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江戸・方舟編
「まーた変な部屋に来た…、ノアの趣味さ?これ」
「!…黙れ。居るぞ」
神田の声に天井など部屋の中を見ていた皆が前方を見る。
見覚えのあるノアだ。大柄で、伯爵によって江戸が消滅した後での戦闘時はラビと戦っていた。
そのノアを見て固まる面々を前に神田が静かに足を踏み出す。
「先に行ってろ。アイツとは俺がやる」
「え、」
「ちょ、ちょっと待って!神田を置いて行くなんて…!」
「勘違いするな、お前等の為じゃねえ」
あのノアは元々ウチの元帥にちょっかい出してきてた奴なんだよ。
そう言うと神田は刀に手を掛けイノセンスを発動する。
その様子を見てスキンがニヤリと笑った。
それと同時だろうか、部屋全体が大きな揺れに見舞われ皆が顔を上げる。
「くそ、此処もじきに消滅するっぽいさ…!」
「っ、僕も!僕も残ってノアを…っ」
「ふざけるな」
六幻の刃先がアレンの鼻先に向けられた。
先に進まないのなら斬る。そんな目付きで睨まれアレン達が竦み上がる。
途端にアレン達に黒凪のイノセンスが巻きつきアレンの手から鍵を抜き取った。
そして近場の扉に鍵を差し込みアレンに手渡すと彼等をぽいっと扉の外に放り投げる。
「ちょ、黒凪はどうするんですか!?」
『……』
「え、それ質問する?みたいな顔してるさ」
「あの顔はどう見ても残る気であるな…」
ぐ、と拳を握りリナリーが声を張り上げる。
絶対にすぐ追いかけて来てね!
涙ぐんで言うリナリーに親指を立て戦闘を開始した神田とスキンに目を向けた。
アレン達はそんな神田と黒凪を後ろ髪を引かれる思いで見ると背を向け、道を進んで行く。
「ぐおぉおお…!!」
「!(姿が変化した)」
黒凪は容姿が金色に変化したスキンを横目に近場の背の高い岩の上に腰掛けた。
六幻を二幻刀に変えた神田がそんな黒凪に目を向ける。
「別にあいつ等について行っても良いんだぜ。」
『あは、何馬鹿な事言ってんの。』
「雷!!」
「!」
スキンの強大な一撃に目を向け避けながら距離を縮めていく。
その背中を見て小さく笑った。
目を閉じる。「…どういうことなの?」と、訊き慣れた声が頭に響いた。
《どうして帰ってこないの》
《あの人は何処なの》
『(あー、煩い煩い。)』
こつこつと頭を叩く。
それでも声は止まらない。
「約束したのよ」…止まない声に諦めた様に肩を竦めて神田を見る。
彼は早くも勝負を付けるつもりらしく、禁忌"三幻式"を発動していた。
《ずっと一緒に居てくれるって言ったもの》
「神の怒りに触れた人間は黒炭になって死ぬ!!それが"怒り"を司る己の相手をすると言う事だ!!」
「…はっ、言ってろ。」
俺は生きる。
神田の声に頭で響いていた声がピタリと止んだ。
膝を抱えて、眉を下げて笑う。
あぁ。好きだなぁ。…そう思う。
途端に首が苦しくなった。
『(分かってる、言わないよ)』
ガクンと座っている岩が大きく揺れる。
スキンも神田ももうボロボロだ。
そんな中で始まった部屋の崩壊に神田が露骨に眉を顰めたのが見えた。
ギリ、と首を絞める"あの人"の手の感覚が強まる。
…いや、本当は手なんて無いんだと思う。これは私の妄想なのかもしれない。…でも。
『(ユウは今も昔も、)』
「そろそろ死んだか…?」
「…ぐ、」
『(あんたのだもんねえ)』
首を掴まれぐったりとしていた神田が顔を上げる。
彼のイノセンスがスキンの胸を貫き、首を掴まれていた神田が倒れるスキンと共に倒れていく。
仰向けに倒れた神田が徐に天井に向かって手を伸ばした。
薄く微笑んだまま立ち上がり、その手を掴むために岩から降りる。
『ユウ』
「……、」
虚ろな神田の目が黒凪を映した。
伸ばされたままの神田の手に指を絡める。
徐々に呪符がボロボロになった彼を治しているのだろう。
でもまだ意識は朦朧としている様だ。
首を絞めていた痛みは、もう無い。
『――…蓮華の花を見に行こう』
「…」
『ユウ』
手を引いて抱きしめる。
神田がやっと目を見開き黒凪を見た。
あぁ、好きだなぁ。
でもそんな言葉を伝える事は出来なくて。
…こんなに好きになるだなんて思ってなかったんだ。私がアルマに成り代わったと気付いた時は。
「…黒凪?」
『……、』
神田が黒凪の後ろで立ち上がったスキンに目を見開いた。
好きだよユウ。…この言葉は決して声にならない。
最期の力を振り絞る様に放たれた攻撃を黒凪のイノセンスが受け止めた。
スキンに見向きもせず一層強く抱きしめてくる黒凪に神田が目を向ける。
「おい、」
神田の声に小さく笑って体を離し立ち上がったスキンに目を向ける。
赤く染まったイノセンスの刃が一瞬でスキンの首を刎ねた。
飛んだ首の口が微かに動く。
「ノアは…死なない…」
『…でも、貴方は死ぬんだよ』
スキンの身体も、頭も砂の様になって消えていく。
振り返って扉を見ると崩れ去っていく寸前で、地面に膝を着いたままの神田を見ていると間に合いそうもない。
完全に崩れた扉を見た神田は黒凪に目を向けた。
「…良かったのかよ」
『ん?』
「……お前なら、逃げられただろ」
『…ユウと会えなくなるぐらいなら死んだ方がマシ。』
眉を下げた神田がドサッと地面に腰を下ろした。
はー…と深いため息を吐く神田の前に黒凪がしゃがみ込む。
ニコニコと微笑む黒凪に神田が小さく笑った。
「お前も物好きな奴だな。…俺と心中するかよ、普通」
『…何言ってんの。今度こそ心中させてくれても良いじゃん』
「あ?」
『…ふふ』
何でもない。
笑って言った黒凪に怪訝に眉を寄せる。
側に瓦礫が落ち、2人に影が差した。
落ちて来た瓦礫が同時に2人を飲み込み部屋が完全に崩壊する。
外に居るミランダが耳を塞ぐようにして顔を伏せた。
「2人…、2人同時に時間が消えた…っ」
――何だ、感覚的には一瞬なんだ。
ぼーっと可愛らしい外装の天井を見上げて思う。
目の前に座っていた神田は唖然とした顔で周りを見渡していた。
『ユウ、おはよ』
「あ、あぁ」
『…多分アレンだよ。』
「…なんで分かる」
何となく。
そう言って立ち上がった黒凪が手を差し出した。
その手を掴み立ち上がると顔を見合わせ扉を開く。
そうして道を進んで行くと図書館の様な場所でクロウリーが倒れていた。
ため息を吐いて神田がクロウリーの腕を掴み共に歩き始める。
『…階段長い…』
「…チッ、コイツ重てぇな」
『代わろうか?』
「…いい」
目を逸らして言った神田に笑みを向け長い階段を登り終える。
そうして次の扉を潜り抜けた頃、神田、黒凪、クロウリーの名を叫ぶラビの声がした。
姿を見せた3人を見ると大きく腕を開いてラビが走ってくる。
クロウリーを担いでいる神田を抱きしめるよりは手ごろな黒凪に向かう訳で、ラビは黒凪を思い切り抱きしめた。
「良かったさー!」
『…これがユウだったら…』
「うん!いつもの黒凪だな!」
≪あ、あの、今からそっちへ行きます!ノアが居ないか確認しないと…≫
空から響いたアレンの声に顔を上げる。
やがて突然現れた扉から姿を現したアレンに目を向け怪訝な顔をしつつ方舟の中を見回った。
黒凪はアレンと入れ替わりになる様にしてクロウリーを連れリナリーとクロスの居る部屋に足を踏み入れる。
「黒凪…!」
『あ、良いよ座ってて。…クロウリーを寝かせられるソファとか…』
「あぁ、だったら此処使え。」
クロスによって示されたソファにクロウリーを寝かせ上着をかけてやる。
上着を脱いだ黒凪を見たクロスが一言「ほう」と呟いた。
え?と振り返ったリナリーはボンッと顔を赤らめる。
「ちょ、黒凪!」
『何?』
「下着は!?」
『…。…イノセンスがあるし』
「Eだな」
ところがどっこいFなんですよねえ。
半笑いで言った黒凪に顎を撫でまたクロスが「ほう」と笑った。
現在の彼女の上半身はイノセンスである包帯で胸元が隠れているだけ。リナリーの言う通り下着はつけていない。
座っていたクロスが立ち上がり黒凪の肩を抱く。
側で吐き出された煙草の煙にチラリと目を向けた。
「アンタの顔は見た事が無いな…。誰の弟子だ?」
『貴方と仲が悪いティエドール元帥です。悪い噂はかねがね』
「はは、そりゃあ困ったな」
『私は今の状況に困ってますよ』
無表情で言う黒凪にニヤリと笑って彼の唇が耳に近付いた。
あんた中国人か?…にしては肌が白いな。
薄く笑みを浮かべたまま言うクロスにため息を吐きいい加減に身体を離せと言う様にイノセンスが動く。
しかしその瞬間に扉が思い切り開かれアレン、ラビ、チャオジー、神田が一斉に固まった。
『!』
「…え、黒凪…?」
「黒凪まで師匠の手に…!?」
「てか待って何その格好!?」
唖然と呟くアレンとラビには目を向けず共に入って来た神田に目を向ける。
笑顔を見せた黒凪に気付き振り返ったクロスは己を睨み付ける神田に少し目を見張った。
そんな神田の反応に驚いたのはクロスだけでは無い。
黒凪も酷く驚いた様に目を見開いていて。
そんな黒凪の反応にアレンとラビが驚いた様だった。
「…え?何この雰囲気」
「修羅場っすか…?」
「あれ?神田と黒凪って…」
『(…あ、本能的に怒ってる感じかな?)』
私、魂は"あの人"な訳だし…。
神田も何と言って良いのか分からないのだろう、言葉が出ない様子で只管クロスを睨んでいる。
クロスが神田をじっと見たまま肩を抱く力を強める。
ギロッと神田の目付きが一層悪くなった。
「…ほう。Fカップにしては中々華奢だな」
『へ?…あぁ、でしょ?』
「でしょ?じゃないさ!今すぐ離れ…」
神田が刀を鞘に納めたままクロスの首元に向けた。
流石に元帥に武器をそのまま向ける事は止めたのだろう、しかし神田の目付きはクロスを殺しかねない。
テメェ、と吐き出された低い低い声に笑ってクロスは素直に黒凪から離れた。
『……(あれ?本気で怒ってる…)』
「…」
刀を腰に指し直し目を逸らした神田をじっと見上げる。
そして視線を合わせようと少し移動するとそれに合わせて神田も動いた。
そんな事を繰り返し2人でくるくる回っているといつの間にかアレンがピアノを弾きだし、方舟の外へ道が繋がる。
そうして外に出るとアレン達の姿を見た皆が各々涙や笑みを浮かべた。
「皆無事さー!?」
「遅くなりましたー!」
「うぅ、消えた皆の時間が戻って来た…っ」
「神田と黒凪も無事か!」
マリの声を聞いたティエドールの目にぶわっと涙が溢れ出した。
眼鏡を外し涙を拭き取るティエドールに小さく笑いラビが駆け寄ったブックマンを見ると彼の目にも涙が浮かんでいる。
再び己の師匠に目を向けた黒凪にティエドールが涙ながらに上着を差出し彼女に羽織らせた。
そうして皆で方舟に戻ると次はアジア支部の教団に道を繋げ其方に入り込む。
「ウォーカー!無事だったか!」
「あ、バクさん。本部に帰る前に連絡を入れたいので電話機貸してください」
「貸してやる!貸してやるとも!」
バクの声を聞いた黒凪はピタリと足を止め神田を見上げる。
神田も気付いたらしい。…やはり声だけでも随分と似ている。
アジア支部からすぐに方舟に戻りアレンが本部に道を繋げるのを待つ事にした。
ティエドールは戻ってきた2人を見ると眉を下げて微笑む。
「大丈夫かい?」
「あ?」
『何がです?』
「…そうだったね」
うふふふ、と笑うティエドールを怪訝な目で見る。
すると本部に連絡を入れたらしいアレン達が方舟に戻ってきた。
そうして本部に道を繋げると入り口のすぐ前にコムイが立っている。
彼はアレン達を見ると大きく腕を広げて口を開いた。
「おかえり!」
消えた愛のことば
(それだけは)
(決して伝えられない。)
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