第2章 我らが百鬼夜行

それから一刻過ぎた頃。 

ようやく百鬼夜行の準備が整い、あと数刻経てば平安京を歩き列ねるのだが、これから館の掃除をやらねばならなかった。


……何故なら百鬼夜行が始まる前に館の溜まった埃を払わないと、その埃に人間や悪霊の邪気が集まると考えていたからだ。

それに、悪霊となった者は邪悪な魂を持つ為(悪霊は悪さをする為、穢れであるとされた)陰陽師によって祓われる。

故に、この事だけは絶対に守らなくてはならないかなり重要なものだ。


そして、いつもの事ながら掃除は全て割り当てられる事となっている。


それを知っている優幻は、少し拗ねた様子で口を開いた。

「…あーあ。掃除かぁ~っ!…やるしかないでやんすね~」

「…そうっすよ、優幻さん。…あっしらも頑張りやしょうよ!」

「…話は後にしろ。……お前達がそんな様子では、他の皆が困惑する」


そんな会話をしていた二人をちらりと見た彩が、手を動かしながら再び言葉を繋いだ。

「…それに後で、褒美にお館様が人の食べている餅とやらを皆にくれるらしいから、それまで辛抱せぃ」

「…ほ、ほんとでやんすかっ!?おいら、やる気出てきたああ~!」

「…流石は彩さん……」

「………わしは、親方様のために皆を導かねばならぬからな」


一目散に掃除し始めた優幻の様子を見た彩の瞳が、 少しだけ寂しそうに揺らめいたのを見た聖は、やはりぶれない心の強さがなければ出来ない事だと思い、自分も共に背負う覚悟をどこかで考え始めていた。


……それからまた一刻経った頃。

「…皆の者集まれ。褒美に渡したいものがある」

鈴の音と共に現れた舞雪の澄みきった声に引き寄せられるようにして、皆が一斉に集まる。


ゆっくりと皆の顔を見渡した舞雪は、彩を呼び労いの言葉をかけた後、そっと頭を撫でた。

いきなり頭を撫でられた彩は、瞬く間に赤くなり、暫くの間…皆と顔を合わせられず背を向けたまま、顔を隠すように餅を食べていた事は、ここだけの秘密だ。
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