天色の花かんむり
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ローラシア級“ガモフ”で、俺達は作戦終了の時を待っていた。
俺とディアッカとニコル、アスランで地球軍の新型機は押さえた。
一機奪い損ねたが、この作戦の山はもう越えている。
まだ手柄の挙げていない隊員にエールを送って、パイロット待機室で待機しながら、平等に手柄を譲る。
手柄を挙げていない隊員の中には…、ラーラも含まれていた。
今回の作戦でラーラは後方支援、特別な手柄を挙げることは無理だ。
作戦を遵守して前方を支える、今回のラーラの任務はそれだ。
はっきり言って隊服の色に見合っていない任務、それをラーラは、声が出ないからとあっさりと受け入れていた。
クルーゼ隊長のご判断に間違いはない。当然だ。
それでも白兵戦はラーラの得意分野だ、それを…自己アピールも満足にできないのか?あいつは。
「…自尊心が低すぎるんだ、ラーラは」
不満が口から溢れる。
手に持っていた、ボトルの水を飲み干し終わった直後、艦内の緊急サイレンが鳴り響いた。
「…おい!イザーク見ろよ!ヘリオポリスが…!」
「おいおい、これは…」
モニターを見ると、コロニーが弾けるように分解していく。
大きな構造体があちこち爆発しながら、あっという間にバラバラになっていく。
咄嗟にその場に伏せ防御姿勢をとった。
次に大量のデブリが艦に激突し、大きな揺れと音が同時に襲ってきた。
通りすぎた後は…、低い換気音とアラームがまだ鳴っている。
モニターを見ると、宇宙空間にはヘリオポリスだったものの残骸だけが残されていた。
「………ラーラは?」
ヘリオポリス内部で作戦中だったよな…?
◇
俺たちの待機状態はそのまま継続されていた。
ガモフから出撃した隊員は誰も艦に帰投しなかった。嫌な予感が走る。
ラーラのジンはコロニー崩壊で大きく損傷を受けて、ヴェサリウスに帰投したかもしれない。
それにアスランやミゲルも一緒に出撃していた。
アスランもいて作戦が失敗するはずがない。だからラーラも…。
ディアッカは、俺を遠巻きに見てくるだけで声をかけてこない。俺が押し黙った時はいつもそうだ。
沈黙だけが流れる。
次の指令でも何でもいい、動きのない停滞したこの状況に、苛立ちが溜まっていく。
「イザーク!」
騒々しくニコルが部屋に駆け込んできた。
こんなに取り乱すニコルを見たことがない。
「……ラーラが…、”KIA”になったそうです」
ニコルの茶色の瞳が俺の目を真っ直ぐと見ている。嘘ではないと言いたげに。
「………”KIA”だと?!」
「ラーラだけではありません。ラスティに続き、ミゲルもそこに加わったそうです…」
「おい!あっちにはアスランもいたんだぞ?!」
ディアッカの言う通りだ
”KIA”…行動中戦死だと?
「ニコル、“MIA”の間違いじゃ無いのか…?」
首を静かに横に振る。ニコルはディアッカのように軽口を言うタイプではない。
「ヘリオポリスの崩壊の衝撃、凄かったですから…」
添えるように、ニコルは言葉を続けた。
「ヘリオポリスが崩壊しようが、ラーラが死ぬような理由がどこにある?赤のあいつがそんな無様を晒すはずがないだろう…!」
こんなふざけた情報を信じろと?
「こんなデマに踊らされてたまるかよ
…!」
新型を奪取した高揚感は…もうない。
ディアッカもニコルもなぜ受け入れられる?!
吹き出す感情のまま、パイロット待機室を俺は飛び出した。
クルーゼ隊長に会って、事実を確かめなければ。
「おいイザーク!落ち着けって!」
「うるさい!」
後ろから俺を諌めるディアッカの声がするが、俺はそのまま部屋を飛び出した。
誤報なはずだ、あいつが、ラーラがこんな簡単に死ぬはずがない。
全身の血の気が引く、床を蹴る足の感覚がない。
クルーゼ隊長のいるヴェサリウスに………いや、勝手な移動はできない。母上の顔に泥は塗れない。
ガモフの艦長に取り次いでもらって、通信でクルーゼ隊長と話すのが俺の権限の限界だ。
胸がチリチリと焦げついていく。こんなに不快な気分は生まれて初めてだ…。
自室の通信端末でクルーゼ隊長に取り次いでもらう手筈になった。
座ってもじっと落ちつくことができない、狭い部屋の中を往復しながら待っていた。
「イザーク、私だ」
クルーゼ隊長の声、通信が始まった。
急いで、モニターの前に立ち敬礼をする。
大量のデブリの影響か、画面がところどころ乱れている。
それでも、正確な情報を得る為に、耳に意識を集中させた。
「先の任務、ご苦労だった。君や君の同期達の功績で無事に地球軍の新型兵器を奪取することができた。君のお母様もお喜びになるだろう」
「ありがとうございます、隊長」
「……そうだな、わざわざ通信で功勲の言葉を求めるイザークではなかった、話は何だね?」
「“KIA”扱いになっている、ラーラ・フェネクスについて、です。」
「“扱い”…か。…今回の作戦そのものは成功したと言っていい。しかしイザークも知っての通りヘリオポリスは崩壊してしまった」
「…はい」
「コロニー内部で作戦行動にあたっていたラーラは崩壊に巻き込まれ…戦死した」
隊長は感情を挟まず、淡々と説明をしていく。
「そんな…しかし!」
「ラーラのジンはどうなったのですか?ビーコンの信号は?」
ラーラの技量なら、崩壊に巻き込まれても対処ができるはずなんだ。
絶対の証拠がない限りは信じることができない。
「ラーラのジンは見つかってないのであれば!まだどこかで生きているのでは?可能であるなら宙域を離脱する前に捜索に…」
ヘリオポリスの残骸の影に隠れて救助を待っているに違いない、すがる思いで隊長に懇願した。
「…イザーク、データを送る。君の目で確認したまえ」
モニター表示は隊長の姿からデータの文字列へ切り替わった。
そこにはヘリオポリス内の戦闘データと味方機との交信記録が記されていた。
ーーーアスランの新型機以外は、全てロストしていた。
……そんな、嘘だろう?
「…確認完了しました」
モニター表示は再び隊長の姿に切り替わった。
「君達の気持ちも分かるが、まだ戦闘中だ。あの新造戦艦を逃すことはできない」
「厳しいことを言ってすまないが、今は体を休め、次の作戦に備えて欲しい」
左手の指を揃え額に掲げる。
アカデミーで何度も叩き込まれた敬礼を返すだけで精一杯だった。
「仲間を失った気持ち、私にも分かるよ。友人をこれ以上失わぬよう、共に戦おう」
隊長も敬礼で応えて下さった。
隊長ができる最大限の同情、隊員の俺に寄り添って下さっている。
辛く悲しいのは、俺だけではない、そんなこと分かっている!
「は!…お忙しい中、お時間を割いて下さりありがとうございました」
「構わんよ、次の作戦の活躍も期待している」
モニター画面がオフになり、黒い画面にぼんやりと俺の顔が写っている。
一本の糸が、切れる音がした。
画面越しで気づいた、自分の目から情けないものが溢れていたことに。
「クソ…ッ!ナチュラルどもめ!よくもラーラをやってくれたな!!」
「クソ!クソォォォ!!」
喉が焼けるように痛い。胸の奥まで火を流し込まれたみたいだ。
自室から出て、作戦前にラーラと話をした通路へと向かった。
数時間前、あいつとここにいたのに…。
ラーラの残影だけが目に焼き付いている。
窓の向こうには、ヘリオポリスの“あった”宙域だけ…。
作戦が終われば、また隣にラーラが並ぶものと…信じていた。
俺に話したいことがあったんじゃないのか?
ラーラの言葉の続きを、俺はもう聞けないのか?
モビルスーツ越しの敬礼が、最後だった…?
「嫌だ」
「誰か、嘘だと言ってくれ……」
あいつが握った手首の感触が消えないように、同じ場所を、俺は強く握りしめた。
(5話につづく)
※2026.02.10 加筆修正
※2025.05.31 公開