ。もしかしてマシュマロで練習でもするつもり?」
「なっ……!いけど、ちいと気になっただけやし!そういうチャコこそ、キスしたことあるのか?」
「えー、秘密かな」
俺もしたことないんだけどね?かっこ悪い気がするから、アルには絶対言わないけど。
顔を真っ赤にして喚くアルペックの姿を見て愉快に思ったチャコは、手にしていたスケボーを床に置いてソファーから腰を上げた。アルペックが転がっているベッドへ近づき、腰を下ろす。そのまま身体を屈め、うつ伏せになったアルペックの耳元に顔を近づければ、内緒話でもするように囁いた。
「ねぇ、アル。そんなにキスとマシュマロが似てるか気になるなら、俺としてみる?」
「っえ?」
「ふふ、アルも男の子だよねー。キスの感触が気になるなんて」
「そ、そりゃあ!オレも男やし、一応それくらい気になるちゅうか……」
いつも無邪気で素朴な友人が、めずらしく照れたようにもごもごと話す姿がとても新鮮に感じる。ベッドから身体を起こし、正座をして思春期真っ只中のような反応を見せるアルペックの様子に、少しだけいたずら心が顔を覗かせたチャコは、微笑みを湛えながらアルペックの顔を覗き込んだ。
「やっぱり気になるんだ。……俺、アルとならキスの練習してもいいよ?なん、っ?え、アル……?」
なんてね?と冗談っぽく笑って見せようとしたその時だった。アルペックの左手がチャコの後頭部に添えられ、そっと右手が腰の辺りに回される。何をされているか理解できないまま、アルペックの顔がゆっくりと近づいてくる気配を感じた。アルの顔、近くでじっくり見ると整っててかっこいいな……他人事のようにぼんやりと考えていたチャコだったが、唇同士が触れるか触れないかの距離まで近づいていることに気がつくと、慌ててアルペックの肩を押して顔を離した。
「ちょ……っと待って!アル、本当にキスしようとしてた?」
「えっ、キスせんの?」
不思議そうな表情でこちらを見つめてくるアルペックに、キスする気だったのかと内心驚く。また揶揄って!なんて言われるものだと思っていたチャコは拍子抜けしたが、アルペックが騙されている自覚すら持たない純真な性格の持ち主だという事を、一瞬でも忘れていた自分が全面的に良くなかったと反省した。それはそれとして、どうしてアルペックは友人である自分からのキスの誘いに乗ろうと思ったのだろう。こうしてアルペックを見てみると整った顔立ちをしているし、誰にでも優しくてまっすぐ誠実な性格をしている。少し奔放なところはあるが、見ていて飽きないし逆に目を離せないと思わせられる。今まで恋人ができるきっかけは幾度とあっただろうに……理由を考えながら首を捻っていたチャコだったが、本人に直接聞いてみるのが一番だ。少し乱れてしまったベッドシーツの上に座り直し、アルペックと向かい合った。
「あのさ、なんでアルは俺とキスしようと思ったの?冗談でも誘ったのは俺からだけど……」
「んー、最初は絶対チャコに揶揄われてると思ったんだけどさ?でも、いざチャコとキスすること考えたらなんか……」
「なんか?」
「その、な?オレ、チャコとならキスできるって思ったんよ。やけん、そのままキスしようとしちょった」
「っ!アル、それ……どういう意味か分かってる?」
まっすぐにこちらを見つめながら、まるで遠回しにチャコへ告白しているかのような言葉をアルペックから告げられた。じわじわと顔に熱が集まり、心臓がぎゅっと締め付けられる。今まで感じたことのない、ふわふわした感情がチャコの中をぐるぐると渦巻き、何故だかアルペックの顔をまともに見られない。どうにか平静を取り戻し、何事もなかったかのように振る舞おうと考えを巡らせたチャコだったが、その考えはアルペックからの言葉で見事に打ち砕かれた。
「それで、その……チャコはオレに、キスさせてくれるん?」
「っ〜〜〜〜!今日はダメ!」
分かりやすく物欲しそうな顔でキスの了承を得ようとするアルペックの姿に、首まで朱に染めたチャコはベッドから降りて足早にソファーへと戻った。
「えー!!さっきもう少しでキスするところやったのに?というか今日はって!?」
「ダメ、オレたち普通に友達でしょ?それに、キスの練習より先にやらなきゃいけないこと思いついたから、それが済むまでは絶っ対に無理だから!」
「ええ〜!先にやらなきゃいけないことって、スケボーの練習とか?それともラップの上達とかか!」
「そんなわけないでしょ……!俺も、どうするかちゃんと考えるから、アルもしっかり考えておいて?」
「なんかよく分からないけど、やらなきゃいけないことが出来たらチャコとキスできるんやな?よーし、オレはやるで!決めたけん!」
「そんなにやる気出さなくてもいいから……!」
バクバクとうるさい心臓を必死で無視しながら、床に置いていたスケボーを拾い上げ、手入れを再開する。
やらなきゃいけないことが告白だということにアルペックは気が付くのか、はたまたチャコの方から先に二人の関係を変える言葉を伝えることになるのか。
意識したばかりの二人の恋は、加速度をつけて転がりはじめたばかりだ。
「えっ?急にどうしたの、アル」
お中元渡しの旅の途中、日没を迎えた二人は街中に建てられたホテルの一室でそれぞれ寛いでいた。ソファーに腰掛けスケボーの手入れを行なっていたチャコだったが、ツインベッドの片方でうつ伏せになっているアルペックから発せられた、突拍子もない言葉に思わず手が止まる。気になってそちらに顔を向けると、アルペックの周りには『ご自由に閲覧ください』というステッカーの貼られた雑誌が何冊か置かれていた。ロビーから部屋へ移動する直前に何かを見つけて手に抱えているなとは思っていたが、どうやら宿泊者向けに用意されていた雑誌を部屋に持ち込んでいたらしい。チャコも手に取ったことのあるメンズファッション誌をはじめ、グルメやビジネスなど興味のあるなし関係なく様々なジャンルの雑誌がアルペックの周りに並んでいたが、なぜか彼は女性向けのエンタメ雑誌と思われるものを手元に置いて眺めていた。
「またそんなに持ってきて……それで、マシュマロが何だって?」
「この雑誌にマシュマロとかグミの感触と、キスした時の感触は似てるって書いてあってな?本当にそうなのか気になってなー」
「なに、その雑誌……でも、なるほどね。気になるってことは、アルってキスしたことないんだ。もしかしてマシュマロで練習でもするつもり?」
「なっ……!いけど、ちいと気になっただけやし!そういうチャコこそ、キスしたことあるのか?」
「えー、秘密かな」
俺もしたことないんだけどね?かっこ悪い気がするから、アルには絶対言わないけど。
顔を真っ赤にして喚くアルペックの姿を見て愉快に思ったチャコは、手にしていたスケボーを床に置いてソファーから腰を上げた。アルペックが転がっているベッドへ近づき、腰を下ろす。そのまま身体を屈め、うつ伏せになったアルペックの耳元に顔を近づければ、内緒話でもするように囁いた。
「ねぇ、アル。そんなにキスとマシュマロが似てるか気になるなら、俺としてみる?」
「っえ?」
「ふふ、アルも男の子だよねー。キスの感触が気になるなんて」
「そ、そりゃあ!オレも男やし、一応それくらい気になるちゅうか……」
いつも無邪気で素朴な友人が、めずらしく照れたようにもごもごと話す姿がとても新鮮に感じる。ベッドから身体を起こし、正座をして思春期真っ只中のような反応を見せるアルペックの様子に、少しだけいたずら心が顔を覗かせたチャコは、微笑みを湛えながらアルペックの顔を覗き込んだ。
「やっぱり気になるんだ。……俺、アルとならキスの練習してもいいよ?なん、っ?え、アル……?」
なんてね?と冗談っぽく笑って見せようとしたその時だった。アルペックの左手がチャコの後頭部に添えられ、そっと右手が腰の辺りに回される。何をされているか理解できないまま、アルペックの顔がゆっくりと近づいてくる気配を感じた。アルの顔、近くでじっくり見ると整っててかっこいいな……他人事のようにぼんやりと考えていたチャコだったが、唇同士が触れるか触れないかの距離まで近づいていることに気がつくと、慌ててアルペックの肩を押して顔を離した。
「ちょ……っと待って!アル、本当にキスしようとしてた?」
「えっ、キスせんの?」
不思議そうな表情でこちらを見つめてくるアルペックに、キスする気だったのかと内心驚く。また揶揄って!なんて言われるものだと思っていたチャコは拍子抜けしたが、アルペックが騙されている自覚すら持たない純真な性格の持ち主だという事を、一瞬でも忘れていた自分が全面的に良くなかったと反省した。それはそれとして、どうしてアルペックは友人である自分からのキスの誘いに乗ろうと思ったのだろう。こうしてアルペックを見てみると整った顔立ちをしているし、誰にでも優しくてまっすぐ誠実な性格をしている。少し奔放なところはあるが、見ていて飽きないし逆に目を離せないと思わせられる。今まで恋人ができるきっかけは幾度とあっただろうに……理由を考えながら首を捻っていたチャコだったが、本人に直接聞いてみるのが一番だ。少し乱れてしまったベッドシーツの上に座り直し、アルペックと向かい合った。
「あのさ、なんでアルは俺とキスしようと思ったの?冗談でも誘ったのは俺からだけど……」
「んー、最初は絶対チャコに揶揄われてると思ったんだけどさ?でも、いざチャコとキスすること考えたらなんか……」
「なんか?」
「その、な?オレ、チャコとならキスできるって思ったんよ。やけん、そのままキスしようとしちょった」
「っ!アル、それ……どういう意味か分かってる?」
まっすぐにこちらを見つめながら、まるで遠回しにチャコへ告白しているかのような言葉をアルペックから告げられた。じわじわと顔に熱が集まり、心臓がぎゅっと締め付けられる。今まで感じたことのない、ふわふわした感情がチャコの中をぐるぐると渦巻き、何故だかアルペックの顔をまともに見られない。どうにか平静を取り戻し、何事もなかったかのように振る舞おうと考えを巡らせたチャコだったが、その考えはアルペックからの言葉で見事に打ち砕かれた。
「それで、その……チャコはオレに、キスさせてくれるん?」
「っ〜〜〜〜!今日はダメ!」
分かりやすく物欲しそうな顔でキスの了承を得ようとするアルペックの姿に、首まで朱に染めたチャコはベッドから降りて足早にソファーへと戻った。
「えー!!さっきもう少しでキスするところやったのに?というか今日はって!?」
「ダメ、オレたち普通に友達でしょ?それに、キスの練習より先にやらなきゃいけないこと思いついたから、それが済むまでは絶っ対に無理だから!」
「ええ〜!先にやらなきゃいけないことって、スケボーの練習とか?それともラップの上達とかか!」
「そんなわけないでしょ……!俺も、どうするかちゃんと考えるから、アルもしっかり考えておいて?」
「なんかよく分からないけど、やらなきゃいけないことが出来たらチャコとキスできるんやな?よーし、オレはやるで!決めたけん!」
「そんなにやる気出さなくてもいいから……!」
バクバクとうるさい心臓を必死で無視しながら、床に置いていたスケボーを拾い上げ、手入れを再開する。
やらなきゃいけないことが告白だということにアルペックは気が付くのか、はたまたチャコの方から先に二人の関係を変える言葉を伝えることになるのか。
意識したばかりの二人の恋は、加速度をつけて転がりはじめたばかりだ。