本編
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復活の葉
『…あ、ユウだ』
「起きたか」
目を開いて最初に見えた長い髪に小さく微笑んで黒凪は大きな欠伸を漏らした。
おはよう黒凪ちゃん、そんな声に細めた目を向ける。
黒凪と目を合わせると室長であるコムイがにっこりと笑った。
「流石は神田君。相変わらず誤差が無いね」
「るせえ」
『あー…この流れはあれでしょ、次の任務…』
「そうそう。寝ちゃった君を神田君が連れて来る偶にあるパターンだよね」
全く、眠っている団員を引き摺り出すほど人が足りてないのかよ…。
ボソッと毒づいて再び欠伸を漏らす。
すると背後で「あ。」と驚いた様な声が掛かった。
のそりと神田の背中の上で振り返ると目を見開いて此方を見ているアレンが居る。
「黒凪!?もう大丈夫なんですか!?」
「チッ、るせぇ…」
『大丈夫大丈夫。眠くて寝てただけ』
「ほ、本当に寝てただけ…?」
そう言ってんだろうが。
ギロッと睨みを効かせて言った神田にアレンも同様に目を向ける。
そんな2人を止める様にコムイが間に入るとアレンを見て笑顔を見せた。
「アレン君って寒いの苦手?暑いのは?」
「?…別にどちらも大丈夫ですけど…」
「そっか!それは良かった!」
『ね、私にその確認は?』
君は神田君が居れば良いでしょ?
笑顔で言ったコムイに「分かってるね」と目を細めて笑った。
その笑顔はやはりまだ本調子ではない様に見える。
「ある村で吹雪になったと思ったら突然熱風が吹き出すと言う異常気象が起きているんだ。」
「成程、その原因がイノセンスかもしれないと…」
「その通り。だから君達の任務はそのイノセンスの回収。良いね?」
「分かりました」
チッと眉を寄せた神田の眉間をつつく。
背に乗った状態でやっている為神田はその手を止める事が出来ない。
止めろと低い声で唸っている訳だが黒凪は何とも思っていない様子で眉間をつつき続けていた。
「よーっす。俺等も一緒に行くさ~」
『…エクソシストが総勢5名じゃん。私要らなくない?』
「要る要る!黒凪の包帯があれば寒くも無ければ暑くも無いってコムイが言ってたさ!」
『うーわ、私はエアコンかっての。』
だははは!言えてるさー!
予想以上に本気で笑うラビに神田と黒凪、この2人の眉間に深く皺が刻まれる。
その顔を見たラビはまたプッと吹き出した。
「顔を顰めるタイミングも一緒!?マジで仲良いさお前等!!」
『え、やった』
「喜ぶな。馬鹿野郎」
「(うわー…カオス…)」
爆笑しているラビ、それを傍観しているブックマン。
ちょっと喜んだ黒凪にキレかかっている神田。
今この状況がどんなものかと問われると正確に答えられる自信がない。
そんな状況下でアレンは肩身が狭い思いで縮こまっていた。
『いやー、凄い吹雪だねえユウ』
「……。それ寄越せ」
『えー…』
「うわっ!?…ほ、包帯が…」
列車に揺られる事数時間。
目的の地に着いた面々は吹き荒れる吹雪に一斉に嫌な顔をした。
黒凪はその寒さからか黒い包帯で普段は覆っていない口元と額まで覆っており、もはや見えるのは癖毛の黒髪と両目だけになっている。
『んじゃあ歩きながら貸したげるよ。行こ』
「チッ」
「え、行くんですか!?」
驚いた様に言ったアレンに2人共一言も返さない。
あれ、なんで返してくれないんだろう。
そこではっと気付く。
巻き戻しの町で共に任務をして距離が縮まったと思っていたが、それは勝手に思っていただけで。
いつも彼女は自分から僕に話しかけてくれた事はなかったな、と。
「(つまり全然仲良くなれてない…!)」
「ん?どうしたさ、アレン」
「あ、いえ…(うわー、勝手に仲良くなったつもりでいたな…)」
行かねーの?
そんなラビの言葉にはっと目を見開いて「行きます!」と駆けだした。
少し離れた所には黒凪に包帯を分けて貰っている神田が居る。
「さ、寒いさー…。……黒凪さーん…」
『…寒いの?』
うんうん、と頷くラビにため息を吐いて手を伸ばす。
手先からゆるゆると動き出した黒い包帯が伸びて来た様子を見るとラビが手袋を取って手を伸ばした。
ラビの指先に触れた包帯はするすると袖から中に入って行き、やがて震えていたラビが「おっ!」と目を見開く。
「すげー!めっちゃ暖かいさー!」
『ん。』
「え、」
『良ければどーぞ。死なれても困るしね』
ぺし、とアレンの頬を叩く包帯。
是非お願いします、と答えると包帯が首元から中に入って行った。
黒凪の目がブックマンにも向く。
それに気付いたブックマンが手を上げた。
『ったく…』
「…おい。」
ん?と神田の声に振り返る。
ブックマンに包帯を巻き終わった黒凪が神田の視線の先に目を向けると深いため息を吐いた。
前方に2人が倒れて雪に埋もれている。
近くに寄ると少女とその父親の様だった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「しっかりするさ!」
するすると包帯が2人の服の隙間から中に入り込み黒凪が目を細める。
倒れたのはついさっきみたいだ。
ボソッと言った黒凪にアレン達が目を向けた。
『体温は維持しとくから何処か近くの宿に連れてってあげな。私とユウは探索を続けるから』
「行くぞ。」
『はいはい』
歩き始めた2人を見送って1人ずつ持ち上げるアレンとラビ。
ブックマンもその後をついて行き5人は完全に二手に分かれた。
持ち上げた2人の体温が温かい事に気が付いたアレンがラビに目を向ける。
「あの、黒凪のイノセンスの能力って一体…」
「ん?」
「この黒い包帯と赤い包帯は見たんですが…いまいち分からなくて…」
あぁ、とラビが背に負ぶった少女を持ち直して口を開いた。
黒凪の包帯には色んな名前と力があるんさ。
色が変わる事に能力も変わる。
「黒い包帯はティーテレスって言って人形劇の意味を持つ名前さぁ。」
「え、って事は常時開放したままなんですか!?」
「そうじゃ。黒凪・カルマはイノセンスを解放していられる時間に関してはエクソシストの中でも群を抜いておる。」
「ティーテレスはアクマに対する戦闘能力は低いけど防御力は抜群。ついでに実用性も高いからすっげー便利なんさ。」
だから任務中はずっと解放してるぜ。
そう言ったラビに「へー…」と感心した様に目を見開いた。
「後は赤い包帯だっけ?」
「はい。たしかクイーン・オブ・ハートって…」
「そ。あれは速攻に特化したバージョン。早く方を付けたい時とか暗殺向き。」
「暗殺向き…」
勿論他にも色々バージョンはあるさぁ。派手な攻撃とか黒以上の防御壁を作れる色とか…。
笑ったラビに「やっぱりそうなんですか」と目を向ける。
でもなー、アイツ嫌いだからなぁ…。
そう言ったラビに首を傾けた。
「黒と赤までならギリギリダサくねーだろ?でも黄色とか緑とかなるとダセーって本人も嫌がってんの。」
「あー…」
「あ、ちなみに派手な攻撃が出来るのは灰色の時さぁ。この色はまだ許容範囲。」
「灰色…」
気を付けた方が良いぜ?
え?と振り返る。
結構気付かねー内に黒いのがちょっと薄くなってたりするから。
色が変わってる事に気が付いたらすぐさま耳塞いだ方が身の為さぁ。
耳を塞ぐ?そう訊き返すと「ま、見てからのお楽しみだな」とにやにや笑って言った。
「(一体どんな派手な攻撃を…)」
気になるなぁ…と神田と黒凪が去って行った方向に目を向ける。
依然として吹雪が吹き荒れていた。
…ねえ、もう日が落ちて来たけど。
気だるげに言った黒凪に前を歩いていた神田が振り返った。
『周りの捜索はこの子達がするから一旦休もうよ。』
そう言う黒凪の背後には5体程の黒い包帯で出来た人型のイノセンスが立っていた。
チッと舌を打って周りを見渡す神田。
近くに丁度良い洞穴を見つけた神田はそちらに向かって歩き始めた。
その様子に小さく笑ってついて行く。
『…ユウ、アンタまだ゙あの人゙の事探してんの?』
「あ?」
『アレンが言ってた。』
また舌を打つ神田。
どうやら口走った自覚はあるらしい。
全くもう、と目の前で燃える炎に手を翳してため息を吐いた。
『懲りないねえ。』
「るせぇ。…テメェは思い出したのかよ」
『ん?』
「…こうなる前の事だ」
この体に移される前。
随分と薄れた記憶の先。
黒凪は小さく笑って言った。
『いーや?…全然。』
「…」
『ま、頑張りなよ。』
会えると良いね。
炎を眺めて言った黒凪に「あぁ」と呟く様に言った神田。
その言葉に眉を下げて彼の肩に頭を傾けた。
「…寝るのか」
『うん。』
おやすみ。
そう言って目を閉じた黒凪の顔を横目で覗き込む神田。
そして目の前の炎に目を移すと彼も徐に目を閉じた。
「きゃあ!?」
「なんだこれは!」
「え、」
「なんだ?」
やがて倒れていた親子2人も目を覚まし彼等を途中で見つけた小屋に置いて行ったアレンとラビ。
2人で少し山の奥に進んで捜索を始めてから随分と経った頃、復活の葉とやらを探しているあの親子の声が少し離れた所で聞こえた。
ついて来てたのか…と眉を下げたラビとアレンが其方に向かう。
「この!娘に何を…!」
「お、お父さん!」
持っていたスキー道具で目の前に立っている黒い包帯で出来た人形を殴りつける。
ぶわ、と一瞬形が崩れた人形だったがすぐに元に戻った。
その様子を見たラビは目を見開いて其方に駆け寄る。
「ちょ、ちょっと待った!」
「っ!?」
「あ、貴方は…」
≪…ラ…ビ…≫
掠れた機械音の様な声が人形から発せられた。
え、ラビの事を知ってる?と目を見開くアレン。
振り返ったラビは人形を見て小さく笑った。
「これは黒凪の能力さ。イノセンスに辺りを捜索させてたんだな、きっと」
「…本当だ、黒い包帯で出来てる…」
≪人間…居た……返そうとした…だけ…≫
突っ立ったままそう言った人形は控えめに言っても不気味だ。
ぶわ、と熱風が吹いたと思えば吹雪が吹き荒れる。
吹雪に顔を上げたアレンとラビは立っている親子2人を見るとため息を吐いた。
もう日が落ちて大分経つ。そろそろ休憩しなければならない。
「ほっとくわけにもいかねーしな…」
「とりあえず落ち着ける場所を、」
≪……≫
しゅるしゅると人形から包帯が溢れ出し4人の身体に巻き付いて持ち上げる。
そして徐に歩き出す人形。
4人は包帯の温かさに目を見開いた。
「あ、あの岩場良いじゃん!」
≪さっき…見つけ…た…≫
4人を地面に降ろしてせっせと火を起こす準備をする人形。
その様子を見ていたラビは笑顔でアレンに言った。
「な?実用性あるだろ?」
「は、はい…」
≪…ガガ、…ラビ?≫
「お、黒凪だ。黒凪、今何処さー?」
今はまた吹雪いて来たから岩場に居る。
もう夜だからそこで眠ろうと思ってるんだけど…。
俺等もそんな感じさぁ。んじゃあまだ捜索は続行って事だな。
そう言ったラビに「そだね」と返して通信が切れる。
人形は徐に立ち上がった。
「あ、何処かに行くんですか?」
≪…イノセンス…捜索……任された…≫
「もうちょっと俺等と一緒に居てくんね?その方が連絡も付くし。」
≪……≫
すとんと座る人形。
その様子を見たアレンは隣に座る少女に向かって口を開いた。
「…確か復活の葉とやらを探しているんでしたっけ。」
「はい。火事で亡くなった弟を蘇らせたくて…。」
「おい、そんな奴等に話すな。」
「それはないさぁ。…こっから先も俺達について来る気だろ?」
俺等は危険な相手と戦ってんだ。出来れば今すぐ返したいぐらいなんだぜ?
そう言ったラビに父親がチッと舌を打った。
…一方アレン達と通信していた黒凪は徐に目を開きくあ、と欠伸を漏らす。
ごそ、と動いた黒凪に神田も目を開いた。
『人形の内の1体がラビ達と会ったみたい。』
「そうか。」
『…!』
突然目を見開いた黒凪が外に目を向けて小さく舌を打った。
アクマが居るみたいだ。
そう言った黒凪に六幻を持ち上げる神田。
それを制した黒凪は目を閉じて先程倒された人形の位置を探る。
『…近いって言えば近い。でも場所的にはラビ達の方が近いね』
「……。」
まあラビ達も動き始めるって言えば日が昇ってからだろうし、それまでは私がイノセンスで護っとく。
目を細めた黒凪に息を吐いて目を閉じる神田。
そんな神田を見て小さく笑った黒凪はラビ達の側に居る人形に命令を飛ばした。
「ん、…夜が明けましたね…」
「そうみたいだな…。…え゙」
「え?…わ、」
日の光に目を開いた2人が見たものは随分と形が崩れた人形。
ばっと周りを見渡せば寒さをしのぐように張り巡らされた黒い包帯。
それを回収する様に人形が人型を取り戻している最中だった。
「…どうやら一晩中護ってくれてたみたいですね…」
「あれ、朝…?」
「あ、おはようございます。…僕等はもうそろそろ出発したいんですが、お父さんを起こせますか?」
「…良いんですか?ついて行って…」
貴方達を放っておく方が危険ですから。
少し困った様に笑って言ったアレンに「ありがとうございます」と頭を下げて隣の父親を起こす少女。
やがて4人で再び山の奥へ進み始めた。
「あ、あのー…」
「え?」
「ん?」
足を止めたアレンにラビも止まり、親子2人も足を止めた。
生い茂った木の中から顔を覗かせた女性。
その背後には男も2人居た。
「道に迷ってしまって…宜しければ少し案内してくださいませんか…?」
「町に出られりゃそれで良いんだ!頼む!」
「このままでは遭難してしまいます…、」
困った様に話す3人にアレンが目を細める。
キュイイ、と左目がアクマの出現を知らせた。
その事にラビがイノセンスに手を伸ばしアレンが眉を寄せる。
「貴方達はアクマですね」
「やっぱイノセンスがあるみてーだな、アレン!」
「チッ、」
【バレちゃあしょうがない…】
人の皮を突き破って姿を現したアクマに親子が目を見開いて尻餅を着く。
その前に人形が立ちそれを見たアレンとラビがイノセンスを解放した。
2人を護っていてください!
アレンの言葉に頷いて2人を抱えた人形は走り出した。
【逃がさないよ!】
「そうはさせません!」
【ケケケ、お前の相手は俺様だァ!】
「アレン!」
女のアクマが人形に攻撃を仕掛け、それを阻止しようとしたアレンが他の1体に攻撃された。
それを見たラビが助けに入ろうとするが、そのラビを吹き飛ばしたのはまた別のアクマ。
偵察能力しかない人形は親子を庇って消え去ってしまった。
「きゃああ!」
「っ…!」
「くそ、このままじゃ2人が…!」
「ぐ、んの…!」
ラビを見れば彼はイノセンスをアクマに捕まれ身動きが取れなくなっている。
其方に目を向けた瞬間、背後に迫ったアクマに吹雪をぶつけられアレンも身動きが取れなくなってしまった。
親子に迫るアクマ。アレンがその様子にギリ、と歯を食いしばった瞬間。
「災厄招来…界蟲゙一幻゙!」
『ティーテレス』
神田の一撃がアクマ達に直撃し、アクマ達が怯んだ瞬間に残っていた人形3体がそれぞれの背後に立った。
人形がアクマに抱き着く形で拘束しそれぞれの包帯が黒凪の手元に集結する。
ぐっと包帯を握った黒凪は「んー…」と微妙そうな顔をすると一気に手元に引き込んだ。
【ぐ…っ】
【て、撤退するぞ!】
【っ…!】
逃げて行ったアクマに「あー…」と黒凪がため息を吐いた。
すると背後に居たラビが「サンキュー2人共!」と笑顔で言い神田がフン、と背を向ける。
そんな神田に小さく笑ってラビがアレンの元へ向かった。
「アレン、…アレン大丈夫か?」
『やっぱ色んな所に力を分散させてると力が弱まるな…』
「ブツブツ言ってんな。それよりモヤシはどうなってる」
『え?』
吹雪に当てられて倒れたままのアレン。
彼に近付いた黒凪は団服の首元を少し引っ張り包帯を探す。
黒い包帯を見つけた黒凪はゆっくりと引き抜いた。
『あー…こりゃ駄目だ。アクマの攻撃にやられてボロボロになってる』
「うわ、ひでーなこれ…」
『これだけの攻撃を受けたんなら気を失うのも無理ないね。』
「…とりあえず俺が担ぐさ。小屋とか探そーぜ」
チッと舌を打って歩き出す神田。
彼に続いて山を捜索していると運良く小屋を見つけ中に入り込んだ。
目を覚ましたアレンに毛布をかぶせ小屋の暖炉に火を炊く。
椅子に座っていた神田は衰弱した様子のアレンにまた舌を打った。
「チッ、情けねぇ…」
「…すみません。」
ずび、と鼻水を啜るアレン。
チッと舌を打った神田はチラリと外の様子を見た。
窓の側にはアレンの様子を見ている少女の父親と黒凪が立っている。
『それにしてもアクマを殲滅出来なかったのは辛いね』
「確かにな…。イノセンスを先に見つけられたらヤバいさぁ」
「…ったく。イノセンスを探しに行くぞ」
『えー…この吹雪の中を…?』
当たり前だ。殲滅しきれなかったお前にも非はある。
睨んで言った神田にむっと黒凪が眉を寄せた。
それを見た神田も微かに眉を寄せる。
『気にしてる事を言わないでくれる?』
「…。チッ、悪かったな」
『ふん。』
神田から目を逸らし準備をする黒凪。
それを見たラビも立ち上がり「それじゃあ俺も行くさ」と笑った。
徐に荷物に手を伸ばす父親。
神田がそれを見て眉を寄せた。
「ついて来る気か?」
「…俺の事は放っておけ」
「駄目よ!父さんが行くなら私も…!」
「娘の事はどうする。こいつもお前のくだらん意地の巻添えか?」
神田の言葉に父親がぐっと眉を寄せた。
ここならアレンも残るし安全さ。夜が明けるまでは待ってな。
眉を寄せて父親が椅子に座ると3人で顔を見合わせて外に出て行く。
吹き荒れる吹雪の中を進み始めた。
「っ、そんな…!」
「?…どうかしたんですか、」
「父さんが居ないの!」
「ええっ!?」
小屋で眠っていたアレンが飛び起きて中を見渡した。
確かに父親の姿が無い。
急いで扉を開いて外に出ると足元に山の方へ向かう足跡が残っている。
後を追う為に一旦小屋へ戻りコートを羽織るアレン。
そんなアレンに少女が口を開いた。
「私も行きます!」
「でも、」
「行かせてください、…父さんを放って1人で待つなんて出来ない…!」
「……、分かりました。行きましょう」
アレンの言葉に少女が安心した様に笑顔を見せた。
そうして2人で小屋を出て父親の足跡を頼りに進んで行く。
一方、その足跡の先に居る神田達はイノセンスがあると思われる洞穴の前にまで迫っていた。
しかし洞穴から吹き荒れる猛吹雪に近付けずにいる。
「っ、此処か…!」
『洞穴から吹雪の時点で大分不思議だからね…っ』
「…っ、ちょっとぐらいならこの吹雪、止められる筈さ…!」
ラビがイノセンスを取り出し2人に目を向ける。
神田と黒凪は少し移動してラビから離れた。
ぐん、と巨大化したラビのイノセンスの周りに複数の円盤が浮かび上がる。
その内の1つをイノセンスで地面に叩きつけた。
「木判!」
「(自然物に影響を及ぼす、)」
『(ラビのイノセンス特有の特殊技…)』
「天地盤回。」
すっと空をラビが指さした瞬間、吹き荒れていた吹雪が一瞬で止まった。
さて、中に入るさー。
にっこりと笑って言ったラビに何も言わず洞穴に入って行く。
その背後ではその様子を見ていた父親が洞穴に入って行く3人の後をついて行った。
「!…奥が光ってる」
「行くぞ」
洞穴の奥に辿り着くとそこには1本の木が立っている。
その木の葉は青々と生い茂りその真上には空が見えていた。
明らかに異様な木の姿に目を細めた神田が近付くが、途端に熱風が吹き彼を吹き飛ばす。
それを黒凪がどうにか受け止めた。
『~っ』
「2人共大丈夫さ!?」
「くそ、近付けば熱風が行く手を阻みやがる」
…やっぱりあったんだ。
信じられない物を目の当たりにした様な声が響き3人が振り返る。
そこには小屋に居る筈の父親が立っており3人で眉を寄せた。
しかし父親はそんな3人に目もくれず木に向かって走って行く。
「これで…これであの子を蘇らせる事が…!」
「よせ!危険さ!」
ぶわ、と熱風が吹いて父親を吹き飛ばした。
手を伸ばした黒凪は彼を包帯で受け止めて威嚇する様に熱風を吹かせる木を睨む。
立ち上がった神田が六幻を構えた。
「力尽くでやるしかないらしい…」
『同感。』
神田がイノセンスを解放し黒凪の包帯が赤く染まる。
吹き始める熱風を刀で受け止めた神田の背後に黒凪がすぐさま回った。
熱風の中に鋭い雹が紛れ、それを見た神田が刀で力任せに斬り伏せる。
一瞬止んだ熱風にそのタイミングを見計らって黒凪が走り出した。
『――その首頂いた。』
一瞬で鋭い刃が木を切り裂き真っ二つに。
倒れた木の葉が一瞬で枯れ果て、その木の中心部分で輝くイノセンスに手を伸ばした。
しゅるしゅると包帯が黒く染まり黒凪の元へ戻って来る。
「…イノセンスは回収した。戻るぞ」
「ま、待て!それを寄越せ…!あの子を、息子を蘇らせるんだ!」
「イノセンスにそんな力は無い。諦めるんだな」
「だが…!」
ホントにこのイノセンスに力は無いんさ。
神田の前に立ったラビが言った。
多分このイノセンスは偶然この木に宿ってその葉を輝かせた。
それを見た誰かが復活の葉だって噂を広めたもんで、色んな奴がその葉を取りに来たんだと思う。
「そんな事をずっと許してたらこの木が枯れちまうだろ?…だからイノセンスは木を護る為に吹雪や熱風を吹かせたんさ。」
「っ、」
「これで気が済んだか?…これは復活の葉じゃない。イノセンスなんさ」
「…。外に出るぞ」
神田の言葉に従って外に出る。
外には晴れ渡った空が広がっていた。
いやー、やっと晴れたさ!
快晴の空を見上げるラビだったが、ガサッと微かな音を聞くと目を見開いてイノセンスに手を伸ばす。
神田も六幻を掴んだ。
「来るぞ」
「おう!」
雪が盛り上がりアクマが姿を現した。
すぐさまイノセンスを発動し構えるラビと神田。
黒凪もため息を吐くと包帯が巻かれた拳を握りしめる。
【イノセンスを渡して貰おうか!】
「渡すかよ!…大槌小槌、」
「災厄招来、」
【っ!】
ラビと神田がすぐさま2体のアクマを吹き飛ばし残った女のアクマがチッと舌を打つ。
2人の一撃を食らっても破壊されていないアクマの頑丈さを見た黒凪は刀を構える神田に向かって口を開いた。
『ユウ!一気に方を付ける!』
「…解った。馬鹿ウサギ!」
「へ?…うっそ」
『……。』
黒凪の灰色に染まった包帯が彼女の真上に集結していく。
その様子を見たラビはさーっと顔を青ざめるとイノセンスを構え直しアクマの攻撃を防いだ。
それを見た女のアクマはチッと舌を打つと倒れている他の2体を見て口元を吊り上げる。
【良い事を思い付いた…!】
【っ!?お、おいお前何を…】
【止めろ!おい!】
吹雪が吹き荒れ、やがて倒れていた2匹が姿を消した。
そして残った女のアクマに目を向けると彼女の身体に先程の2体の能力が備わったかのような姿になっている。
成程、合体しやがったか。
神田の言葉に黒凪が小さく笑う。
『上等。』
「あーらら、的を絞る様な事しちゃって。ユウ、やるさ…」
「あれを寄越せ!」
「な、」
振り返ったラビは父親に取り押さえられている神田に目をひん剥いた。
ユウ!?と驚いた様に言うラビに黒凪も神田に目を向ける。
アクマもその様子に気が付いたらしくその隙をついて冷気を漂わせラビと神田の足を氷漬けにさせた。
「チッ、離せ…!」
「あれがあれば…あれがあれば息子が生き返る!」
「こんな時にふざけた事言ってんじゃ、」
【アハハハ!全員死になさい!】
ドドドド、とアクマから銃弾が撃ち出される。
舌を打って黒凪が目を細めた時「ラビ!神田!」とアレンの声が聞こえた。
その事にすぐさま踏み止まった黒凪はアクマと向き直っているアレンに目を向ける。
「良かった、間に合って…!」
【チッ、次から次へと!】
『…!』
アクマに応戦するアレンを見ていた黒凪が真上を見上げる。
灰色の包帯で作り上げられた大砲の銃口に光が集まっていた。
その様子を見たラビはすぐさま両耳を塞ぎ「アレン!」と声を上げる。
え!?と振り返ったアレンは「え゙!?」と目をひん剥いた。
「灰色さ!耳塞げー!」
「っ!」
【はァ?】
『灰ノ砲撃(ティラ・ラルク)』
ドンッ!と吐き出された巨大なミサイル。
その衝撃に黒凪も耳を塞ぎ少し後ずさる。
それ程の威力で吐き出されたミサイルに目を見開いたアクマはすぐさま回避する為に飛び上がった。
しかしミサイルは方向を変えアクマを逃がさない。
【な…!】
「アイツの砲撃から逃げられると思うなよ…」
「何処までも追い詰める。それが黒凪の砲撃の醍醐味さ!」
『消飛べ…!』
アクマに直撃して周りの雪を吹き飛ばす程の衝撃波が起きた。
そんな衝撃波に吹き飛ばされて転がるアレン達。
やがて衝撃が収まり顔を上げると辺り一帯の雪は何処かに吹き飛んでいた。
「あ、相変わらずなんつー威力…」
「こんなの撃つべきじゃないです、人が居る所で絶対撃ったら駄目なやつです…!」
『だからこんな山奥で撃ったんだよ。』
「人!俺等人だから!」
自分を指差して言ったラビにアレンが激しく同意する様に頷いた。
そんな中、ゆらゆらと神田に近付いた父親が「あれをくれ、」と言う。
まだ言うか。とげんなりした様に言った神田に父親が地面に膝を着いた。
「頼む、息子を…あの子を蘇らせたいんだ…!」
「父さん…」
「あ、…大丈夫でしたか?」
現れた少女にアレンが問うと小さく頷いた。
父親は神田に縋り付く様に手を伸ばす。
その手を阻む様にアレンが前に出てしゃがみ込んだ。
「いい加減にしてください。…貴方は今、死んだ息子さんの事しか見えてない」
「っ、」
「貴方が救うべきは彼女です。これじゃあ生きている筈の娘さんがまるで死んでいる様じゃないですか」
「!」
父親が目を見開いて地面に手を着いた。
そんな父親に駆け寄った少女が言う。
私は良いの、と。
その言葉を聞いた父親の目に涙が浮かんだ。
「ぐ、…くそ…っ」
「…。俺はイノセンスを持って先に教団に帰る。」
「え、一緒に帰らねーんさ?」
「これは遠足じゃねえんだぞ」
黒凪は?と問うラビに振り返る。
此方を睨む様に見る神田に気付いた黒凪は小走りに近付いて隣に並んだ。
やっぱ仲良いさ、と笑ったラビは親子を見ているアレンに目を向ける。
「それじゃあ俺等も帰るか、アレン」
「あ、…はい」
「…我々も帰ろう」
「!…父さん、」
今まですまなかった。
涙を流して言った父親に少女が「うん」と頷いた。
その様子を振り返って見ていた黒凪はぼそりと言う。
『生きてる筈の、私が』
「あ?」
『え?…あー…なんか言ってた?』
「あぁ。聞き取れなかったが」
そ。じゃあ別にどうでも良い内容だと思うよ。
そう言うと「そうか」とだけ言って歩いて行く。
…ねえユウ。
『(私は死んだまんまだよ)』
いい加減に生き返らせてほしいかな。
…なんて。
囚われた人。
(あいたたた、さっきの一撃で腰痛めた…)
(…チッ)
(あ、おぶってくれんの?)
(乗るなら早くしろ)
.