デートは転がる、卓上のドーナツのように

月に一度開催される、ノワールブーケの円卓会議。
ポチャッコ王国で開催される円卓会議に参加するため、バドバルマはポチャッコ王国の城内に在る会議室へ向かっていた。

今回の会議の内容は、黒の大陸にテーマパークを作るためにデート兼テーマパークの視察をしてきたアルペックとチャコからの報告会だが——バドバルマには少々気がかりなことがあった。

携帯用の連絡端末をズボンのポケットから取り出し、連絡用に使用しているメッセージアプリを開く。慣れた手つきでノワールブーケの面々とやり取りをしているグループメッセージを開いて画面を何度かスクロールすれば、あるメッセージが表示された。

『気が付かなくてごめん、おみやげ買っていくから楽しみにしてて。あと、デートってどういうこと?』

同じノワールブーケで、ポチャッコ王国のフラガリアであるチャコからのメッセージだ。このメッセージが送られてきた後、喧嘩でもしたのかと俺やハンギョンがメッセージを送っていたが現時点で特に返信はなかった。二人が視察に出かけた翌々日が円卓会議の開催日だったということもあり、こちらから追加のメッセージを送ることはなかったが、普段は返信の早いアルペックからも反応がないことが、さらにバドバルマを悩ませていた。

「あいつら、まさか喧嘩別れでもしてるんじゃないよな」

相性というものはあるが、同じブーケ内で仲違い……しかも色恋沙汰が原因の喧嘩別れとなれば、ノワールブーケ全体の連携にも支障をきたす可能性もある。
それを抜きにしても「チャコもオレのこと好きだって!」と満面の笑みで報告してきたアルペックの姿を思い出すと、何事もないことを祈りたいところだ。

そんなことを思案しているうちに会議室の前に到着し、扉に手を触れる。
長く息をついた後、意を決してバドバルマは扉を開いた。

「ちょっとアル!そんな写真撮ってるとか聞いてないんだけど!?」
「チャコだって、オレの知らない写真たくさん撮っちょったやん!」

広い会議室の中を、携帯端末を手にしたアルペックが走っていた。
同じく携帯端末を手にしたチャコが、アルペックを追いかけるように駆けていく。

「……何やってんだ、お前ら?」
「あっ、バドさん!チャコがオレの知らない写真をー!」
「バドバルマ!ちょっと聞いてよ、アルが俺の写真を!」

追いかけっこを止めた二人がバドバルマの方へと駆け寄ってくる。同時に話し始めた二人を遮るように、会議室のテーブルに着席していたタッサムが「Stop!」と高らかに声を上げた。

「ボクから説明しよう。アルペックとチャコは、テーマパークでのデート中お互いに隠し撮りをしていたことがバレて揉めているところだ」
「なんだ、痴話喧嘩か」
「隠し撮りじゃないから、ついでに撮っただけだよ。それよりも、痴話喧嘩ってどういうこと?それに、なんでデートって——」
「オレも隠し撮りじゃねぇけん!それに、写真撮る時はちゃんとチャコのこと呼んどったし!」
「たしかに名前は呼ばれてたけど、撮るなんて聞いてないから。それに、アルが俺の名前を呼ぶのなんていつものことでしょ?」
「それはー……そうだけど。チャコの名前呼んだ時に、アルって呼んで返事してくれるのが嬉しくて。それでたくさん呼んどるけん、仕方ねえやん!」
「……別に俺も、名前呼ばれるのが嫌とは言ってないから」
「Uh-oh……すまないが、ボクにはどうすることもできない」

助けてくれというように視線を向けてくるタッサムの横では、ピケロがテーマパークのロゴが描かれた紙袋からドーナツの箱を取り出していた。さらにその隣では、機嫌良さげなハンギョンが鼻歌交じりに人数分のお茶を淹れようとしている。

「おい、ハンギョン。お茶なんて淹れてる場合か?」
「まぁまぁ〜喧嘩するほどナントヤラって言いますし。それに、ワタシが手を出さなくても……ほら?」

お茶を淹れる手は止めないまま、ハンギョンがアルペックとチャコの方に視線を移す。釣られて視線を向ければ、先ほどまでの勢いはどこへやら——二人は携帯端末を握り締めたまま立ち尽くし、見つめ合っていた。

「アル、ごめん。知らないうちに写真撮ってたことに驚いただけで、別に怒ってないから」
「オレの方こそ、ごめんな?テーマパークにいる時にチャコのこと見てたら写真に残しておきたいなって思って」
「ふふ、俺も同じだよ。こんなことなら、ちゃんと撮るよって声かければ良かったな」
「たしかに!あと、せっかくだから今度また行った時は二人で写真撮ろう?視察の写真は撮ったのに、二人で写真撮るの忘れてた……!」
「そうだね、すっかり忘れてた。でも……また今度の約束もできたし、これはこれで良いかもね?」
「チャコぉ〜!」

バドバルマが仲裁に入ることなく、いつの間にか二人の顔には笑顔が浮かんでいた。ちゃっかり次のデートの約束もしているようで、思わずため息が出る。

「ワタシの見立て通り、無事解決したみたいですね!さてと……お茶も入りましたし、アルペックさんとチャコさんもいかがです?」
「おー!飲む飲む!走ったらのど乾いたー!」
「俺もいただこうかな、おみやげに買ってきたドーナツもあるし——って、ピケロもう食べてたんだ」
「みやげと聞いていたからな。それに、この寿司味のドーナツ……一体どのような経緯で商品化に至ったのか、興味深い味をしている。結果の見えているやり取りをただ眺めているよりも、このドーナツについて思考を巡らせていた方が有効な時間の使い方を——」
「Hmm.ボクもどんな味か気になるな、一つ貰っても良いだろうか?」
「おい、お前ら!今日はアルペックとチャコのデート兼テーマパークの視察の報告会を——まぁ、いいか。ドーナツ食いながらやるぞ!」
「はーい、アニキ!」
「分かったよ、アニキ」
「アルペック!チャコ!俺はアニキじゃねぇっ!」

数分前までのバドバルマの懸念もすっかり消え去り、黒の大陸の円卓会議が始まった。

本題に入るのは何時になるか——円卓の上には多数のドーナツが転がり、楽しげな会話が繰り広げられている。
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