あなたと過ごす日々
夢の入口へようこそ
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目が覚める。カーテンの隙間から太陽の光が射し込んでくる。
地べたで寝てしまい身体が痛い、伸びをして漫画を片付け顔を洗おうと自室を出ると何やらリビングの方で話し声が聞こえた。
父さんとは違う男の人と母さんの話し声で、それは電話ではなく二人とも家に居るんだということが分かった。仕事場の人とか、だろうか。
とにかくこんな寝起きのブス顔を他人に晒す訳には行かない。朝食はまだだが顔を洗い歯を磨き、部屋に戻って服を着替え髪を梳かす。昨日は昼頃風呂に入っていたので臭くもない。よし、大丈夫だろう。
そう思い自室のドアを開けリビングへ向かう。
母さんに向かい合う形で正座している男の人はTシャツにズボン、というラフな格好だ。私から見て奥にいる母さんが殆ど見えないくらいの座高の高さ。
誰だろう、と思いじっと見ていると視線に気付いたのか物音がしたのか気配がしたのか、その男の人がゆっくりとこちらを振り返った。
暗い茶髪がさらりとゆれる。
私は、目を疑った。
「う、うぇぁぁぁぁぇえぇ!?!?!?!?や、や、やな、、……!?あ、え、や、柳さんに超似てる……!?!?!?っていうかミュより似てる!!!もはや本人!!!!!!」
突然推しに超絶似ている男の人が現れもはや大パニック、一瞬の呼吸困難を乗り越え頭を傷一つない新築の壁にドンドンとぶつけつつも初対面の人にこんな失礼なことをしてしまったことを詫びようと呼吸を整える。
「はぁ……っ、はぁ……、あ、の、すいません、……。初めまして、私─────。」
「いや、俺の方から自己紹介させてくれ。その間に呼吸を整えてくれないか?」
その声に、聞き覚えしかなかった。
何回も聞いた。リピった、あの声を聞き間違えるなんて絶対無い。竹本さん……柳さんの、声だ。
「っふぉ、ぉひょぁぁぁぁぇぇ……!?!?!?!?は、はぇ、ちょ、あれ、んんんん!?!?!?」
「あ、あの……。落ち着いて、くれないか……??」
「お、おおお、落ち着けるかこのすっとこぼっこいっ……!!!!!!」
びっくりしすぎて噛んでしまったことはスルーしつつ、また無礼な対応をとってしまい戒めの頭突きを壁にくらわせた。
あ、だめだ、もうこれは完璧に柳さん……柳蓮二だ。
神が与えてくれた人生最高のご褒美だろうか。もうこれは柳さん。あなたのあだ名はどんな名前だろうと私の心の中では一生柳さんだよ。
そんなことを心の中でコンマ五秒で言い切った私は数回深呼吸して柳さん(仮)のほうを見た。
「さ、先程はすみません何度も無礼な態度を……。」
頭を地面につくのではないかというほど下げまくりばっ、と顔を上げると柳さん(仮)は困ったように笑顔を見せ、君は面白いなと呟いた。
「大丈夫だ。……俺は、柳蓮二。君の話はお母様から聞いた。君と同じく今春中学三年生の15歳だ。」
思考回路が停止する。
え、いま、なんて言いました???
柳、蓮二……!?!?!?
また叫びそうになる口元をばっと抑えぐるぐると巡らせる。
え、なんだこの人、私をからかっているのか???
柳さんは漫画の人物で、二次元の存在で、この三次元には存在しない人物で、それで、それで……。
黙り込んでしまったせいで柳さん(仮)が心配そうに私を見つめる。
「……そ、その、済まない。同い歳だからとはいえ、初対面なのにタメ口で話してしまって……。」
「あ、いや、そのことで考えてるのではなくて、えっと……その、すみません私こそ。」
なんか十周くらい回って頭が変に冷静になってきた。もう声から顔から何から何まで柳蓮二、そのものだ。
信じるしかない。これは本物の柳さんだということを。
頭突きしたところがじんじんと痛む。この感覚が、夢ではないことを明白にしているのだ。現実を受けいれ、従うしかない。
「……その、君には俄に信じ難いかもしれないが、聞いてほしい。」
「はい」
そして私は、柳さんから説明をうけた。
三年生の新学期、登校途中に事故にあいトラックと衝突したこと。
そのあと目が覚めるとこの家のリビングにいたこと。
何故か服装などが変わっている、その謎などは全く分からないこと。
……などなど。
母さんとはもう話がついていて、私が起きるのを待っていたみたいだ。
仕事を休んだらしい母さんは夕食の買い物に行ってくる、と家を出てしまった。
暫く、二人の間に沈黙が流れる。
柳さんは私の反応を伺いながら、どう声をかけようかと悩んでいるみたいだ。
「その……、君にとっては、迷惑かもしれないがこの家に住まわせてもらうことになった。」
私は、柳さんのその先の言葉なんて耳に入ってこなかった。
え、だって、推しと同居イベ到来だよ!?!?!?!?!?!?
落ち着いてられっか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
再度壁に頭突きし、その後聞こえるか聞こえないかの声を絞り出し「よろしくお願いします…… 」と手を差し伸べ握手したのだった。