第2章 彷徨う闇

「……ならば今宵、その目で見定めるが良い。…その為に呼び出したのだからな」

それを聞いた翔聖は興味なさそうに麗蘭の前を悠々と歩いて羅城門へと辿り着いた。

翔聖の態度に不安を覚えた麗蘭はちらりと清明を見る。

その視線に困ったような笑みを浮かべた清明は麗蘭に耳打ちした。

「……案ずるな麗蘭。翔聖は、お前を試しているのだ。今は私の式だが、翔聖は己の意思で主を決める難癖のある奴なのだ」



通りで。だが、翔聖から感じられる気はとても清らか。触れたら浄化してしまいそうな程にー。



それから少し立った後。少し遠くから牛車のようなものがこちらへやってくるのが見えた。

いや、正しく言えば牛車ではなかった。籠を引く牛は疎か、付き人もいない。

その籠の周りには、鬼火が代わりに青白い炎をまといながら車を動かし、ただならぬ邪気を放っている。


………生霊か死霊か……はたまた鬼や妖怪か。

ぼんやりとしか見えないものの、凍りつくような邪気に麗蘭は眉をひそめた。


そしてその車は羅城門に近づくと、中から艶やかな長い黒髪に唇には赤い紅が塗られた、それはそれは若く美しい女が出てきた。


清明は翔聖を側に寄せ、姿が見えない術を素早く施し麗蘭を見守る。


女は麗蘭に少し近づくとか細い声で言葉を発した。

『…あら、こんな夜更けに月見ですの?』

麗蘭は女の様子を見る為、言葉も相槌も打たなかった。

『…今宵は三日月がよう見えます。……わたくしそちらへ用がありますの。……そこをよけてはくれませぬか?』


「……それは出来ません。貴方をここへ通す訳にはいきません」

その女が何であるか見抜いた麗蘭は右手で刀印を結びながら答えた。

何故なら、この女に体を乗っ取られないようにする為だ。


『…おのれ……貴様、陰陽師か!』

それを見た女は先程とは打って変わって、唸るような声を出して、その頭からは2本の角が生え、唇から向き出す鋭い歯。爪は鋭利で長くなり鬼の姿へと変身した。


……この女は鬼女だ。


「…まだ陰陽師ではありませんが、貴方を止める術ならあります!」

麗蘭は素早く印を結び、呪文を唱えた。
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