天色の花かんむり
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私が、地球軍の新型モビルスーツを操縦した。
操縦桿を握った手は汗ばんだまま熱が引いてくれない。
ヘリオポリス以来久しぶりにモビルスーツを操縦した…たったそれだけのことなのに。
ーーー青き清浄なる世界の為にーーー
叔父上の声が私の血を乱す。
私は知っていたのに。最初に会った時から叔父上は、ブルーコスモスの盟主って教えられてたのに。
ーーー我らの正義に星の加護をーーー
その“我ら”に、もう私の居場所はないかもしれない。
ザフトのモビルスーツに私は引き金を引いてしまった。
こんな地下の底では星の加護も届かない。
私はザフトだ、ザフトの一人でいたい。
なのに…イザークの声が遠くなる。
青い花の薫りに包まれて、宇宙での呼吸を忘れてしまいそうになる。
イザークの隣に帰りたいのに、方法が見つからない。どんどん離れていってしまう…。
◇
今日のお部屋は一人部屋だった。監視のカメラはない。
広くはないけれど、机も椅子もあるしベッドも二段じゃない。
士官室?地球軍の階級のない私が使っていい部屋じゃない。
モビルスーツを降りてから、まだ呼吸が落ち着かない。
何もする気になれず、ベッドの上で膝を抱え始めてから、時計の針は2回同じ数字の上を通りすぎていた。
誰かが部屋の前を通り過ぎる音に敏感になる。
また足音が近づいてくる、通りすぎるかと思ったら、部屋の前で音が止まった。
続けて、ドアをノックする音。同じ音が3回、規則的すぎる。叔父上のノックの音とは違う。
誰だろう?叔父上がまた地球軍の人を使っているのかな?
タブレットは壊れてしまって、代用品も今はない。
机の上にあった、ペンとメモを数枚千切って、ポケットの中に忍ばせた。
敵とは思われていないようだけど、警戒モードのまま扉を開いた。
綺麗なお顔をした男の子が立っていた。
ニコルみたいに温和そう…だけど、存在感を感じない。
薄い水色の髪色で、肌は白磁器のような透き通っている。私より少し歳上くらいだ。
メモ紙で筆談をと迷っていたら、先に男の子が口を開いた。
「僕はソキウス、マスターの命令でここに来ました」
声に手触りがない、一定のトーン、自動音声が話しているみたいで。
「食事の時間だから、君を食堂まで連れて行くようにとマスターからの命令を受けました。だから君はボクについてきて」
私の反応を待たずに、彼は先に動き始めた。
マスターって誰だろう?食事に行くだけなら…何もないはず。
置いていかれないよう、ソキウスという男の子を追った。
歩きながらのメモ書きは…、慣れてないけど今はやる必要がある。
字は読めればいい。歩きながらメモを書く。
前を歩く彼の肩を掴んで、無理やり立ち止まってもらった。
彼は、驚くことも嫌がることもしない。無表情だった。
答えてもらえるかは分からなかったけど、メモを彼に見せた。
「『マスターってだれ?おしえてください』ですか?」
感情のない声で、彼は私のメモを声にして読んだ。
「これは…命令?いやお願い?」
「変だな、なぜ君の言葉は頭の中に響かないんだろう?ここにはナチュラルしかいないはずなのに」
私の質問が宙に浮いている。
「“マスター”の家族なら、君もナチュラルだよね?」
“ナチュラル”と言われて、胸がドキンと跳ねた。生まれて初めて言われた言葉だった。
私、半分はナチュラルなのに、侮辱された気持ちになった…?
彼の瞳に蔑みの色なんてないのに。
彼の質問の答えをすぐに書いて、彼に見せた。
そのメモはすぐに千切ってポケットにしまった。
「そう、君は“半分”なんだね、だから変な感じがしたんだ…」
何かを納得した彼は、そこでやっと私と視線を合わせた。ぼんやりとしていた瞳に光が差した。
静かな息遣い、淡い表情。
『あなたは、どうして叔父上のことを“マスター”と呼んでいるの?』
「どうして?服従遺伝子を強化調整されたからだよ、ナチュラルの命令に逆らわないように」
「だから、マスターの命令は絶対なんだ」
透き通った声が遠くにまで反響していった。途端に彼の瞳から明かりが消えて、また暗く沈んでいく。
視線を廊下の奥へと向け、元の命令に戻るとばかりに、また一人で歩き始めてしまった。
彼の歩調に合わせて歩く。メモでの会話はやりづらい。だけど服従遺伝子って何?気になる。
言葉ぶりじゃ、彼はコーディネイターだ。どうして地球軍にいて、ナチュラルに“従って”いるの?
プラント生まれの私の感覚じゃ理解が難しい。
ソキウスさんの背中を睨んでいたら、急に立ち止まって、くるりと振り返った。
唐突な動きでびっくりしてしまう。
「そういえば、お昼の君、とても強かったね。普通のコーディネイターよりずっと強かった」
「君は、服従遺伝子を強化されたわけでもないのに、マスターの命令に従っていて、すごいね」
お昼?新型モビルスーツに乗っていたけど、どうしてそのことを?
『どうして知っているのですか?』
「ボクもパイロット、端で見ていたんだ…」
『そうだったんですね』
「いいね、君ならきっと、マスターのお役に立てる」
淡く微笑む、ソキウスさんの表情になぜか胸がズンと重くなった。
会話なんか最初からなかったみたいに、私に構わず先へ歩いていく。
彼のメトロームのように規則的な足音が、地下基地の壁に吸われていっているみたいで。
“マスター”という言葉が、耳の奥でぷらんと浮いたままでいる。
◇
食堂に到着すると、「ミッション達成」とソキウスさんは言ったきりどこかに行ってしまい、食堂にポツンと残されてしまった。
お礼をいう隙もなかった。
一人で食べる夕食はいつぶりだろう?叔父上は基地のどこかでお仕事をまだしているのかな。
明日のお仕事も模擬戦だって聞いている。食欲は無いけど、明日のお仕事に備えなきゃ。
食堂を見渡すと、ザフトの基地内の食堂とあまり差はなかった。
地下だからか、窓の代わりに大きな液晶のスクリーンが壁に埋め込まれていて、綺麗な景色の映像が表示されていた。
夕食の時間としてはまだ早くて、食堂の中はがらんとしている。
いくら叔父上が偉い立場の人でも、堂々と食堂の中に入るのには抵抗がある。
食堂の入り口で一人悶々としていたら、後ろからドン!と衝撃が走った。
突然の衝撃にバランスを崩れた。勢いのまま転けそうになったところで、私の腕を誰かが強い力でグッと掴んだ。おかげで私は、床とぶつからずに済んだ。
「こんなところに突っ立ってんなよ!」
声のする方を振り返った。澄んだマラカイトグリーンの瞳が並んでいた。
私を睨み上げる顔が、表情が、あの日のイザークに似ていた。
『口が聞けないならザフトを除隊しろ』
一瞬のフラッシュバック。
イザークと初めて話した時の言葉。
あの時、その言葉に従っていたなら、私はここにいなかった。
胸の奥で温かい火が揺らめいた。
そうだ、今ここにいるのは、私が選んだからだ。
「おい!お前!」
『ごめんなさい』
少し年上の男の子だった。地球軍の隊服を着ている。
だけど、肩から先の部分がカットされていて、軍の腕章がついていなかった。
ざっくりと後ろに流した黄緑色の髪と、緑色の目をした人はギラリとコチラを睨んでいる。
「なんでメモに書いて話すんだ?口で言えばいいじゃねーか」
『声が出ないんです、だから筆談をさせてください』
「筆談って…今のやつか?」
『この方法を使えば、あなたとお話しができます』
「…めんどくせぇな」
眉間に皺を寄せながら、私のメモをちゃんと読んでくれている。
ぶっきらぼうだけど、メモからも私からも視線を離さず、この人はちゃんと見てくれている。
「へー…、まぁいいや。俺は飯食いに来たんだよ、じゃあな」
待って!
声の代わりに彼の腕をぐいっと、今度は私が掴んだ。
初対面の人に急に呼び止められたら、そんな顔にもなるよね。彼の眉間の皺がさらに深くなる。
パッと彼から手を離して、ペンに持ち替えた。
『私も今からご飯なんです、ご一緒しませんか?』
メモをかざしながら、満面のスマイルで彼にアピールをした。
「…勝手にしろ」
気持ちが通じたかな?それとも呆れられた?彼の言葉使いは荒っぽいけど棘は感じない。
イザークとどこか重なる。
『ありがとう!私、ラーラっていいます。あなたは?』
「俺は、オルガだ」
『オルガさん。いいお名前ですね』
そうメモで話したら、彼の眉間の皺が、さらにもう一段深くなってしまった。
◇
ーー俺からも話があるーー
ヘリオポリスの時のイザークの声が、また、遠くなっていく…。
お話しをする約束が宙に浮いたまま、時間だけが過ぎていく。
生きてるよね?怪我なんてしていないよね?
私がこれから進む道の先に、イザークは本当にいる…?
ザフトの敵が、“私”の敵だったの?
敵影も味方の姿も朧げになっていく。
星の光は、私のいる場所を照らしてはくれない。
叔父上の隣はどこへだって行ける、世界で一つだけの特等席。
だけど、このままずっとここにいるのは…少し怖い。
“私”の青い目で、この世界を知らなきゃいけないーー。
(13話につづく)
※第一部終了、二部に続きます。
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