第1章 開花する力

今日は、墨刷りに書物整理、吉凶を占う占術の仕事だ。


自分の席に腰を下ろした麗蘭は墨を刷ろうとしたのだが、またしても違う人に声をかけられた。


「…おい若僧」

声をかけてきたのは、大柄でひげを生やした、いかつい顔をした男だった。


「…はい、なんでしょう?」

至って冷静で澄んだ声に、その場にいた全員が2人を見る。

「…お前、歳はいくつだ?」

「……12にございます」


「…お前が噂の麗蘭とかいう若僧か」

「…はい。他にご用が無いのであれば私には仕事がございますので失礼させて頂きます」

それだけ言うと麗蘭は長いまつ毛を伏せ、墨を刷るが、どこか色香を感じる光景にその場の者を引き寄せる。

かくいう、声をかけた男もその仕草を見るなり顔を赤く染めた。


麗蘭はそんな事は知らずに持ち前の器量で墨を刷り終わり、書庫へと向かうと……そこに忠行が居たので、麗蘭は会釈をし入る。

「…ご一緒してもよろしいですか?」

「…そんなに気を使わなくても良い。書物整理に来たのだろう?」

麗蘭は頷き、そこら中に置かれている書物を分かりやすくまとめる作業に取り掛かる。


「…どうだ。陰陽寮は。清明も心配していたぞ?……男に絡まれたとな」

「……私がさぞ珍しいのでしょう。先程も年齢を聞かれました」


それを聞いた忠行は豪快に笑った。

「…はっはっはっ!新入りに熱を上げる者もいるからな。……特にお主のような美系にはな」

麗蘭はよく分からずに首を傾げた。

「……鈍い所も清明そっくりだな。これが終わったら吉凶を占う占術だろう?……誰が付くか知っておるか?」

忠行はわざと試すような言い方をした。
物見は陰陽師になるには初歩的なものだからだ。


麗蘭は微笑むと、口を開いた。

「……占術に長けてる人ならば、私の知る限り1人しかおりません。……清明様ですね」

「…うむ!見事なり!」

巳1つ時(9時〜9時30)から始まり、昼を庭で食べ、書物整理は墨刷りが早く終わったのもあり、未2つ時(13時30〜14時)で終わる事ができた。
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