第2章 彷徨う闇

あの一件以来、見鬼の才を取り戻した麗蘭はそのひと月後には帝より陰陽師としての役職を命じられた。

だが、陰陽師となっても仕事は陰陽寮となんら変わらない。

少し違うとするなら、占術により吉凶を占ったり、暦を作成したりする事くらいだ。

それに、陰陽師としては下っ端で、歳も若い麗蘭は、ここに来ても好機の目で見られていた。

麗蘭が入ってくるなり、簾越しにコソコソと耳打ちする影が5つ。


「……おい来たぞ」

「…例の若僧か?」

「……ああ。なんでも、13とか」

「………13!?」

1人の男が声を張り上げる。麗蘭はその集団へと目を向けた。

「…馬鹿!声がでかい!!………こ、これは麗蘭殿。お早いですな」

「…はい。父に呼ばれていたので」

麗蘭は嘘を付いた。本当は忠行には呼ばれてはいなかったが、絡まれたら忠行の名前を使っても良いと言われていたからだ。


「…そ、そうであったか」

「…お父上が有名だと、そなたも苦労するな」

「…忠行殿と清明殿は、ここでも噂になるほどの方々。……そなたはどうなのだ?」

男達は麗蘭に詰め寄った。それに見かねた清明はこっそりと几帳越しに術を使った。

……すると、そこに鬼の形相をした幻が見えた5人は悲鳴を上げる。

麗蘭は腰を抜かした5人に苦笑し、幻術を解き几帳越しにいる清明に声をかけた。

「………清明様。…この方々が怖かっております。……お手にお持ちの人型をしまっては頂けませんか?」

清明は麗蘭の声に簾を避けて中に入った。

「…なんだ気付かれてしまったか。……これに腰を抜かしているようでは立派な陰陽師にはなれまい」


怪しげな微笑みを見せながら5人に人型を見せびらかすようにして懐に仕舞う清明。


恐怖のあまり男達は這いつくばりながら自分の持ち場へと戻っていくのを見た後、麗蘭はひっそりと清明に耳打ちする。


「……父上。助けてもらった事は感謝しますが、あそこまでやらなくても良かったのではないですか?」

「…なに、ここまで自分の失態を見せたのだ。……お前にはもう下手な事はしないだろう」
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