第1章 小さな魔法使い

「…あの怪物を見た時、頭の中に森の中に居るような姿が浮かんだわ。…シムズ国王はその怪物が守っている何かを求めている。……きっと封筒に手を触れさせて、お父様を操ろうとしていたのよっ!!」

そうエレンが言い終えたのと同時に、ふくよかな体に赤いマントを羽織った短髪の男が宮殿に入ってくるなり、口を開いた。

「……姫様の仰る通りです陛下。…先程、ルパート国王の所にも不審な封筒が置いてあったそうです」

深々と頭を下げた後、エレンを見たのは評議員(国王に意見や助言が出来る組織で、国により人数や組織名が違い、北国では三人居る)の一人、議長のビス・カーダだ。


「…カーダ議長、聞いて頂けますか?…私は先程、シムズ国王の企みを少しですが感じ取れました」

「……ほう?…では姫君が仰る企みとは何です?…我々にも聞かせて頂こうではありませんか」

エレンの言葉に反応するかのように現れたのは、細身な体に眼鏡を直しながら鋭い眼差しを向けた二人目の議員、ギル・セターム。



「…はい議員。…シムズ国王はどこかの森に住む怪物が守っている何かを求めています。…その為だけにお母様を連れ去り、お父様とルパート国王を操り、利用しようとしたのではないかと思います」


これは直感であったが、全てを繋いでゆくと、何か意図的に仕組んだように感じられた。


「…では、その怪物は何を守っていると言うのだね?…それに、もしシムズ国王がそれを狙っていたとしても、姫君のような…。……子供が口を出す事では無かろう。…違うかね?」

中肉の体付きをし、あご髭を撫でながら現れた三人目の議員、デナン・リュードはエレンに見向きもせず冷たく言い放った後、既に二人の議員と話し合っている国王の元へと去って行った。

それを聞いたエレンは嫌気が差して早々に自分の部屋へと戻り、その日の深夜………。


護衛の人が部屋の外に居ない時間を見計らい、いっそ単独で調べてみようと、片手に蝋燭を持ち、図書室へと向かっていた。静まり返った図書室にぼんやりとした明かりを頼りに本を探してみるが、一秒一秒が長く感じられたその時ー。



右側にあった本棚の一番下から二段目にあったお目当ての分厚い本の見つけ、再び誰にも見つからないようにして部屋へと戻り、ベッドに腰を下ろした。
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