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北米支部・アルマ=カルマ編
愛していると、言いたくなる時がある。
響いた声にアレンが目を見開いた。
ずっと側に居て欲しいと手を伸ばしたくなる時も、ある。
「(――これは神田の記憶じゃない)」
笑っているお前が好きだと。…そう、言いたくなる時だって。
神田のその言葉に外で記憶を引き出しているワイズリーが笑みを浮かべる。
そうだ、そのまま自身の思いを吐露するのだ神田ユウ。
そうすれば黒凪・カルマは余計に混乱し、そして壊れる。
「でも決まってそんな時にあの人の背中がちらついて」
「っ、…もう、止めてください」
「過去の俺の姿もちらついて。」
「止めろって言ってるだろ…!!」
外でのうのうと、恐らく笑みさえ浮かべて聞いているであろう千年伯爵達に向けてアレンがそう叫ぶ。
これは神田が誰にも触れられたくなかった記憶なんだ。
黒凪が思い出したくなかった記憶なんだ。
この神田の想いは、
「――だから俺は」
「これは他人が勝手に覗いていいもんじゃない!!」
「結局この想いをあいつに伝えられないまま――…」
「神田もいつまでそうやって馬鹿みたいに操られてんだ…!!」
ぐぐ、とアレンの本体が気を失ったままで動き出した。
そして徐に振り上げられた拳にワイズリーが目を見開いた途端に、迷いなく振り下される。
神田の額に直撃した拳は難なく彼を殴り飛ばし、その衝撃でワイズリーの術が解けワイズリーも痛みに悶える様に倒れ込んだ。
「わー…、イノセンスで額を容赦なくぶん殴ったねぇアレン…」
「元々僕等は容赦する様な仲でもないんで…!」
「ぐおー!痛い!額が割れるううー!!」
「あちゃあ、ワイズリーもアレンの一撃で悶えてるや…」
でもちょーっとだけ遅かったかなぁ?
そんなロードの言葉に「え」と目を見開いたアレンは背後で動き出した配管に振り返る。
うねうねと生きている様に動く配管は倒れていたトクサを捕まえてぐんっと黒凪から離していく。
アレンの足元も崩れ、彼がどうにか体勢を立て直し顔を上げるとジョニーやバクも配管に挟まれ身動きが取れないで居た。
「っ、伯爵…!」
「イヤァ~、セカンドエクソシスト計画は本当に恐ろしい計画でしたネェ♡この悲劇の物語を君に見せたくて彼等を生かしていたのですよ、アレン・ウォーカァー♡」
「アレン・ウォーカー!!」
トクサの声にアレンがはっと振り返る。
母胎を…黒凪・カルマを止めろぉおお!!
そんなトクサの必死の叫びに黒凪に目を向けたアレンは「まずいぞ…!」と顔色を変えたバクに目を向ける。
「黒凪・カルマの憎悪が体内のダークマターのエネルギーに変換されている…!」
「アレン!!黒凪がAKUMAになっちゃうよ!」
お願い止めて――、そんなジョニーの言葉と同時に黒凪から一気に光が溢れ出した。
暴発する様に起きた衝撃にアレンの視界が真っ白になる。
周辺が衝撃で破壊しつくされた中でゆっくりと立ち上がった黒凪に千年伯爵が笑みを深めた。
しかしその姿に笑みを一瞬だけ引き攣らせ「オヤ…?」と小首を傾げる。
「てっきり完全にAKUMAになるものだと思っていましたヨ♡黒凪・カルマ♡」
『…何言ってんのさ』
半分AKUMAなんだから、どうせ人間には戻れやしないよ。
そう言って悲しげに笑みを浮かべた黒凪の正面に神田が足を止める。
ゆっくりと黒凪が神田に目を向けた。
彼の身体の半分をAKUMAウイルスが侵食している。
『…おはよう、ユウ』
「……あぁ。随分と長く寝てたな」
そんな、中身のない言葉が当たり前の様に交わされる。
神田はぐっと六幻を握って徐に口を開いた。
なんでAKUMAになりやがった。
真っ直ぐに此方を見て放たれた言葉に黒凪が「そうねえ、」と目を伏せる。
『…なんでだろうねえ』
「……なんで本当の事を言わなかった」
『…やっぱさっきの見てたか』
…お前があの人だったんだな。
眉を下げて言った神田に困った様に笑うと「なんで言わなかった」とまた同じ質問が飛んでくる。
んー…、と白くなった己の髪を黒凪ががしがしと掻いた。
『あの人が生きてるかもしれないって言う希望であんたは生きてたわけでしょ?…私だって死んでるなんて言いたくないしさ』
「…また俺の為だとかくだらねえ理由でか」
『当たり前じゃん。私はずっとあんたの為だけに行動して来てんだから。』
「…なんでそこまで俺の為に動く」
ちらりと青白い色になった彼女の瞳が神田に向けられる。
あんたホントに分かんないの?
逆に問い掛けられた彼女の質問に「あぁ」と神田が迷いなく返答する。
黒凪は呆れた様に息を吐いた。
『ほんとあんたって他人に対して疎いよね』
「あ゙?」
『あんたを理由にしないと怖いからだよ』
黒凪の言葉に神田が目を見開いた。
…私ね、もう生きる理由なんてないんだよ。
私は死んだの。…死んでた筈なの。
…でもなんか知らないけど生き返ってさ、なんか生き返った先が酷い状況でさ。
死にたいと思ったけど、怖くて死ねなかった。そのままずるずる生きてたら、あんたが現れた。
『私はあんたを理由に生きてるだけだよ。あんたが居ないと今までこの世界でやって来た事が全部無駄な様な気がしてくる。』
今までやって来た事が全部間違いだった様な気だってしてくる。
だからあんたを必死に護って、あんたの為に笑って、走って、戦って。
そしたら、
『(…あんたを、好きになって)』
「…?」
黙った黒凪に神田が小首を傾げる。
暫し言葉を止めた黒凪がゆっくりと神田を見上げた。
――あんたの記憶を見て、理解したの。私。
『私、あんたに依存しなきゃ生きられないからあんたの事好きになったんだ』
「!」
『あんたが好きなのか、生きる為に必要だから好きなのか。…もう分かんない』
あんたの事大好きだけど、あんたの気持ちを聞いて怖くなった。
…あれ、私の事なんでしょ?
そう言われて神田はすぐに「あぁ」と彼女の言葉を肯定した。
ワイズリーによって引きずり出された俺自身の気持ち。言葉。
今まで過去の俺にせき止められていた、俺自身の。
『私の中でもあんたと同じ事が起きててさ。昔の私が私自身の気持ちを言わせてくれなかった』
「……。」
『でもまさかあんたの方も同じだとは思ってなかったなぁ。まさかとは思ったりしたけど、まさかねぇ…』
「…それの何が怖い」
分かんない?…私は今まであんたの為に生きて来たんだよ。
あんたがあの人に会いたいって言うから、今までその言葉を信じて動いて来たの。
あの人の事を墓まで持っていくつもりで私はこの実験に参加した。
あんたに私の事がばれるなんて思ってなかった。だってそんな予定はなかったんだもん。
「…予定?」
『でもなんなのさ、さっきの』
今更私が好きだとか、ずっと側に居て欲しいとか。
ぽたた、と涙が地面に落ちていく。
もう私半分AKUMAになっちゃったじゃないの。
震える彼女の声に神田が目を伏せた。
『必死にダークマターに抵抗したけど駄目だった』
涙が黒凪の両目から溢れ出す。
…彼女の涙を見たのは、二度目だった。
今まで彼女は俺の為だと言って、ずっと俺が安全な様に俺の前を歩いていた。
時折激励する様に厳しい言葉を吐きながら、ずっと俺の背中を押してくれていた。
『(神様はやっぱり酷い)』
「……、黒凪」
『…うん。分かってる』
こうなれば、私達が出来る事はたった1つだけ。
原作通り。恐らく神様の筋書き通り。
神田がイノセンスを構え、黒凪が神田を睨む。
『…戦おう、ユウ。本気で』
『あぁ。…俺はお前になら殺されても良い」
『私も同じ。あんたに破壊されるなら死んでも良いよ』
…言っとくけど、あんた私に喧嘩で勝てた事無いよね。
あ?ふざけんな。あれは勝たせてやってただけだ。
そんな風に笑って言葉を交わしてから走り出す。
トクサによって護られていたジョニー達の安否を確認したアレンが、ぶつかり合った2人にばっと目を向けた。
「フーム…、てっきり吾輩は今更聞く神田ユウの本音に大混乱して暴れ回るものだと思っていたのですがネェ…♡」
「あの子って毎回私達の期待を裏切るからめんどくさいよねー♪」
"禁忌"三幻式。
神田の瞳に紋様が浮かび上がり一気に加速する。
黒凪は一瞬で目の前に迫った神田に目を細め横一門に振り下された刀を身体を逸らせて回避した。
そしてそのまま後方に身体を傾け足を振り上げて神田を蹴り上げる。
『…!』
いつもの癖でイノセンスを操ろうと手を開く。
途端にダークマターで形成された武器がイノセンスと同じ形を作り動き出した。
その様子に困った様に笑って真っ赤な刃を神田に向けて伸ばしていく。
神田の瞳の紋様がまた変化し、今まで以上の速度を使って方向を変え黒凪の横腹を切り裂いた。
『っ、』
「私ハ敵じゃ、なイ」
『…。サードか』
震えた声に顔を上げれば体内の細胞が半AKUMA化した所為で暴走しているトクサが立っている。
先程アレンのイノセンスが彼を敵だと認識して攻撃していたし、そのショックで自我を失っているのだろう。
私は敵じゃない。その言葉を繰り返しながらアレンを此方に向けて放り投げて来た。
側に落下したアレンを無表情に見下ろし、少し離れた場所に立つ神田に目を向ける。
「っ、黒凪…!」
『悪いねアレン。こっちも徐々にダークマターに呑まれて行ってるからさ』
あのサードを止める方法は多分ないよ。
そう言って困った様に笑った黒凪に神田が刀を振り下す。
イノセンスと同じ姿をしたダークマターで受け止めた黒凪はトクサに足を掴まれ持ち上げられていくアレンを目で追った。
ギリギリと力で押し合っている黒凪と神田が目を合わせる。
互いに眉を寄せ、歯を食いしばっている。…でも、目だけは逸らさなかった。
「(くそ、トクサも黒凪も破壊なんて出来ない…!でもどうすれば、)」
「吾輩の元へ来るのデス、アレン・ウォーカー♡」
「!」
「教団を捨てるならこの悲しい戦いを吾輩が止めてあげマショウ♡」
…馬鹿馬鹿しい。誰が信じるってのよ。
黒凪が神田と力比べをする中で千年伯爵を睨んで言った。
そんな黒凪の言葉に同意する様に黙っているアレンに千年伯爵が笑みを深める。
「AKUMAの核であるダークマターは製造者の分身…いわば吾輩の分身なのデス♡」
『……。』
「14番目…、お前が望むなら黒凪とサードの中からダークマターを消し去ってあげマショウ♡」
アレンやジョニー達が目を見張る。
神田も目を大きく見開いて千年伯爵に目を向けた。
…ダークマターを、消し去る?
そう呟いた神田に黒凪が眉を寄せ、一瞬だけ力が緩んだ隙に彼を殴り飛ばした。
『無理よ、ユウ。私の中からダークマターが消えたら身体が限界を迎えて結局死ぬ。』
どっちみち死ぬんだ。あんたが殺して。
泣きそうな顔をして言った黒凪に神田がゆっくりと起き上がり口元の血を片手で拭う。
…それは"仮定"の話だろうが。
立ち上がって言った神田に黒凪が微かに目を見張る。
「…俺に会いたいっつったんだろ。実験の前に。」
『!』
「俺はそれを聞いて、ノアの要求を呑んだ。」
お前に記憶を見せさせたのは俺だ。お前に会いたいかと問われて俺は頷いた。
信用ならねえノアの言葉にだ。
無表情でそう話す神田に黒凪が眉を寄せる。
「…お前が生きられる可能性があるなら」
『ユウ、』
「俺はモヤシを切る」
『ユウ!』
ばっと方向を変えて走り出した神田に黒凪が手を伸ばす。
神田が刀を振り上げた先には逆さまになってぶら下がっているアレン。
トクサに捕まりながらもどうにかイノセンスで六幻を受け止めたアレンは神田を睨んだ。
「な、にするんですか…!」
「教団を捨てろ」
「はぁ!?」
「お前が伯爵に着けばあいつが助かる」
感情を押し殺した様な声。
そんな声で無表情に話す神田にアレンが表情を崩した。
俺はあいつを生かす。…何を敵に回しても。
只管無表情に、そうとだけ言って再び刀を振り下す。
その威力はアレンを掴むトクサの腕を斬り落とし、アレンを地面に強く叩きつけた。
「止めろ神田!」
「っ、ぐ…!」
「嘘だろ神田…、本気でアレンを斬ったのかよぉ…!」
見兼ねたリーバーやジョニーがそう神田に向けて叫ぶも、彼はそんな声に見向きすらしない。
六幻によって傷付けられたアレンの腕からは血が流れ出ている。
くそ、黒凪は何して…!
そう言って振り返ったリーバーの目に倒れ込んでいる黒凪が映った。
「黒凪!!」
「「!」」
リーバーの声にアレンと神田が振り返る。
所詮は死に損ないの半端者ですカラネェ…♡
ダークマターで力が湧いたとてこの程度デスヨ♡
そんな伯爵の言葉に神田が歯を食いしばりイノセンスをまた一段階解放する。
彼の髪が白く染まり、アレンが神田の眼光に眉を寄せた。
「…全部お前の所為だ」
「!」
「黒凪がAKUMAになったのも、サードが化け物になったのも」
全部ノアのくせに教団に居るお前の所為だろうが。
アレンが何も言えず歯を食いしばる。
彼も迷っているのだ。自分が教団を裏切れば黒凪を助けられるのではないか。
…神田の言う通りなのではないか。
「全部お前の所為だろうが!ノア野郎!」
…全て、自分の所為なのではないだろうか。
神田がイノセンスの切っ先を自分に向けて振り下して来る。
アレンは眉を寄せ、その一撃を受けた。
途端に黒凪が神田の名を叫ぶ。
神田はその声にはっと目を見開いて、自分が突き刺しているアレンに目を向けた。
『何やってんの!アレンに当たるな馬鹿野郎!』
「…っ、」
アレンの肌が突き刺さった六幻を中心に黒く染まっていく。
途端にアレンを中心にノアの力が暴発しその衝撃で神田と黒凪が吹き飛ばされた。
辛うじて着地した神田だったが、力なく落下して行く黒凪を見て走り出し彼女を受け止める。
そして周辺に響き渡る様な笑い声に顔を上げてアレンに目を向けた。
「遂に覚醒しましたネェ♡!!貴方のおかげですよ神田ユウ♡!!」
「あ…?」
「ノアは決してイノセンスへの憎しみを忘れナイ♡貴方がイノセンスでアレン・ウォーカーをぼろっぼろにしてくれたおかげで内に眠っていた14番目が目覚めたノデス♡」
本当にありがとウ♡!!
そんな伯爵の言葉に神田が呆然と「俺が、あいつを」と呟いた。
黒凪は「くそ」と毒づくと神田を押し退けて地面に足を着ける。
「おい、黒凪」
『この周辺の結界を破壊する』
今ティムキャンピーがクロス元帥の術で向かって来てんの。
黒凪の言葉に神田が眉を寄せる。
予想以上にあんたが暴走してアレンを傷付けちゃったから、結界を壊してアレンの対処をするとティムキャンピーが失敗しかねないからさ。
『だから私が手助けする』
「…何言ってんだよ」
『大丈夫。あんたの所為じゃない。』
アレンは元に戻る。
笑って言った黒凪がダークマターの力で内側から外の結界を破った。
うおお、と顔を上げたノア達は黒凪にばっと目を向ける。
「…ちょっと千年公、あいつダークマターの力使いこなして来てるよ?」
「本当に読めない人間デスネェ…♡」
破られた結界の先から現れたティムキャンピーの術でアレンの左目がゆっくりと開く。
途端にノアの力が内側に縮こまって行き、左目が黒凪を映した。
何が言いたいんだ、左目。そう心内で呟いて目を見開いたアレンは黒凪の姿を見て息を飲む。
「(…まだ、完全に呑まれたわけじゃない)」
『っ、』
「黒凪!」
「(黒凪の、…セカンドの治癒能力ならもしかすると)」
倒れ込んだ黒凪に駆け寄る神田にアレンが目を向ける。
その視線に気付いた神田もばっとアレンに目を向けた。
神田の目を見返したアレンは「助けられるかもしれない!」と声を張り上げる。
その声に目を見開いた神田は腕の中で衰弱して行く黒凪に目を向けた。
「僕を信じてください!」
「…っ、助かるのか」
「助けてみせる!」
即答したアレンに覚悟を決めた様に口を閉ざし、神田が頷く。
アレンはすぐさま退魔ノ剣を出現させて黒凪の元へ走って行く。
させませんヨ♡とトクサのダークマターを操る伯爵にバクが精霊石を使って対抗した。
その様子を横目に黒凪に近付いたアレンは退魔ノ剣を持ち上げ、眉を寄せる。
「黒凪、痛いと思います」
『…痛いのは、慣れてる』
黒凪の言葉に眉を下げて剣を振り下す。
剣が胸元に突き刺さり、物凄い勢いでダークマターを消し去って行った。
身体の大半を侵食していたダークマターの消失によって黒凪の身体もどんどん石の様にひび割れていく。
アレンはその様子に嫌な未来を一瞬だけ想像して、頭を左右に振った。
「(お願いだ、再生してくれ…!!)」
『っ、(駄目だ、もう再生能力が、)』
痛みを我慢する様に固く閉ざされた黒凪の唇に神田が唇を押し付ける。
その行動に驚いて微かに口元を緩めた黒凪の口の中に鉄の味が広がった。
どくん、と胸元の術式が動きだし身体を再生させていく。
唇を離した神田が黒凪の前髪を掻き分けた。
「…死ぬな」
まだ俺はお前と生きていたい。
その言葉に黒凪の目から涙が零れた。
――ほんとに私で良いの。
震えながらに放たれたその言葉に神田が笑う。
「俺はきっと何度生まれ変わっても同じ奴を好きになる」
『!』
「勘違いするなよ。今の俺がだからな。」
あの人を愛してた俺じゃない。
――私はあの人じゃない。
…ユウも、もうあの人を愛していた彼じゃない。
良かった。セカンドの治癒能力が無ければこんな荒療治、出来ませんよ。
眉を下げて心底安心した様な声で言ったアレンにちらりと目を向ける。
『(…そ、か)』
この身体のおかげで私は助かったのか。
この身体のおかげで、まだもう少しだけユウと一緒に生きられるのか。
この身体の、
『…この身体を作ってくれた人のおかげ、で』
「!」
神田が微かに目を見開いた。
黒凪が此方に攻撃を仕掛けてくるノア達に対抗しているフォーに目を向ける。
そして側で膝を着いたバクに視線を移動させた。
「!バクさん、」
「そろそろフォーも限界だぞ、ウォーカー…!」
『…バク』
黒凪の言葉にバクが此方を振り返る。
その顔を見て眉を下げた。
全体的に似てるのはエドガー先生だけど、目元はトゥイ先生だね。
え、と眉を下げたバクに黒凪が微笑む。
『この身体を作ってくれたのは、エドガー先生とトゥイ先生。』
「!」
『ユウと一緒に居られるのは、2人のおかげ』
ぽろ、とバクの目から涙が零れた。
今此処で、私達を護ってくれたのはあんただから。
私がユウと一緒に居られるのは、あんたのおかげでもある。…ありがとう。
その言葉に何かを言おうと口を開いたバクだったが、フォーがノアに吹き飛ばさればっと其方に目を向けた。
「…神田、方舟で君達を遠くへ飛ばします。」
「!」
「場所は僕等の最初の任務先。…あそこなら当分見つからない」
「…あぁ」
神田が黒凪を片手で抱きかかえてアレンに手を伸ばす。
その手を掴んだアレンは"道化ノ帯"で伯爵を縛り彼の重みを利用して上空に神田と黒凪を連れて跳び上がった。
はっと其方に目を向けたバクはぐっと涙をこらえる様に眉を寄せ、フォーに目を向ける。
アレンが方舟ゲートを開き、其方に向けて神田の手を離した。
途端に神田が振り返って口を開く。
「礼を言う。アレン・ウォーカー。」
「!」
「お前のおかげで助かった」
『…ありがと、』
笑ってそう礼を言った2人にアレンも眉を下げて笑い、大きく頷いた。
どうか、もう離れない様に。
誰も彼等を引き裂かない様に。
ずっと彼等が。
一緒に、いられますように。
(さよなら黒凪)
(ゲート"破壊")
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