第2章 彷徨う闇

「…はい。占術にて不吉な兆しを感じました」

「…それは鬼か?……はたまた怨霊か?」

「……どちらにせよ、良くない事は確かです。…しかし麗蘭には私がついてます故、心配には及びません」

「……そうか……そうであったな。では頼んだぞ」

2人は帝に深々と頭を下げた後、それぞれの屋敷へ帰り、夕餉を食べ身を清める。


そして、戌3つ時(20時〜20時30)。清明が麗蘭を迎えにきた。

麗蘭は門の前で待っていたので直ぐに清明と合流する事ができた。


「…早かったな麗蘭」

「………気が立ってしまったもので」

「…珍しいな。そこまで気が高まるとは」

清明は麗蘭の頭を優しくポンポンと軽く叩いて2人は並んで羅城門へと歩き出す。



「……昨日は上手くいきましたが、今宵も上手くいくとは限りません」

「…そう案ずるな麗蘭。前にも言ったが、お前の霊力は私譲り。……それと、お前にそろそろ式を渡そうと思っている」


「……式………式神ですか?」

「…ああ。少々厄介な奴だが頼りになる」

清明はそう言うと、1枚の式札を取り出して呪文を唱えた。



………するとそこに現れたのは、銀色のたてがみに鋭い目つき。

神聖な空気をまとい、麗蘭と同じくらいの大きさをした、一匹の狼であった。

 
見鬼の才がまだ完全には戻っていなかったが、ぼんやりと姿形は見えた。


「…私の式神……名を翔聖という」

「………翔聖…」

麗蘭が小さく名を呼ぶと、その狼は唸りながら牙をむき出して言葉を話した。


「……気安く我が名を呼ぶとは愚か者。……我は陰陽師家に古くから使えている式神だが、元は神。………無礼は許さぬ」

ただならぬ気迫に麗蘭は少し後退るが、清明の胸に抱き寄せられる。


「…誤解しているようだな翔聖。この者は私の娘だ。……今は性別を偽り陰陽寮に入っているがな」

「……女人が陰陽寮か。笑止。………それを知られた暁には清明、お前の首が飛ぶぞ?……それにこんな小童に何が出来る」

威嚇するように、再び唸る翔聖。清明はそれをなだめるようにして静かに口を開いた。
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