天色の花かんむり
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢の中で、夢だと気づく瞬間がある。
目と目を合わせて笑い合って、この手で触れているものの温度だって、本物だって思えるのに…。
「お父さん、久しぶりだね」
私と同じ髪色をした、父が目の前にいる。
幼い日の姿のままの父がいる。
もうこの世にはいない、幼い頃にテロに巻き込まれて亡くなった私のお父さん…。
夢だと気づいた途端に、夢の中の世界が崩れていく。
霧の中に溶けていくように、父の姿が朧げになっていく。
「ラーラ」
懐かしい父の声だ。
私の名前を呼んで、そのまま霧と一つになってしまった。
久しぶりに名前を呼んでもらえた。嬉しいはずなのに、とても寂しい…。
◇
瞼を上げると、固いベッドの上で深く眠っていたみたいだ。
ここはどこ?
私はヘリオポリスで作戦にあたっていたはずだ。
ずしりと手首に重みがある。冷たい金属が私の手の動きを拘束している。手錠だ。後ろ手でないだけマシかな。
腕時計型のザフトの無線機はもちろん外されていた。
腰元のポシェットも銃も、何も持っていない。
ザフトの支給品ならともかく、私物のタブレットがないのは困る。
どうやってコミュニケーションをとる?これじゃあ文字も書けない。
赤いパイロットスーツだけそのままだ。
部屋の中を見渡してみた。窓はない。ベッドと簡易的な机と椅子、カメラはこちらを向いている。無機質な部屋で照明も薄暗い。
営倉ではないみたいだけど、一体ここはどこなんだろう?起こったこと、ちゃんと思い出さなきゃ。
体を起こして、体勢を整える。机の上にあったウォーターボトルを手に取る。
ストローを咥えて少しだけ吸ってみる、変な味はしない。大丈夫そう、勢いよくお水を飲み込んだ。
◇
私は……、
ヘリオポリスでジンに搭乗して、任務にあたっていた。
クルーゼ隊の緊急ミッション。
指示通りに後方でサポート。コロニーの中と外の中間地点で、仲間の退路を確保する任務に当たっていた。
敵の地球軍の新型モビルスーツの奪取の成功を通信越しに知って、イザークや同期の活躍が誇らしかった。
ヘリオポリスから艦に帰投する、新型モビルスーツとはすれ違いざまに敬礼をして、見送った。
最後に赤の新型モビルスーツと一緒にヴェサリウスに帰投した。一機、奪取に失敗したらしい。
同期のラスティは作戦中に撃たれ、ミゲルもジンを失っていた。
地球軍の抵抗に気を引き締めて、次の出撃に備えた。
再度編成された部隊でヘリオポリスへ向かった。私は予備戦力、ミゲルと後から奪取した赤いモビルスーツのアスランも合流した。
作戦は続行、次で新造艦を落とし、奪取し損ねたもう一機の回収が任務だった。
コロニー内部に侵入すると、すぐに激しい戦闘になった。
新造艦はコロニー内の重要な構造部を避けるように砲撃を繰り返している。
どこに打つか分かりやすくて、回避行動を取りながら、難なく新造艦に取り付くことができた。
簡単すぎる、嫌な予感がした、その時だった。
白い新型モビルスーツから放たれたビームで、ヘリオポリスのアンカーが完全に破断されてしまった。
堰を切ったように、ヘリオポリスが崩壊し始めた。
濁流の中に飲み込まれるようだった。
宇宙へ吸い出される力に逆らっても、機体のコントロールができない。バーニアをふかして制御をするけどバッテリーがみるみる減っていくだけだった。
私は新造艦への攻撃で機体のエネルギーを使いすぎていた。バッテリー切れの警告音がコックピットに鳴り響く。
エネルギー切れと同時に、真っ暗闇の空間へ吸い出されてしまった。
艦に通信をとったけれど、電波障害でどうにも繋がらない。
イザークの名前を呼べたら良かったのに。でも声が出ていたとしてもこんな状況じゃ…
気持ちばかりが焦っていたら、目の前のモニターいっぱいになるほどの大きな瓦礫が現れた。
回避行動も取れず、そのまま瓦礫に衝突してしまった。
強い衝撃で全身に痛みを感じた…ところまでしか、覚えていない。私はそこで気を失ったんだ…。
命があるだけ…いいか今は。
あの状況で、助かっただけでもラッキーだ。
でも…こんなに早く戦線離脱するなんて、情けない…赤服なのに。
イザークと一緒にクルーゼ隊へ配属されたことに浮かれていたんだ。
いや、違う。私が……、
コンコンコンと3回のノック音。部屋の扉の前に誰かが来たみたい。
身を隠せるスペースはない、武器になるもの…もない。
いざとなったら白兵戦?だけど向こうは銃を持っているだろうし…最善ではなさそう。
でも変だ、私に対して何か危害を加える気があるなら、わざわざノックをする必要がない。
扉の向こう側から、殺気や不穏な空気は感じない。
ザフトのプライドは保ちつつ、相手を刺激しない程度に振る舞って、相手の出方を伺おう。
独りはとても怖いことだけど、扉の向こうの相手に立ち向かうしかない
体を扉の方へ向ける。にこやかで友好的そうな表情に整えた。
鍵の解除音、横にスライドして扉が開く。
こちら側の薄暗い部屋からは逆光で、今そこにいる人の顔が、眩しくて見えない。
「こんにちは」
はっきりとよく通る声だった。大人の男の人、不思議とその声が耳に残った。
服装はスーツ?軍服じゃない、ならどこの何の所属の人?
少しずつ目が明るさに慣れてくる。
髪の色はとても綺麗で金色の絹糸のように輝いている。
瞳の色は…地球の青のような、はっきりと濃い瑠璃色だ。薄暗くても分かる、私の瞳と全く同じ色だった。
「安心して下さい、こちらから貴方を傷つけるようなことはしませんヨ」
穏やかに、囁くように、私に話しかけるこの人は誰?
「“ハーフコーディネイター”のラーラさん、はじめまして」
男の人は目を伏せ、指先から芝居がかった一礼をした。
私の名前を知っている?
いや待って、なんでこの人が、誰にも話していない私の“秘密”を知っているの…?!
「私…いや、僕はムルタ・アズラエルという者です。以後お見知り置きを」
笑顔で、にこやかに話してはいるけれど、私から視線を外さない。
それがとても怖い。
心の奥を覗くような眼光から目を離せない。
背中に汗が、一筋流れていくのが分かる。
ここは戦場…?そう錯覚するくらい、緊張で体が固まってしまう。
無理やり口の両端を上げた。
多分それが、今とれる最善策のはず…だから。
(3話へつづく)
※2026.02.10 加筆修正
※2025.05.29 公開