sweet, melt snow

真冬の冷たい風がチャコの頬をひやりと撫で、唇からこぼれた白い吐息を連れて流れていく。
よく晴れた冬空の下、チャコとアルペックは肩を並べ、アルペックの“秘密基地”へ向かって歩を進めていた。

「なあなあ、チャコ。お中元とクリスマスプレゼントの次は、何を配ればいいと思う?」

秘密基地まであと数分というところで、アルペックが突拍子もなくそんなことを尋ねてくる。
雪を踏む二人分のおそろいの小さな音が、足元で心地よく響いていた。

「そうだな……この時期だと、お年玉とかお年賀かな?もう一月の中旬だし、ちょっと遅いかもしれないけど」
「“おとしだま”ってあれだろ?ピケロがバドさんの叙任式の招待状を送ってくれたときに落ちてきた、ボールみたいなやつ!」
「あれは落ちてきたというか、飛んできたというか……」

アルペックの言葉に、チャコはわずかに苦笑する。
まるで雪のようにひらひらと紙吹雪が降ってきたあの瞬間は、今でも記憶に新しい。

「お年玉より、お年賀のほうがいいんじゃないかな。お中元のときみたいに、アルの国の名物を配るつもりなんでしょ?」
「よく分かったな、チャコ!次はかぼすにするつもり!」
「それじゃ、お年賀で決まりだね。俺も手伝うよ」
「本当か!ありがとうな、チャコ〜!」

にっこりと満面の笑みを浮かべたアルペックに、ぐいと肩を抱き寄せられる。
触れられたところから伝わる彼の体温は、自分よりも少しだけ高く、そのあたたかさが心地いい。

「大袈裟だな、アルは。そしたら、いつ配りに行くか決まったら俺にも教え——」

チャコがそこまで口にしたとき、一際冷たい風が吹き抜けた。凍てつくような寒さに、くしゃみがこぼれる。

「チャコ、大丈夫か?今日は秘密基地に行くのやめて、オレの部屋でなんかする?」
「ありがとう、このくらい平気だよ。……でも、今日は一段と冷えるね」

パーカーの開いた襟元から冷気が忍び込み、チャコは思わず身をすくめた。
寒い日が続いているとはいえ、今日は風が強いせいか、いつもより体温を奪われるのが早い気がする。

「じゃあ、オレの上着いる?着たらあったかくなるかも!」
「気持ちは嬉しいけど、アルが風邪引いちゃうよ」
「オレは寒くないけん、平気!」

そう言って上着を脱ごうとするアルペックを、チャコは慌てて止める。
渋々と上着を着直していたアルペックだったが、ふと何かを思いついたように、「そうだ!」と急に声を上げた。

「どうしたの、アル?——っ、わ!」

突然、チャコの身体に軽い衝撃が走った。
驚いて身動きができないまま状況を確かめる。
すると、いつの間にかアルペックに抱きしめられていることに気がついた。

「チャコのほっぺた冷てえ!身体もキンキンに冷えちょんやん!」
「ふふ、くすぐったいよ。アルは相変わらずあったかいね」

すりすりと頬を寄せられ、くすぐったさに思わず笑みがこぼれる。
恋人からの突然のスキンシップに一瞬戸惑いながらも、チャコはそっとアルペックの背中に両腕を回した。
しばらくのあいだ、体温を分け合うように抱き合っていたが——ふと、チャコはあることに気がついた。

「あのさ、アル」
「うん?どうしたんだ、チャコ」
「この体勢だと、アルの秘密基地まで歩けないなって」
「……!たしかに!」

ちょっぴり名残惜しさを感じながらも、チャコは抱きついていたアルペックの背中から両腕を離した。
それでもなお、チャコを抱きしめたまま離れようとしないアルペックの胸元を、軽く両手で押してやる。
すると、少し不服そうな表情をしながら、アルペックはようやく身体を離した。

「なんか他に、チャコのことあっためられる方法ないかなー」
「もう大丈夫だから、普通に歩こう?」

先ほどまでアルペックに抱きしめられていたおかげで、チャコの身体はほんのり温まっている。
このまま少し急ぎ足で秘密基地へ向かえば、きっと問題ないだろう。

「いいや!オレがなんかいい方法を考えるけん、大丈夫!」
「ちょっと温まったし、今のうちに歩けば大丈夫だよ」
「でも、なんか……なんかいい方法……そうだ!」

腕を組んでしばらく考え込んでいたアルペックが、何か思いついたように、ぱっと顔を上げる。
何をする気だろう、とチャコが黙って見守っていると——いきなり、背後からぎゅっと抱きしめられた。

「これでよし!」
「えっ、なにが……?さっきと変わってなくない?」

前後が入れ替わっただけで、体勢そのものは先ほどとほとんど変わらないはずだ。
それでもアルペックは、なぜか自信ありげに明るい声で話し始めた。

「ふふふ……チャコ、今度はオレもチャコも前向いちょんやろ?やけん、これならいける!」
「そういう問題?あと、この体勢のまま移動するのは……ちょっと恥ずかしくもあるんだけど」
「さっき、ぎゅ〜ってしたのは平気やったやん!やけん、大丈夫!」
「ええ〜……」

がっちりと背後からチャコの身体をホールドしたアルペックの声が、チャコの耳元で楽しそうに響く。
抜け出そうと小さく身じろぎしてみるが、腹部に回された両腕はしっかりとチャコを抱きしめたまま、離れる気配がない。
しばらくして、観念したように小さく息をついたチャコは、アルペックの両腕に自分の両手を重ねた。

「それで、この体勢でどうやって秘密基地まで向かうの?」
「オレが掛け声かけるけん、それに合わせてオレとチャコが一緒に歩く!」
「途中で転ぶ気がするけど……とりあえず、やってみようか?」
「うんうん!それじゃ、いくでー!いっちに、いっちに!」

アルペックの掛け声に合わせて、チャコはゆっくりと足を踏み出した。
右、左。右、左。
進みは遅いが、不思議と歩調は合っていて、少しずつ前へ進んでいる。
案外、歩けるものだな——そんなことを思いながら、チャコは背中にぴたりとくっ付いているアルペックの方を、そっと振り向いた。

「すぐ転ぶかと思ってたけど、結構歩けてるね」
「だよな!オレたち息ぴった——っ、うわぁ!?」
「アル?っ、わ!」

アルペックの掛け声に合わせて足を踏み出した——つもりが、気の緩みからかタイミングがずれ、右足同士がぶつかる。
次の瞬間——バランスを崩したアルペックが少々情けない声を上げながら、後ろからチャコの上へ倒れ込んできた。

「チャコ、大丈夫か!?怪我しちょらん?」

大慌てで身体を起こしたアルペックが、雪の上に倒れたままのチャコの顔を覗き込んできた。
チャコはゆっくりと身を起こして雪の上に座り、特に異常がないことを確かめてから、軽く頷いてみせる。

「平気だよ、雪でちょっと冷たいくらい。アルは平気?」
「チャコに怪我なくてよかった……!オレは全然平気!」

よかったと微笑みながら、チャコはアルペックの肩についた雪を手で払ってやる。
アルペックも同じようにチャコの全身についた雪を払っていたが、不意にその手を止め、じっとこちらを見つめてきた。

「どうしたの、アル——……っ、ん」

パーカーのフード越しに、そっと頭に添えられたアルペックの右手。
そのまま、チャコの唇にそっと温かいものが触れる。
触れ合った瞬間、伝わってきたアルペックの体温にチャコは目を丸くした。
やがて、ゆっくりとアルペックの顔が離れていく。

「ご、ごめん!」

はっとしたように手が離れ、アルペックが慌てて声をかけてくる。
先ほどまで雪に冷やされていたはずの顔も身体も、嘘みたいにじわじわと熱を帯びていくのを、チャコははっきりと感じていた。

「その、急にどうしたの?」
「えーっと……雪まみれのチャコのこと見てたら、きれいだなーって思って。そしたらなんか、急にキスしたくなって、つい……!」

大慌てで弁解を始めたアルペックの様子に、チャコは笑みをこぼした。
キスされた理由はよく分からなかったが、いたずらをして叱られる前の子どもみたいに慌てふためく恋人の姿が、ほんの少しだけチャコのいたずら心をくすぐる。

「とにかく!チャコが怪我してなくてよかっ——んん!?」

言葉の途中で、アルペックの首にそっと両腕を回す。
そのまま顔を近づけたチャコは、目を伏せて唇を重ねた。
触れているところから体温が混ざり合い、じわりと熱が上がっていく。
すぐに顔を離して様子を窺えば、アルペックは目を見開いて頬を真っ赤にしながら座り込んでいた。
おひさま色の瞳が、驚いたようにぱちぱちと瞬いている。

「ちゃ……チャコ!な、なんで急に!?」
「んー?アルのこと見てたら、なんかキスしたくなって……つい?」
「どういうこと!?」
「そのままの意味かな。というか、先にキスしてきたのはアルでしょ?」
「そりゃあそうだけど!こげなこつされたら、もっとキスしとうなるやん!」
「ふふ、秘密基地までおあずけね?」
「チャ〜コ〜〜〜〜!」

パタパタと手のひらで顔を扇いでいるアルペックの様子に、チャコは満足げに口元を緩める。
そして雪の上からゆっくりと立ち上がると、まだ座り込んだままのアルペックに向かって右手を差し出した。

「アルが俺のことを温めてくれる方法なんだけど……」
「うん?」
「手、繋ぐのは……ダメ?」

そう言って、はにかんでみせる。
一瞬きょとんとしていたアルペックだったが、チャコの言葉が耳に届いた途端、ぱっと表情を明るくした。
そのままチャコの右手をそっと握り、勢いよく立ち上がる。

「ぜんっぜん繋ぐ!最初から手繋いで歩けばよかったな!」
「あははっ。ちょっと恥ずかしかったけど、抱きしめられながら歩くのも結構楽しかったよ?」

繋がれた手は、いつの間にか当たり前のように恋人繋ぎの形へと変わっていた。
ぬくもりを確かめるように、きゅっと握り込まれる。
数分前まで感じていた真冬の寒さは、恋人との他愛ない戯れの中で、とっくに溶けて消えていた。

「よーっし!それじゃあ改めて、秘密基地に向かって出発〜!」
「出発〜!」

繋いだ手のぬくもりに胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、寄り添うように並んで雪道を歩き始める。
ふと空を見上げると、まるでひらひらと舞う紙吹雪のように、いつの間にか粉雪が降り始めていた。
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