番外編
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2人の距離感
完結前のお話。
「我がスコット家の遺産を見たいだと!?貴様等何様のつもりだ!!」
「だ、旦那様…恐れながらこの者達はヴァチカン直属の軍事機関のエクソシストでございまして、」
「そんなもの知らん!何故我等の遺産を見せなければならんのだ!帰れ帰れ!」
「チッ」
あからさまに舌を打った神田にぴたりとスコット家当主であるロジャース・スコットの言葉が止まる。
そしてぎろりと向けられた目を神田が静かに睨み返した。
そんな神田をフォローする様に前に出たラビが精一杯の笑みを顔に浮かべてロジャースに近付いて行く。
「いやいや、そんな事を言わずに~」
「ふん、育ちの違いが目に見えるな!貴様等の様な愚民は即刻立ち去れ!汚らわしい!」
「あはは。そうは言っても放ってたらこの屋敷、その内AKUMAに木っ端微塵にされるさ。」
「何!?…ふん、そんな事あるものか。くだらぬ嘘を付くぐらいならもう少しマシな嘘を付くんだな。」
あちゃー、こりゃ駄目だ。
笑顔を浮かべたままでラビがそう考える。
彼のそんな背中を見ていた神田と黒凪も徐に顔を見合わせ、どうしたものかと目で会話をした。
そんな中で背後の扉が控えめに開かれ、ロジャースが其方に目を向ける。
「む、どうしたマリア。」
「いえ…父様の怒鳴り声が聞こえたものだから…。……え、」
マリアの言葉が不自然に途切れる。
うん?と黒凪と神田が振り返ると彼女の視線は真っ直ぐに神田を捕えていた。
その様子を見てラビが「お、これはユウを使ってお色気作戦とか出来ちゃったりして…?」と目を見張る。
今しがた交わった視線を見て、まあでもユウなら「何見てんだあ"ぁん?」的な視線を彼女に寄こしてしまうだろうし、うまくいかないかもしれないなあ…なんて考えていたラビは目の前に広がる光景に思わず思考が止まった。
マリアを見て神田が全くもって動かなくなったのだ。…そしてそれは黒凪も同じだった。
『(…似てる…)』
「……」
「(なんて素敵な殿方かしら…)」
そう、似ているのだ。マリアの顔が――…神田の探す"あの人"に。
違うのは髪色とその長さぐらいだろうか。
あの人は金髪で一つに括っている髪が印象的だが、マリアは長い茶髪を綺麗にセットし下していた。
「…貴方、お名前は?」
「!」
「(え、何?ユウもあのお嬢さんも一目惚れってヤツ?)」
何も答えない神田にだらだらと冷や汗を流してラビがゆっくりと黒凪へと目を向ける。
そして徐に目を見開いた。黒凪はマリアから目を逸らし、神田にも目を向けようとしなかったからだ。
固まっている神田に向ける様にロジャースがドンッと杖を床に叩きつけた。
「マリアの問いに応えぬか!エクソシスト!」
「エクソシスト…?」
「…神田、ユウ」
「カンダ?…あぁ、もしかして東洋の方?」
興味が湧いた、そんな顔をした様に思う。
マリアは笑顔を見せると神田に近付いて「顔を上げてよく見せて。」と言った。
その言葉に従う様にして神田が顔を上げる。
見つめ合う2人を黒凪は見ようとしない。
「…気に入ったわ。父様、彼を買って。」
「(は?)」
『(…あ?)』
何も言わない神田であったが、傍から聞いていたラビも黒凪も思わず眉を寄せる。
彼を"買って"、だと?
そんなに気に入ったのか?とロジャースが問い掛けると「ええ!」とマリアが屈託のない笑顔で答える。
おい待て。ユウはものじゃないんだぞ。
沸々と湧き起こる怒りに黒凪の殺気を帯びた目がマリアに向けられる。
それと同時に神田が黒凪の目元を覆う様にして手を出した。
「悪い。似てた所為でフリーズした。」
『…。だったら良いけど。』
「フリーズ?…ああ、貴方も私を気に入ったのかしら?良いわよ。貴方程の美貌を持っているなら――…」
「ふざけんな。願い下げだ。」
ぴしゃりと言い放って立ち上がり、神田が無表情に扉を開いて出て行く。
その背中を見て黒凪も後を追う様に速足に歩きだし、ラビも弾かれる様に小走りに後に続いた。
ずかずかと歩いて行く神田の隣に黒凪が並ぶ。
『…ねえ、似てたって誰に?』
「…あの人だ。」
『…ふーん。じゃああんな言い方したって事は違ってたって事?』
「あぁ。あんなじゃねえ。」
怒りを滲ませて歩く神田に思わず半歩下がってしまう。
彼の怒りが"あの人"の為のものだと思うとどうも面白くない。
…側でそんな神田を見て居なくない。そう思う。
「…黒凪?」
『……』
少し後ろからついて来ていたラビと並ぶ。
ラビは黒凪の顔を覗き込むと徐に神田を見て、それから黒凪に小声で問い掛けた。
元カノに似てるって?そんな風に聞いて来たラビに黒凪の目が向く。
あ、ヤベ。殴られる。そんな風に思ったラビだったが、一向に彼女の拳が向かってくる気配はない。
「…?」
『……うん、その通り。』
「…え゙、マジで?」
『うん』
あー…、地雷…。
そう思ってラビが顔を青ざめる。
そんな中でスコット家の遺産が眠る倉庫へ辿り着くと力任せに扉を蹴り開け、中に入った。
遺産の中にはひときわ目を引く櫛がある。それは宙に浮かび、月の光を帯びて薄く輝いていた。
「あったぞ。」
「…ほんとだな、イノセンスさ…」
『………』
気まずい。とにかく気まずい。
そんな風に考えながらラビがぎこちなくイノセンスへ近付いて行く。
するとやはり我々エクソシストにだけはイノセンスを奪われたくないのだろう、壁を突き破ってAKUMAが現れた。
すぐさま各々イノセンスを構えるが、耳に届いた短い悲鳴に3人同時に振り返る。
「…チッ…」
『(ユウを追いかけて来たのか…)』
不機嫌に舌を打つ神田、同じく不機嫌な顔を捕まったマリアに目を向ける。
動きかけた神田に「いや!俺が行くさ!」と素晴らしいまでの気遣いを見せたラビ。
しかしそれに気付かないのが神田で。
「良い。」
「あ゙ー!ユウー!(お前が行くと黒凪が!!)」
『良いよラビ。ありがと。』
「え゙(今礼言った…?)」
放っておこう。私達はこっち。
無表情且つ不機嫌全快で黒凪が言った。正直かなり恐ろしい。
神田が軽い身のこなしでAKUMAを斬り伏せ、マリアを片腕に抱いて着地する。
そして徐に残りのAKUMAと戦っている黒凪達の元へ向かおうとした。
しかしそんな神田の手首を掴んで静止したのは恐怖のあまりに腰を抜かせたマリアで。
「い、行かないで…っ」
「……」
涙をぼろぼろ流すマリアにちらりと目を向ける。
お願い、貴方私の事嫌いなの…?
こんな時に何を言っているんだか。…ああそうか、どうせこんな金持ちの元で育ってきたんだ。コイツは嫌われた事なんて無いんだろう。
そんな事を考えて「無駄な事をした」と足を踏み出そうとする。しかしぐん、と引っかかった腕に振り返って思った。
「(…解かねえとな)」
まだ腕を掴まれたままだった。解こう。
しかし不思議と腕を振り払えない自分が居る。…あの人に似ているからだろうか。
ちらりと黒凪達に目を向ければ自分が行かなくともどうにかなりそうな戦況だ。
相変わらず黒凪は人並み外れて強いし、第一俺達はウイルスに感染しても大丈夫な身。
「……。」
「此処に居て…、」
『(胸糞悪い)』
顔が似てるだけで振り払えないユウも、彼女に似てるあの女も。
…胸糞悪い。そう思ったと同時にラビの背後から音も無く近付くAKUMAが見えた。
ああ、助けてやらないと。彼はウイルスの抗体を持っていないから。
走り出す。どうしても視界に彼女がちらついた状態で。
「――!」
何だあいつ、なんであんな背中がら空きで馬鹿ウサギのトコに向かってんだ。
あんな状態だったら撃たれるだろ。
気付けばマリアの手を振り払っていた。気付けば走り出していて。
そして黒凪の腕を引いてAKUMAの弾丸を刀で弾き、ラビの背後に居たAKUMAは蹴り飛ばす。
驚いた様な黒凪の目を見返した。
「…んだよ。」
『……。』
目を見開いた黒凪とそんな黒凪を少しだけ照れた様に見下ろす神田にラビが目を向ける。
そしてAKUMAを倒すと笑顔を見せた黒凪にラビも笑顔をこぼし、呆然と座っているマリアの元へ。
マリアの前にしゃがむとラビはへら、と笑顔を向けて言った。
「あんたじゃ多分無理さぁ。」
「っ、」
ラビの言葉にマリアが顔を真っ赤にさせる。
彼女も2人の様子を見て全てを悟ったのだろう。
例え自分がどんな美貌を持っていようとも、彼の好みの容姿をしていようとも。
…きっと黒凪と同じ土俵に立つ事は、ない。
『あんた情緒不安定だから心配になるよ、ほんと。』
「…テメェが言えた口かよ。」
憎まれ口の中の愛
(互いに気に入らない事をしでかして一瞬でも溝が出来たって)
(きっと私達は一瞬でその溝を埋める事が出来る。)
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