番外編 祝福の時

ある日の午の刻。

奥方三人が 東山で山桜を見に行こうと歩いていた。

「…久々に山歩きも良いものじゃな」

「…そうさな~。のどかな日和で何よりだな」

舞雪の呟きに氷雨が相槌を打って、青々とした空を見上げる。


「…ふふ。こちも、皆さまと歩けて嬉しゅうございます」

「…そなたもか?わらわもそう思っていた所じゃ」

凛音の微笑みを見た舞雪は微笑み返し、思わず横目で氷雨の方を見つめた。



「…な、なんだ?我の顔に何か付いとるのか?」

視線を向けられた事に気付くと、即座に真顔で聞いてくる氷雨に二人は可笑しくなって、口元に扇子を当て笑いだした。




なぜなら、桜の花びらが頭に乗っていて、あまりにも普段とは似付かないほど可愛らしい光景だったからだ。

「な、なんだよ?」 

再び氷雨の問いに、花びらが風に舞い、そこから離れていったのを見た凛音は笑いを堪えて口を開いた。

「…いえ、なんでもありませんわ。……姫様があまりにも可愛らしかったものですから」

「…これ、それを言うてはならぬ」

舞雪の少し困ったような声に凛音は更に続けた。

「ふふふ。でも比叡の姫様?見ましたでしょ?」

「…そうじゃが……」

「うふふ。こちはあんなに可愛らしい姫様を見たの初めてでしたから、今日は誠に良い日和ですわっ!」


まるで桜の花が満開に咲いたような笑顔を見た二人は仕方ないとでも言うかのように微笑んだ。


凛音は二人にとって可愛い妹みたいなもので、笑うだけでその場に花が咲いたようになる。

きっとその笑顔に拓臣は好いたのだと二人は思った。
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