星に願うなんて柄じゃないから

「チャコ、今から星見に外行かない?」

突然の提案に戸惑いながらも「行く」と頷いて答えたチャコは、アルペックに手を引かれながら夜に包まれたあひるのペックル王国を歩いていた。
さくさくと草を踏む二人分の足音が耳に届く。先月までの茹だるような熱帯夜が嘘のように、すっかり涼しくなった夜風が頬を撫でた。
時折聞こえてくるアルペックの機嫌良さげな鼻歌に耳を傾けながら、しばらく歩いていると、やがてアルペックの秘密基地に到着した。

「到着〜!」

パッとチャコの手を離したアルペックが、ごろんと草むらへ仰向けに寝転がる。
すっかり馴染みの場所となった彼の秘密基地は、暗闇の中でひっそりと静まり返っていた。
両手を頭の後ろで組んだアルペックはじっと星空を見上げている。その隣に腰を下ろして膝を抱えて顔を上げれば、やわらかな星明かりが視界いっぱいに広がった。

「いつ見ても思うけど、アルの国は星がきれいだね」
「うんうん!秋になって空気が澄んできたけん、この時期はいつもより星がきれいに見えるんよ!やけん、チャコにも見せたかったんだ!」

星空からチャコへと視線を移したアルペックが、得意げに笑う。
そっかと微笑み返せば、チャコも隣へ仰向けに寝転がった。

「……なぁ、チャコ。オレたちが出会った頃のこと、覚えてる?」
「もちろんだよ。どうしたの、急に」

横になったまま、いつの間にかこちらへ身体を向けていたアルペックに尋ねられる。
寝返りを打ってアルペックの方へ向き直ったチャコは、しっかりと頷いた。

「いやー、なんか星空見てたらチャコたちと旅してた頃のこと思い出して。バドさんの国を出発した後にさ、チャコ……オレの国に一緒に来てくれただろ?あの日の夜も一緒に星見たな〜って!」
「そうだったね。あの日の夜もすごく星がきれいで驚かされたっけ」
「そうそう!チャコ、うわぁ〜って言いながらずっと星空見上げてくれたけん、すっげー嬉しかった!」

あの日、はじめて見上げたペックル王国の星空のことは、今でも鮮明に覚えている。
そして、隣で一緒に夜空を見上げていた友人の横顔も。

「もっと星がきれいに見える場所があるからって案内してくれようとしたアルが、足を滑らせて川に落ちたのも覚えてるよ」
「あったあった!そんで、助けてくれようとしたチャコも一緒に川に落ちて!」
「二人してずぶ濡れでお城に帰って、ペックル様をびっくりさせたよね」
「ペックルさん、大慌てでタオルいっぱい持ってきてくれたな〜!」
「……あの頃からもう三年になるんだね。まるで昨日のことみたいなのに、早いなぁ」

そう呟きながら、アルペックと顔を見合わせて笑った。
——あの頃から、いろいろなことが変わったと思う。
けれど、隣で笑うアルペックの表情も、彼と過ごす時間も、あの頃とちっとも変わっていない。
そのことに、チャコは少しだけホッとしていた。

「あの頃からいろんなことがあったなぁ」
「そうだね。俺の嗅覚が100万倍になったり、未管理のゲートに入ったり」
「あったあった!」
「それにシーズのこととか、願いの木と世界のこととか」
「だよなぁ。……でも、オレと話してるときのチャコの表情も、一緒に過ごしてる時間も、あの頃と全然変わらなくてさ。こういうの、なんか良いなーって!」

目を丸くしたチャコが、にへっと笑いかけてくるアルペックの顔をまじまじと見つめる。

(——アル、俺と同じこと感じてたんだ)

その事実に、なんだかこそばゆい気分にさせられた。
黙ったまま自分を見つめてくるチャコを不思議に思ったのか、アルペックが首を傾げる。
そして再び笑顔を浮かべると、勢いよく草むらから身体を起こした。

「オレ、チャコとなら何年先でも、ずっと変わらずにこうやって一緒にいられると思うんだ!チャコはどう?そう思わない?」
「……俺は」

——この世界に、変わらないものなんてないと思う。
時間は流れ、季節は巡っていく。
どんなに親しい相手でも、いつまでも変わらずに一緒にいられるとは限らない。
強く繋いだ手も、なにかの拍子で離れることもあるはずだ。
そして、一度離れてしまえば、二度と繋ぎ直すことができないかもしれない。
けれど——。

「俺も、そう思うよ」

これは“願い”なのかもしれない。
たくさんのものが変わっていくこの世界で、変わらないものもあってほしい。
そんな、ささやかな願い。

「だよなだよな!チャコ、これからもよろしくな!」

寝転がったままのチャコの目の前に、アルペックの手が差し出された。
ふっと笑ってその手を取り、身体を起こす。アルペックと肩を並べて座り、二人揃って顔を上げた。

「こちらこそ、これからもよろしく」

星に願うなんて柄じゃないから。
この願いは、自分の手で叶えてみせる。

——来年の今頃、自分は誰と、どこで、何をしているだろうか。

隣で星空を見上げるアルペックの横顔を見つめながら、そんなことを考えてみる。
少し先の未来に想いを馳せる二人の姿を、ちらちらと瞬く星々が優しく照らしていた。
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