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江戸・方舟編
「…そろそろ隊と合流する。この町を抜ければすぐだ」
『……。んー…』
パシッとゴズとスーマンの腕を掴んで黒凪が足を止める。
彼女は顔を伏せて少し考え込むと徐にゴズの手を引いてスーマンに背を向けた。
おい、と掛けられた声に少し振り返って「トイレ。」と一言だけ伝えて歩き出す。
「え、あの…僕も一緒にですか…?」
『そ。一緒に行くの。』
「……。相変わらず何を考えているか分からない奴だ…」
仕方なさげに側の電柱に背を預けて2人を待つスーマン。
彼の視界に入らない路地に入った黒凪は徐にゴズを見上げた。
あ、あの…?どう考えても此処にはトイレは、
そこまで言ったゴズの口に一瞬で包帯が巻きついた。
『…悪いけど、君とは此処までだ。』
「むぐっ!?」
『ゴズ。君は今から教団に戻って私の知っているノアの情報をコムイに伝える。』
情報は私のイノセンスから聞けば良い。
教団へも無事に真っ直ぐ帰れるようにしてやるから。
そう黒凪が言う間にも包帯は口元だけでなく体中に移動して行った。
良いねゴズ。教団に戻るんだよ。
包帯に覆われて声が遠ざかっていく。
『絶対に私達の後を…ついて来ちゃ駄目だ…』
完全に覆われ、声が聞こえなくなった。
ぐっとイノセンスを引いた黒凪の手によって包帯に覆われていたゴズの容姿が元に戻る。
ゴズは魂が抜けた様にぼーっとした顔つきで突っ立っていた。
『…ティーテレス、さっきの命令通りにね。』
「…はい」
『スーマンや他のエクソシスト、ファインダーにも見つからない様に。…行け』
路地の壁をよじ登って屋根の上に立ち、そうして向こう側の道に降りていく。
そんなゴズの背中を見送った黒凪は側にイノセンスで人型を作り出した。
その人型はやがてゴズそっくりになり黒凪を静かに見下ろす。
『今からお前はゴズだ。私と一緒に彼の性格見てたでしょ。あんな感じで』
「わ、分かりました…」
おどおどしだしたイノセンスにぐっと親指を立ててスーマンの元へ戻っていく。
スーマンは戻ってきた2人を見るとゆっくりと電柱から背を離した。
そんなスーマンに向かって「ん。」と黒い包帯で覆われた右手を差し出す。
勿論、突然の事にスーマンは「は?」と眉を寄せるだけ。
『左手。出して。』
「…ったく、一体なんだ」
『握手だよ握手。頑張っていこー』
手を離して歩き出した黒凪の背中を見てため息を吐く。
そうして3人でソカロ部隊との合流をめざし再び歩き出した。
「…な、」
『……。』
カザーナ、チャーカー。
唖然としたスーマンの声が虚しく響く。
待ち合わせ場所の河川に辿り着いた時に響いた断末魔。
其方に向かえば合流する筈の2人のエクソシストが佇むノアの足元で川に沈んでいた。
「お前、一体何者だ…!」
「ん?…お、新手だ。」
『スーマン、ノアの一族だ。多分強いから用心して』
「…エクソシストっぽいし、殺っとくか」
ニヤリと笑って物凄い勢いでティキが2人に迫った。
走り出そうとしたスーマンの腕をガッと掴んで黒凪の包帯が赤く染まる。
その様子を見てティキが少し目を見開いた。
『クイーン・オブ・ハート』
「(やべっ…)」
すぐさま減速して飛び退くティキ。
突っ込んでこなかった彼に速攻が通用せず黒凪が片眉を上げた。
彼は手元にトランプを出現させると少しの間黙りやがて目元を覆う。
「あー…、やっぱり黒凪・カルマだよなぁ。」
『!』
「アンタはまだ殺すなって千年公が言ってんだ。…って事で、」
すっと姿を消したティキがスーマンの真後ろに移動した。
お前だけピンポイントで殺すわ。
ティキの言葉を聞いたゴズが徐に走り出す。
「す、スーマンさん!」
「っ!ば、」
「うおっとっと、」
ブンッと振り降ろされたゴズの拳を避け、ティキが彼の胸元に拳を叩き込む。
ティキはその手応えの無さに少し眉を寄せたが、スーマンの暴風が迫った為一旦回避した。
ゴズは倒れ川に沈んでいる。
『(…帰らせて良かった、)』
「くそ…っ」
『…スーマン、息止めてて。』
「!」
ばっと両手を目の前に広げる。
その手に巻かれた包帯は紫色をしていた。
スーマンにとっては見た事の無い色。
彼は眉を寄せつつ彼女の指示に従い息を止める。
「?…何それ。その色の情報はまだ…」
『紫の悲鳴(ヴェレーノ)』
はっと目を見開いたティキが口元を抑える。
その様子に笑った黒凪の背後に紫色の包帯で作られた女の人形が現れた。
人形の虚ろな瞳がティキを捉える。
悪感を感じたティキは思わず顔を歪めた。
「(キモッ…)」
『…スクリーム。』
かぽ、と開いた人形の口に開いていた手の平を閉じてスーマンに向かって行く。
そして黒凪の両手が息を止めているスーマンの耳を塞いだ途端。
耳をつんざくような悲鳴が物凄い音量で響き渡った。
咄嗟に耳を塞ぐが少し遅くティキの耳から血が流れ出す。
「っ、」
『スーマン、風。』
「あ、あぁ」
右腕のイノセンスを解放して風を巻き起こす。
ぐらりとする頭に眉を寄せているティキに風が直撃した。
それを腕でガードして耐えているとティキの鼻に微かな香りが漂ってくる。
何の匂いだ、そう思ったのも束の間。
「っ…!?」
『はい。爆音と毒のコンボ完成。』
毒の能力は対人用が主でさ。
ノアが来たらやろうと思ってたんだよね。
そうティキに語り掛けながら黒凪が徐に倒れている2人のエクソシストに目を向ける。
『(あの2人も出来れば助けるつもりだったのにな。…エクソシストが2人も減った)』
「…、」
ティキがゆっくりと立ち上がる。
その様子に気付いたのはスーマンが先で、
おい、と思わず黒凪を見た彼の目の前にティキが一瞬で移動した。
そこで「あ」と思わずまた口に出す。
「何やってんの。俺の狙いはお前だけだって」
「っ…!」
胸元、心臓の位置へ一直線に向かったティキの指先。
貫かれる。そんな言葉がスーマンの頭に浮かんだ。
しかし指先は彼の服の上で停止し貫けない事にティキが眉を寄せた。
「…あれ?」
次は首に向かった。
首も触れた場所で手が止まり切り裂く事が出来ない。
その様子にスーマンも何が起きているのか分からなかった。
チッと舌を打ってスーマンの首を掴み地面に叩きつける。
そしてティキはすぐさま黒凪を振り返った。
「…君さ、包帯何処にやったの?」
『ん?…さあねぇ』
彼女の手にも、首にも包帯が見当たらない。
特に助けようともしない黒凪の様子から今このスーマンを殺せない状況の原因は彼女にあるのだと理解する。
しかしタネが分からない以上どうしようもなかった。
こうなれば殺す事は諦め、イノセンスだけでも壊せるかどうか挑戦しておくか。
そうして右腕に伸ばされたティキの手に黒凪は小さく笑った。
「…お。」
「っ…!」
バチッとイノセンスが反応する。
どうやらイノセンスは触れる事が出来るらしい。そこまで考えてまたティキはチラリと黒凪を見た。
彼女は素知らぬ顔で目を逸らしている。
「…成程ね、」
「(イノセンスが…!)」
右腕が破壊されイノセンスが姿を見せる。
そのイノセンスをぐっと握りしめて灰にするとティキが黒凪を見て口を開いた。
「君ってさぁ、策士だよね。」
『…アンタの標的にスーマン・ダークっていないよね?』
チラリとトランプを見たティキが静かに黒凪に目を向ける。
だったらちゃんと自分の標的の所行きなよ。
緩く笑って言った黒凪にニヤリと笑って返し、ティキは徐にスーマンのコートのボタンを引きちぎった。
「スーマン・ダーク、カザーナ・リボ、チャーカー・ラボン…。と、デイシャ・バリー。」
『!』
「これだけ殺しても全員見事に俺の標的じゃないんだよね。」
エクソシストの数は少ないのにおかしいなぁ。
困った様に言って続ける。
…ま、殺すのは止めといてやるよ。
そいつはイノセンスを破壊したからもうエクソシストじゃないし。
ティキの言葉にスーマンが目を見開いた。
…君の狙いはそれかな?
笑って言ったティキに肩を竦める。
完全にティキの気配が消えた事を確認してゆっくりと黒凪がスーマンの目の前でしゃがみ込む。
破壊された右腕は肘辺りまでを残して無くなっていた。
スーマンはただぼーっとその腕の先を見ているだけで。
『…スーマン』
「!」
『これであんたは娘の所に帰れるんだよ』
スーマンの目が大きく見開かれる。
娘の病気の治療費の為に教団に来たんだろう?
ゆっくりと彼の顔が上げられた。
黒凪は微笑んでいる。
『右腕が無くたって会えるだけマシだ。…もう教団の事は忘れて娘の所に帰りな』
「っ、」
『あんたを縛るイノセンスは破壊された。これで自由なんだよ、スーマン』
ぼろぼろと涙が瞳から零れだす。
その表情を見て眉を下げた。
イノセンスを完全に破壊されなければ適合者の自由は帰ってこない。
ハートかどうかの可能性は怖かったがこれで良かった。
正直言って私は、世界の命運より目の前の人間の方が大切だから。
『(こんな悲しい末路を辿るぐらいなら、世界なんて滅びた方が良い)』
≪…黒凪、そっちは大丈夫か!?カザーナやチャーカーのゴーレムが破壊された!≫
返答してくれ、無事なのか。
切羽詰まった様子のリーバーに「無事だよ」と返すとあからさまに安心した様に息を吐く音が聞こえた。
しかし「ただ、」と言葉を続けると覚悟を決めた様に向こうの音が静まる。
『そのカザーナとチャーカーは死亡。スーマンは無事だけどイノセンスを破壊された。』
≪っ!≫
『…ごめん、スーマン本体は護れたけどイノセンスは駄目だった。』
≪そう、か。≫
今からスーマンを教団に帰らせる。
私は引き続きソカロ元帥を追うよ。
そんな黒凪の言葉に「お前は無事なのか?」と声が掛けられる。
『勿論無事。とりあえず私は今からソカロ元帥が居るインドまで…』
≪ああそれなんだが、元帥が自分の足で教団に帰って来ててな。≫
『…はい?』
≪ソカロ元帥は無事だ。元帥が持っていたイノセンスもな≫
あー…あの人凄く強いもんね。
眉を下げて言った黒凪は「じゃあ私はどうすれば良い?」と問いかける。
すると予想通り「江戸へ行ってくれ」と指示が入った。
『了解。…でも江戸なんてどうやって行けば』
≪何言ってんだ、あれ使えば速いだろ?≫
『…えー…』
≪リナリーみたいにやってやれ!≫
え、リナリーのパクリだって言われたあの能力使うの?
そんなコムイの声が通話に入り込んだ。
軽く掛けられた声だったがガヤガヤと煩いし、忙しいのだろう。
『…解ったよ。とりあえずどうにかして江戸には向かうから。…スーマンをよろしく』
≪あぁ。…気を付けてな≫
『ん。』
プツッと通話を切って座り込んでいるスーマンの前に再びしゃがみ込んだ。
スーマン、帰れる?
そんな彼女の言葉にゆっくりと頷いた彼は立ち上がった黒凪の手首を掴み取る。
振り返った黒凪に頭を下げた。
「ありがとう。…ずっと家族に、会いたかったんだ」
『…良いよ。大事な人の所に帰ってあげな』
するりと手を引き抜いて歩き出す。
…その背中をスーマンは見送るしかなかった。
3日程経っただろうか。
電車を乗り継いでやっと中国まで来た黒凪は目の前に広がる海にげんなりとした。
全く、3日でインドから韓国までの距離を移動出来たのだから良い時代になったとは思うが…。
海を渡って島国へ移動するのが最も面倒で時間が掛かる。
『(やっぱり此処はあのリナリーのパクリと詠われだあれ゙で行くしかないかな…)』
面倒だなぁ、でも船で行くとまた長いしなぁ。
それにそろそろ江戸でも戦いが始まってる頃だろうしなぁ。
…それに、
ぐるぐると様々な考えが頭を巡る。
『ユウにも、…会いたいし』
「ようねーちゃんどうしたんだ?」
「海見てぼーっとするなら酒飲もうぜ!」
ぽんっと頭に神田が浮かんだ。
そうなると会いたくてしょうがなくなる。
なあなあ、と酒瓶を片手に男が黒凪の肩に手を回した。
無表情に海を見ていた黒凪はその腕からするりと抜けると海と陸とを隔てる柵の上に登る。
「お、おいおい死ぬ気か!?」
「止めとけってねーちゃんこれから沢山楽しい事が…」
『イノセンス発動』
「「へ?」」
包帯が灰色に染まっていく。
そしてその包帯は首や手を離れ足に集結して行った。
足にがっちりと巻き付くと次は体へと移動していき、黒凪を包んで1つの核ミサイルの様な形態になる。
この移動方法はリナリーを見て編み出した方法だ。
生憎このイノセンスでは彼女の様に移動すると風圧で首がもげる。
『(ちょっとダサいし疲れるから嫌いだけど)』
「え、…これヤバくないか…」
「ミサイルみたいだもんな」
前は見えないが目的地さえはっきりしていれば必ず着く使用になっている為後は発射するだけ。
おじさん達、何処かに掴まってなよ。
そんな黒凪の声と同時にミサイルが一気に発射した。
その後、中国の海辺で爆発が起きたとニュースになりその損害賠償が教団に向かったのは…また別の話。
いざ江戸へ。
(…あ。そう言えば江戸だとは設定したけど)
(江戸の何処なんだろう。)
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