第1章 開花する力

翌朝。朝餉を食べた麗蘭は、陰陽寮へと出向き、墨刷りをするが何やら視線を感じた。

その方へと、目を向けると薄っすらと影のようなものが見えたが、直ぐに消える。

この正体は分からなかったが、禍々しい邪気は感じられず、むしろ小さな生き物といった感じだ。

作業をしながら気を凝らしてみると、1つの結論に辿りついた。


これが終わったら、清明に尋ねてみようと、麗蘭は黙々と仕事に励む。


そのお陰もあり、半刻(1時間)程で終わる事が出来たので、書物を取りに行く振りをし、清明を探すと書庫におり、麗蘭は戸を叩き中へと入れた。


「…ああ、麗蘭か。墨刷りは終わったのか?」

「…はい」

「…今日も仕事が早いな。これだけ仕事が早ければ他の事も申し付けなくてはいけないな」

何かを企んでいるのは見えていたので、麗蘭は呆れたように肩をすくめながら口を開いた。


「…陰陽の術を習得する為に、昨日絡んで来た者にまやかしを見せろと仰るのであればお断りします」


「…なんだ、見抜いていたか。初歩的な技をやるには良い相手なのだがな」

清明は、窓枠から見えた昨日の3人を指さした。

見ると3人は麗蘭を探しているのだろう。辺りを見回る様にして、ヒソヒソと話している。



麗蘭はため息をつきながら口を開いた。

「…なりません。それより、清明様に伺いたいのですが」

「…なんだ?」

「…この陰陽寮には雑神がいますか?」

あの気配は、雑神のもの。何処にでもいるものだが、ここには無数の気配が感じられた。


「…雑神の気配を感じ取ったか」

「…気を凝らしてみたらその気配がしましたので」

「…そこまでの霊力を開花させたか。封じ込めたとはいえ、これ以上防ぐ事は叶わぬか……」

麗蘭は清明を思わず見つめる。
その視線に半笑いした清明は、全く……末恐ろしくなるなと呟いた。

その意味は何となくではあるが分かった麗蘭は、自分の秘めていた霊力がもう少しで回復する事を感じ取ったー。
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