第2章 我らが百鬼夜行


「…さあ皆っ!百鬼夜行の準備をしようっ!」

いきなり襖を開け放った事で、そこに居た者達は優幻の声に目を瞬かせ、状況が飲み込めずにいた。



……それもそうだろう。詳しい説明も無いままだと、何をどうしたら良いのかと困惑する者が多いのが優幻の率いる3部隊で、きっと本人もどう説明したら良いか分からないのであろう。

それを横で見ていた彩は一歩前に出て、一人一人の顔を見渡すようにして口を開いた。


「…先程、お館様より今宵も百鬼夜行するとのご命令が出た。…皆の者、呪術や妖術、装飾品の手入れを怠らぬようにな」

透き通る声でしっかりと的確な指示を聞いた妖達は一斉に返事をした後、作業に取り掛かった。




「…おおおっ!彩やん、格好良いでやんすっ!!おいらも頑張るっす!」

「…ああ。落ち着いてやれば大丈夫だ」

尊敬の眼差しで見つめてくる優幻の言葉を聞いた彩は優しく微笑みながら、もう自分の力で何とかやっていけるだろうと判断し、白く長い髪をなびかせながらその場を後にした。





一方…聖はというとー。

何やらさっきから蔵の中で唸り声を上げていた。

「……うーん。変だな~。…確かここら辺に置いてあるはずなんだけどなぁ…。……ああもうっ!彩さーんっ!あっしはどうすれば良いんじゃああ!?」

「………わしを呼んだか?」

ふと図ったかのように現れた彩に、聖は思わず泣きついた。



…やれやれ。この2部隊はまだまだ手のかかる者達ばかりだと思ったのは、本人達には内緒にしておこう。


「…わしの顔を見た途端に泣くでない。何か探していたのであろう?…わしも一緒に探してやる」

「あ…彩さんんっ!あっし、一生ついていきやすっ!」

「…わしについて来てどうする。ついていくなら、お館様にじゃろう?」   

「……あ。そ、そうでやんすね!す、すみません…」

聖が天然なのはもう長い付き合いなので、こういう性格だと分かっていたつもりだったが、流石にここまでだとは思っていなかった彩は、肩を落としそうになった。


「……お館様がいらっしゃらなければ、我らが困る」
「…そ、そうっすよね!あっしは馬鹿だな~。……あ、そうだ。百鬼夜行に使う皆の道具を取りに来たんっすよ!」

たった今、思い出したかのように言った聖にますます肩を落としそうになったが、追求するのを止めておくことにした。


「……小道具なら、そこの木箱に入ってるはずじゃ。大きい物は、先程お館様達が運んで下されたようだから、今頃は皆の妖気を隠す術をかけて下さっているだろう」


どこか遠くを見るような話し方をした彩の言葉に大きく頷く聖。

妖は、普段人間に近い姿でいるとは言え、妖力や妖気を完全に隠す事は出来ない。

その為、あらかじめ身につける道具に呪術師が高い霊力を使って呪術を施し、人間の目を惑わさなければならない。 
 

それ故、一族の中でも年上の者が先頭に立ち、一族をまとめる力が必要となってくる。

しかもたった一人で……。


妖の世界も過酷で苦労が絶えないな…と聖は、去ってゆく彩の背を見つめながら、心の中でそっと呟いたのであった。
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