第2章 彷徨う闇

「……大丈夫か?」

「………助かりました兄上。ですが、この事は父上には言わないで下さい。また心配させてしまいます」


「………お前も好機の目にさらされ苦労するな。仕方ない、お前の頼みとあれば父上には言わん。だが気を付けろ、お前を良い意味で狙う奴もいるからな」

吉平はそれだけ言うと、もう1度麗蘭の頭を撫でて戻るよう伝えた。


自分の席に戻った麗蘭は、先程の言葉の意味を考えたが、一向によく分からなかったので、邪念を退散させるべく、墨を刷り続けた。


そして午三つ時(11時30〜12時)になり、麗蘭は陰陽寮の池の石段に腰をかけ、握っできた握り飯を食べる。

今日は半日ほど墨刷りしたので、残りは自由に過ごして良い事となっていた。



自分の仕事がなくなってしまった麗蘭は、書物を読もうと書庫へ向かったのだが、途中で清明に呼び止められる。


「…麗蘭、仕事はもう終わったのか?」

「…はい。これから書庫へ行くつもりでしたが、何かご用でしょうか?」

「…お前さえ良ければ私と一緒に帝の所へ参らんか?……帝より、箏の弾ける者を連れて来いと申し使った」

「………白河天皇ですか」

「……あのお方はそういうのがお好きでな」

清明は苦笑しながら麗蘭を見つめた。

「…帝らしいお申し付けですね。でも、私でよろしいのでしょうか?」

「…箏が弾けるのはたくさん居るが、紹介していない者をとの命だ。……それに新入りのお前にも興味があるらしい」

2つの意味で自分を一目見たいのだろうと麗蘭は感じ取り、引き受ける事にした。
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