本編
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土翁と空夜のアリア
『…なんかさぁ、煩かったんだけど』
「あ?」
『今朝。すぐに二度寝したけどさ。』
「…門番が勘違いして暴れやがったんだよ。入団希望者をアクマとな…」
ふぅん、そんなことあるんだ。と壁に背中を付けた黒凪。
彼女は随分背丈も伸び身長以上もはじめは在った髪が今では肩までだ。
勿論目の前の彼も成長している。
あの研究所から逃げ出して9年目だ。
色々とあったが今は普通のエクソシストとして二人共無事に暮らしている。
ちなみに部屋は隣だ。部屋と部屋の間に扉が付いている為殆ど相室の様なものだが。
『昼食べた?』
「食ってねぇ」
『んじゃあ行こうよ。何かお腹に入れたいわ』
「よく起きてすぐ食えるもんだな」
煩いと彼の腕を拳で軽く殴る。
彼は特に表情も変えず己の相棒である刀を持ち上げ黒凪を振り返った。
黒凪は自分を見下している神田を見上げるとにこっと笑い包帯でぐるぐる巻きの手を持ち上げる。
そして位置が些か高い彼の肩に手を置くと扉を開いた。
『行くぜ、食堂』
「…一々言わなくて良いだろ」
『今日はうどんだな。ユウは?』
「蕎麦」
その内死ぬぞと言う彼女の冗談にフンと返した神田は黒凪と共に歩いていく。
神田が気を使っている為だろうか。
それとも黒凪の歩く速度が速いからだろうか。
二人とも不思議と歩幅が乱れる事は無かった。
まるで双子の様に速度を乱す事無く歩く二人。
そんな二人は食堂に着くなりこれまた同時に今日の昼食をコックであるジェリーへと同時に目を向けた。
「蕎麦で」
『うどん1杯。』
「はいはーい!やっぱり仲良しね!」
目の前の彼が放った何気ない一言に頬を緩めた黒凪。
そんな彼女は神田の腕を肘で軽く子突き、振り返った神田に笑顔を見せた。
えへへと笑った黒凪に目を逸らして少し笑みを見せる神田。
やがて渡された昼食に再び二人して席につき手を合わせた。
「『いただきます』」
ちゅるん、とうどんを口へ。
ほんのりと香る白だし風のだしに、もちもちのうどん。
ああ、最高…。レニー、ありがとう。日本の味を再現してくれて。
と幸せ気分に浸っていると、
「う、うぅうう…っ」
「なんで、なんであんな若さで…!」
二人して箸が止まった。
背後をチラリと見れば涙を流している探索部隊が複数。
心なしか塩の味がしてきたような。
そこまで考えるとなんだかうどんを食べる事が億劫に感じた。
それは横の彼も同じらしくチッと舌を打つとボソッと、だが比較的大きな声でこう言った。
「余所でやれよ。鬱陶しい」
「!…んだと?テメェ今ぁ!」
「あ?鬱陶しいっつったんだ。飯食ってる後ろでメソメソしやがって」
「テメ…、仲間が死んだんだぞ!?」
その言葉に知った事かと目付きを鋭くする神田。
その様子に相手も怒りが込み上げて来たのか神田が箸を置いたと同時に拳を振り上げた。
おー、怖い。と目を逸らした黒凪は水を一口飲む。
そして背後を見れば神田が殴りかかってきた探索部隊の首を掴み持ち上げている状態。
持ち上げられている男は物凄い力に泡を吹き始めた。
やばいかもと立ち上がろうとした黒凪だったがそれよりも早く神田の腕を誰かが掴む。
「離してあげて下さい。この人の言い分も分かるでしょ」
「あぁ?」
「ぐっ、そ……だ…俺達は、お前等の為に…っ」
「俺達の為?…それしか出来ねぇんだろ。仲間が死ぬのがそんなに嫌か」
なら探索部隊なんざ止めちまえ。
その言葉に神田の腕を掴んでいる力が増す。
「そういう言い方はないでしょ」そう言った少年が神田を睨み上げた。
白髪に、顔の傷。服装からして入団希望者だなと目を細める黒凪。
すると少年と目が合い彼は黒凪に向かって口を開いた。
「彼と知り合いですか?」
『…まぁ』
「止めてください。出来た筈です」
『……悪いね、昔からこうなんだ』
黒凪が立ち上がると神田が掴んでいた男を落とした。
それと同時に少年も神田から手を離し睨む神田を睨み返す。
黒凪はせっせと神田の食器も持ち上げ歩き出した。
「早死にしなきゃいいがな。モヤシ野郎」
「アレンです。…随分嫌な言い方するんですね」
「はっ。テメェには関係ねぇだろ」
「…見過ごせない言い方でした」
お前、俺の嫌いなタイプだ。
そう言っているのが耳に届いた。
さっさと食器を厨房に返した黒凪が帰ってくると遠目にリーバー班長が見える。
彼は睨み合っている少年、アレンと神田を見ると「お、」と目を見開き口を開いた。
「おーい、神田とアレン、昼食10分で食って室長室に来てくれ!」
「あ?…任務か」
『頑張れ。私は昨日帰って来たし、今日は非番だわ』
チッと一足先に室長室に向かい始める神田。
そしていつの間にか椅子に座りバリバリと恐ろしい勢いでかなりの量の昼食を頬張る少年。
彼は良く知っている。
この物語の主人公、アレン・ウォーカー。
彼は今後始めての任務で気難しい神田と力を合わせて戦ってくれる事だろう。
『…あ、ユウ?』
数日後の朝。
電話口にいる神田は聴きなじみのあるその声に、誰かと確認することもなく応える。
≪なんだよ、朝から≫
『怪我したって聞いてさ。治った?』
≪あぁ。とっくの昔にな。≫
それは何よりと電話の向こうにいる神田に笑った黒凪。
ま、実際に彼が怪我をしたのは1週間も前の事らしいしそりゃあそうだろう。
私と彼だけは他とは違って治る速度も体の頑丈さも何もかも違うのだから。
肩と顎で器用に受話器を耳に押し当て、包帯が全体に巻かれている自身の手のひらを見下ろす。
その視線を受けて答えるように、そこに薄く光る十字架がぼうっと浮かび上がった。
「――黒凪、居るか?」
『んあ?』
≪なんだ、任務か≫
『らしいね。……何?リーバー』
受話器を持ったまま扉を開き目の前のリーバーを見上げる。
任務だと微笑む彼を見た黒凪は小さく頷き、聞こえた?と電話越しの彼に問いかけた。
あぁ。と短く答えた神田にじゃあねと声を掛けて通話を切る。
受話器を部屋に戻すと忙しい為かリーバーは既に居なくなっていた。
徐に足を踏み出すと他のエクソシストは水路だからな!と声を掛けられる。
『(さては私の事を忘れてたな?)』
他のエクソシストが既に水路に居ると言う事はそう言う事だ。
説明する事を忘れられていたか、その任務の難易度から私を追加したか。
ため息を吐いた黒凪は団服であるコートを靡かせ水路に向かった。
よっこいせと階段を一気に飛び降りれば小舟に乗ったアレンとリナリーを発見する。
「!…貴方だったんですか…」
『?』
「ふふ、女の子のエクソシストが来るって話してたの」
『…悪かったね、私で』
しゃべった、と微かに目を見開いたアレン。
アレンは黒凪の言葉にそんな事無いです!と慌てた様に返すと小舟に乗り込んだ彼女を見上げる。
黒い癖毛に少し目付きが悪いとも取れる目元。
そして両手と首元に巻かれている黒い包帯。
恐らく両足にも巻かれているだろう。アレンの目には黒い包帯が何処か異様に見えた。
『…気になる?包帯』
「え、あ…」
『イノセンスだよ、私の』
「装備型、なんですね」
呟く様に言ったアレンの言葉に頷く黒凪。
彼女は徐にアレンに手を向けると手のひらに巻かれていた包帯が緩々と動き出した。
包帯はアレンの頬にぺしっと当たるとすぐに黒凪の手に戻っていく。
『私はユウ…、…神田とは違うから』
「!」
『君の事を見捨てたりしない。ちゃんと護る』
「……ありがとうございます」
にこ、と少し笑った黒凪に安心した様に頬を緩めるアレン。
その様子を見ていたリナリーも優しく微笑み膝を抱えた。
アレンは神田の性格を上手くフォローしているであろう彼女の存在がとても温かく感じられた。
何故だかは分からないけれど。彼を上手く教団に溶け込ませているのは彼女なのだろうと、そう、思ったのだ。
《俺は、あの人を見つけるまでは死ねねぇんだよ――――!》
「!」
『………』
何故だろう、今この間の任務での神田の言葉を思い出したのは。
…何故だろう、彼女が……。
あの人って…、と思わず呟く様に出た言葉。
黒凪はピクリと反応すると静かにアレンを見た。
「あの人って、…誰だか知ってますか?」
『あの人?……神田がそう言ったの?』
「…はい、」
『……そう。…私は知らない』
ふいとアレンから目を逸らしてそう言った黒凪。
アレンは彼女の様子に少しの違和感を感じたが何も言わずに黙った。
なんだか今の一言で彼女と自分に亀裂が入った様に思えた。
余計な事を言うんじゃなかったと。…アレンは静かに後悔した。
『リナリー』
「何?」
『今から行く町ってどういう町だっけ』
「もう、ちゃんと資料見てよ黒凪」
巻き戻しの町。
イノセンスの影響で時間と空間が遮断された町だよ。
そんな彼女の言葉にふうんと呟いた黒凪はぐっと右手を握りしめた。
――巻き戻しの街。原作でも見た事がある物語だ。
あの子が来る。神に選ばれた人間である、彼女が
(此処が入り口ね。)
(入りましょうか、って黒凪さん!?)
(早く入ろうよ。…黒凪で良いよアレン)
(あ、ちょっと!)
(黒凪も神田と似た所有るから…。)
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