第2章 彷徨う闇

清涼殿の昼御座に通された2人は、簾の向こうにいる帝に向って正座をし、深々とお辞儀をする。


「…麗蘭を連れて参りました」

清明の静かな声に、うむとだけ帝の返事が聞こえ、簾と几帳が置いてある為、顔は伺えなかったが、麗蘭は姿勢を正すと挨拶をした。

「……お招き頂き感謝致します。加茂 忠行の息子、麗蘭にございます」


「…うむ、くるしゅうない。表を上げよ。そちを呼んだのは清明から聞いておるな?」

麗蘭は帝らしい問いに、聞いておりますと答えた。


「…なら、まろの為に調べを弾いてはくれぬか?」

「…ありがたき幸せにございます」

麗蘭は深々とお辞儀をすると、箏を目の前に運んできた者に会釈し、では失礼してと言い、箏爪を指に嵌め弦を弾く。


忠行からもらった箏とはまた違った、深く重みのある音色に、思わず微笑んだ麗蘭は流れるように音を紡いでゆく。


その音は、風に揺れる木々の葉をも思わせ、帝のお付きの者も思わず固唾を飲んで麗蘭の奏でる音に聞き惚れる。


そして弾き終わると、玉座から扇子を叩く音が聞こえ、帝が口を開いた。


「…真、雅な調べであった。これ程までの腕前。……さては清明、まろに隠しておったな?」

「…失礼ながら申し上げますが、私もつい先日この者を知ったのです」

「…そうであったか。ならば何も言うまい。……して、そちは見鬼の才があると清明より聞いたが真か?」

帝は簾越しに麗蘭に問いかけた。
本当の事を言って良いか不安になった麗蘭は清明にだけ分かるよう視線を送る。

それに気付いた清明は微笑んで頷いて見せた。


「…………はい、真でございます」

「…おお!真か!…流石は清明。お前の占術は良く当たる。ならば、そちに頼みたい事がある。……この清明も一緒だが、そちの能力を見たいと言うのでな」

麗蘭は思わず清明を見た。清明はいたずらっぽく笑い口を開いた。


「…私では不満か?」

「…いえ。…清明様であれば、如何なる呪でも私の霊力を推量る事ができましょう」

「…うむ。今宵、亥1つ時(21時〜21時30)に羅城門へ向ってほしい。……何やら妙な気を感じるのだな、清明」

帝に話を振られた清明は静かに頷き口を開いた。
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