本編
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巻き戻しの街
『へー…。』
「…へーじゃないわよ…」
黒凪が握る紙に描かれた奇妙な絵。
…アレン曰く似顔絵。
その絵を見た黒凪はぽいとその紙を放り投げた。
別れて捜索する事1時間。
集合場所に決めていた喫茶店の中でリナリーが徐に口を開いた。
「それで?本当に破壊したアクマはその女の人に゙イノセンズって言ったのね?」
「はい。…リナリーと黒凪の方は何か収穫ありましたか?」
「私は一度街を出てみようとしたんだけれど、やっぱり中に戻っちゃたの。それにこの街の時間は確かに止まってる」
『…私は別に何も。』
そうですか…と呟いたアレンがピタッと動きを止めた。
…あれ?と呟くアレン。
目を細めた黒凪は右手から包帯をゆるゆると伸ばし始めた。
「…あー!あの人!あの人です!!」
「き、」
きゃああ、と悲鳴を上げかけた女性の口に黒い包帯が一瞬で巻きついた。
そしてすぐさま体を拘束した包帯にアレンが目を見開く。
捕まえた。そう呟いた黒凪にリナリーが困った様に息を吐いた。
「ちょっと黒凪、手荒にやり過ぎよ」
『アレンの前から逃げたんでしょ?絶対逃げるじゃん』
「んー!んー!」
体を拘束され芋虫の様に動く女性に慌ててアレンとリナリーが駆け寄った。
黒凪は知らぬ顔をして珈琲を飲んでいる。
どうにか口元の包帯を解いたリナリーは「落ち着いて、ね?」と女性に笑みを見せた。
「ほら黒凪、包帯を解いて」
『ん。』
「!…お、驚いたわ…」
「どうぞこちらへ。…お話、聞かせてくれますよね?」
笑顔で言ったアレンに頷いた女性が黒凪とリナリーの向かい側、アレンの隣に座った。
ミランダ・ロットーと名乗った女性は随分とやつれた様子で話し始める。
彼女ははっきりとこの街に異常がある事を覚えている様子で、助けてと懇願する彼女は随分と参っているようだった。
「とりあえず原因を探りましょう。…1番最初にこの街の異常を感じた時、何か変わった事はありませんでしたか?」
「気付いたら同じ日を繰り返していたから…私には何も、」
キュイイイ、とアレンの左目が変化した。
その目を見た黒凪は微かに目を見開く。
わ、生で見ちゃった。すごい。
声に出さずそう呟いた黒凪は何も言わず右腕を持ち上げ喫茶店に居る他の客全員に包帯を伸ばした。
驚いた様に目を見開いた店主とは打って変わりカウンターに座っていた男4人は別段驚いた様子も無く包帯を避ける。
『…あの4人?』
「そうです。」
目を細めた黒凪はぐっと両手に巻かれた包帯を握りしめた。
イノセンス発動。
その声にチラリとアレンの目が彼女に向かう。
包帯が一瞬で赤く染まり黒凪の周りを刃の様な形状になって蠢いた。
『゙赤ノ女王(クイーン・オブ・ハート)゙』
「…クイーン・オブ・ハート…?」
『気を付けな、』
【あ?】
ぼーっとしてると首が落ちる。
黒凪の瞳がアクマに向いた瞬間。
音も無く2つに割れたアクマが店の床に崩れ落ちた。
「え、…え!?」
『クイーン・オブ・ハートは速攻に特化してんの。…速いでしょ』
ハートの女王はすぐに首を狩れって煩いからねぇ。
薄く笑った黒凪は包帯が巻かれた右手をアレンの顔の前でゆっくりと開いた。
先程の攻撃を見ていたアレンは思わず身構える。
『…別に取って食ったりしないよ。』
「え゙。」
しゅる、とアレンの身体に巻き付く包帯。
色はいつの間にか見慣れた黒になっている。
さっさとリナリーの所に行こうか。
また笑った黒凪に反してアレンの顔は引き攣った。
「じゃあミランダ、私はアレン君と黒凪の所に…」
『リナリー』
「へ?…ええ!?黒凪!?アレン君も!」
ミランダの部屋の窓の外に着地した黒凪の背後には項垂れたアレンが居る。
リナリーが窓を開くと最初にアレンがぽいと放り込まれた。
続いて黒凪が中に入るとリナリーの団服から1本の短い包帯が現れる。
『場所が分かる様に忍ばせといたの。…気付かなかった?』
「え、えぇ…」
「キャー!!化け物、化け物は大丈夫なの!?」
目をひん剥いて駆け寄ってきたミランダ。
黒凪はすぐさま立ち上がったアレンの背後に隠れた。
ミランダの手はアレンの肩へ。
がっと肩を掴まれたアレンは「落ち着いて…」と眉を下げた。
「さ、ささささっきの化け物は一体…」
「あれはイノセンスを狙うアクマ。…貴方は恐らくこの街の時間を止めているイノセンスに何らかの関わりがある」
「イノ、センス…?」
「はい。イノセンスは神の結晶と呼ばれる不思議な物質で、不可解な現象を引き起こすんです。」
じゃあ、そのイノセンスの所為でこの街は…。
そう言ったミランダにアレンとリナリーが頷いた。
部屋の中を見ていた黒凪の目が部屋に置かれた大きな時計で止まる。
『…時間を操ってるって事はさ』
「あ、あの…?」
『この時計じゃない?』
「キャー!何もしないでえええ!」
時計に手を伸ばした黒凪を突き飛ばしたミランダ。
倒れ掛かった黒凪を彼女のイノセンスである包帯が支えた。
じと、と黒凪の目がミランダに向けられる。
ミランダは時計に張り付く様にして立った。
「こ、この時計は大事なものなの…!」
「大切な…」
「もの…」
それじゃないのか…。
そんな視線がリナリーとアレンからも向けられ一層時計を抱きしめる。
すると真夜中の11時59分を指していた針がゆっくりと12時に向かった。
カチッと音が鳴りゴーンと音が響く。
『…あ。1日終わった』
「え!?」
「もうそんな時間…」
時計からミランダに目を向けると彼女は無表情でベッドに向かい布団の下に潜り込んだ。
明らかに可笑しいその様子に困惑していると時計の針が逆向きに回り始める。
するとミランダの部屋の外から次々と時間が時計に流れ込んでいく。
その勢いに呑まれかけたリナリーの手をアレンが咄嗟に掴み黒凪は家具に包帯を巻き付けその様子を見ていた。
「今日の時間を吸ってる…!」
「やっぱりこの時計がイノセンスなの…?」
全ての時間を吸い込み時計の針は7時を示した。
またゴーンと音が響き外が明るくなる。
太陽が昇った空に目を見開いたアレンは窓に駆け寄り外の景色を覗き込んだ。
チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえベッドに潜り込んでいたミランダが起き上がる。
「あら…?私ったらいつの間に…キャー!!」
「ミランダ!?」
「貴方何やってるのおおお!!」
『動かそうと思って。』
黒凪のイノセンスがミランダの時計をグルグル巻きにしている。
その状態に目をひん剥いたミランダが黒凪に掴み掛った。
今すぐ解いて!お願い!!
必死の形相でそう言ってきたミランダに眉を寄せるとアレンが黒凪の肩を掴む。
「解いてあげてください。…移動させた所で解決するわけでもないでしょうし」
『…。成せば成る。』
「成りません。」
渋々包帯を離しミランダのベッドに座った。
ガヤガヤと外に出る人々をミランダの部屋の窓から見下す。
ど、どうぞ…。
そんな震えた声で差し出された珈琲はミランダの手によってカタカタと震えていた。
『…。』
「ひっ!」
「黒凪。驚かさないの。」
ミランダが差し出した珈琲をイノセンスで受け取った黒凪は窓から外に出た。
そしてそのまま屋根に上る彼女にアレンの目がリナリーに向く。
リナリーは呆れた様に肩を竦めた。
「黒凪は基本的に神田と一緒の時以外はあんな感じで。」
「基本的にああなんですか…」
「ええ。…結構気まぐれで動くのよね」
「困った人ですね、神田と同じで」
呆れた様に言ったアレンにリナリーが困った様に笑う。
一方黒凪は屋根の上で珈琲を片手に町を見回していた。
キン、と頭を過った鈍い痛みに少し眉を寄せ振り返る。
『…1体消された』
そう呟いた黒凪は珈琲を飲むとカップを屋根に置いて走り出した。
包帯を器用に伸ばして建物に巻き付け移動していく。
「ふーん。これもイノセンスの能力なんだぁ?」
【ロード様、あまり無暗に手を出されては…】
「何?この僕に指図するのぉ?」
生意気だなぁ…。
そう呟いた少女。
その背後に黒凪が音も無く着地した。
「あ、来たぁ♪」
『…やっぱり…』
はー…と目を覆った黒凪に少女が小首を傾げた。
少女の手には先にかぼちゃの飾りが付いた傘、その側にはカフェで破壊したアクマの代わりに呼び寄せられたのだろう、3体のレベル2のアクマが居る。
そしてその少女の足元には黒い包帯が人型になって落ちていた。
『可哀相に。』
「ねぇ、これ何?」
黒く焦げた包帯を摘まんで問いかけた少女に黒凪が小さく笑った。
私のイノセンス。
その言葉と同時にその包帯が動きだし少女を拘束する。
『゙黒ノ人形劇(ティーテレス)゙』
「っ、」
『常時開放してる私のイノセンス。…無暗に触るもんじゃあないね』
くいと包帯を引いて爆発させる。
しかしこんなものでは殺す事は出来ていないだろう。
案の定、何ともなさそうな顔でロードが起き上がった。
『はー…やだやだ。これだからノアは…』
「あれぇ?僕等の事知ってんだぁ」
『知ってるよ』
もう一度包帯を引いて爆発させる。
するとずっと黙っていたレロがぷるぷると怒りに震えながら口を開いた。
「だー!何度爆発させても無駄レロ!」
『ふーん。』
復活しかけたロードにもう一度爆発を。
ムキー!と暴れるレロを握っているロードはゆっくりと起き上がった。
いい加減にしろ…!とアクマ達が襲ってくる。
其方に目を向けた黒凪だったがアクマを止めたのは以外にもロードだった。
「ダメダメ。殺しちゃダメ~」
『……。』
不可解な言葉に爆発の手を止めた。
徐々に元の姿に戻って行くロード。
彼女の大きな目が黒凪を映した。
「もうちょっとで面白い事をやってくれるんでしょぉ?」
『は?』
「千年公が言ってたよぉ。ボクはそれが楽しみなんだぁ♪」
だからぁ…。ピッと目の前にロードの人差し指が向けられる。
君は殺さない。殺させない。…誰にも。
ま、死なない身体だから心配してないけど♪
「お母さん、あれなぁに?」
「え?」
「やれ。」
ロードの声に応える様にアクマが其方に向かって行く。
黒凪の包帯がすぐさまアクマに向かった。
その瞬間に彼女の耳元でロードが微かな声で囁く。
「わー、やっさしい♪」
『!』
黒凪に振り返ったアクマ達が一斉に弾丸を放つ。
体中に巻かれたイノセンスで腹部への攻撃は防げたが咄嗟の事に頭部への防御が遅れた。
その所為で頭を撃たれ一瞬で意識を失い黒凪が倒れる。
再生しだす黒凪の頭をロードがレロで破壊した。
「んー…。すぐに再生するねぇ…」
黒凪の手に巻かれている包帯が色を無くして白く染まる。
その様子を見たロードは小さく笑って立ち上がった。
中々解けない様にどっかに括りつけといてぇ。
彼女の言葉に「はい」と頷くアクマ達。
ロードはレロを担いで歩き出した。
「さーて、次はイノセンスだなぁ…」
「ちょ、ロードタマ!?まだやるつもりレロ!?」
「あったりまえじゃん。折角来たんだしぃ」
そう言って笑ったロードがミランダの元へ向かって行く。
思い知れば良いよねぇ。
呟く様に言ったロードにレロが目を向けた。
「人間の汚さとか、…自分の弱さとかさぁ」
『っ、最悪…』
ゆっくりと顔を上げた黒凪が手元を見下した。
かなり複雑に絡まっている鎖。
これぐらいなら破壊するのは容易い。…しかし。
『もう夜だし…』
こんなに再生に時間が掛かったのは久々だ。
いや、むしろ初めてと言ってもそう相違ない。
どれだけ無茶苦茶にして…、…いや、
『(…私の寿命がもう短いだけかな)』
眉を下げて小さく笑う。
そして黒く染まった包帯を一気に膨張させ鎖を破壊した。
息を吐いて立ち上がりミランダの部屋に向かう。
するとドタタ、と焦った様子で外に出て来るミランダ。
彼女は黒凪を見ると物凄い勢いで掴みかかった。
「ド、ドクターを…!」
『え?』
「アレン君とリナリーちゃんが大変なの、起きないの…!」
『…。分かった、着いて来て』
ミランダと共に部屋に入るとぐったりとした様子で倒れているアレンとリナリー。
恐らくロードと戦ってやられた後、か。
どうにか足止めして軽くこの任務も済ませるつもりだったのに。
『…上手くいかないもんだね』
「え?」
『内緒にしてて』
少し振り返って言った黒凪に再び「え?」と訊き返すミランダ。
しかし彼女の包帯が白く染まり薄く光り出した光景に言葉を飲み込んだ。
『イノセンス発動。゙白ノ誓詞(フローラ)゙』
「っ…!」
白い包帯が2人を包み込み黒凪が倒れ込む。
それと同時に包帯が黒凪の元へ戻りアレンとリナリーが同時に目を開いた。
起き上がった2人にミランダの目に涙が浮かぶ。
2人は唖然と周りを見渡し倒れている黒凪を見下した。
「…黒凪…?」
「黒凪!?どうしたんですか!…ミランダさん!」
「え、ええ!?」
「一体何があったんです!?」
アレンが焦った様にミランダの肩を掴んだ。
しかしミランダにも状況は理解出来ていないのか首を横に振るばかり。
リナリーは焦った様にゴーレムに目を向け自分の兄を呼んだ。
巻き戻しの町の中では繋がらなかった筈のゴーレムが反応し少し遅れてコムイが出る。
≪やあリナリー!任務はどう…≫
「兄さん!神田は!?」
≪か、神田君?…神田君なら、≫
≪どうした≫
コムイの声を押し退ける様にして通話に出た神田。
その声を聞いた途端にリナリーがゴーレムをガッと掴んだ。
「気が付いたら黒凪が倒れてて…!目を覚まさないの!」
≪……。≫
「もしもし!?神田!?」
「黒凪は大丈夫なんですか!?傷だらけだった筈なのに治ってるし何が何だか…!」
アレンの言葉を聞いた神田は微かに目を見開きやっと納得が言った様に舌を打った。
その様子に「何か分かったの!?」とリナリーが焦った様子で問いかける。
落ち着け、と落ち着き払った神田の声が聞こえ2人は思わず口を閉ざした。
≪寝てるだけだ。そのまま連れて帰れ≫
「ね、寝てる?」
「どうして急に…?」
≪さあな≫
それを最後にブチッと通信が切られアレンとリナリーの目が黒凪に向いた。
確かに寝ていると言われれば眠っている様にも…。
助けを求める様にリナリーに目を向けると彼女も困惑した様子で口を開いた。
「とりあえず教団に帰りましょう。…神田が言うなら大丈夫だろうから」
「…解りました」
「だ、大丈夫なの?本当に?」
「大丈夫よミランダ。…とにかく私達は教団に戻るから、…貴方は…」
…私はこのイノセンスの適合者、なのよね…?
涙でぐしゃぐしゃな顔で言った彼女に頷くリナリー。
時計を撫でたミランダはゆっくりと顔を上げた。
「…私も連れて行って」
「!」
「やっと役に立てそうな気がするの、」
「…解ったわ。一緒に行きましょう、…教団へ」
「なー、ミランダ引っ越すんだってさ」
「え?…追い出されるんじゃなくて?」
「なんか凄い所に行くんだってさ」
不思議気にそう話す子供達の前を通り馬車に乗り込んだ。
眠っている黒凪を隣に乗せたアレンはリナリーの隣に座っているミランダに笑顔を見せる。
出発しましょうか。アレンの言葉にミランダはしっかりと頷いた。
「…にしても…」
『………』
「よく眠ってるなぁ…」
「本当に…」
揺らしても叩いても落としても起きなかったわね…。
困った様に言ったリナリーに「ははは、」と乾いた笑みを返す。
確かに黒凪は何をやっても目を覚ます事は無かった。
一体いつまで眠り続けるのか、それはどうしてなのか、…それは結局分からず終いで。
「神田に聞けば何か分かるんでしょうか」
「…きっと教えてくれないわ。お互いに口が堅いから」
すやすやと眠り続ける黒凪に困った様に息を吐く。
本当に謎の多い2人だなぁと思う。
結局ミランダの部屋を出てから彼女の消息は少しの間掴めなかったわけだし、次に目覚めた時は肝心の本人は眠っていて。
…それに。
「(…団服に空いた弾丸の跡、そして首元の血の跡…。)」
一体彼女は何を。
どんなに考えても浮かぶのは憶測だけで。
そうなれば自分に出来る事は何もない。
彼女が目覚める事を待って、…そして。
黒と赤と白。
(チッ、…あの野郎…)
(ま、まあまあ…)
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