世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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ペイン来襲編
「――そうか…。ご苦労だったな。」
『いいえ。火影様も色々と大変だった様ですし、此処はお互い様だと言う事で。』
「…ああ。ありがとう。」
そう礼を言った綱手に小さく笑みを浮かべる。
そして頭を下げて部屋を出ようとした黒凪は扉を開いた先に立っていた人物を見上げ、「ん?」と眉を上げた。
そこに立っていた人物はにっこりと目を細めると片手をあげて「よ」と言って見せる。
『…あ、火影様に用事ですか?』
「いーや、君に用事。」
『…えー、なんか嫌だなあ…』
「良いじゃない。君結構自由な身分でしょ?この後ちょっと食事でもどう?」
ってか拒否されても連れて行くけど。
私の事を連れて行けるとでも?
カカシの言葉にそう返した黒凪が挑戦的に微笑む。
そんな黒凪に「あはは、確かに。」と何とも思っていない様にカカシが言った。
『…。なんか変わりましたね。』
「ん?そう?(何となくこの子の扱い方が分かって来たんだよね…、)」
『…分かりました。ちょっとだけですからね。』
「お、ありがと。(よし。)」
そうして2人で火影室を出て町に出る。
やがて1つの茶屋に入り、向かい合う様にして座った。
やはり人目に付く事は避けているのか、率先して黒凪が店の奥の席に向かった様に思う。
『で、何を話したいんですか。カカシさん。』
「あはは…やっぱりこういう所に居るのは慣れない?」
『ですね。だから早めに話したい事を提示して下さると嬉しいんですけど。』
そう言って湯呑の緑茶を飲んだ黒凪に困った様な笑みを引っ込め「火黒の事なんだけどさ」と話題を出した。
その言葉に視線をカカシに向け、持っていた湯呑を机の上に戻す。
そして黒凪の言葉を待つ様に言葉を止めたカカシに一言。
『カカシさんって火黒の事結構好きですよね。』
「っ、げほ、ごほっ」
『うわ、すみませんなんか核心突いたみたいで…』
「いや突いてないから!誤解しないで…ごほっ」
ひとしきり咳をして「あー…」と項垂れてから「…ま、嫌いじゃないけどさ…」とカカシが言った。
その言葉に「あははやっぱり」と言った風な顔を黒凪がした為、俺の想像通りじゃない事を願うよ…。とカカシが困った様に言う。
そんなカカシに再び緑茶を飲んで「冗談ですよ。」と黒凪が笑った。
意外に友好的にも取れる彼女の姿に此方こそ「変わったね」と声を掛けたくなる。
『で、火黒の何を聞きたいんです?』
「…。多分教えてくれないだろうけど、火黒が何であんな風になったのとかさ。」
『それは本人無しに言えないですねえ~。』
「やっぱりそうだよねえ。ま、至極真っ当な答えだわ…。」
また困った様に笑ったカカシに「本人に聞けば良いんじゃないですか?きっと教えてくれますよ。」と答える。
そんな答えに驚いた様な顔をすると黒凪がその表情を見て言った。
『何を驚いてるんです?きっと教えますよ、貴方なら。』
「え…、本気で言ってる?」
『はい。だってあんなに仲良いじゃないですか。』
「…。(え、俺と火黒って仲良いの…?)」
んー…?と怪訝な顔をするカカシに小さく笑って「まあ恥ずかしがって言わないかもですけど」と言うと「恥ずかし…、うーん…」とカカシが答えた。
そして「後は何か聞きたい事あります?」と声を掛けて来た黒凪にカカシが手元の湯呑に目を向ける。
「後は…、…ま、これも同じような案件だけど火黒の考えがよく分からないことがあってね。」
『そうですか?火黒ってわりと言葉に出してますけどね…。ほら、この前の時だって火黒が色々言っててカカシさんちゃんと理解出来てたじゃないですか。』
「まあそうだけど…。でもずっと前から不思議だなーって思ってる事もあるんだよね…。」
『じゃあその内分かりますよ。まだカカシさんが居る所で火黒がその話題に入ってないだけです。絶対カカシさんなら分かります。』
はっきりと言った黒凪に「随分とはっきり言うね…」とカカシが言うと彼女がにっこりと笑顔を見せた。
だって火黒の友達なんでしょう?
その言葉に彼女の言いたい事の全てが詰まっている様な気がした。いや、実際にその通りなのだろう。
『私は嬉しいんです。火黒を友達だと言ってくれた事が。あの人をちゃんと理解しようとしてくれてる貴方が。』
「!」
『…きっと貴方が居れば、』
そこで言葉を止めた黒凪にカカシが小首を傾げる。
そんなカカシに笑顔を向け、黒凪が「此処で終わりにしておきましょう。もう良いですか?」と言った。
そして立ち上がろうとした黒凪の手首を掴み、カカシが「じゃあ最後に。」と口を開く。
「…あんまり無茶しないようにネ。」
『!』
にっこりと笑って言ったカカシの手から手首を抜いて「あんまり分かった様な事を言わないようにね。」とカカシの口調を真似て黒凪が言った。
そしてすっと空間を歪めて消えて行った彼女に少しだけ困った様に頬を掻いてから立ち上がる。
やっぱり壁は分厚いよなあ…。そう口に出す事は無く考えて茶屋を後にした。
「―――お、黒凪。報告長かったな。」
『うん、なんかおまけがついて来てね。』
「!…シカマルか?」
『え?…ううん、カカシさんだけど。』
歩きながら流れる様に会話をした為に黒凪がそのまま去っていく。
その背中を見送った閃は少し急ぐ様にして玄関へ向かった。
そんな閃に気付かず黒凪が奥へ進んでいく。右側にある庭には遊ぶ子供達とその面倒を見ている白が居た。
…あーもう。やっぱり前の日永さんとのやり取りの事言ってんだよねあれ…。色々ばれたみたいで嫌なんだけど…。
そんな風に考えながら歩いていると「…黒凪」と名前を呼ばれて顔を上げる。
『あ、日永さん』
「……その顔は何だ?機嫌が悪いのか?」
『ああいえ、機嫌悪くないですよ。』
「そうか」
日永も月久もやろうと思えば相手の内面を見る事が出来てしまう為、彼等自身人の感情を表情や様子で理解する事があまり出来ない。
しかし実は黒凪の内面をその術で把握する事が出来るのはこの兄弟だけで、それが分かっている黒凪はやはり少し尻込みしてしまうのだ。
更に今は彼等の事を考えていたから、そのタイミングもあって表情にまで出ていたらしい。
『結局我愛羅には話したんですか、本当の事。』
「いや、実際にはあいつには関係の無い事だからな…。変わらず砂の上役として動くのだから別に構わないだろうと月久も言っていた。」
『そうですか。私もそれで良いと思います。』
「あぁ。」
間一族に入ってから日永と月久には砂の上役に戻って貰っている。
彼は姿こそ遠のものだが、不思議とその前に乗り移っていた異能者の能力を使えるらしく、今は土で造られた彼の分身と会話をしていた。
砂に戻って貰った理由は2つ。まず1つ目は砂との確実なパイプを作る為。
もう1つは貴重な同盟国である砂を護る為である。
『じゃ、何かあれば言ってくださいね。』
にっこりと笑って言って歩いて行く。
その背中を見送って日永も徐に歩き出した。
そんな2人を見ていたデイダラが徐に深呼吸をする様に息を吐き、再び黒凪の背中に目を向ける。
「……。」
《?…何を怯えている》
日永の言葉が頭を過る。"黒凪が怯えている"と言う節の言葉だ。
彼女が怯えているなんて事は今まで不思議と一度も考えた事が無かった。
どんな時でも彼女は飄々としていて、自信がある様に見えていた。
…でも、自分の知らない所で怯えていたのかもしれない。
「…、(でもオイラに何か出来るのか?あいつはオイラなんかよりずっと…)」
「おい。」
「ん?」
掛けられた声に振り返るとそこに立っているのは閃だった。
彼は随分と機嫌が悪そうな顔で此方を見上げ「なんもすんな。その方が良いから。」とその表情に見合う様な低い声で言う。
まるで心を見透かした様な言い方に怪訝な顔をするとそんなデイダラの様子に気付かぬふりをして閃が黒凪の背中を見た。
「あいつは干渉されるの嫌いなんだ。…何かしてやりてーならあいつが困ってる時にしてやれ。」
「…困ってる時…」
「…困ってる時ってのが分からないんなら何もしない方がマシだぜ。」
そう言って閃が去っていく。
なんだあいつ。そう思って再び黒凪の背中を見て、それからデイダラも自室に戻る為に歩き始める。
閃の言葉はデイダラと同じ様にしていた他の面々にも届いていた。
名前を挙げるなら屋根の上で寝転んでいるサソリ、偶然通りかかったイタチ、会話をしていた場所のすぐそこにある自室に居た角都。そして庭で子供達と遊んでいた白。
同じ屋敷内に居るのだ、彼等が会話を聞いていても別段不思議ではない。
…むしろ閃はデイダラだけでなく近場に居た全員に言ったつもりでいた。
「(くそ、なんで皆勘付いてんだよ…!)」
1人不機嫌に歩きながらそう思う。
閃は自室に入ると胡坐を掻き、腕を組んで眉を寄せつつ部屋に置いてある間一族の紋章が入った上着を睨んだ。
先程黒凪と会話をした後、嫌な予感がして玄関に向かった。
玄関から外に出ると徐に適当な民家の上に立ち、しゃがんで己の妖気を木ノ葉に引き延ばす。
空に浮かんだ雲が太陽を隠し、この里に影が広がっていく様なイメージ。
里全体にまで妖気を広げた時には多少改善された筈の目の変化が現れてしまっていた。
「……。」
≪…お、此処に居たのか。≫
≪?…カカシ先生。どうかしたんすか?≫
≪ちょっと話したい事があってさ。今時間大丈夫?≫
カカシを探していた閃は彼がシカマルに話しかけた事を知るとぴくりと眉を寄せた。
閃はシカマルの事があまり好きではない。これはある意味嫉妬の様なものから来ていると自分でも自覚している。
彼が此方の世界で唯一気付いている為だ。黒凪の危うさに。
「(黒凪は素直に主張をするのが下手で、それを理解してやれるからこそあいつに信頼される。)」
それを可能としているのは、彼女が気に入った人間としている"お気に入り"の面々。
つまり正守、限、閃、鋼夜、そして火黒の5名だけ。後は強いて言うならば彼女と境遇の似ている七郎。
この数名の中に名を連ねている自分は彼女にとって特別な存在であると自負していた。
またそれを嬉しく思っていた。自分を必要としてくれている。それだけでとても嬉しいものだったのだ。
≪さっき黒凪と話したよ。≫
≪え、…あ、そうなんすか…≫
≪そこでやっと分かったんだ。お前が黒凪を気にする理由がさ。≫
てっきり俺は黒凪の事が好きなんだと思ってたんだけど…。あ、恋愛感情でね。
茶化す様に言ったカカシに「え゙、そんな風に思ってたんすか」とシカマルの照れたような声が聞こえてくる。
でも違ったんだな。そんなカカシの言葉に閃がまた眉を寄せた。
≪お前も俺と同じだったんだ。…黒凪の危うさに気付いてた。そうだろ?≫
≪!≫
「(ピンポイントじゃねーか、くそ…!)」
≪…まあ、そうっすね。あいつは確かに物理的にも精神的にも強いし、弱点なんて無い様に見えてます。でも≫
きっとあいつ、心のどっかに凄く大きな何かを抱えてる。
シカマルの言葉にカカシが何も言わずに頷いた。
多分何かトラウマがあるんだと思うんです。その影響であいつは自分の気持ちを他人に伝えるのがあり得ないぐらいに下手で。
それを理解してやれる人間は、きっと極端に少ない。
いや、少ないと言うより。
≪…。あの砂隠れの…≫
閃が唇を噛んだ。
ああいう奴みたいに頭の中を覗かないと誰も気付かないのかもしれない。
それか黒凪よりも上手の人間が居れば。
…でも居ないんすよ。あいつより上手の人間なんて。だから誰も気付けない。
シカマルの言葉が流れ込んでくる。
≪…怖いんすよ。俺は。…いつかあいつが誰にも気付かれず独りで消えちまいそうで。≫
そうだ。俺も限も、頭領も…そして火黒もきっと怯えている。
宙心丸を封印する時だって、黒凪は本当にギリギリまで俺達に弱みを見せなかった。
…いや、気付けなかったんだ。あいつが何を考えていたのか。
良守が居なければきっと知らない内に黒凪はいなくなっていた。
≪俺も黒凪が現れるまでは火黒に対してそう思っていた。だからあいつを独りにしない様に必死だったんだ。≫
≪!≫
≪でも今は黒凪が居るから火黒は大丈夫だと思ったんだが…、それ以上に黒凪の方が危うい様に見えた。≫
お前はその事にずっと前から気付いていて、1人で黒凪を気遣い続けていたんだな。
…ほんと、俺を見てるみたいだよ。
カカシの言葉にシカマルが何も答えずに目を伏せた。
「…くそ、やっぱりあいつ…」
かなり勘付いている。…だがあいつはまだ知らない。
黒凪よりも上手の人間が存在している事を。
…ただその人は、あいつをあまりに知らなさ過ぎるのだ。…父親なのに。
そう考えたと同時に目を見張り、視線を移動させる。
自分の影の中に入ったナルトの思考が頭に流れ込んできた。
黒凪についての情報を手に入れる為にと伸ばしていた妖気だった為、ナルトの黒凪に対する気持ちだけがピンポイントで流れ込んでくる。
「…んでだよ、なんであいつまで、!」
次はキバ。そしてネジ、サクラ…。
同期達の黒凪に対する認識が変わっている。
ずっと黒凪を見上げていただけの彼等が、同じ目線に立とうとしていた。
…追いつかれる。そんな考えが頭を過る。そして。
「!」
間一族の屋敷。その中に居るデイダラ、サソリ、イタチ、角都、飛段、再不斬、白。
彼等の思考も流れ込んでくる。
飛段は相変わらずあまり深く考えていないが、他は違う。
…あいつ等もだ。黒凪の危うさに勘付いている。
まだシカマル程の奴は居ない。シカマルもまだ俺達には追いついていないと言える。
だがシカマルに関しては時間の問題で、そして全くノーマークであったナルト達や暁の面々、再不斬達までシカマルの様になる可能性を孕み始めた。
「っ…!」
やめろ、こっちに来るな。
俺も限も頭領も、火黒も鋼夜もそうだ。
皆お前等と違って何百年も前からあいつと一緒に居るんだよ。
なのにこっちの世界で出会ってまだ10年そこらのお前等が…!
屋敷に戻り、ずかずかと歩いて行く。
前方にデイダラの背中が見える。その視線の先には黒凪。
心を読まずとも彼の考えている事は分かる。
「おい。」
「ん?」
怒りのままにデイダラに言葉をぶつける様にしてしまった。
だが勿論そのまま思った事を口にするんじゃない。こいつはこっちの世界での黒凪の"お気に入り"だ。
こいつだけじゃない。暁の面々や再不斬達は皆そうだ。
…黒凪が気に入った人間は俺だって護りたい。
「…。」
去って行ったデイダラの気配に少しだけ眉を寄せる。
ほら。黒凪が気に入る様な奴はちゃんと俺の言葉を聞くんだ。
鵜呑みにするような馬鹿は連れてこない。…黒凪が気に入る人間は、皆悪い奴は居ない。
そこまで思い返して一思いに自分の髪を掻き混ぜる。
『閃?』
「っ!?」
『何してんの、髪ぼさぼさだけど。』
いつの間にか開かれていた襖から黒凪が此方を覗いている。
ぼさぼさの髪を見て中に入り、閃の髪に手を伸ばした。
なにイライラしてんの、あんたらしくない。
そんな風に言って髪を直す黒凪を見上げる。
「…、なんだよ。何か用か?」
『別に。ただなんか色々考え込んじゃって。』
あんたに会いたいなって思ったの。
笑って言った黒凪に眉を下げる。
不思議と先程までのイライラした気持ちが引いて行った様に思う。
つくづく俺も単純だよなあ、なんて風に思って眉を下げた時、廊下の方で良守と時音の言い争う声が聞こえた。
「だからって何で招き入れるのよ!まさかこの世の全ての浮遊霊の面倒見れるとでも思ってるわけ!?」
「んな事思ってねーよ!でもそんな理屈で放っとけって…!」
「そうよ!今まで手を差し伸べなかった浮遊霊は皆手助け無しにやってんだから!」
「"此処に来なきゃいけない気がした"っつってんのに放っとけるか!」
こらこら2人共、どうしたの。
閃と2人で部屋から顔を覗かせながら黒凪が言うと良守達の正面に立っている浮遊霊が不安気な目を此方に向けた。
その姿に少しだけ目を見張る。
『…君、名前は?』
「…それが、思い出せなくて。」
『……。』
視線を彼の腹部に向ける。
鋭利なもので突き刺したかの様な傷跡が残っている。
つまり彼は自分がどの様に死んだのかを霊体になった時点で覚えていたと言う事だ。
そしてその死に方に強い未練がある。
『…その傷は?』
「クナイで刺されたんだと、思います。…ただ誰に刺されたのか…」
『……。雨隠れの額当てだね。それに濡れて…あ、雨隠れだから濡れてるのかな。』
「…すみません、分かりません…」
目を伏せて言った青年に小首を傾げる。
これは只の勘だが、なんとなく彼の人相とその口調が合っていない様な気がする。
記憶を無くしているのだろうし、今の状態の彼は本来の姿ではないのだろう。
『よし、分かった。君が此処に来た理由が分かるまで此処に居て良いよ。』
「!ほ、本当ですか」
「よっしゃ!良かったな!」
驚いた様に顔を上げた青年に良守が笑顔で彼の背中を叩き、時音が驚いた様に黒凪を見る。
黒凪は時音に頷くと「此処に来なきゃいけない気がした、なんて言われると気になるでしょ?」と笑顔で言った。
そして青年を手招きするとおずおずと屋敷に上がった彼と共に閃の部屋を出て奥へと歩いて行く。
その背中を見送った閃が青年と同じ様に屋敷に上がろうとする時音に目を向け、徐に良守に向けて口を開いた。
「何処で見つけたんだよ、あの浮遊霊。」
「うちの前だよ。なんかこの世の終わりみたいな顔で立ってたから気になって話聞いたら…」
「"此処に来なきゃいけない気がした"って?」
「おう。ほっとけねーだろ?」
「全く、あんたはほんとに甘っちょろいね。」
良守の言葉にそう返して時音が屋敷に上がった。
そしてそのまますたすたと歩いて行く時音だが、そんな彼女の表情が少しだけ綻んでいる様子を見ると目を細めて閃が良守に目を向ける。
良守は「何だよあの言い方…」などと言いながら靴に手を掛けた。
「(…こいつはやっぱりすげえな。力はあるし、誰にでも分け隔てねえし。…それに、)」
不思議と黒凪の事についても、一番最初に気付いていたみたいだし。
そんな風に考えてじっと見ていると靴の紐を解きながら何気ない事の様に良守が言った。
「やっぱお前等って仲良いよなー。」
「え?」
「影宮と黒凪だよ。ずっと仲良いじゃん。」
「…そう、か?」
そーだよ。あいつ裏会の元総帥とかと会って悩んでたみたいだけど、いの一番に影宮の所行ったみたいだし。
…え、と閃が目を見開いて固まった。
そして顔を赤らめた閃だったが、すぐに頭を振って口を開く。
「そんなんじゃねーよ。偶然俺が暇そうだったから来たんだろうし…。」
「その偶然も影宮の実力の内っつーか…。黒凪が誰かに頼りたい時に影宮が居たって事はそういう事だろ?」
「……。」
改めて顔を赤らめて目を逸らし「うるせ。」と言い放って扉を閉める。
そんな閃に振り返った良守は「なんだあいつ?」と呟いて屋敷に上がった。
一方の黒凪と青年は和室に入ると「ちょっとそこに居てね」と青年を待たせたまま黒凪が中の襖を開き物置の中を物色し始める。
『んー…、確かここらへんに…えー…、』
「……。(物凄く大きな屋敷だな…。どうして俺は此処に来ようと思ったんだろう…)」
『あ、あったあった。これキャッチして~』
「え?うわっ」
ぽいっと投げられた水晶玉の付いた首飾りの様なものを咄嗟に受け止め、青年が覗き込む。
突然放り投げられたものを難なく掴み取った青年を見ていた黒凪は襖を閉じ、彼の前に立つと首飾りを彼から受け取った。
そして徐に水晶玉に呪力を籠めると「後ろ向いて」と彼に背中を向けさせ、結界で足場を作り彼の首に首飾りを掛ける。
「っ、ぐ!?」
『あ、ちょっと我慢してね。ごめん言い忘れてた。』
手早く首飾りを結び、ぐっと締め付ける。
途端にぼふんっと煙が起こり青年がどさっと床に倒れ込む。
黒凪も結界の上から降りて青年の目線に合わせる様にしゃがむとしっかりと彼の首に首飾りが掛かっている事を確認して立ち上がった。
『よし、成功。立てる?』
「あ、はい…」
『君名前分からないんだよね。何か希望とかある?』
「え、あ…。特には…。」
じゃあねえ…、そう言って考える様にした黒凪が言った。
遠くと書いて遠(えん)でどう?と。
遠、ですか。そんな風に言った青年に頷いて黒凪が部屋の襖に手を掛けた。
『きっと君はさっきまであったお腹の傷をつけた人の為に動いてると思うんだよ。』
「!」
黒凪の言葉に腹部を見た青年はそこに傷が無い事に気付くと驚いた様に顔を上げた。
そして「どうして、そう思うんですか」と黒凪に問いかける。
振り返った黒凪が笑って答えた。
『はっきりとは見えないけど、何となく必死な様に見えるし…。あとは霊体にまで出る様な傷を抱えてるけど君は傷について恨みを持ってそうでもないから。』
「…そう、でしょうか。」
『そうだよ。君みたいなのは何回か見てるから分かるんだ。…それに似てるし。』
「?」
妹の為に必死だった"遠"って言う男の子に。
笑って言った黒凪に「はあ…」と青年が微妙な返答を返す。
ほら、おいで。そう言って歩き出した黒凪の脳裏に過る。…あの、記憶が。
ああ、神様。
(っ、うわあ!)
(…お兄ちゃん、またあの夢…?)
(あ、あぁ…。ごめん遥…、)
(何度も夢に見る。)
(――、どうか、―――を―――しないで。)
(妹の苦しげな声。そして、次に見えた光の後に、妹は。)
(まるで灰の様にばらばらになって消えて行く。そんな、夢。)
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