番外編
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異世界から来た少女
「…間一族には珍しいタイプの新人っすね。道のど真ん中で間一族だって大声で言うなんて…」
「うん、俺も驚いて一瞬返事返すの遅れちゃってさ。黒凪も呆れてたしなんか変わった子だったな…」
「……名前なんでしたっけ」
「…あー…、」
ふふふ、これでカカシ先生ルートとシカマルルートは完璧だわっ!きっと私の只ならない力を察して驚いてたのねぇ!
意気揚々と黒凪の後を付いて回るルリは零れる笑みを抑えようとはしない。
すると暫く進んだ路地の先に1人の男がぴしっと姿勢を正して立っていた。
『…あ、おはようございます紫島さん』
「おはようございます。坊ちゃんがお待ちですので………、…そちらは?」
『うちの新入りです。七郎君に会いたいと聞かないもので』
「そうでしたか…。よろしくお願い致します。」
丁寧に頭を下げてくれた紫島に向かって妙に静かなルリに黒凪が目を向ける。
彼女は先程までのテンションなどとうに忘れた様に静かに「…よろしくお願いしまぁす」と緩く頭を下げた。
その様子を見て「ふーん」と呟いた黒凪は紫島に案内されるがままに屋敷の中に入り、中へ通される。
「坊ちゃんはこのお時間には戻って来る予定だったのですが、野暮用で到着が遅れていらっしゃいます。」
『あ、そうなんですか。それじゃあ二蔵の所に案内してください、彼にも用がありまして。』
「承知しました。」
何なのぉ、七郎君にはまだ会えないのぉ…?
不満が徐々に降り積もりルリの表情が不機嫌なものになっていく。
その様子を無表情で見ていた紫島は二蔵の居る部屋の扉を開き、中に入った2人を見送り扉を閉めた。
車椅子に乗った二蔵が振り返り黒凪を目に移す。
『おはよう二蔵。どうだい身体の調子は。』
「竜姫が此処に住まう様になってからは随分と楽なものだ。儂が手を下さぬともやってくれおる」
『そうかい。良かったね』
「あぁ。……で、その娘は」
二蔵の目がちらりと向く中でもルリは不機嫌そうに足元を眺めているだけ。
そんなルリをじっと見つめる二蔵に「やっぱり可笑しいと思うかい」と黒凪が問い掛けた。
するとその問いに二蔵がゆっくりと頷き"儂等側の者ではない"と表する。
それと同時に扉が開かれた。
「黒凪さん、遅くなってすみません。」
『七郎君。』
「七郎君っ!?」
「うわ、…え、誰ですかこの人…」
ぐるっと身体を回転させて自分を見上げてくるルリに七郎が驚いた様に黒凪に目を向ける。
その様子に肩を竦めた黒凪は「初めましてぇ、」と話し始めたルリの隣を通り七郎の腕を引いて歩き出した。
ちょ、ちょっとぉ!と焦ったように声を掛けてくるルリに「ついておいで」とだけ声を掛けて七郎と並んで歩き出す。
「火の国の北東の端なんですけど、どうもかなりの数の忍が入り込んだみたいで。」
『一気に?』
「一気にですね。里から遠すぎて此処の人間以外はまだ気付いてません。」
『…分かった、片付けとく。』
手が空いてる人は居るんですか?そう微笑んで問いかける七郎に「まあね。」と笑顔で返す黒凪。
そんな2人の後ろを歩きながらルリがどうにか話題に入れないだろうかと試行錯誤する。
しかし扇一族と間一族の間柄をまだ理解できていない彼女に話題に入り込む事は出来ず「じゃあ送ります。」といつの間にか庭に出ている始末。
「あの、えっと…」
「………え、あ、ルリでぇす!」
「じゃあルリさん。君は戦える人?」
「はぁい!すっごぉく強いんですよぉ!?」
笑顔で手を上げて言ったルリに「それは良かった」と七郎が微笑み黒凪を抱きかかえた。
じゃあ自分で着地出来ますよね。行きますよ。
そう言ってルリを風で持ち上げ黒凪は七郎に抱きかかえられたまま。
なんであの女は持ち上げるのよぉ!と眉を寄せたルリは耐え切れず口を開いた。
「あのぉ、どうして黒凪さんを抱えてるんですかぁ?」
「あぁ、この人運動神経がすこぶる悪くて。心配だからいつも抱きかかえてるんです。」
「(はぁっ!?運動神経が悪いぃ!?)…そ、そうなんだぁ~…」
そんな会話をしながら一瞬で屋敷に辿り着き、黒凪が徐に屋敷に入っていく。
恐らくこの後の任務の編成を考えているのだろうと理解している七郎は黒凪の背中をちらりと見てから去って行った。
もうっ、なんなのよぉ、七郎君にはあんまり話しかけられないし黒凪は勝手に中に入っていくしぃ!
去って行った七郎を名残惜しそうに眺めてから見失って堪るものかと黒凪の後をついて行く。
そして彼女が開いた部屋の中を見ると大きく目を見開いた。
『デイダラ、急な任務なんだけど出られる?』
「ん?別に構わねーけど…」
「わぁあ、此処がデイダラさんのお部屋なんですかぁ~?」
「あ、起爆粘土あるから無暗に入るなよ。うん。」
部屋に足を踏み入れる寸前で先に言われてしまいすごすごとルリが部屋から離れる。
じゃあ準備して玄関ね、と声を掛けて黒凪が襖を閉じて隣の部屋に移動した。
ルリはデイダラの部屋を名残惜しそうに見てからそんな黒凪に目を向ける。
『サソリ、任務入ったんだけど出られる?』
「…殺しか?」
『うん。すぐに動かせる傀儡ある?』
「問題無い。…玄関で良いんだろ。」
うん、よろしくね。と流れる様に会話をしてすぐさま閉ざされる襖。
ルリがそろっと襖に手を伸ばすと中から「オイ」と声が掛けられた。
勝手に開けるなよ。そう念を押す様に掛けられた声に「う、うん~…ごめんねぇ~」と返して黒凪の後に続いて小走りでルリが去っていく。
その気配を確認したサソリは小さくため息を吐いた。
「あのぉ、次は誰の所に行くんですかぁ?」
『人数が多いらしいから飛段と角都とイタチの所。どうせ皆暇してるだろうし』
「じゃあイタチさんはぁ、ルリが呼んできまぁす!」
『え、ちょっと…』
イタチさぁ~ん、と言いながら走って行ったルリに呆れた様に息を吐いて黒凪が飛段と角都の元へ歩いて行く。
そうして玄関に集まるとイタチだけが現れない。彼1人を待っているとイタチが少し焦った様に姿を見せた。
「すみません、準備に手間取りました。」
『準備? あんたいつも準備なんてすぐに…』
「イタチさんはぁ、私を待っててくれたのぉ」
『……あれ? 君も行くの?』
当たり前じゃないですかぁ、と笑ったルリに黒凪がイタチを見上げる。
イタチは「黒凪さんが許したんじゃないんですか?」と言いたげな顔をしていた。
すると「なんだァ?随分居るじゃねェの」と言った声が頭上から降り黒凪が顔を上げた。
『…火黒?』
【任務なんだろォ?俺そこの女に呼ばれたんだけどさぁ】
『…え、ちょっとルリちゃん…』
「だってぇ、人は多い方が良いと思うしぃ…」
そう言ったルリの言葉と同時に「黒凪」とまた声が掛けられ振り返った。
そこには人数の多さに戸惑っている様子の限。
…限まで呼んだの?とルリに目を向けた黒凪は「そぉなんですぅ」と悪気のない様子にため息を吐く。
「あと鋼夜も連れて行きたかったんですけどぉ、見つからなくってぇ~」
『鋼夜なら私の影の中だけど…、ってそんな事よりこんなに人集めたら』
「影の中ってどういう事ですかぁ!?」
話を聞かず詰め寄って来たルリにげんなりとして黒凪が己の影に目を向ける。
すると影から鋭い鋼夜の尾が伸びてルリの首元に添えられた。
話を聞け…。そんな鋼夜の声にルリが笑顔を見せ「ホントに居たぁ♪」と上機嫌になる。
それを見て息を吐いた鋼夜の尾が一気に引っ込んで行き「何だあの女は…」と黒凪にだけ聞こえる様に鋼夜が言った。
『さあ、分かんない…』
「任務は危険だしぃ、皆で行こうよぉ!皆で行った方が楽しいしぃ!」
『…。まあいいや、折角皆準備したんだしこれで行こっか…』
「マジかよ」
飛段が驚いた様に言う中で1人「やったー!」と飛び跳ねるルリ。
その様子を見て皆一様にげんなりとした。
しかしリーダーである黒凪が言ったのだ、すぐに切り替えるとルリと黒凪以外の全員が向き合う。
「良いか?イカサマなしの一発勝負だ。うん。」
「恨みっこナシだぜェ!」
そう言ってから始まったじゃんけんにルリは「なになにっ?楽しそう~」と近付いて行く。
しかし彼女が混ざる前に以外にも敗者はすんなりと決まった。
…俺か。と呟いたイタチに「え、なんですかぁ~?」とすぐさまルリが方向を変える。
しかしイタチはそんなルリを素通りすると黒凪の前でしゃがみ背中を向けた。
『ごめんねえ、毎回毎回』
「いえ、気にしないでください。」
そう言ってイタチが背中に乗った黒凪を持ち上げると「え…?」とルリが固まった。
そしてすぐに笑顔に切り替えると「あれれ~?どうして黒凪さんをおんぶしてるんですかぁ?」とイタチに駆け寄る。
イタチはちらりとルリを見ると「運動神経が悪いそうでな。走ると疲れるらしい。」と手短に且つ丁寧に答えて玄関の扉を開いて出て行った。
そうして全員が外に出ると黒凪が地図を開き「あっち。」と東の方角を指差す。
すぐさまその指示に従って全員が走り始めた。
「えっ!? ちょ、ちょっとぉ!」
そんな声を最後に一気に走り出した全員はちらりと背後に目を向ける。
先程までウザったらしくうろついていたルリとか言う女は付いてこれなかった様だ。
姿も声も見えなくなり皆そう考えて納得したのだろう、やがてどうでも良い事の様に正面に目を向ける。
「…あの女は良いのか」
『うん。付いてこれないなら連れて行く意味ないし…』
【お前が言えるタマかよ。鈍足の癖しやがって。】
『頑張れば走れますぅー』
ちらちらと背後を見る限と笑いながら隣に並ぶ火黒。
彼等を見て「まあ久々だしこれも楽しいか」と思い直して黒凪が小さく笑みを浮かべる。
あの子も中々良い仕事するじゃない、なんて考えているとばさばさと羽音が聞こえてきた。
そして頭上に指した影に皆が顔を上げると純白の翼を広げてルリが降りてくる。
「もぉ、皆放って行くなんて酷いよぉ!」
『わあ凄いね。羽出るんだ…』
「うふふ、これは天使の翼って言ってねぇ、皆を護ったりぃ、傷を癒したり出来るんだよぉ。」
『そうなんだ…。機会があればよろしくね。』
そうは言ったものの、普段から木ノ葉の忍達の様に医療技術のある者をチームに入れたりすることは間一族では滅多にない。
それは滅多に傷を作って来ない事と自己責任だと言う考え方が強い為。
だから実際黒凪達もデイダラ達も皆微妙な顔をした。
「黒凪さーん」
『あれ? 七郎君!』
「ええっ七郎くぅん!?」
「木ノ葉の方からも小隊が配属されたみたいです。皆さん笠持ってないですよね?」
一様に頷いたデイダラ達に「あはは、すみません。僕がまだ木ノ葉の人達は気付いてないなんて言ったから…」なんて笑いながら七郎が笠を手渡していく。
受け取るごとにすぐさま笠をかぶるデイダラ達に不思議な顔をしているが、ルリも此方に手渡してくれるだろうと七郎を見上げてわくわくと待ち望む。
しかし笠は渡される事無く「それじゃあ。」と整った顔で爽やかに笑って七郎が離れて行った。
「(なんで私には笠をくれないのよぉ!)」
「チッ、ヒルコ持ってくりゃよかった…」
『あーもう、また私達以外が来るとなるとそんな事言いだすんだから。』
「飛段。用心の為に鎌を巻物に入れておけ」
あぁ!?じゃあ俺は何の武器で戦うっつんだよ!
角都の言葉にそう返した飛段はぽいと放り投げられたクナイを受け取り「んだこれはァ!」と更に怒りを爆発させた。
しかしそんな飛段などお構いなしにサソリが空いている巻物を取り出し問答無用で飛段の鎌を封じる。
あ゙ー!!と響き渡った飛段の声に「うるさい。」と黒凪が草履を投げた。
顔面に草履を直撃させられた飛段は反射的に掴み取ると黒凪に目を向ける。
「テメェ黒凪!草履の鼻緒千切んぞあぁっ!?」
『えーやめてよ縁起悪い。』
「よっしゃ千切ってやらァ!」
『あ゙、ホントに千切った!』
おい飛段、静かにしろ…。とイタチが呆れた様に声をかけるも、飛段が意に返すはずもなく。
むしろ「へっへーん」と笑った飛段が草履を放り投げる始末。
それを見た限は「ったく…」と呟くと足を止めて草履が地面に落ちる前に掴み取った。
そして黒凪の元に戻ると彼女の手元に草履を持っていく。
『ありがと限。やっぱりあんたが一番気が効くわ。』
【黒凪大好きちゃんだもんなァ、志々尾クンはさ。】
鼻緒の部分を修復術で瞬く間に元に戻してイタチの背中の上で器用に掃いた。
そんな黒凪に微笑む限をルリは上空で見ているしかない。
彼女は慣れない翼を扱いあまり話している余裕が無いのだ。
『はい、着きましたー。』
「此処だな。」
「っしゃあ!やってやるってばよ!」
『…忍の皆さんも着きましたー…』
黒凪の声に「ん?」と振り返ったのは派遣された小隊のシカマル、ナルト、サクラ。
そして最後に現れたのは小隊のリーダーであろうカカシ。
キャー!と嬉しそうに飛び跳ねるルリに「なんでこの面子なんだろう…」と黒凪が物思いに耽る。
「あれ、黒凪じゃないの。さっきぶりだネ。」
『…ドーシテコノ面子ナンデスカー』
「丁度非番だったんだよねえ、それが。」
『ウフフフ、コレガ天ノイタズラ…』
なんでカタコトなんだよ…。と先程と同じことを同じ様な表情をしてシカマルが言う。
そして彼は黒凪の側に立っているデイダラ達を見るとその人数の多さにげんなりとした。
ナルトとサクラもその珍しい程の大人数体勢に顔を見合わせる。
「…間一族がこれだけ居ると私達逆に邪魔になってる気がしてきた…」
「なんかそれ分かるってばよ…」
そんな会話をしているとピクリとイタチが顔を上げ、デイダラ達に目を向ける。
黒凪も徐に視線を上げるとイタチの背中から降りて構えた。
その様子にナルト達も背後を振り返り武器を構える。
『丁度鉢合わせたみたいね。全員此処で仕留めるよ。誰1人これ以上進ませない事。』
「よし。」
「分かったってばよ!」
『返事したね?じゃあナルト達もその段取りで。』
敵も突破しようと一気に散り散りになっていく。
それを追ってデイダラやサソリなど暁メンバーが積極的に移動して行った。
その後に続こうとしたシカマル達を「君等は私と此処で主力を迎え撃とう」と黒凪が声をかけ、その意図を察して限と火黒も散り散りになる。
「(上手く顔を隠してる間一族の方に俺達が向かわない様に仕向けたって感じだねえ)」
「(ったく、相変わらず得体の知れねぇ奴等だぜ…)」
「(やっぱり私達をあの顔を隠してる人達に近付けないつもりなんだ…)」
「どっからでも掛かってこい!」
「私も此処で主力を迎え撃ちますぅ!」
馬鹿が1人…いや、2人。とナルトとルリ以外の思考が見事に一致する。
そんな中で6人の前で足を止めた忍達は散り散りになってもこれだけ居るのかと嫌になる程の人数が集まっていた。
ざっと見て20人。1人3、4人は倒さなければならない計算だ。
『…それじゃあルリちゃん、貴方に3人任せるね。』
「はぁい!(こんなの楽勝だわぁ、どうせモブだしぃ)」
「ナルト、サクラ、シカマル。分担して行くぞ!」
「「「はい!」」」
ナルト達4人が一気に走り出し、黒凪が外側に立っている忍を左右で2人ずつ結界で殴り一気に気絶させた。
カカシも着々と倒していき、ナルトも影分身を用いて倒していく。
皆の手際の良さに一瞬だけ出遅れたルリは翼を出して風を起こした。
しかし扱い慣れていない翼は聊か強すぎる風を作りだし皆が突風に踏ん張りルリに目を向ける。
「えいっ!」
「っ、(敵味方関係なしかよ…)」
「(戦い方もよく分からない子だなぁ、アレ…)」
「(羽が白すぎて目が痛いってば)」
「(黒凪も呆れてるし…何なのあの子?)」
びゅんびゅん時間おきに吹き荒れる突風に黒凪も髪を乱しながら敵を倒していく。
すると一旦風が止み「きゃあっ」と声を上げてルリが転がった。
うん?と皆が振り返ると既に彼等の周りに立っている忍は居ない。
後はルリの前に立つ3人の男だけだった。
「あーらら。全員やられたらしいねえ。」
「どうして寄りにも寄って我々にこの女が宛がわれたのか…。」
「明らかに一番弱いじゃん!」
げらげら笑う男達にルリがかーっと顔を赤くさせ「助けてぇ、カカシさぁん」とカカシに助けを求めた。
しかしそれより早くルリの前に立ったカカシが徐に腰を下ろし、シカマルやナルト、サクラも構える。
面倒だし此処は彼等に任せよう、と目を細めた黒凪はだらりと脱力した。
「我々3人はこの盗賊団のリーダー的存在…いわばスリートップ。」
「そう簡単にやられはしないさ。」
「俺はちょっち弱いから弱そうな奴から攻めてくぜい!」
最後にそう啖呵を切った男が向かった先はシカマル。
少し目を見開いたシカマルが印を結び影を伸ばす。
お?と眉を上げた男は器用に影から逃れてクナイを構えた。
その軽い身のこなしにシカマルが眉を寄せるもナルト達は残りの2人に苦戦している。
「シカマルぅ! 私が助けるわぁ!」
『あらら。』
「!ちょ、」
シカマルの影の軌道範囲に入り込んだルリははっきり言って邪魔そのものだ。
更に動きを制限せざる得なくなったシカマルは男に懐を取られてしまう。
しかし黒凪は動かない。振り下されたクナイを見たシカマルが「おい!クナイ!」とルリに指示をだしルリが「え、え、」と言いながらシカマルのホルスターからクナイを出して振り上げる。
「お、偶然にしちゃあ上手く受け止めたな!」
「っ…、い、痛ぁい…」
「助かった…悪いな」
「う、ううん…って言うか黒凪さぁん!ちょっとぐらい手伝ってよぉ!」
そう叫ぶルリにちらりと目を向けて「分かった」と言いながら黒凪が構え、苦戦しているナルトやカカシに手を貸した。
それを見て「違うでしょお!?こっちよぉ!」と声を掛けるルリに「あいつは俺には手を貸さねえよ」とシカマルが眉を下げて言う。
ええ!?と顔を上げたルリは彼の表情を見て目を見開いた。
「俺はあいつに好かれてねぇんだ。だから…」
「嫌われてるって事!?あの女ってそんな事で無視したりするのぉ!?」
「はは、まあな」
「なんでぇ!? なんでシカマルが嫌われるのぉ!?」
ルリの言葉に「俺が不幸じゃないから。」とシカマルが言った。
その言葉に「何それぇ…」と呟いてこれだ、とルリが思う。
あの女の汚い部分。ルリはそれを理解すると周りに響き渡る様な大声で話し始めた。
「ありえなぁい!そんな子供じゃないんだからさぁ!」
「…。(でも昔オレは、その子供っぽさに気付かされたんだよなぁ…)」
こんな状況でそんな事を考えてる場合じゃない。それは分かってる。
でもルリの言葉に思い出してしまったのだから仕方がないじゃないか。そんな事を1人考えて改めて振り上げられたクナイを目に移す。
すぐに印を構えた。しかしそれより早く男の関節に結界が作られガンッと後頭部を殴りつける音が響く。
ガクンと頭を降ろした男に小さく笑ってシカマルが黒凪に目を向けた。
《なんでもめんどくせーって言うけどね、あんた》
《あ?》
《そんな事言って殺されても私知らないよ。》
《……。》
《ちょっと、黒凪もシカマルも睨み合わないでよー…》
黒凪とシカマルの険悪な雰囲気を見てシカマルと仲の良いチョウジが間に入ってくる。
アカデミーに居た頃、黒凪は慣れないこの世界にイラついていた時であり、またシカマルの全てを"めんどくさい"と言う考えに自分が合わなかった事もあり彼等は常に険悪だった。
シカマルもその頃は子供であった為、今ではやる時はやっているがあの頃は面倒だと何事も適当にやり過ごしていた。
《だってコイツが…》
《あんたが毎回言ってるのに止めないからでしょ。演習でペアになったら結局私が助ける羽目になるんだから》
《もー、黒凪もなんでシカマルにばっかりそんな事言うのさ…》
《嫌いだから。》
ずばっと放たれた言葉にシカマルもチョウジも思わず沈黙する。
シカマルもド直球にそこまで言われるとは思っていなかったのだろう、驚いた様に固まっていた。
怖いものなんて無いんでしょ。幸せそうで良かったね。…でもこの世界じゃそんな事言ってると真っ先に死ぬよ。
正面から放たれた厳しい、いや、寧ろ酷いと言うべきか。
まだアカデミー生であるシカマルにその言葉は堪えたらしく、彼はいじけて歩いて行ってしまった。
「(あの時はなんでそんな酷い事を言うんだって、本気であいつが嫌いだった。…でも)」
『私が居なけりゃ死んでたね。』
「死なねーよ。どうにかしてた。」
『ふーん。』
…なぁ、まだ俺は平和ボケしたガキに見えんのか、あんたには。
シカマルのそんな言葉に黒凪が振り返る。
ちょっとシカマルぅ、あんな女に話しかけなくていいよぉ!と縋り付いて来るルリに「悪い、ちょっと黙っててくれ」と言って再びシカマルが黒凪を見た。
黒凪の脳裏にアカデミーの頃に初めてシカマルと組んだ演習の出来事が過る。
《シカマルの命、取ったー!》
《!(やば、シカマルが殺される…)》
勿論これは演習だ。だがこの世界に早く慣れようと必死だった黒凪や限達は真剣にやっていて。
それはこの世界の残酷さを子供ながらに理解していたからで。…だから「何とかしなければ、」と構える。
しかし今にも武器を振り下されんとするシカマルは随分と余裕の顔をして。
そして言ったのだ。
《…めんどくせー…。めんどくせーからやられるぜ、黒凪。》
…と。
あの言葉を聞いた時は平和ボケしたガキが、と大嫌いだったものだが。
黒凪が小さく笑みを浮かべて口を開く。
『ううん。今のあんたは結構好き。今のはちょっとした意地悪。』
「それと確認だろ。俺が諦めたか諦めてないかの。」
『かもね。でも諦めてても助けてたよ。』
アカデミーからの昔馴染みなんだからさ。
そんなシカマルと黒凪の会話を聞いてルリが呆然と座り込む。
何なの、なんでちょっといい話になってるのよ…。
そう考えて戦いを終わらせたカカシ達に目を向ける。
「シカマル、大丈夫か!?」
「あぁ。何ともない。」
「災難だったな。まあ今回は運が無かった。」
「はは…、そっすね。」
ちょ、ちょっとナルト!
そんなルリの声に「へ?」とナルトが振り返る。
ナルトは昔から不当な扱いを受けてたし、この話を聞いたら絶対黒凪を嫌う筈!とルリが口を開いた。
「さっき黒凪がシカマルの事が嫌いだからってシカマルの事を見捨てたりしたのぉ!」
「へ?」
「おいおい、それは言い方が悪いぜ。さっきの会話聞いてりゃ…」
「不幸じゃないから好きじゃないんだってぇ!どうせ自分も不幸じゃないくせに、意味分かんないよねぇ!」
ルリの言葉に「あー…。なんて言うかその…うーん…」とナルトが歯切れ悪くそう言って眉を下げる。
すると散り散りになっていたデイダラ達や限達も戻ってきて「なんだなんだ」とルリの様子に興味津々な様子を見せた。
それを見たルリは「皆も聞いてよぉ!」と黒凪を指差す。
「黒凪って実はぁ、とっても嫌な奴なのぉ!」
「…大丈夫? 君だいぶ責められてるケド…」
『私の事を嫌う人間なんて山ほどいますよ。偏見強いし。』
「あ、自覚あったんだ…」
不幸じゃない人が嫌いなんだってぇ!それでねぇ、不幸じゃなかったら死んでも良いみたいなのぉ!
なんだかんださっきはシカマルを護ったけどぉ、私が居なかったらきっとシカマルは殺されてたんだよぉ!
そんな事を喚くルリに「へー」と言った反応しか返さないデイダラ達。
その反応にルリの怒りはヒートアップして行く。
「なんなのぉ!?なんで皆そんな反応…、あ!皆黒凪が上司だから言えないのぉ!?こんな女皆でやればすぐに倒せるよぉ!」
「そう言ったことは関係ない。黒凪さんには恩がある…だから共に行動しているだけだ。」
「つーかそいつの性格が色々とやばい事は分かってる。うん。」
「俺もそこの所は一応理解済みだ。」
「そうかァ? 俺ぁ好きだぜェ」
「それはお前も頭がおかしいからだろう。」
なんか聞いた事ある声…。
なんて思われない様にイタチが話し始めたあたりで彼等を結界で包んだ。
ちょっと、なんで結界で閉じ込めちゃうのよ。と声を掛けてくるサクラに「色々と事情があって。」と笑顔を張りつけると報告頼んでも良いですか?と声を掛けて彼等を無理矢理里へ帰らせる。
そして自分の結界を摺り抜けて中に入れば先程の会話の続きが耳に入って来た。
「性格悪い事が分かってるんだったら何で嫌わないのよぉ!」
「あいつの考え方に難癖付ける理由が無ェんだよ。基本的に俺等と同じなんでな。」
「はぁっ!?」
「俺達は人を好んで殺す様な人間の集まりだ。だからこそ黒凪さんの考え方に理解を示す事が出来る。」
無表情で的確にサソリ達が言いたい事をまとめ上げたイタチ。
しかし彼だけは暁のメンバー達の中でも根本が違う。
だからこそイタチだけは黒凪の事を距離を保って黒凪"さん"と呼ぶのだろう。
そんな事を考えている限にルリが「限くぅん!」と助けを求める様に声を掛けた。
「限君なら分かってくれるよねぇ!?だって限君は人を殺す事を楽しんだりしないしぃ…」
「…。でも人に虐げられてきた。」
「!」
「そんな俺の事を受け入れてくれたのは、あいつが最初だ。」
彼等の言葉に黒凪が嬉しそうに笑みをこぼす。
するとルリが視線を泳がせ「で、でもぉ!私は黒凪の考え方に皆が染まったら駄目だと思うのぉ!」と再び喚き出した。
黒凪の考え方を理解出来ちゃ駄目なんだよぉ!そんな彼女の言葉に皆がげんなりと顔を見合わせる。
「今からでも遅くないよぉ、もう皆人を殺しちゃ駄目ぇ!」
【お前マジで言ってんの?】
「え…」
【この世界じゃあ弱けりゃ死ぬんだぜ?そんな生温い考えが通用するかよ。】
だからこんな風に歪んじまったわけだろォ?俺達はさ。
火黒の言葉にルリの言葉が詰まる。
俺からしたら君の方がよっぽど変だなぁ。妙に平和ボケしてるって言うかさァ…。
そう言ってニヤリと笑う火黒にルリが俯いた。
――何なの。何なの何なの何なの!!
なんで私が間違ってるみたいな言い方されるのよ!普通は私の言ってる事が正解でしょお!?皆私の味方でしょお!?
こいつだ、この女が居るから可笑しいんだ。
ギロ、と目の前に立つ少女を睨み付ける。
途端に頭に声が響いた。
「――そうさ。彼女が居る限り君が彼等の特別になんてなる筈がない」
「!!」
「此処はね、彼女によって変化させられた世界なのさ。彼女が支配してるんだよ。」
彼女が自分なりの正義を振りかざして、結果的に暁のキャラクター達や木ノ葉の一部の忍が生き永らえてる。
彼女のおかげで助かった人間も多いけど、意味も無く死んで行った人間もこれまた多い。
…そうよ、あの女が間違ってるのよ。
ルリの微かな声に黒凪達が振り返る。
「あんたは間違ってる!!皆を救うのは私なの、あんたじゃないのぉ!!」
殺し合いなんて肯定するべきじゃない!
涙ながらに叫ぶルリに黒凪が徐に一歩を踏み出した。
あんたなんて只の偽善者じゃない、自分の考えに周りを巻きこんで楽しいわけぇ!?
黒凪が膝を曲げ、ルリに顔を近付ける。
『私だってね、この世界がもう少し優しいものだったら殺しなんて肯定したりしなかった。…でもこの世界じゃ強さが無ければ殺される。』
「っ、そんなの皆と仲良くしてたいだけじゃない!皆を否定して自分が嫌われるのが嫌なだけでしょお!?」
『私がそんなタマに見える?』
嫌われるのが嫌だから、なんて考えが出て来るのはあんた自身がそう思ってるからだよ。
私はあんたと違ってシカマルに嫌われようと、カカシに嫌われようと全然構わない。
イタチや限や火黒と一緒に任務に行けなくなっても構わない。
『ずっと一緒に居なくても良い。嫌われたって良い。…ただ生きててくれれば、それでいい。』
生きてるだけで毎日じゃなくたって顔を見られるし、話してる姿だって見られるし、笑ってる姿だって見られる。
…死んでしまえば何もなくなるんだよ。
黒凪がルリの前髪を掻き分けて彼女の額に触れた。
『私は私が気に入った人が死ぬのが一番嫌いなの。だから何が何でも生かす。その為に行動してる。』
「っ、」
『その影響で何人も殺して来た。でも私は幸せよ、好きな人間は皆生きてんだから。』
そしたらその結果、私に同調して一緒に喜んでくれる人が増えて行った。…それが間一族なの。
ルリの身体が徐々に透けて行く。彼女は自分の身体の変化に気付き驚いて両手に目を向けた。
世界中の全員を幸せになんて出来ないし、全員の考え方が統一される筈も無い。
だったら私は自分と自分の大好きな人だけでも幸せになる様に動くだけなんだよね。
「何よぉ、なんで身体が透けてぇ…!」
『あんたは元の世界に帰りな。この世界には根本的に合ってないよ。』
「やだぁ、折角この世界に来れたのにぃ!」
『殺しが肯定されない世界にこそあんたの居場所はある。…ここじゃ無理だ。』
うわあ凄い。時空を歪ませてるよ…。
そんな風に呟いて眺めていた"神"はゆっくりと此方に目を向けた黒凪に目を見張る。
次余計なちょっかい出したら――…
その言葉が放たれた途端にルリが完全に消え去った。
『ぶん殴ってやる。』
「――…おぉ、こわ。」
ひゅんっと消えた"神"にため息を吐いて立ち上がった黒凪は「何処に話してたんだよ」と言うサソリの言葉に「ちょっとね」と曖昧に返して歩いていく。
そんな黒凪の様子にデイダラ達が顔を見合わせていると「久しぶりだったなァ、あの子に啖呵切る奴なんてさぁ」と火黒の声が聞こえて振り返った。
火黒の言葉に小さく頷いた限は「墨村以来だ」と呟く様に言う。
「…喧嘩売られて拗ねてるって事か? うん」
【……いや、多分迷ってんだと思うぜ?】
「迷う?」
【あぁ。昔も良守クンに400年信じて来た自分の考えを覆されて最終的にキャパオーバーでぶっ倒れたしなァ】
黒凪がぶっ倒れるとかヤバくね?と素直に言った飛段に一同が深く頷いた。
あんな馬鹿でも考える事は考えてやがんのか…。そんな風に続けて言ったサソリにまた一同が頷く。
今回は良くも悪くもルリと言う少女に随分と振り回された。
だがその結果として普段は垣間見える事のない彼女の一面を見る事が出来たのだから最悪な日と言う訳でも無かったが。
「――黒凪。」
『…ん?』
「帰るぞ。どっちに歩いてんだお前は。」
呆れた様に掛けられたサソリの声に振り返ると皆が正しい屋敷の方向に身体を向けて此方を見ている。
あ、ごめん…。と引き返してきた黒凪を徐に限が持ち上げて一斉に走り出す。
黒凪は目まぐるしく変化する景色をただぼーっと眺めながら限の胸に頭を預けて目を細めた。
『…限、』
「?」
『私間違ってるかなぁ』
「…俺にとっては間違ってない」
多分あいつ等にとってもお前の行動は間違ってないよ。
そう呟く様に言った限に目を細めて小さく笑う。
『――なら良いや。』
時々不安になる。
(自分を信じ続ける事は、)
(やっぱり怖いから。)