第1章 開花する力

その日の夕刻。昨日と同じく清明に忠行の屋敷まで送ってもらったが、今日は清明は麗蘭と一緒に忠行が居る茶の間へと向かった。


「…加茂様、清明です」

「…ああ入るが良い」

簾を分けながら中へと入り腰を下ろした2人に忠行は口を開く。

「…じきに来ると思っていた」

「…本日は麗蘭の事でご相談があります」

清明は声色を変え、麗蘭が気を凝らして雑神の気配を感じ取った事を話した。


「…もうそこまでの霊力を開放したか。随分と早かったな」

「…恐らく、昨日の怨霊の邪気を目と耳は塞いでいましたが、気で感じていたので力が目覚めようとしているのでしょう」

清明は麗蘭の顔をふと見て頭を撫でる。


「…なるほど。気を凝らしていたので、元ある霊力が反応したという事か」

「…はい」

「……幼い頃のお前に退けをとらない霊力か。やはりお前の娘子だな」

麗蘭は2人の会話を黙って聞いていた。
子供が大人の会話に口出ししてはならない話もあると知っているからだ。


「…この一件で霊力が目覚めつつある。……麗蘭」

忠行に呼ばれた麗人は静かに返事をした。

「…お前に教えた術は全部頭に入っておるか?」

「…はい」

「…ならば明日、わしと共に左京にある大安寺へ趣き、人々の助けをしてはくれぬか?」

「…どのような事をすれば良いですか?」

麗蘭は忠行に質問した。陰陽師は調伏ばかりが仕事ではなく、人助けもする事がある。

それは麗蘭が初めて陰陽の術を使うかも知れなかったからだ。


「…なに、心配はいらない。私も一緒だからな」

「………清明様も…?」

「…帝からの名で、もしもの事があってはならぬと頼まれてな」


「………たちの悪い妖怪でもいるのですか?」

麗蘭は少し不安になった。


「…はっはっは!そのような兆しはない。だが、人が集まる所には、禍々しい気も自ずと集まるもの」

「…その気が集まれば……」

「…悪霊となる…」

麗蘭は眼光を鋭くして答えた。それに2人は同時に頷く。
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