第1章 開花する力

それから数日経ったある日。

麗蘭は忠行の息子だと偽り、無事に陰陽寮の陰陽生となった。



そんな中、麗蘭に声をかける者がいた。


それは、中庭で一息ついている時。
陰陽寮の縁側に座る麗蘭を見つけた人影が3つ少し遠くからこちらへと向かってくるのが見える。

どの顔もまだ入ったばかりの麗蘭には知らない者ばかり。

だが、失礼があってはいけないので軽く微笑んで会釈をすると、それを良しと思ったのか麗蘭にどんどん近付きながらこう言った。


「……れ、麗蘭殿、わ……私と一緒に今度お茶でもいかぬか?」

「……お、お前!ずるいぞ!…それに、麗蘭殿は私と行く約束だ」

「…なにを!?いつそんな約束をしたのだ!私と行くのだ」

男3人に寄ってたかって絡まれている麗蘭の腕を引っ張り側に寄せた、1人の人物が言葉を発した。

「…何を騒いでいる」

「……こ……こ、これは清明様!!」

「……ひいい!……安倍 清明……!」

「…お許しを!」

清明に声をかけられた3人は蛇に睨まれた蛙の如く固まる。

そして事の成り行きを麗蘭が口にした。


「…お騒がせし申し訳ございません、清明様。この方々が私とお茶をしたいと申してきただけです」

「…ほう?……新入りに用があるとは、随分と暇なのだな?」


「…いや〜その……ああ!そうだ暦!……暦を作らねば!失礼致します!」

「…ああ待て!……わ、私も墨を刷らねば!……失礼致します!」

「…わ、私も用がありますので失礼致します!」

蜘蛛の子を散らすようにして3人はあっさりと庭から去っていった。




「…全く…私は妖怪か、もののけのような扱いだな」

この場に2人しかいないのを確認した清明は、麗蘭の頭を撫でた。

「…父上…いえ、清明様は有名な方ですから。それに、私が珍しいのでしょう」

「…まあ無理もない。お前は年若くしてここに居るからな」

清明は麗蘭の頭をポンポンと優しく叩くと、仕事に取り掛かる為去っていく。

その背にお辞儀した麗蘭も気を取り直し自分の仕事に取り掛かかった。
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