天色の花かんむり
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シャトルの搭乗口に取り付けられたタラップ降りていく。
乾いた風が私の髪を揺らしていった。
足先に重みを感じる、これが本物の重力なんだ。
指先を柔らかく包む陽の光が暖かい。
地面の下に宇宙空間の暗闇がない。不思議な感覚…、ここが地球なんだ。
「アズラエル様お待たせしました。お車へどうぞ」
何人目かの、お突きの人が叔父上に声をかける。
行く先々で、また一人と叔父上に頭を下げる人が増えていく。
叔父上はその人達に目もくれず、堂々と自信に満ち溢れた足取りで前を突き進んでいく。
ナチュラルが住む世界、今、目の前にいる叔父上しか頼れる人はいない。
叔父上に置いていかれないように、歩調を合わせることに集中した。
◇
地球での新しい日々は、叔父上の行く場所に一緒に私も同行させてもらう日々だった。
同じ都市に長く滞在することはなく、数日、短い時はその晩には次の場所に移動。毎日が目まぐるしかった。
叔父上のお仕事は、大西洋連邦の軍需産業複合体の理事のお仕事と、ブルーコスモスの盟主のお仕事をしているそう。
今日のお仕事がどちらかなんて、分からないし聞かされない。
滞在先のホテルの中でそのままお仕事する日もあるし、会社?に行っている時もある。
とにかく色んな都市を巡って、たくさんの人と会って話して、とても忙しそうにしている。
ザフトの任務はここまで複雑じゃなかった。
作戦中以外は、訓練をしつつの待機でルーティンはおおよそ決まってた。
それに比べて、叔父上はお仕事に合わせた生活で、毎日変化している。
変化だけじゃない、仕事の量もとても多そう…、まだほんの短い間しか叔父上を見ていないけど、そう思った。
私のイメージしてたナチュラルと叔父上は違う、全然かけ離れてた。
地球のことも、ナチュラルのことも、私は本や映像の中でしか見てこなかった。
この目で見て知っている、正確な情報が私には足りていない…。
毎朝、柔らかいベッドの上で目が覚める。
新しいお洋服が用意されていて、美味しいご飯も出てくる。
私が何もしなくても。
服は、私の好みとはちょっと違うけれど、大人びた可愛いおしゃれの服で、靴も髪飾りに装飾品まで完璧だった。
着替えた私を叔父上は「今日も可愛いですね」って褒めてくれる。お世辞でも嬉しくなってしまう。
ご飯も、叔父上と食べる食事は全部美味しかった。
その都市の名物料理とか、プラントにはないご飯、スイーツまで!お腹はいつも満たされていた。
だけど、「食事のマナーはまだまだですね」って叔父上のよく笑われてしまった。
ホテルのお部屋も凄かった。
インテリアのかっこいいとかオシャレとか、よく分からないけど、いつもきっちり美しく整ったお部屋だった。
お部屋の数も、ベッドの数も、たくさんあっても叔父上と、二人で使う分には多すぎる。
どこにいたらいいのか分からなくなってしまって、今もマネキンみたいに固まってしまう。
「好きなお部屋を使って下さい」って叔父上は選ばせてくれるけど、決められないから一番小さなお部屋を選ぶようにした。
メインの窓が一番大きなお部屋から見る眺望には、いつもうっとりしてしまう。
特に夜景は、暗闇の中のネオンライトが星空みたいに見える。
その時だけは宇宙にいる気持ちになれる、心が落ち着くことができた。
ニュースでは地球は電力不足って聞いてたけど、そうじゃないところもあるみたい。
朝は決まった時間に目が覚めた。
ザフトでの生活で、起床の時間を体に叩き込まれているせいで。
早く目が覚めて、身支度を整えて、日課の筋トレの前に、朝も窓の大きなお部屋に行く。
朝焼けの空を一目見た時から、大好きになってしまったから。
プラントでは絶対に見ることができない空の色、紫色のグラデーション。
空がこんなにも色んな色に変わるって、地球にきて初めて知った。
朝焼けを見ているとなぜか涙が溢れてしまう。どうしてかが分からなくて、慌てて目頭を拭った。
◇
移動の為に飛行機にもよく乗った。
飛行機では、「窓側がお好きでしょう?」って、一番眺めのいい座席を叔父上が譲ってくれていた。
窓から見える雲海も、遠くに見える稲光も、宇宙から見えなかった景色を目に焼き付けた。
そんな私の姿を見て、「地球って良いところでしょう?」って叔父上が不敵に笑う。
含みのある言い方に、ちょっと引っかかるけど、叔父上の言う通りだ。素直に頷くことしかできなかった。
何を見ても、綺麗で美しいって思った。
地球が特別な場所って理解できてしまった。
ザフトの任務で地球に来ていたら、こんな風に地球のことに興味を持てていたかな?
なんて、最近思うようになってしまった。
プラントで15歳で成人して、ザフトに入隊してアカデミーを卒業して赤服にもなれた。
それで…、一人前になったつもりでいた。
波が打ちつける水飛沫の音
木々が揺れて、木の葉がざわめく森の匂い
通り雨の乱反射する光、土の柔らかさ
何十年も前からそこになったのが分かる、幾何学模様の煉瓦道
古い遺跡と、新しいビル群のコントラスト
均一じゃないことの美しさ
私はプラントで、何を知ったつもりでいたんだろう
ザフトから離れて、私の中が空っぽだったかもしれないことに気づいてしまった。
父の仕事の私が受け継いで、ゆくゆくはシーゲルおじ様の護衛になって身を立てれば、大丈夫って信じてた。
だけど今は…、違う道が本当は…?
今日も私は、叔父上の後ろをついていく。
「次は何が見たいですか?ラーラ」
叔父上は振り返って、私に言葉をかけた。
その言葉に、胸が弾んで口元が綻んでしまう。
『見られるもの、全部、見てみたいです、叔父上』
今が大戦中であることを、その瞬間だけは、忘れることができてしまった。
(8話へ続く)
※2026.02.10 加筆修正
※2025.06.11 公開