第3章 百鬼をうち払え!

朝早い事もあり、麗蘭は清明の部屋の戸を控えめに叩き声をかける。

「…父上、お目覚めでしょうか?」

「…麗蘭か。入りなさい」

清明は麗蘭を寝所へ招き、誰にも聞かれぬようにと図らった父に苦笑しながら口を開いた。

「…父上。今しがた、がしゃどくろを調伏したのですが、変な気がするのです」

「………どんなだ?」

「……まるで、あやかしの影を調伏している様な感じです」

妖怪やあやかしの中には、自分の影(本来の姿を妖気で形どったもの)を作れる者がいる。

がしゃどくろは、誰かの差し金であそこに影として調伏されたに過ぎないと直感していた。


「……影か。一理あるな。あやかしの中には己の影を作り霊力のある者を食らう者もいる」

「…はい」

「…それであれば、また今宵同じ場所に現れるだろう。……今度は本体としてな」

影を作るあやかしは、わざと霊力を持つ者に自分の襲わせる。理由は、その者の霊力を知り食らう為だ。

そして、次は本体として現れるという習性があるのだ。

麗蘭は気を引き締めるように、再び口を開いた。

「…間違いなく現れるでしょう。がしゃどくろも執念深いですからね」

「…ああ」

清明は懐紙を取り出し、朱色の液に筆を浸し五芒星を書くと息を吹きかけ麗蘭に渡した。

その大きさは手のひらに収まるくらいだが、麗蘭は疑問を口にした。

「……これは?」

「……お守りとでも言っておこう。お前の役に立つお守りだ」

何かしらの念を込めた事で、呪符と化した懐紙を見た麗蘭は、きっと何か秘策があるに違いないと思い、ありがたく懐にしまい込んだ。
2/11ページ
スキ