世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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火の意思を継ぐ者
『イタ…じゃない、仮面君。我愛羅を。』
「あぁ」
「!」
黒凪が我愛羅から手を離すと同時に彼の身体を自分に向けさせ、イタチが写輪眼を見せる。
途端に我愛羅が膝を着き、ぐったりとした。
それを見て驚いた顔をするナルト達に目を向けて結界を解き、3人を念糸で捕えて引っぱり上げる。
「っ、我愛羅は…」
『大丈夫、ちょっと眠らせただけ。行くよ。』
再び奥へと進む黒凪達に今度はナルト達がついて行く形で進んで行く。
そうこうしている内に前方にカカシの背中が見え、彼の側へ着地した。
すぐにナルト達がカカシに駆け寄り声を掛けるが、操られているカカシは何も返さない。
「カカシ先生、…カカシ先生ってば!」
「なんで聞こえないんだってばよ…!」
「!…ナルト、カカシさんの右手首…」
サイの言葉にカカシの右手を掴み、その手首にある術式に目を向ける。
術式に眉を寄せている間にもカカシは操られた人形の様にふらふらと歩いて行くだけ。
あれは時限式の術式だよ。何があっても時刻通りに発動する。
そんなサイの言葉に「まるで歩く時限爆弾みたいじゃない…!」とサクラが眉を寄せた。
途端に背後にシカマルが着地し「その通りだ」と声を掛ける。
『…あれ?あんたの所にうちの人間が来てない?』
「来てたよ。敵をさっさと倒した後は俺等を先に進ませようとしなかった。」
『じゃあなんで…』
「相手は6人、こっちは9人だ。それにあいつらは俺等を傷付ける事が出来ないみたいだったからな、俺1人だけ抜けさせて貰った。」
あー…、と黒凪が片手で顔を覆う。
そんな黒凪を横目に「あの術式は敵がカカシ先生を取り込もうと無防備になったタイミングで万華鏡写輪眼を発動させるものだ」とナルトに向けてシカマルが言った。
その言葉に「そんな…綱手のばーちゃんが最初からカカシ先生が死ぬ事を覚悟の上で…?」と唖然とナルトが呟く。
彼等が目を伏せる中で黒凪達が気にせずカカシを追い、シカマルがちらりと目を向けた。
「……。助けられるのか?」
『その質問には答えかねるけど、卑留呼は私達が殺すからそこは気にしないで。』
「カカシ先生は!?」
『助けられそうだったら助けるよ。でも生憎君等の術式に関してはからっきしでね。分かんないのが本音。』
黒凪の言葉に「駄目だ!カカシ先生も助けねえと…!」そうナルトが食い下がり、黒凪達を越えてカカシの元へ走って行く。
そんな背中をサクラとサイが見つめ、顔を見合わせてついて行った。
その様子に息を吐いてシカマルも続く。
「待てナルト!お前の声は今のカカシ先生には届かねえ!」
「届かせてみせる!」
【へえ、君が?】
「!」
届くと良いなァ。
笑って言った火黒をナルトが一瞬だけ睨んでカカシの元へ走って行く。
すると「待ちくたびれたよはたけカカシ。よく来たね。」と周辺から響く様に卑留呼の声が聞こえた。
その声に青筋を浮かべてナルトが足を止め、周辺を睨む。
「何なんだよお前は!なんでカカシ先生を…木ノ葉を目の仇にするんだ!」
「――昔、木ノ葉には卑留呼と言う男が居てね。今や三忍と呼ばれる自来也、綱手、大蛇丸とは同期だった。」
しかし卑留呼には彼等のような優れた忍としての素質が無かった。
だから1人孤独に動物実験を繰り返し、鬼芽羅の術を完成させようとした。
…その頃は第三次忍界対戦でね。その中でも激戦区だと言われた神無毘橋での戦い…。
そんな卑留呼の声に火黒が思い起こす様に目を細める。
「その戦いからはたけカカシ、のはらリン、そしてそこに居る火黒が戻ってきた時はそれは驚いたさ…。だがそれ以上に驚いたのはカカシの左目だった。」
はたけカカシは殉職したうちはオビトの写輪眼をその左目に譲り受け、その血継限界を自分のものにしていた。
…これだと思った…!鬼芽羅の術で血継限界を我が物にすれば三忍など取るにも足らぬものだ!
しかしその研究に勘付いた火影によって抹殺されかけてしまってね…。
「…お前も木ノ葉の忍だったのか…!」
「…さあカカシ、こっちへおいで。君で5人目だ。」
そしてお前の血継限界を取り込む事によって私は不死の完全忍者になれるんだよ…!
ふらふらと近付いて行くカカシに「駄目だカカシ先生!」とナルトが声を掛けるが彼の足取りは止まらない。
くそ、と眉を寄せて卑留呼を倒すべくナルトが走って行く。
その後にサクラとサイも続き、そんな彼等に手を伸ばそうとしてシカマルが一歩を踏み出すが、足首を負傷しているのかその場で膝を着いてしまった。
そんなシカマルに黒凪がばっと目を向ける。
「っ、」
『!』
「待て、そいつに忍法は使うな!」
「多重影分身の術!」
大量の影分身が卑留呼に向かって行くが、嵐遁による突風で殆どを消滅させられ、冥遁によりチャクラごと吸収される。
次に空から一直線に超獣偽画に乗ってサイが突っ込んで行くが、そちらも冥遁によって吸い込まれ、目を細めて刀を振りかざしたサイの一撃を鋼遁で受け止めた。
そして次に拳を振り降ろしたサクラの攻撃を迅遁で避け、高速で攻撃を繰り出しサクラを殴り飛ばす。
吹き飛ばされたサクラをナルトが受け止め、その側にサイが着地し、シカマルも駆け寄った。
「今の奴はチャクラを吸い取るだけじゃない、奪い取った血継限界も自在に扱えるんだ!」
そう言ったシカマルを見てナルト達と黒凪達に向けて卑留呼が左手を向ける。
冥遁・邪自滅斗。その言葉と共に彼の左手の印の部分から青い炎が吹きだし、物凄い威力で全員を包み込んだ。
全員を黒凪が結界で護り、彼等の安否を確認するとカカシと共に中へ入って行く卑留呼に目を向ける。
『あの術式が発動したら結局カカシさんは死ぬんだっけ?』
「あぁ、恐らくな。発動する前に卑留呼を叩くのがベストだろう。」
『金管日食まで後何分かな。』
【気にせず行こうぜ。あいつが死ぬんだったらそう言うタイミングだったって事だろ。】
駄目だ!カカシ先生を死なせるわけにはいかねえ!
ナルトの声に黒凪達が振り返る。
どん、とナルトが強く結界を叩き、彼の鋭い眼光が此方に向けられた。
そんなナルトの肩をシカマルが掴む。
「我儘は言うなナルト。…俺達は未来の里の子供達を護らなきゃならねえ。この世界が滅んだら全部――…」
「俺だって里を護ろうとしてんだよ!」
「何処が…!」
「未来の里の子供達に木ノ葉は仲間を犠牲にする里だって、それが木ノ葉の忍だって伝えるのか!?そんなの辛いだけだろ!こんなのは俺の大好きな木ノ葉の忍じゃねえ!!」
俺は護るんだ!俺の大好きな木ノ葉を、未来の里の子供達の為に護ってやりてえんだよ!!
シカマルが大きく目を見開いて動きを止める。
里を、護る。…未来の子供達の、為に。
自分の言葉を復唱する。そう言われてしまえば、俺はナルトに何も言い返せない。…何も。
『…、行くよ。』
「黒凪…!」
『私はね、里の子供なんてどうでも良い。里と言う器があればそれで良いんだ。』
…だけど私は君の事が結構好きだし、完全に無視をするのはちょっと心が痛むね。
黒凪のその言葉にナルトが大きく目を見開き、シカマルも怪訝な顔をして彼女を見上げる。
それと同時にナルトの真後ろに結界を作り、彼を結界から1人押し出した。
そしてナルトを見て小さく笑うと「行こうか」とカカシの元へ向かう。
ナルトも顔を引き締めると黒凪の後に続く。金管日食まで後十秒と言う所にまで近付いていた。
「――さあ、金管日食が始まる。カカシ…私と君はやっと1つに成れるんだ…」
「止めろ!カカシ先生には手を出すな!」
【あーあ、良いのか?行っちまったぜ、あいつ。】
『それはこっちの台詞。あんたこそいいの?カカシさん取り込まれるけど。』
あいつが行ったし態々行くほどでもねえかな。
ナルトの背中を見て笑って言った火黒にちらりと目を向ける。
そして黒凪が徐に呆れた様に息を吐いた。
『あんたねえ、今回に関しては本当に何がしたいのか分かんないんだけど。ナルトをつれて何がしたかったわけ?』
【…俺はさァ、懐かしい景色が見られそうだからアイツを連れて来たんだよ。】
周りを気にせず独走するあのバカを、それ以上のバカが必死に連れてこうとするんだぜ。面白くね?
そんな風に言う火黒に黒凪がナルトに目を向ける。
金管日食が始まり、ボコボコと気泡を割る気味の悪い液体の様なものに包まれていくカカシと卑留呼の元へナルトが突っ込んで行き、共に飲み込まれて行った。
その様子を写輪眼で見ているイタチが微かに目を細めた。
「時限式の術が発動した。このままだとナルトごと飲まれるぞ。」
『あれ、ほんと?じゃあ火黒行こう。』
【は?どうすりゃ良いんだよ。】
『引きずり出せば良いんじゃない?ナルトを。…ついでにやりたければカカシさんも。』
はー…、わぁったよ。
そう言って火黒が両手に刀を出して走り出し、ナルトが飲み込まれた辺りに刀を突き刺して物凄い勢いで斬り込んでいく。
そしてナルトの片手を見つけると力任せに引き摺りだし、もう片方の手が掴んでいるカカシの手を見ると一瞬だけ動きを止めて小さく笑った。
カカシの手を掴み、彼ごと引きずり出して2人を放り投げる。
ごん、と頭をぶつけた様な音が響き、ずざざ、とカカシも勢いのままに転がって行く。
その様子を傍観する様に黒凪達は眺めているだけだった。
【もっと奥の方にめり込んでるかと思ったけどわりと浅いトコで頑張ってたんだなァ、ナルトクン?】
「っ~、カカシ先生は!?」
【ん?…あ、壁にぶつかったなァあの体勢は。】
壁の側で倒れ込んでいるカカシに近付いて彼の腕を掴んで起き上がらせる。
ぐったりとしているカカシの顔を覗き込んでぷらぷらと揺すった。
その隣にナルトも近付きカカシの名を呼ぶ。
それでも反応の無いカカシにナルトが力なく座り込んだ。
「…救えなかったのか…?」
【…。死んだんだったらもう意味ねえな。さっさと卑留呼の野郎を――】
「そりゃあ無いでしょ…」
【あ?】
微かなカカシの声にナルトが顔を上げて笑顔を見せる。
目を開いたカカシがそんなナルトを見て、それから火黒に目を向けた。
「こんなトコで何してんの、お二人さん。」
【俺ぁ卑留呼を殺しになァ。したらなんかお前が変に関わってたからついでに助けただけだ。】
「俺を助けた?…へえ、お前がねえ…」
【あー、言い方が悪かったな。お前を助けたのはこいつだったわ】
ナルトを示した火黒に「へー…」と目を細めたカカシの手をぱっと離し、力なく尻餅を着いた彼を横目に火黒が立ち上がる。
そして徐にゆっくりと起き上がった卑留呼に目を向けた。
卑留呼も此方を見ると月光の下で口を開く。
「危うい所だった…私もカカシ諸共神威で飛ばされるだったよ…。…しかしまさかカカシの教え子が私を救ってくれるとはね…。」
【まだ元気そうじゃねえの。殺し甲斐があるなァ】
「…まさか私の計画の全てが終わったとでも思っていないだろうね…。まだ金管日食は終わっていない…」
地の利、天の利はまだ私にある。
そう言ってゆっくりと立ち上がった。
カカシ。君も殺して…人の利もこの手にしてみせよう…!!
途端に卑留呼の巨大なチャクラが溢れ出し、儀式の為の建物をも破壊していく。
それを見て動こうとするナルトとカカシだったが、体力を消耗しているらしくすぐに動けそうにはない。
『仮面君、2人を連れて行って。卑留呼は私達で対処する。』
「…了解。」
イタチが一気に足を踏み出し、ナルトとカカシを抱えて走り出す。
カカシは顔を上げてイタチの仮面を見ると微かに目を見開いた。
その仮面は…。そう言ったカカシにイタチが仮面の下で小さく微笑む。
そんなイタチは倒壊する瓦礫を全て避けて距離を取り、外に居たシカマル、サクラ、サイの元へ着地した。
「ナルト、カカシ先生!」
「って事は…!」
6人で卑留呼を見上げる。
卑留呼の目がちらりとカカシに向けられたと同時に6人の前に黒凪、火黒、鋼夜が立ち塞がった。
そんな3人の背中にカカシが眉を下げる。
「てっきり俺は里に被害が及べば出て来るもんだと思ってたよ。君等幹部組は。」
『幹部組?』
「俺達は君等の事をよく知らないからさ。だから特に重要な任務で出て来る君等をそう呼んでんの。」
『へえ…。…ま、強ち間違ってもないですけど。』
確かに私達幹部組?は滅多な事では表に出ません。
ただ今回は卑留呼の件で他里から要請が入っていたのでね。
『あ、でもナルト達を態々連れて此処まで来たりはしないなあ。ましてカカシさんを助けてこんな面倒な状況にするなんて事は。』
「…へえ、一体誰がそんな面倒な事を君にさせた?」
『ご想像にお任せします。』
「――君達諸共全員殺してあげよう――!」
物凄い勢いで卑留呼が此方に迫ってくる。
それを見て火黒がにやりと笑い、応戦する様に両手に刀を出した。
そして鋼遁で身体を硬化させて突っ込んできた卑留呼を刀で受け止め、一気に火黒が吹き飛ばされる。
「火黒先生!!」
「あー、大丈夫大丈夫。あいつも中々頑丈だから。」
【…ってぇなァ。】
「!?」
カカシの言葉通り何ともなさそうな火黒が立ち上がり走り出す。
そうして卑留呼が反撃した火黒に斬り付けられ、刀が身体に入る事は無かったがかなりの距離を吹き飛ばされて行った。
刃の欠けた刀を見た火黒はにやりと笑って刃に妖気を込め、また踏み込んで卑留呼の方へ向かって行く。
そしてまた火黒が卑留呼に吹き飛ばされたらしく、今度はカカシにぶつかる形で此方に戻ってきた。
火黒は下敷きになったカカシを振り返って見下ろす。
【あ?…オイオイ、これぐらい避けろよ。】
「いや、俺結構今疲れてんのよ…」
【あっそ。うおっと、】
卑留呼の嵐遁の術が降り掛かり、刀で防ぎながら火黒がちらりと背後で己を支えているカカシを見る。
そして卑留呼の術を弾くと同時にまた同じ術が迫り、今度はナルトへ向かって行った。
それを見てナルトの前に手を出して代わりに受け止め、火黒がカカシに目を向ける。
【おい、そいつそこから退けろ】
「はいはい…」
「うわっ」
火黒の右手の真後ろに居たナルトをカカシが引き寄せると同時に卑留呼の術を受け流し、また火黒が卑留呼に突っ込んで行く。
そしてまた此方に戻って来る形で吹き飛び、カカシの右隣で巨大な岩に直撃して項垂れた。
【あ゙ー…、やり辛ェ。やっぱ連れて来るんじゃなかったなァ】
「あれ、ナルトをつれて来たのお前?」
【まあな】
「珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」
だってそいつオビトに似てるからさァ。
そう言ってぐで、と頭を倒して此方を見た火黒にカカシが目を向ける。
何か懐かしくね?と火黒がにやりと笑って言った。
そして再び迫った嵐遁の術を刀で受け止めて弾き返す。
【チッ、おい黒凪ー。】
『はーい。』
【ちょっと手ェ貸してくんない?】
『良いよ~』
気だるげに立ち上がって言った火黒にカカシが目を見開いた。
そして徐に火黒の横に立った黒凪に眉を下げる。
…そっか、お前もう独りじゃないんだな。
そんな風に考えてカカシが火黒を見ていると迫りくる巨大な竜巻を前に火黒がぼそっと言った。
【お前にはもう必要ねえよ、カカシ】
「え?」
【俺の事はもう気にすんな】
「!」
お前が俺の事を仲間だなんだっつってもな、俺とお前は――…。
黒凪が術を弾き、彼女の手が火黒の腕に触れた。
途端に火黒が強く踏み込み地面が微かに抉れる。
…根本的に違う。その言葉を最後に火黒が目にも止まらぬ速度で走り出した。
途端に此方を微かに照らしていた月の光が消えて行く。
全員が空を見上げた。
「……何だ…?」
「え、あれって…」
「…龍…?」
『…。…水月殿…?』
唖然と呟くナルト達を横目に黒凪が唖然と言った。
そして空を覆う様な巨大な黒龍はまるで卑留呼から光を奪う様に空で蜷局を巻く。
そんな黒龍をちらりと見て火黒が刀を振り上げた。
卑留呼が身体を硬化させて腕を前に出すが、火黒の刃が徐々に身体に入って行く。
それを見て冥遁を発動して火黒に向けるが、一向にチャクラを吸う様子がない。
「き、貴様一体…!?」
【…お前に説明しても分からねえよ。】
火黒がそう言って呪力を込めて更に体重を乗せて行く。
そうすると硬化された卑留呼の身体に今度は随分と簡単に刃が入った。
まるで紙を切るかの様に軽く刀が通り、卑留呼の肩から臍までを大きく切り裂いた。
途端に荒れていた天気が収まり、空に居る黒龍もその様子を見たのか、月を覆っていた蜷局を解いて行く。
するといつの間にか夜が明けていたのだろう、太陽の光が降り注ぎ、空の青空がよく見えた。
「凄い…あの卑留呼をたった1人で…」
「…あぁ…。あいつはいつも独りで…たった独りで戦って…。」
仲間がどれだけ必要だと、大切だと言ってもあいつはいつも独りで勝ってしまう。
そんなあいつを放っておくべきじゃない。手を離すべきじゃないといつも言い聞かせていた。
火黒が気だるげな様子で戻り、黒凪の頭にぽんと手を乗せて此方に歩いてくる。
【な?別に俺の事なんざ気にしなくて良いだろ。】
にやりと笑って言った火黒を見上げる。
…手を離したのは俺の方だったんだな。勝手に死のうとして、勝手に犠牲になろうとした。
あまりに会う事が出来なくて、あまりにナルト達とばかりいたから。だから。
カカシが徐に片手を火黒に伸ばした。
「起こしてくんない?火黒。」
【は?ヤダね。】
「…だよな。」
"もう俺に囚われるな"って事だよな。火黒。
だってお前は俺が必死に引き止めなくても居なくなったりしなかった。
寧ろ離れて行ってもこうして来てくれたじゃないか。
ナルト!大丈夫か!?とキバの声が聞こえてくる。
そんな声にカカシが振り返ると黒凪が嫌な顔をして目を逸らし、そんな彼女の側にフードを目深にかぶった6人が降り立った。
「…ん?お、黒凪じゃねーか!お前確か前に間一族の屋敷に行った時以来…ってマジで全然成長してねえな!」
「…とても奇妙な姿だ。何故なら3年前から全く身長が伸びていないからだ。」
「黒凪ちゃん…久しぶり…」
「黒凪さん!もしや中忍試験以来では!?」
まずキバが気付き、シノが呟き、ヒナタが照れた様に言い、リーが驚いた様に手を上げて言った。
続いてテンテンも「え?ほんとだ!」と驚いたし、ネジも少し驚いた様に何も言わず此方を凝視している。
いの達は角都と飛段との時に会っているし、彼等ほど驚いた様子はなかった。
『あーもう、火黒…。あんたの所為でうちの掟は破られちゃったんだけど。』
【あ?そんな掟あったか?】
『あったよ。あんまり里の忍に会わないとか。』
【ふーん。…でもま、掟より仲間なんだろ。なァ?】
んえ?と火黒の言葉にナルトが振り返る。
そんな2人を見ていたカカシは少しだけ目を見開いて、それから笑顔を見せた。
そして「似てるよなあ。」と火黒の肩にカカシが腕を回し、火黒はそんなカカシを見てにやりと笑い「あぁ」とナルトを見下ろす。
「似てる??」
【おー、似てる似てる。】
「似てる似てる。」
「……なんかホモ臭いってば」
え゙。とカカシが固まった。
そんなカカシを見て「こいつと俺が?くだらねえ事言うんだなオマエ。」と火黒が動転した様子も無く言う。
しかしカカシを不思議と振り払わない火黒に黒凪が片眉を上げて微笑み、そして少し離れた場所に降り立った1人の女性に目を向けた。
火黒もその気配に其方に目を向け、カカシの腕から抜けるようにして黒凪の隣に並ぶ。
黒凪、火黒、鋼夜、そして暁の面々と再不斬と白。
全員が警戒する様に見つめる女性にナルト達も騒いでいた声を止めて見守る様に彼等を見つめた。
『…水月殿ですね』
「…ええ。久しぶりね。」
『日永殿は?』
「貴方達の後ろに。」
水月の言葉にナルト達がばっと振り返る。
気配も無く立っていた日永がゆっくりと足を踏み出し、道を開けたナルト達の間を通って行く。
フードの中にある砂隠れの額当てが微かに見え、シカマル、ネジ、カカシが少し目を見開いた。
『…お久しぶりです。日永殿。』
「あぁ。元気そうで何よりだ」
『……月久殿も。』
「おやおや、ばれていましたか。」
うおぉっ!?とナルトが飛び上がった。
ナルトの真後ろに立っていた月久がにっこりと笑い、日永に近付いて行く。
共に並んで立つ2人に黒凪が目を細め、警戒した様に、しかし笑顔を見せて言った。
『2人仲良くなんてどういう風の吹き回しです?』
「…此方の世界で今度は正真正銘の兄弟として生を受けた。」
『!』
「流石に再び出会って数十年は距離がありましたがね。今はこの通りです。」
あっけらかんと言った2人を見つめ、そして水月にも目を向ける。
いつになく慎重な様子の黒凪にイタチ達もナルト達も怪訝な顔をして両者を交互に見た。
すると巨大な力が此方に流れ込み、その気配に全員が振り返る。
それと同時に黒凪が胸元に仕舞っていた式神を取り出し放り投げた。
「――…でっ!」
式神の術式から現れ、どたっと尻餅をついた良守に全員の視線が集中した。
そんな中で周りを見回した良守は黒凪を見るとばっと立ち上がり「しゃあ!」と歓喜の声を上げる。
良守の下敷きになっていたらしい斑尾も姿を見せると「やれやれ」と息を吐いた。
ぽかんとしている全員の中で黒凪だけが理解したように笑顔を見せる。
『すごい、ぶっつけ本番でこっちに来れたんだ?』
「おう!砂に妙な奴が2人居たんだけどそいつらが消えたから取り敢えず黒凪んトコに…って居るし!?」
『!…砂隠れにいらっしゃったんですか。』
「ええ。今は砂の上役をしてますよ。」
そんな風に会話を交わした黒凪に「やっぱ俺等側だよな?」と良守が問いかける。
その言葉に頷いた黒凪が目を少し伏せながら言った。
『覚えてる?宙心丸を封印した日。』
「!…おう」
『あの日に私と正守が戦ってた相手だよ。裏会の総帥とその弟さん。』
「!!」
大きく目を見開いて一気に警戒した様子の良守に日永も月久も困った様に眉を下げたような気がした。
そんな殺伐とした空気にナルト達はやはり何も言えない。
…ただ言えるのは、あの顔の見えない2人と黒凪達がかつての敵だったと言う事だろうか。
しかし次に聞こえた言葉は。
【ああ、やっと思い出した。昔あんたの面倒をよく見てた2人じゃないか。】
『それは思い出し過ぎだと思うよ、斑尾。』
「懐かしいですねえ…、あの時は驚きましたよ。わずか5年程しか生きていない子供に裏会を作らせようとは。」
「その上間時守はその"子供"を我々の元に置いて逝ってしまったからな。」
1年で独り立ちしたでしょう。
少し照れた様に言った黒凪に「ええ。手はかかりませんでしたね。」と月久が言った。
…余計にややこしくなった。そうナルト達もイタチ達も思う。
そんな中で黒凪の目がちらりとナルト達に向いた。
『(あまり聞かせるつもりのない話があの子達に…、でもこの2人を連れて離れるのは…。)』
歩くにしてもここら一帯は荒れ果てているし、転送させようにも恐らく2人は此方を信用していない。
…いや、此方も信用していないから同じか。
そんな黒凪を2人も察したのだろう、徐に1つの提案をした。
「野暮ったいのは苦手でしたよね?良ければ"頭"を貸して頂けますか。」
『!』
「私が信用出来ないなら兄でも構いません。…此方の頭の中が覗けるなら貴方も楽でしょう?」
『……。』
少しだけ迷う様に沈黙を落としてから頭を差し出した黒凪に日永が少しだけ小首を傾げた。
そんな様子を見てシカマルが微かに眉を寄せる。
なんだ?何であいつあんなに…。
「?…何を怯えている」
『…見れば分かります。どうぞ。』
「……。…ああそうか、お前あの後神になったのか。」
神になった?
日永の言葉に良守や火黒、月久以外の全員が目を見開いた。
何も言わない黒凪の頭に触れながら日永が彼女の記憶を探っていく。
「かつて持っていたものを失えば誰でも怖くなるさ。…今はただの人間だ、怯えるのは仕方がない事だな。」
『……』
「…話が逸れたな。では…、!」
言葉を止めた日永に視線を上げる。
彼の手首を良守が掴んでいた。
…良守君、と黒凪が呟く様に言う。
良守の目が此方に向いた。
「怖いなら怖いって言えよ!水臭いだろ!」
『!』
「…嫌ならそう言っていーんだよ。」
その言葉に眉を下げて微笑む。
そんな黒凪の表情に良守以外の全員がまた驚いたような顔をした。
彼女の表情だけで分かる。今、良守は間違いなく彼女が欲しい言葉を言ったのだ。
自分に黒凪が言った様な言葉を、良守が黒凪に。
そんな事をデイダラや、サソリや、シカマルや…沢山の人間がこの場で思った。
『…大丈夫。もしもの時は君がいるから。』
ああ、あんな言葉を彼女が発するなんて。
この数分の間の出来事で彼女との距離を感じた人間は何人居ただろうか。
これだけの時間で、良守に嫉妬の様な、羨望の様な気持ちを抱いた人間は何人居ただろうか。
「…分かった。」
「……。」
良守がそう言って日永から手を離す。
日永の手が再び黒凪の頭に触れ、暫く沈黙が降りた。
そして顔を上げた黒凪が徐に日永のフードを下ろす。
見えた髪は黒く、その顔に懐かしそうに目を細めた。
『…。もう思い出せないのですね。』
「…ああ。遠の姿より昔のものはもう記憶にない。長らく鏡を見ていなかったからな。」
だからこの姿になったのかもしれない。
そういった日永に眉を下げ、ちらりと月久を見上げる。
彼は小さく笑うと自分でフードを下ろし、その顔を見せた。
その顔は裏会の夢路として活動していた時のもので、彼自身もその姿が最も記憶に残っていたのだろう。
黒凪が目を伏せ、徐に人差し指と中指を立てる。
『場所を変えましょう。…私を信じられますか』
日永、月久に続いて頷いた水月に目を細め、結界でナルト達以外全員を囲み呪力を込める。
一瞬だけナルト達に向けられた黒凪の目にシカマルが走り出そうとした。
しかし一瞬で姿を消し、残されたナルト達は唖然と立ち尽くすしかない。
結局彼等について分かった事はなかったと言える。…いや、寧ろ謎は深まったのではないだろうか。
「…。ま、間一族も色々あるみたいだね。」
「…そっすね」
「うーん、なんか話聞いてたけど色々ややこしそうだったってばよ…」
「…。」
シカマルが目を伏せて拳を握り締める。
そんなシカマルを横目に見ていたカカシは「帰ろうか」と何処までも住んだ青空を見て言った。
間一族の事は分からない。…でも今回もまた彼等に助けられた事だけは紛れもない事実で。
「…俺、あいつ等の事誤解してたかも知れねえ」
「ああ。それは俺も思った。」
「…うん。間一族の人って、…黒凪ってきっと私達が思ってるよりずっと…」
「……。…あいつは良い奴だよ。」
キバが目を伏せて呟き、その言葉にネジも同意する。
そしてサクラも少しだけ眉を寄せて言い、最後に答えを教える様にシカマルがしっかりとした口調で言った。
そんなシカマルを見ていたナルトが一度だけ目を伏せて、それから顔を上げて口を開く。
「俺、間一族の事をもっと知っていきたいってばよ。何であんなに隅に追いやられてるのか…何で仲間の俺等があいつ等の事を殆ど知らねーのか…」
「……。」
ナルトの言葉に頷くシカマル達を見てカカシが再び空を見上げる。
自分が彼等ぐらいの年齢の時にはそんな事を考えた事もなかった。
自分達が子供の頃から間一族はずっと得体が知れなくて、誰も何も知らなくて。
…結局火黒の事さえも。そこまで考えて黒凪の顔が脳裏を過ぎる。
「…。(あの子が現れてから、この里が変わろうとしている)」
間一族も、里の忍達も、徐々に変わっていっている。
タイプは違えど彼女もナルトに似ていた。
誰かを動かす力がある。何かを変える力がある。
里は、間一族は、こいつ等は。ナルト達に目を向けた。
…どう変わっていくのだろうか。
「…!」
「此処は…」
『――ようこそ。間一族へ。』
そう言って門を開いた黒凪の後に続く。
その先にはこうなる事が分かっていたかの様に正守が立っていた。
その隣には限や閃、時音、時雄、守美子も立っている。
彼等がいると言う事は他里とは交渉が上手く行ったと言う事だろう。
「卑留呼は?」
『殺せたよ。他里にもそう連絡しておいて。』
正守が閃に目を向け、彼は一瞬だけ不安げな目を此方に向けて走って行った。
そんな閃を見送って正守の目が再び此方に向けられる。
…正確には月久、日永、水月に。
「…お久しぶりです。」
「ええ。久しぶりですね、墨村君。」
「…墨村…、…ああ、懐かしいな。」
「…、」
月久と日永の隣で水月が慎ましく頭を下げる。
そんな彼女から目を離し、正守が怪訝な顔を月久と日永に向けた。
やはり彼等が隣で仲良く並んでいる様は不思議なのだろう。
「…この光景が不思議ですか?」
「!」
「……話すよ。すべて。」
そう言って顔を上げた日永の顔に正守が少しだけ視線を外す様にして目を逸らす。
そうなるのも仕方がないだろう。かつて自分が殺した相手だ。
しかし日永は何も気にならない様子で口を開いた。
「まず我々の話になるが、いわば黒凪とそこの妖混じりの場合と同じだ。…私と月久も皮肉な事に実の兄弟として此方で生を受けた。」
「…。(ああ、思い出すな…。)」
何も知らずに400年も兄としてあいつに尽くし――。
そんな日永の言葉が頭を過る。
恐らく月久は自分と日永の状態を見てまた同じ人生を歩むのかと思った筈だ。
しかし日永は違う。彼は己と月久が実の兄弟ではない事を知っていたから。
…単に同じ能力を持っていただけだと言う事を知っていたから。
「身体が思う様に動く様になればすぐに互いに距離を開ける様にした。…殺し合おうとは不思議と互いに思わなかった。だがあんな事があって何食わぬ顔は出来なかった。」
「…しかし我々が生まれた里は此方と違い、砂隠れだったのでね。そういう訳にも行かなかった。…まず最初に起こった事は両親の他界です。」
サソリが目を伏せる。
戦争で殆ど出払っていたのであまり環境は変わりませんでしたが、両親が死んだ事によって正真正銘我々は2人だけとなった。
それはつまり、否が応でも我々2人で生きていかなければならないと言う事でした。
そこまで話して月久が両腕を抱える様にした。
「鳥肌が立ちましたよ。かつて殺し合った者同士でこれから先をどう生きろと?」
「……。」
「…いがみ合う事を止めようと提案したのは私の方だった。」
目を伏せて言った日永に正守の目がちらりと向いた。
…そりゃあそうだろう。月久は"あちら"であれだけ日永を見下していたのだ。
やはり仮初とはいえ兄だったのは日永であり、そうなるだけの落ち着きはあるのだろう。
《いがみ合うのはもう良いだろう、月久。協力して行かないと死ぬぞ。私も、お前も。》
《…信用出来ないな。》
《…。ならば私の頭を覗けば良い。》
《ほう、私を信じると?》
…信じるよ。
そうして徐々に互いに信頼出来るようになり、共に砂隠れの忍として生きていく様になった。
やはり2人の能力は凄まじく、砂隠れの勝利に貢献し続け、…やがて里の上役になる。
「…。水月と再会したのは五代目風影である我愛羅がそこの彼に攫われてから数ヶ月後の事だった。」
日永の目がデイダラに向けられ、デイダラが「ん?」と顔を上げる。
その顔を見て日永が少しだけ困った様に笑った。
あの時は今までにない程に忙しく、随分と嫌な思いをしたものだ。
「…お前等が砂の手練れならなんでオイラの前に現れなかった?」
「風影が1人で良いと言ったのでね。我々に文句を言う権限はありませんから。」
「ふーん。」
「…黒凪の記憶を読んで気付いた事だが、数ヶ月前に竜姫と言う妖混じりと出会っているな。」
随分と機嫌が悪くて手こずった様だが、あれにもわけがある。
そう言って日永の目が静かに水月に向けられる。
その視線に応える様にずっと下を向いていた水月が視線を上げ、口を開いた。
…彼女の目はもう記録係のそれではない。彼女も此方に来て色々なしがらみから解放されたのだろう。
「…丁度竜姫が黒凪さんの前に現れた日から数ヶ月前の事です。」
私や竜姫の様な龍の妖混じりが暮らす龍仙境が忍に見つかってしまったのは。
彼等は随分と友好的でした。しかし私達と口寄せの契約を結ぼうとしていたのです。
…これまでの約900年間で沢山の妖混じりの子達を育てて来ました。私は彼女達に人を傷付ける様な事をして欲しくなかった。
「だから私は龍仙境を捨て、皆散り散りになる道を選んだのです。…その日が竜姫が黒凪さんの前に現れた日でした。」
『…だからあんなに機嫌が悪かったんだ。』
「…あの子は最後まで渋っていましたから。」
日永様と月久様を見つける事は容易でした。
度々この900年間で探し続けていたけれど、やっと明らかに強い力を持った存在を感じ取る事が出来たから。
そうして再会したお二人は既に黒凪さんと合流する方法を話し合っていた。
『…何処で私の存在を?』
「覚えていますか、貴方がチヨバア様の傀儡を直接引き取りに来た日の事を。」
『!』
「我々は上役である上に風影様の側近ですからね。あの時は偶然カンクロウとテマリが居た為表に出る事はありませんでしたが、その時に。」
貴方を最初に見た時は驚きましたよ。
そしてすぐに合流する事を考えました。しかし我々は貴方とは良い関係は築けていない。
その上貴方にあの頃の記憶があるのかどうかも分からず、しかも考え方が変わっている可能性もある。
「我々の関係がこれだけ変化したんです、黒凪が変わっていないとは限らない。」
「更に言うなら間一族と言うものがどれだけの力をこの世界で持っているのかも気になった。我々が合流した所でどうもならなければ此方は余計な危険を抱えるだけだったからな。」
そこで貴方を…貴方達を勝手ながら試す事にしたんです。
感情の読めない笑顔で話す所は何1つ変わらない。
そんな風に思いながら月久を正守が見つめる。
…思えば黒凪の飄々とした印象は彼のものを受けて形成されたのかもしれないな、とも思った。
「もしも貴方達が卑留呼程度の相手にはたけカカシを犠牲にする、もしくははたけカカシを見殺しにしてでも里を護ろうとするようならば姿を見せないつもりでした。」
『へえ、仲間を護る組織の方が良かったと?』
「ええ。逆に言えば"そうでなければ黒凪が指揮を執る組織ではない"と判断する事となるのでね。」
私も兄も、そして水月も貴方の居る間一族にしか興味がない。
はっきりと言い放った月久に感服した様に正守が小さく笑みを浮かべた。
「…もしもお前の言う通り、我々がまだ人であった頃に出会う事が出来ていたならどうなっていたか。…無様にも私は死ぬ間際になってそんな事を考えていた。」
「珍しくその考えは私も同意見でしてね。…私の場合は墨村君を見て、でしたが。」
「…え、俺ですか?」
「ええ。君は裏会の幹部になった頃はまだまだ浅はかで、一種の危うさを孕んでいた。」
自分の境遇を憎み、世界を憎んでいた。…まるでかつての間時守の様にね。
身に覚えがあるのだろう、少しだけ正守が苦い顔をした。
裏会創設以前から彼の噂は聞いていましたし、またその末路も目の当たりにしたのでね…。
それを考えると君の未来は良いものではないだろうと密かに予想していたのですよ。
「…しかし違った。いや、…変わったと言うべきでしょうかね。」
君はみるみる内に変わっていった。
その様子を見ていた私としてはとても興味深く…そしてある意味羨ましくもあったのかもしれません。
素直に自分の心内を吐露する月久を日永も正守も、皆が見守っている。
「だからもう一度この世界で貴方に出会いたかった。これから先にどんな世界が広がっているのか、興味があった。」
『何を言っているんだか。…もう貴方も変わっているではないですか、月久殿。』
「!」
少しだけ驚いた様な表情を見せて振り返った月久に黒凪が笑顔を見せる。
貴方はもう十分人間らしくなっている。そんな貴方を…貴方達を歓迎します。
『――…改めてようこそ。間一族へ。』
黒凪の言葉に安堵した顔をした月久、日永、水月に正守も同じような顔をして息を吐き「中へどうぞ」と歩き始める。
ようこそ。
(此処は砦なのだ。)
(居場所をなくした者の、たった1つだけの。)
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