番外編
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6/6 神田ユウ誕生日お祝い作品
完結前のお話。
「――。」
静かに目を開き特に気だるげな様子も無く起き上がる。
そうして欠伸をした神田はすぐ目の前に座っている黒凪に目を向けた。
彼女はいつから居たのだろうか、寝転んでいた神田の太腿辺りに乗っかって此方をにこにこ眺めている。
その顔をじーっと見て徐にカレンダーへ目を向けた。
「…あー…、」
『お、気付いた?』
「…誕生日」
『そうそう。ついでに言うと私との記念すべき出会いの日。』
言い換えればあんたが生まれた日。
にっこりと笑って言えば黒凪の頭がチリ、と痛んだ。
違うと頭の中で声がする。
…彼が生まれた日は今日ではないと、声がする。
神田は長い髪をがしがしと掻くと「いつから部屋に入ってた?」と問い掛けた。
その言葉を聞いた黒凪は神田に目を向けると痛みに気付かぬふりをして「えへへ」と首を傾げる。
『5分前だねえ』
「…あっそ」
『なーにが"あっそ"だよ。夜明けから居て欲しかった?』
「そんな時間から来てたらロクに眠れねえだろうが」
さっさと退け。
そんな神田の言葉に素直に退けば彼はベッドから降りて水を飲みに行った。
その背中を見送ってベッドにぼふっと倒れ込む。
頭がズキズキ痛い。…さっきのユウの顔を見ると、きっとユウも頭が痛いんだろうな。
【今日じゃないわ】
『(じゃあいつだよ)』
【今日じゃないのよ】
覚えてないくせに、今日じゃない事だけは分かってる。
頭の中の声に「うあ゙ー…」と変な声を上げて頭を抱え込んだ。
止めてよ、私にとってのユウの誕生日は今日なんだよ。
ずっと待ってた。ユウが生まれて来るのを。…嬉しかったんだから。
「おい。頭痛ぇのか」
『めちゃくちゃ痛い』
「水飲め」
『ちょっと待ってね、もうちょっと痛みが治まったら…』
枕に顔を押し当てて「いたたた」と呟く。
頭の中の痛みだけは何をやったって収まる事は無い。
頭の中の彼女が黙るのを待つしかないのだ。
枕から大好きなユウの臭いがする。…でも痛みは消えない。
「……」
『ゔー…』
ため息を吐いてベッドに座った神田は律儀に水の入ったコップを片手に項垂れる黒凪を見守っている。
黒凪から"彼女の中にいる人"がかなりの頻度で黒凪に影響を与えている事を聞いていた。
その話を聞いてる限りでは同じ状況である筈の自分よりも彼女の症状は酷くて。
《私ね、多分中の人に嫌われてんだよ》
困った様にそう言っていた事も記憶に新しい。
結局は自分自身なのだから嫌われているも嫌われていないも無いのではないか。…そう思うのだが。
彼女ははっきりと"嫌われている"と言った。
『…あ゙ー…マシになった…』
「飲むか?」
『飲む…』
差し出されたコップを掴んで水を喉に流し込んでいく。
一気に飲み干した彼女は「あ゙ー…」とまた低い声で唸った。
そしてまた「あいたたた」と眉間を抑える彼女の顔を神田が覗き込む。
「そんなに煩ぇのか」
『あんたの誕生日は今日じゃないんだってずーっと言ってんの』
「あぁ。俺の中でも言ってやがった。…お前の中の奴、俺の事知ってんだな」
『(あ、やばい)仲間だったからじゃない?案外昔のあんたは社交的だったのかもね』
どうにか取り繕えただろうか。…うん、ユウのあの顔は疑ってない。大丈夫だ。
神田が徐に部屋にある蓮華の花に目を向ける。
黒凪も彼の視線を追う様に目を向けた。
互いの花は見えない。自分の花しか見えないのだ。
『…どう?花弁はまだついてる?』
「あぁ。…随分と落ちたがな」
『そっか。私は元気に咲いてるけどねえ』
そう言った黒凪の視線の先の蓮華の花の花弁は残り少ない。
これだけ散ってしまっていればユウよりも確実に寿命は短いだろうと確信出来る。
…私はもう、長くない。もしかすると来年は祝えないかもしれない。
『ユウが元気ならそれで良いや。』
「あ?」
『…来年も祝おうね。私は絶対生きてるからさ。』
「……」
私より先に死んじゃ駄目だよ。どうせなら私に先に死なせてね。
だからまだまだ生きてて。
笑顔で言う黒凪に神田が小さく笑った。
「心配しなくても俺はまだ死なねえよ」
『うん』
「…あの人を見つけるまでは何があっても生きてやる」
『…うん。』
それじゃあ見つからなければ良いのにね。…なんて言ったら怒られるか。
だったら見つかってやらない。
…何があっても、ユウが少しでも長生き出来るようにこの秘密だけは墓まで持って行ってやる。
頭が痛む。"私を置いて行かないで"と声がする。
置いて行こう
(絶対に見つかってやるもんか)
(その決意は)
(何年も揺らいでいない)
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