キミとの時間が

サンタの旅を終え、黒の大陸へ帰ってきた翌日の昼下がり。
好天に恵まれたあひるのペックル王国で、アルペックはチャコとともに穏やかな時間を過ごしていた。

「ペックルさんもポチャッコさんも、プレゼント喜んでくれてよかったな〜!」
「そうだね。パジャマ姿のポチャッコ様が、プレゼントを抱えて勢いよく俺の部屋に飛び込んできた時は、ちょっとびっくりしたけど」
「ペックルさんも、目きらきらさせながらプレゼント持ってオレの部屋に走ってきた!『アルくんみてみて〜!』って!」

朝一番に自分の元へやってきた主の姿を、アルペックは脳裏に浮かべる。
まるで夜空の星々を映したように、きらきらと目を輝かせながらプレゼントの話をする主の様子にあたたかな気持ちになったことを思い出し、アルペックの頬が自然と緩んだ。

「そういえば、アルはクリスマスプレゼントに何が欲しい?」
「オレ?」
「うん。今年は何にしようかずっと悩んでたんだけど、結局思いつかなくて。せっかくだし、アルが欲しいものを渡すのもいいかなって」
「なるほど!オレの欲しいものかー……」

アルペックは腕を組み、プレゼントに欲しいものを考え始めた。
服は今着ているものが気に入っているし、釣竿も今使っているもので満足している。
なかなか欲しいものが思いつかず頭を抱えているうちに、ふとあることを思い出したアルペックの口から、「あっ」と短い声がこぼれた。

「そういえば、オレもチャコにどんなプレゼント渡すかぜんっぜん決まらなくて!なあなあ、チャコは何が欲しい?」
「あはは、プレゼントを選ぶのって難しいね。でも、欲しいものか……」

欲しいものを探すように、チャコの視線が宙をうろうろと彷徨う。
しばらく考え込んでいたチャコだったが、やがてこちらへ視線を戻すと、困ったような笑みを見せた。

「すぐには思いつかないや。アルは、欲しいもの思いついた?」
「それがさ、オレもなかなか思いつかなくて!」

お互いに欲しいものは思い浮かばない。
だからといって、今年のクリスマスプレゼントを何も渡さないというのも、どこか味気ない気がした。
何かいいものはないかと、アルペックが唸りながら考えを巡らせていると、
「……そうだ」
チャコが、ふと小さく呟いた。

「アル、これから俺とデートしてよ」
「えっ?で、で……デート!?」

あまりにも突然の申し出に、アルペックは声を裏返らせる。
思わずチャコの方を見ると、彼はうん、と小さく頷きながら、にこにこと楽しそうに笑っていた。

「うん、デート」
「クリスマスプレゼントが、デート?」
「うん。でも、デートっていっても名前だけだよ。前にアルが連れて行ってくれたアイス屋さんに、また行きたくてさ。一緒に行ってくれる?」

そう言ってチャコは、こちらを窺うようにじっと見つめてくる。
“デート”という響きに、なぜかアルペックの胸がどきりとした。
けれど、チャコの言う“デート”は、一緒に出かけたいという意味らしい。
なぜだか、ほんの少しだけ残念に思ってしまった自分自身を不思議に思いつつも、アルペックは大きく頷いた。

「もちろん!アイスはオレの奢りな!……でも、本当にデート?がプレゼントでいいのか?」
「ちょうどアイスを食べに行きたかったし、それに——」

そこまで口にしたところで、チャコは慌てて言葉を切った。
続きを待つように黙って様子を窺うと、チャコの頬が、なぜかほんのりと赤く染まっているのに気づく。

「チャコ?」
「えっと……アルのプレゼントは、何にする?俺だけ先に決まっちゃったけど」
「あのな、チャコのプレゼントの内容を聞いて、オレもいいもの思いついたんだ!」
「そっか。何にすることにしたの?」
「チャコと一緒に、かぼすラーメン食べに行きたい!」
「えっ、ラーメン?」

アルペックの答えを聞いて目を丸くしたチャコが、まじまじとこちらを見つめてくる。

「一週間くらい前に、新しいラーメン屋ができたんだ!そこにチャコのこと誘って行こうって思ってたんよ。だから……オレとラーメン屋デートしてほしい!」
「その、俺は別にいいけど。でも、アルは本当にそれでいいの?この国のお店なら、いつでも食べに行けるのに」
「それを言ったら、チャコがアイス屋に行きてえっち言うたんも同じやん!オレは、チャコと一緒にラーメンが食べたいんよ!」

チャコの肩に両手を置き、アルペックはまっすぐにその瞳を見つめた。
少しのあいだ視線を彷徨わせていたチャコだったが、やがておずおずとアルペックと目を合わせる。
そして「わかった」と言うように、小さく頷いた。

「そこまで言うなら、ラーメン食べに行こうか」
「よーし!じゃあ今年のクリスマスプレゼントは、ラーメン屋とアイス屋デートな!どっちから先に行く?」
「……あのさ、そのことなんだけど。今日一日で、どっちも行かないとダメかな?」
「へっ?」

思わず、アルペックの口から間の抜けた声がこぼれた。
ラーメンからのアイス、という流れは、これまでも何度かチャコと一緒にやっている。
食べきれないから別の日に、という理由ではなさそうだ。

(——もしかして、お腹の調子でも悪いのか?)

食欲がないときに、ラーメンとアイスのはしごは、確かにつらいかもしれない。
そう判断したアルペックが了承しようと口を開く、その前に、チャコが再び話し始めた。

「せっかくだし、二回にしない?」
「えっ、二回?なにが?」
「デートの回数。今日はラーメンで、別の日にアイスとか。……ダメ?」

まるで強請るように確かめてくるチャコの姿に、なぜか心臓がどきどきと騒ぎ始める。
こちらを見つめる瞳が、期待するように揺れている——そんなふうに見えるのは、気のせいだろうか。

「オレは別にいいけど、チャコは今日アイス食べられなくていいのか?」
「うん。次の楽しみに取っておくから。……それじゃあ、決まりね?」
「うんうん!じゃあ今日は、ラーメン屋デートな!店の場所は——……」

店の場所を思い出しながら歩き始めたアルペックだったが、ふと“あること”に気づき、足を止めた。

「どうしたの、アル?」
「えーっと……はい!」

きょとんとした表情のチャコに向かって、アルペックは左手を差し出す。
戸惑ったように、アルペックの顔と差し出された手を交互に見つめながら、チャコは小さく首を傾げていた。

「デートって、手、繋ぐんだろ?」
「手……?」
「あれ、違う?」
「恋人同士なら繋ぐかもしれないけど……それより、アルってデートしたことあるの?」

なぜか訝しげな表情を浮かべたチャコが、じっとこちらを見つめてくる。

「ない!けど、オレの国の子どもたちが言ってた!」
「そうなんだ。それなら、別にいいけど……」
「けど?」
「っ、なんでもないよ。それよりも、手を繋ぐのはなしね?」
「え!デートなのに?」

デートは手を繋ぐものだと聞いていたアルペックは、断られるとは思ってもおらず、衝撃を受けた。
——もしかしたら、手を繋がないタイプのデートもあるのかもしれない。

「デートだけど、俺たち恋人同士じゃないでしょ?」
「たしかに!オレたち、友だちだもんな!」
「それに、アルの国の人たちに恋人同士だって勘違いされるかもしれないよ。困るでしょ?」
「たしかに、勘違いされるかもだけど……?」

チャコの言う通り、恋人同士だと思われる可能性はあるかもしれない。
けれど、勘違いされて困るかと言われると、そうでもなくて。
むしろ——。

「オレは別に、チャコとなら勘違いされても大丈夫だけどなあ」
「……えっ?」
「恋人同士に見えるってことはさ、オレとチャコがなかよしに見えるってことだろ?なにも困ることねえやん!」
「そういう意味じゃなくて……!」

他にどんな意味があるのだろうか。分からないまま、アルペックは首を傾げる。
何か言いたげにこちらを見つめながら、口を開けたり閉めたりしていたチャコだったが、やがて小さくため息をついた。

「……デートって言葉で動揺してたし、少しは意識してくれてもいいのに」
「うん?」
「なんでもないよ。早くラーメン、食べに行こう?」

なぜか不服そうな表情のチャコに、そっと左手を握られた。
驚いてその顔を覗き込むと、少し照れくさそうに、けれどやさしく微笑まれる。
再び、アルペックの心臓が大きく脈を打った。
理由の分からない胸の苦しさに戸惑いながらも、不思議と、それはまったく嫌なものではなかった。

「アル、ラーメン屋さんの場所って、こっちの道で合ってるの?」
「あっ……うん! なんかオレ、お腹空いてきたー!」
「そろそろお昼時だもんね。俺も、お腹空いちゃった」

そう話しながら、遠慮がちに力を込めてくるチャコの右手は、真冬の冷気に晒されていて、少し冷たい。
自分の体温を分け与えるように、アルペックはチャコの手を握る左手に、そっと力を込めた。

「よし!ラーメン屋デート開始だ〜!」
「あんまりデートっぽさはないけど、まあ……いっか」

微笑んだチャコが手を握り返してきた、その瞬間。
アルペックは、なぜか胸の奥が少しだけあたたかくなるのを感じた。
理由は分からない。
けれど、ラーメン屋に着いても、チャコの手を離したくない——なぜか、そう思っている自分がいた。
その気持ちの正体に首を傾げながら、アルペックはチャコと肩を並べ、ラーメン屋へ向かって歩き出した。
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