第1章 開花する力

次々に言い当てて行く中、最後に並んでいた人物の肩に重くのしかかるようにして見えた黒い影に麗蘭は思わず清明を見た。

だが清明は麗蘭に大丈夫だと言うように頷いてみせたので、その人物に前に出るように言う。


その者は痩せ型の男で少し老けてはいるが、そこそこ高い位にあるのか品の良い着物を着ていた。


……なんでも、男は半月前から肩が重苦しいという。そして、最近その苦しさが増してきているというのだ。

………間違いない。生霊だ。


そう思った麗蘭は占いもせず口を開いた。
見鬼の才が戻ってはいなかったが、自分の感に確信が持てたからだ。


「………貴方は半月前、愛しい人を亡くされた。その人は不治の病にかかり命を落とされた。……貴方には、奥方様が生霊となり取り憑いております。このままでは貴方の命も危険です」

「………妻が…私に…………確かに、愛していた!…だがなぜ取り憑いたのです!?」

男は半泣きしながら問いかけた。麗蘭は静かに口を開き伝える。


「…未練ゆえです。貴方を愛していたからこそ、離れたくはなかったのでしょう。……いっその事、道連れにしようとさえしましたが、子供を思うと、それが出来なくなってしまったのです」


「……藤の君……すまない!…私はあの子らを置いてはゆけん!」

「………お祓いすればその苦しさから開放されますが、奥方様は成仏される事となります。……いかがされますか?」


「……離れがたい……離れがたいが、私はあの子らを守らねばならぬ!………頼みます!お祓いして下さい!」

「………かしこまりました」

麗蘭は男の願いを叶えるべく、忠行から教わった陰陽の術を使う事にした。

だが使うのは初めて。上手く出来るか不安ではあったが、やるしかない。

そう自分に言い聞かせ、紙に呪文を書き、その紙に念を込めて男の肩に貼り付けると左右の手で刀印を刻み、左手は男の肩の側に。

右手は口元に添え、呪文を口にした。


「……帰依し奉る、病魔を除きたまえ払いたまえ、願わくば福の神のお力を持ってこの者に憑く魂を天に返したまえ」

そう言い終え、最後にその紙にふうーと優しく息を吹きかけると、たちどころに男の肩から影が消えた。
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