第2章 出会いと旅立ち

「…無理だよエレン!…試験はもうすぐなのに!」

「…分かっているわ。…でも、確かめてみたいの」

エレンの行動に慌てるミーシャをなだめすかすようにして、表紙に息を吹きかけた。(これは白魔術の本を開く時のやり方で、こうする事で中身が読める)


いつもなら勝手にページが開くのだが、今日は何か変な感じがした。

それは本に触れようとした瞬間に起きた。


…あろうことか、中から女性の声で歌のようなものが聞こえてきたのだ。

それを訳してみると、こう歌われていた。



月夜の光りよ。私の望みを聞いてくれるか。

…たとえ私の心が氷に閉ざされたとしても、私は貴女の側で共に生きてゆきたい。

今宵の月の光を今、貴女に捧げよう。



エレンはこの歌が終わらない内に、どうしてこうなったのかを探ろうとした。



…と言うのも、本から聞こえてきたのはテターナ語とムスハ語の両方が混ざっていたからだ。(本来なら、この言葉同士が混ざり合う事はない)


これはきっと何か隠されているに違いない。

そう思った時ー。

本から強い風が吹いたかと思うと、灰色のマントを着た人物が現れたのだ。


夕暮れが近くなるのもあり、なかなか表情を読み取れなかったが、どこかでこの人を知っているような気がしてならなかったエレンは、記憶を頼りにその人物の名を口にした。

「……貴方はスフレ・ローランさん?」

「…ええそうよ。…貴方は?」

ゆっくりと顔を上げ、こげ茶色の髪を一つに結ったスフレは黄緑色の目を向けた。

この時エレンは何となくではあったが、この本に閉じ込められていた事と、怪物と何か関わりがあるだろうと直感した。

「…私はエレン。この子はミーシャ。…私はただ、貴方の杖にかけられた呪いを解く方法が知りたくて……」

「…そう。…でもそのお陰で私は出てこれた。ありがとう。…きっと貴方ならその方法を見つけられるわ」

「…あ、あの!ローランさん!…私、貴方と友達になりたいのっ!」

エレンは思わずスフレの手を握っていた。そうでもしないと、どこかへ消えて行ってしまいそうな気がしたからだ。
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