天色の花かんむり
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姉からの遺書には、こう書いてあった。
『ムルタにしか頼めません。この世を去り行く私に代わり、
娘のラーラのことを守ってあげてくれませんか?どうか…お願い致します。』
手紙の末文に、姉の直筆サインと共に。僕へのメッセージだった。
二つ上の僕の姉は生来病弱で、療養生活を送っていた。
20歳までもたないと医者に言われていた。珍しくもない、そう自分に言い聞かせていた。
ベッドの上で過ごす姿が、僕の記憶の中の姉の姿だ。
ヒステリーな母と違って、姉はいつでも僕を優しい言葉で肯定してくれていた。
カナリアの鳴き声のような声で僕に囁き、美しい微笑みと包むような眼差しが、今も目の奥に焼きついている。
僕に優しかった姉さんが、まさかコーディネイターと子供を“作った”なんて、寝耳に水もいいところだ。
姪の名前は“ラーラ”だった。
そして、“ハーフコーディネイター”とも記されていた。
姉は最後の望みだと、病気の治療の為にプラントへ行き、そのまま行方が分からなくなった。
生死不明のまま、手掛かりも掴めずに数年経ったところで、この手紙、遺書だった。
姉の墓はあった、プラントに。でも僕はそこへ花束一つ持っては行けない。
姪は?どうやって今生きている?
なんて一方的な手紙なんだろうか。
それでも、手紙で託された“姉からの最後の願い“を頼まれてやることにした。
僕の計画に差し障ることがないのなら、問題はない。
協力者の助力を得て、銀時計の奥に隠されていた姪をようやく見つけることが叶った。
中立国のコロニーからの移送も滞りなく、月基地まで無事に彼女を届けてもらった。
仮置きの部屋に設置したカメラの映像を確認する。
モニターの中の姪の姿は…、僕の元を去ったあの日の姉の面影が強く宿している。
「おや…目を覚ましたようですね」
僕はモニター室の椅子から立ち上がった。
「アズラエル様、もう会いに行かれるのですか?」
「もちろん、その為に地球からわざわざ月に来たんですヨ?」
「もう少し様子を見てからでも…、すぐに護衛の者を手配致します」
「いやいや不要です。僕一人で大丈夫です。生き別れの家族の再会…なので、遠慮して貰っていいですか?」
「…!それは、失礼致しました…」
「あ、“大佐”には、僕が一人で行ったこと、報告しちゃ駄目ですよ?」
軍の人の護衛は有難いけれど過剰すぎる。
大佐の指示かもしれない。全く、過保護すぎるよ、“ビル”は…。
さて、姉さんの子はどんな表情でリアクションをとって、僕を楽しませてくれるのだろうか?彼女がいる部屋へと急いだ。
子供の頃みたいに、足取りが弾む。
扉の前で胸元のネクタイを締め直す。ノックして、開錠のパスコードを打つ。向こう側にいる姪の存在に僕の好奇心が踊り出す。
物音が聞こえる。その音が止むのを待って、扉を開いた。
姉の子のラーラは胸をピンと張り、その場に立っていた。
ザフトの赤のパイロットスーツに、ラーラの青い瞳の色はよく映えた。
僕や姉と同じ、深海のように深くて濃い紺碧の青色だ。
「こんにちは」
ゆっくりと穏やかに話しかける
彼女は僕の声に身を縮ませたが、一瞬でそれを隠した。
「安心して下さい、貴方を傷つけるようなことはしませんヨ」
自分の身に起こったことを一切理解していないだろうに…。表情を崩さず凛とした態度でいる。
僕から瞳を逸らさず、こちらの出方をしっかりと伺っている。
15歳の少女でも、軍人さんの作法を一通りはできるようだ。
「………“ハーフコーディネイター”のラーラさん、はじめまして」
「私…いや僕は、ムルタ・アズラエルという者です。以後お見知り置きを」
彼女に一礼し、初対面の挨拶とした。
それに彼女はにこやかな笑顔“風”で応じた。
表情を取り繕えはしても、指先、足先までは隠せない。姪の瞳の奥は激しく揺れていた。
僕から一歩ずつ歩み寄り、握手の為の掌を差し出した。
目を離さずこちらを姪は警戒している。
数秒間のラグの後、手錠をかけられたまま、ぎこちなく僕の手を握り返した。
あぁ良かった、手荒な真似をせずに済みそうだ。
安堵で気が緩んだせいか、つい口元が綻んでしまった。
僕の微笑に驚いたのか、姪の大きな瞳がさらに大きく開いた。怯えで揺れる瞳の奥に、光が宿った。
…包むような篝火の光を僕は見たことがある。そうだ、姉さんの瞳と同じ…。
「これからは僕が貴方の力に、なります」
ラーラはワケがわからないとばかりに、困惑の表情を浮かべている。
彼女は唇を震わせるばかりで、声を発しはしない。
しばらくの沈黙に対し、唇を大げさに動かして僕に見せてきた。
どういう意図だ?何か考えがあって声を出さない…ということか?
…彼女の口話を読み解いてみる。
「……『あなたは…なにもの?』…ですか?」
正解だったようで、彼女は小さく頷き返した。
本当に僕のことを何も知らない様子だ。仕方ない、改めて説明するほかない。
息を吐いて、呼吸を整える。
「先ほども言いましたが、僕はムルタ・アズラエル。大西洋連邦の国防産業理事で、ブルーコスモスの盟主を兼任しています。」
「…そして貴方の叔父です。」
「貴方の母が僕の姉で、ラーラさん、貴方は僕の姪にあたります」
「地球から貴方をお迎えにきましたヨ」
ラーラが聞き逃すことがないよう、一つずつゆっくりと説明した。
彼女はその場に力なく座り込んでしまった。突然の話だ、戸惑うのも無理はない。
天涯孤独とでも思い込んでいたのだろう。
声が出ないほど衝撃なのか、彼女の大きな瞳が開かれたまま震えている。
ザフトに志願したのに地球に縁者がいることなど、考えたこともなかったのかもしれない。
……シーゲル・クラインめ。ラーラの身の上を知った上で、ザフトに放り込んだというわけか。
何も知らない姪になんて残酷なことを…。
へたり込む姉の子の為に片膝を立て、不安そうに肩を震わせる彼女を胸で抱き寄せた。
「貴方の後継人は僕が務めます。気兼ねなく、僕を頼りにして下さいね」
ラーラは僕から離れようと両手に力をいれ、僕の胸を押し返した。
静かに僕を睨みつけ、ゆっくりと首を真横に振った。
答えは“ノー”か、…だとしても、彼女の意思は関係ない。
長年欠けていたパズルのピースがようやく手に入った。
僕は欠けた隙間に、ゆっくりとピースを嵌め込んだ。
ようやく心置きなく――
宇宙の化け物退治に専念することができる。
(4話につづく)
※2026.02.10 加筆修正
※2025.05.30 公開