世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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火黒、カカシを頼むよ。
…昔の、あの頃の様に。
「黒凪、厄介な事が起きてるぜ。」
「……夢路久臣って名前、覚えてるか。」
夢路、久臣。
カカシ、そして火の国の絶対的な危機の裏で
もう1つの不穏な影。
火の意思を継ぐ者
『火黒ー。…かーぐーろー』
【はいはい。】
黒凪の声に応じて現れた火黒は彼女が開く襖の中の部屋に居るイタチに目を向けた。
2人を見て少し怪訝な雰囲気を醸し出した火黒がちらりとその2人の前に座る正守と翡葉にも目を向ける。
怪訝な雰囲気を思わず漏らしてしまったのは彼自身が暁の人間と任務に出た事が無い為だ。
しかしこの状況はどう見ても任務前の打ち合わせと言った所の様に見える。
【…任務かァ?】
『うん、まあね。とりあえず入って。』
中に入った火黒がどかっと胡坐を掻き、その様子を横目に見ていたイタチが正守に目を向ける。
襖を閉ざして黒凪も火黒の隣に座った。
さて、それじゃあ早速話を始めるよ。
そう言って正守の懐から出された1枚の写真には酷くぶれているが、何処かに走り去る忍の後姿が映されている。
それを見て火黒がほんの少しだけ目を細めた。
【…カカシか?】
「正解。…どうやらついさっき出て行ったみたいでね。」
【別にほっときゃ良いだろカカシなんざ。】
「放っておくさ。血継限界の忍の行方不明者が続けざまに出ていなければな。」
翡葉の言葉に「あ?」と火黒が顔を上げる。
バサッと机に広げられた4枚の写真に黒凪が目を向けた。
黒凪は自来也さんの一件で少しの間里から離れていたから知らなかっただろうけど、木ノ葉以外の忍五大国で続けて血継限界を持つ忍が失踪していてね。
今の所失踪者の人数は4名。首謀者は翡葉が割り出した。
1枚の写真が机に置かれる。写真に写っているのは1人の男だった。
「――卑留呼。元々木ノ葉隠れの忍だったんだけど、禁術を開発した所為で里を数十年前に追放されてる。」
「三忍の自来也が雨隠れに潜入していた時、同時期に起きていた失踪事件をはたけカカシ、うずまきナルト、春野サクラ、サイの第七班が調査していた。」
まだ木ノ葉は首謀者を割り出せていないからこっちに話が回ってこないが、里の抜け忍で禁術を使う卑留呼が首謀者だと分かればすぐにでも俺達に話が回ってくる筈だ。
…木ノ葉からの要請が無かったのに先に動いていたのか?
翡葉にそう問いかけたイタチに正守が懐から1枚の文を取り出した。
「他里からすぐに連絡が回って来たからね。…正直、火影が五代目になってから拠点としてる木ノ葉からの要請が一番ゆっくりでさ。」
「!」
「三代目や四代目の時は何かあればすぐにこっちに情報が流れてたのに…全く、使い辛い人だよ五代目は。」
『ま、それはこの間の一件で少しは解消されるんじゃない?』
自来也を助けた際に初めて彼女が間一族に礼を言った。あれは大きな一歩だったと言えるだろう。
そんな風に会話をしていると外から「頭領!頭領――!!」と焦った様な声が聞こえ始め、外が騒がしくなった。
その声に顔を上げて外に出て見ると空が曇り、その曇った空に1人の少年が投影されている。
「あらら、これは怒られるなあ。」
『んー?……あ、もしかしてあれ卑留呼?』
「チッ、血継限界の忍4人ごときで調子に乗りやがって。」
『文句言われたら今から行きますって言えばいいのよ。』
――…我が名は木ノ葉隠れの忍、卑留呼。
空に映る卑留呼がそう名乗り、思わず黒凪が小さく笑った。
『これ他里にも流れてるよ。配置してる式神も同じの見てる。』
「わざとらしいね、木ノ葉の忍だって宣言するところを見ると。」
≪我が開発した鬼芽羅の術により、既に4つの血継限界が我のものとなった。――…そして5つ目の血継限界も直に我の元へ来る。≫
そうなれば我は無敵。不死身の完全忍者となる。…その力を持って第四次忍界対戦を起こし…全てを支配する。
そうとだけ言い放ち、卑留呼の姿が消えた。
途端に屋敷の中に在る電話が鳴り響き、正守が「あーあ…」と半笑いで振り返る。
『あれだけ大きく名前を出されたら木ノ葉も動かざる得なくなったね。』
「うん。これはまたうちと木ノ葉…しかも忍界対戦の話まで持ち出されたら他里も介入しそうだし、三つ巴になるかもね。」
『ま、やる事はシンプルだから良いかな。メンバーは火黒とイタチと鋼夜で行こうか。後の人間は木ノ葉が攻撃されない様に細心の注意を払う事。良いね。』
黒凪の言葉を聞いて火黒とイタチが歩き出す。
それと入れ替わりになる形で限が姿を見せ、正守と黒凪に向けて口を開いた。
「五代目が忍を集め始めてます。恐らく戒厳令を出すつもりだと…。」
…首謀者が卑留呼だと分かっていなかった時点でカカシが里を出ている以上、恐らく綱手は何の対策も出来ていない筈。
つまりカカシは完全に操られた状態で、何の策も無く卑留呼の元へ向かっていると言う事だ。
『限、綱手様に何か動きがあればすぐに私に無線で知らせて。私はとりあえずチームを組んでカカシさんを追う。』
「…分かった。」
「黒凪ちゃん!今から任務だよね!?」
『?どうしました、修史さん』
実は暁の子達の笠を洗濯しちゃってまだ乾いてなくてね…。
困った様にそう言った修史が示す先には洗われたであろう笠が並んでいる。
その様子を「あー…」と眺めているとイタチが姿を見せ、何かを言おうとしてふと干されている笠を見た。
「……。」
『…笠?』
「…あぁ」
『……。綺麗になったみたい。』
「……そうか…」
ご、ごめんね!本当に申し訳なさそうにそう謝る修史に「じゃあこれ着けとけよ」と火黒が何かを投げ、イタチが掴み取る。
そして掴み取った仮面を見たイタチは少しだけ驚いた様な顔をして火黒を見た。
【俺の暗部時代の仮面。それなら顔隠れんだろ】
「暗部の仮面は火影に返す筈では…?」
「ああ、この仮面はいわば僕等の情報の1つになり得るからさ。後から三代目のご厚意で返して貰ったんだよ。」
「…成程、ありがとうございます。」
そう火黒に礼を言ってイタチが暗部の仮面を身に着けた。
その姿に火黒がにやりと笑い、正守も小さく笑う。
――行こうか。そう言った黒凪の足元に鋼夜が姿を見せ、彼女を背に乗せて走り出した。
≪――黒凪。≫
『あ、限?どうかした?』
≪今卑留呼の件で五代目が火の国の大名達と会議を終えて戻ってきた。…随分と無茶な要求を吹っ掛けられたらしい。≫
『あらら…、で、綱手様はどうするって?』
同盟国の砂隠れに要請を出した。
相変わらず感情の薄い限の声に「分かった、ありがとう」と返して少し考える様に沈黙した。
限は何も言わず黒凪の言葉を待っている。
『…。砂に良守君と斑尾、霧に時音ちゃんと白尾、雲に守美子さん、岩に時雄さんをそれぞれ向かわせて。交渉を兼ねた警護って形でね。』
≪…分かった≫
切れた通話に息を吐いて無線から手を離す。
面倒な事をしてくれたものだ。これで失敗すれば五大国からの間一族の信頼は地に落ちるだろう。
…ま、逆に言えば成功させてしまえば更に信頼してもらえるかもしれないが。
≪黒凪、聞こえるか。菊水だ。≫
『え、菊水さん?何かありました?』
≪…。ほら、繋がったぞ。≫
≪もしもし、えっと、黒凪さん?≫
無線から聞こえた声はミナトのものだった。
…なるほど、確かに病室には小さな窓があるし先程の様子が見えたのかもしれない。
さっきの卑留呼の映像を見たんだ。君達ならどうにかするだろうけど、妙な胸騒ぎがしてね。
"妙な胸騒ぎ"、か。ミナトの言葉に小さく笑い、火黒に無線を放り投げた。
【あ?なんだよ。】
『ミナトさんから。何か胸騒ぎがしたから連絡してきたみたい。』
【…へェ】
≪もしもし?≫
よォ。無線を着けてそうとだけ言った火黒にミナトが微かに目を見張り「あ、火黒…」とすぐに言った。
声だけですぐに判断の付いたミナトに特に表情を変えず「今回なんかカカシが死に掛けててさァ」とまるで軽く近況報告をする様に言う。
その言葉に「ええっ!?」とミナトが驚いた様に返答を返す。
≪カカシは大丈夫なのかい!?また独りで暴走――…≫
【何年前の話してんだよセンセ。あいつもう三十路だぜ?】
≪あ、……そう、か。そうだね…≫
【…なァもう切っていいか?俺今カカシ追いかけててそんな暇じゃねえし。】
火黒の言葉にまた少しだけ目を見開いて、それからミナトが嬉しそうに笑った。
カカシを頼むよ。その言葉に火黒が「へいへい」と軽く返答を返す。
…昔の、あの頃の様に。
無線を切って火黒が黒凪に投げ返した。
『先生だったんでしょ?もうちょっと生徒らしく話せばいいのに。』
【あんなガキ相手にどう話せってんだよ。】
【"こっち"じゃお前の方がガキだろうがよ】
【あ?】
睨み合う火黒と鋼夜を仲裁する様に「はいはいそこまで。」と声を掛けて正面を見据える。
それと同時に無線がまた着信を知らせ、黒凪が電源を入れた。
≪黒凪、聞こえるか?閃だけど…≫
『閃?あれ、あんた確か非番だったでしょ。どうしたの?』
≪ちょっとしたアクシデントが起きてな、別に非番とかはどうでも良いんだけどさ…ちょっと厄介だぜ。≫
『厄介?』
とりあえず代わるわ。
そう言って一度言葉を切った閃に怪訝な顔をして待っていると「あー、聞こえてんのかこれ?」と不安げな声が耳に届く。
しかしその声は通常では此方に届く筈の無い声で。
『……シカマル?』
≪よう。おはよ。≫
『…おはよう。何、なんであんたが?』
≪忍五大国とパイプのある間一族の事だからもう里を出たと思ってな。…あとは、五代目があんた等を嫌ってるから。≫
そこまで言ったシカマルに間髪入れずに黒凪がこう返答した。
何焦ってんの。深呼吸してちゃんと要点を伝えて。あんたらしくない。…と。
その言葉に一度言葉を止めたシカマルは眉を下げて笑うと息を吐き、そして落ち着いた口調で言った。
≪きっとそっちに行っていない情報だから伝えに来た。…里を出て行ったカカシ先生には五代目による秘術が掛けられてる。その秘術はカカシ先生を犠牲にする事で卑留呼を殺すもんだ。≫
『!…私達より先に五代目の元に卑留呼の情報が行ってたって事?』
黒凪の言葉にイタチや火黒、鋼夜が眉を寄せる。
ああそうだ。カカシ先生が操られて里を出る数時間前に情報が送られてきたらしい。
そんなギリギリになった所為で無茶な秘術を掛ける事になったって五代目が…。
誰から情報が?とシカマルが言い切らない内に黒凪が問い掛けた。
≪…夢路久臣。確かそんな名前だった筈だ。≫
『……夢路久臣?』
≪あぁ。何かに操られた状態で木ノ葉の忍が五代目の前に現れて、そう名乗って情報を…≫
『…夢路、久臣…』
繰り返す様に言った黒凪にシカマルが怪訝に名を呼ぶとはっと目を見開き黒凪が無線に意識を戻す。
そして「情報を教えてくれてありがとう。」そう言って無線を切りかけたがふと動きを止め、再び口を開いた。
『ごめん、切ろうとしちゃった。何かあったんだよね?だから私に連絡したんでしょ?』
≪!…時間、大丈夫なのか?≫
『大丈夫。言ってみ。』
≪…。俺、正直カカシ先生を犠牲にして里を護るって言うのにどうしても納得出来なくてな…≫
しかもさっきカカシ先生の異変に気付いたナルトが飛び出しちまったもんで余計によ…。
…俺はそんなナルトを止める役割だし。
そう言ったシカマルの横顔をじっと見つめて閃が静かに息を吐き、面白くなさそうに目を逸らした。
『…、ま、あんたの好きにすれば良いと思うけどね。でもあんたはそうも言ってられない立場だし…。』
≪……はは、別にお前が悩む事でもねーよ。結局俺はナルトを止める為に後少しで出動する。≫
カカシ先生を助けに行ったんだろ?
シカマルの言葉に「うん」と返事を返せば「じゃあ他力本願で悪ぃけど頼むわ」と眉を下げて言った。
お前等なら多少の事は大丈夫だろうし、…カカシ先生を助けてくれるだろうしな。
『…、』
≪んじゃ、どっかで会うかも知れねえけどお手柔らかに。≫
『…邪魔しなければ何にもしないよ。じゃあね。』
≪あぁ≫
通話を切り「ありがとな」と礼を言って閃に無線を手渡した。
無線を受け取った閃は立ち上がったシカマルを見上げ、「あのさ」と声を掛けて振り返ったシカマルに目を細める。
その不機嫌そうな顔に「あれ、俺なんかやばい事したか?」と勘の良いシカマルが表情を少しだけ引き攣らせた。
「……、…情報は感謝する。ありがとな。」
「…お、おう」
「………」
「…(あ、終わりか…?)」
…行けよ。もう良いから。
そう言って目を逸らした閃に「お、おぉ」と返答を返して早足に去っていく。
その背中を見送って息を吐き、閃が項垂れた。
「(くっそ、あぶねー…今すげえ理不尽な嫌味言いかけた…)」
くしゃ、と前髪を握って眉を寄せる。
…いや、切り替えろ。それよりも夢路久臣だ。
この名前は確か逢海月久が裏会で名乗っていた偽名…。
「あいつらも"こっち"に来てたのかよ…!」
「…閃」
「!…限…」
「さっきの話、頭領に話してきた。」
…あぁ、ありがとな。
沈んだ様子で言った閃に目を細め、その隣にしゃがみ込む。
"あっち"では結局逢海月久と逢海日永の本気なんて向けられちゃいない。
ぼそっと言った閃に限が目を向けた。
「あいつ等が敵で、ましてや手を組んでてみろ…!」
あの時の二の舞所じゃねえぞ…!
ざわ、と風が吹き外の木々が揺れる。
それはまるで、巨大な力が動き出している事を暗示している様だった。
「風影様、木ノ葉へ向かう準備が整いました。」
「分かった。行こう。」
「――…お待ちください、風影様。間一族の者と名乗る青年が…」
「青年?…分かった、通せ。」
一度浮かしかけた腰を椅子に降ろし、現れた少年に目を向け、そしてすぐにその側に浮かぶ奇妙な犬に目を向ける。
青年に目を戻すと着物の胸元に間一族の紋章があり、その手には奇妙な槍のようなものを持っていた。
大体自分と同じぐらいの年齢だろうか、と考えている内に青年が頭を一度だけ下げて口を開く。
「初めまして。間一族の墨村良守です。風影様ですか。」
「ああ、如何にも。今回は卑留呼の件で?」
「はい。もしも木ノ葉を攻撃する様なら止める為に。…あとは卑留呼にやられない様に警護も兼ねて。」
こうして会話をしてみると何となく分かる。
彼はナルトによく似ていた。恐らく敬語なんて堅苦しいものは苦手だろうし、その真っ直ぐな目は何処までも澄んでいる。
そんな良守に小さく笑みを浮かべて我愛羅が言った。
「敬語は構わない。恐らく同じぐらいの年齢だろうし、気軽に話してくれ。」
「!…マジか、ありがとな。俺どうも敬語は苦手で…」
「そんな気がしたよ。…木ノ葉に攻め入るつもりはない。寧ろ協力要請があり今から其方に向かうつもりだった。」
【他里から狙われてるウチの里に来るなんて、よっぽど前の木ノ葉崩しの件を負い目に感じてるらしいねえ】
にやりと嫌な笑みを浮かべて言った斑尾に我愛羅の目がちらりと向けられる。
眉を寄せて此方を睨む我愛羅の周辺に居る忍達を見て後頭部を掻き、良守が斑尾の頭を引っ叩く。
反動で揺れた斑尾が両手で頭を覆う様にしてから甲高い声で言った。
【何すんのさ良守!】
「折角仲良くしてくれてるトコだろ!ちょっとぐらいは良い顔しろよ!」
【なんでアタシがそんな事しなきゃいけないのさ!】
「木ノ葉に関わってるからだろーがよ!」
んまー!あんた口達者になって!
そんな会話を繰り広げる2人に小さく笑い、我愛羅が立ち上がる。
その気配に口論を止めて振り返った2人は笑顔で此方を見る我愛羅に目を向けた。
「これから木ノ葉に向かう。警護を頼んでも構わないか?」
「おう、任せとけ!」
【ったく…、……うん?】
「どうした?」
匂いを嗅ぐ様に鼻を高くして斑尾が周辺に視線を向かわせる。
何かを探す様な斑尾の様子を見ていた良守はぴたりと止まった彼の視線の先に目を向けた。
どうやら斑尾は我愛羅と会話をしている男が気になるらしい。
「…なんだ、知り合いか?」
【…。遠い昔に嗅いだ事のある匂いだねえ…】
「遠い昔ぃ?」
【…"あっち"の事だよ。】
その言葉に良守が大きく目を見開いて再び男を見る。
フードを目深にかぶり口元しか見えない。
しかし辛うじて白くて長い髪が見えた気がした。
「それでは出発するぞ。皆準備は良いか。」
「「「はい!」」」
我愛羅の声に応じて皆が返事をし、里を出た。
風影を運ぶ用の神輿の様なものに乗る我愛羅を「おおお…」と見上げる良守を斑尾が呆れた様に横目で見る。
そうして巨大な岩肌の間を進む事数時間。空に1匹の鳥が現れ、その甲高い鳴き声が響き渡った。
「(…鳥?)」
【――良守、来るよ!】
「うえっ?」
途端に遥か上空の岩肌付近で爆発の光が見え、瞬く間に岩が落下してくる。
よっしゃあ!と構えた良守の肩をぽん、と誰かの手が掴んだ。
その気配を全く感じなかった手に良守が大きく目を見張り硬直する。
斑尾も少し驚いた様な顔をしていた。
「大丈夫。貴方が出る程の奇襲ではありませんから。」
「(コイツ、全く気配が――…!)」
「ほら、あの通り。」
「【!】」
良守と斑尾が顔を上げる。
頭上に巨大な岩肌が盛り上がっており、それらが全ての瓦礫を防いだ様だ。
その様子をちらりと見上げて我愛羅が口を開く。
「ありがとうございます。日永殿。」
「…あぁ」
【…日永…?】
「やっぱ知ってんのか?斑尾。」
…この時斑尾は思い出す事が出来なかった。
もはや500年、いや、600年…。何年前かなど思い出せる筈も無い。あまりに昔過ぎる。
時守が宙心丸の封印で力を大幅に失い、その際に舞い込んだ裏会創設の話。
その創設を考えた2人の男の内の1人が逢海日永であるなど。まして、その逢海日永に弟が居た事など…。
「…、あんた、名前なんて言うんだ?」
「私ですか?…逢海月久と申します。」
「へー、月久と日永って何か兄弟みたいな名前だな。」
「あぁ、日永は私の兄ですからね。強ち間違いでもありませんよ。」
良守に至っては彼等の存在自体をあの世界で知る事は無かった。
彼が裏会総本部へ辿り着いた時には全ての戦いが終了し、彼等は正守の絶界に飛び込んで消滅していたのだから。
強い風が岩肌の間を通り、一向に降り掛かる。
砂が舞い上がり、その風で月久と日永のフードが飛ばされた。
「おっと、今日もこの里は風が強い…。」
「……。」
「(…やっぱ俺は見た事ねーな…)」
【…。うーん…】
ぱさ、と背中に落ちたフードを見る月久の髪は白く、オールバックにして後ろで長い髪を束ねていた。
その瞳は何処か特徴的で、その表情は穏やかであまり感情が読めない。
一方の兄である日永の髪は黒く、短く所々跳ねていてあまり月久と髪質は似ていなかった。
瞳だけは特徴的な部分が同じだったが、兄弟と言うにはあまりに似ていない。
「……。」
ふと、木ノ葉の子供として生まれた黒凪達の事を思い出す。
彼等も兄弟と言うにはあまりに似ておらず、有名になりあらぬ噂も流れていたと聞く。
穏やかな表情のままでフードをかぶり直す月久と無表情のままにかぶり直す日永。
彼等から距離を取り、歩いている1人の忍の元へ寄って行く。
その忍は顔の左半分を布で隠した男だった。
「あのさ、ちょっと聞いていいか?」
「?…はい、なんでしょう」
「あの月久と日永って2人、あいつ等上忍?」
「あぁ…あのお二人はおっしゃる通り上忍です。上忍であると共に上役でもある。」
上役?と訊き返すと「まあ、あのお二人は風影様の側近の様なものです。主にはご兄弟のカンクロウとテマリが側に付いていますが。」そんな風に説明してくれた。
あんまり似てねえよな、と返すと「そうですね…」とまんざらでもなさそうに返して来る。
やはり砂の人間も同じことを思っている様だ。
「月久殿は木遁を使用されます。…ただ御両親、兄上である日永殿共に木遁は扱えないのです。一体どの様な経緯であの方があの血継限界を扱えるのか…」
「…へー…、変な事もあんだな。」
「ええ。更に兄上である日永殿は土遁を使用されますが、月久殿は全く。更にあの風貌ですからね…」
【余計に兄弟になんて見えないねえ】
はい。と斑尾の言葉に男が頷いた。
奇妙な兄弟だ。…本当に、よく似ている。
黒凪達と――…。
【で?カカシ諸共卑留呼ってのを殺す情報は確かなのかァ?】
『確かだと思うよ。シカマルからだし。』
ま、情報だと卑留呼は術をチャクラ化して吸収する術も開発しちゃったみたいだし、彼等からしたら脅威だろうしねえ。
…たった1人の犠牲で済むならそうするかも。
目を伏せて言った黒凪にイタチが静かに口を開いた。
「鬼芽羅の術の発動には特殊な光が必要だと聞いた事がある。その詳細は知らないが、カカシさんがこのタイミングで出たとなると恐らく金管日食の光だ。」
『…ああ、明日だね。確か。』
【なら次の夜までにカカシ連れ戻しゃいいんだろ。んな深刻になる事ねえよ。】
『うん、それは大丈夫だろうけど……夢路久臣ってのが気になってね。』
あの人がこっちに居るのにも吃驚だし、なんか知らない内に邪魔されてるのにも吃驚したし。
私達の邪魔をしたいならあの人がこんな分かり易く名前を名乗るのは可笑しいし…、うーん、何したいんだろ…。
本気で頭でも抱えそうな黒凪にちらりとイタチが目を向けた。
「聞いた事の無い名だ。どんな人間か訊いても良いか?」
『良いよ。…夢路久臣って言うのは凄く強い能力を持っててね。しかも私とほぼ同年代。寧ろちょっと上なのよ。』
「……500年は生きていると?」
『途中で死んだから大体450年ぐらいかな。…今はどうか知らないけど、正守じゃ勝てなかった。』
正守では勝てなかった。その言葉にイタチが微かに目を細める。
面倒そうだな。仮面で隠れてはいるが、少し深刻そうな声でイタチが言った。
彼からすれば未知の存在である間一族側の人間である上に強い、と更にレベルが上がった様なものだ。その言葉に偽りはないだろう。
≪――黒凪、五代目から連絡が入った。"はたけカカシは抜け忍となった。故に一切の干渉は無用。"だってさ。どうする?従う?≫
『従わない。もう出ちゃってるし。』
≪はは、だよな。ちなみにナルトも同じ様な事言って里を飛び出してカカシさんを追ってるらしい。≫
『分かった、ありがと。今カカシさん見つけたからついでに卑留呼も叩くわ。』
目の前にある巨大な扉を通ろうとするカカシが見えた。
彼をこのまま扉の先に入らせ、その後に続いて我々も中に入る。
そして現れた卑留呼を殺して、カカシを連れ戻す。
…そう考えていたのだが。
「――…黒凪!?」
微かに無線の先から聞こえたナルトの声に正守が笑う。
そのナルトを追ってる忍も居るって言ってたからさ、――――を出しちゃったけど構わなかった?
あー、全然良いよ。人手不足だから仕方ないし。
そんな風に返答を返してから無線を切り、ナルトを見据えて構えた。
それを見たナルトとサクラが大きく目を見張り、彼等も眉を寄せて構える。
しかしそれより早くクナイが黒凪達とナルト達に降り注ぎ、両者共に足を止めた。
『ありゃ、追いつかれた。』
【チッ、色々と考えながら走ってたからな…】
「……。」
【随分と大人数じゃねえの。】
シカマルを中心としたチョウジ、いの、ヒナタ、キバ、シノ、リー、ネジ、テンテンの8名を見据えて黒凪が目を細める。
その近場に立つナルトとサクラも彼等に身体を向けて眉を寄せた。
「ナルト、サクラ。及び間一族御一行。里の掟により、お前達を里に連れ戻す。」
『従う義理はない。悪いけどそう言うのは里の人間だけでやってくれる?』
「待て。」
背を向けた黒凪達の前にネジ達第三班が降り立った。
これは火影の命令だ。あんた達は木ノ葉の一族だろう。…従う事は至極真っ当だと思うが?
静かにそう言ったネジに火黒とイタチが構える。
しかしその様子を見て「待てってばよ!」とナルトが声を張り上げた。
「カカシ先生は今誰かに操られてるんだってばよ!このまま放ってたら危険なんだ!…黒凪、お前カカシ先生を助けようとしてんだろ!?」
『…半分正解ってトコかな。』
「…って事はやっぱカカシ先生に何か起きてんだな…!」
『うん、それは正解。』
薄く笑って言った黒凪に「おい…!」とシカマルが声を掛ける。
彼は火影の命令に従って表側だけでも此方を止めるつもりらしい。
…成程、力尽くで此処を抜けるしかないかな。
『火黒と、えっと…仮面君でいっか。あの3人を程よく伸してくれる?』
「止めろ黒凪!里の掟に従え!…お前もだ、ナルト!」
「確かに里の掟を護らない奴はクズだ。でもな――…」
火黒が足を踏み込み、イタチが写輪眼を開眼する。
今にでもネジ達に2人が突っ込んで行こうとした時、ナルトの言葉が火黒の耳に飛び込んできた。
「仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ。」
【――!】
イタチが走り出そうとして、その目の前に火黒が一瞬で手を伸ばす。
そして咄嗟に勢いを殺したイタチを横目に大きく見開いた目をナルトに向けてから、にやりと笑った。
「あの、カカシ先生が何者かに操られていると言うのは本当ですか!シカマル君!」
「っ、…あぁ。……カカシ先生は今、態と敵の術に掛かりその懐に飛び込もうとしてる。そしてそのまま、」
「…カカシ先生を犠牲にして敵を倒すって事か?」
「…そうなるな。」
キバの言葉に頷いたシカマルに彼と共に来ていた面々が顔色を変える。
そして顔を見合わせる中でリーがまた口を開いた。
それを知っていたなら僕だってナルト君と同じ様にしました!と。
その正直な意見にキバやヒナタも頷き、皆も小さく頷いた。
しかしシカマルの表情は依然として固いまま。
「そうもいかねえんだよ。…こうでもしないと敵は倒せねえ。」
【なァ黒凪、コイツ連れて行こうぜ。】
「うぉおっ!?」
『え?』
ナルトの首根っこを掴んで言った火黒に目を向け、返答を返そうとした途端に地面が一気に盛り上がり1人の男が姿を見せた。
それを見てシカマル達が飛散し、火黒もナルトを掴んだままで回避する。
そしてそのままカカシが消えた扉へ向かう火黒に息を吐いて黒凪達も続いた。
サクラも焦った様子でその後に続く。その背中を見てシカマルが眉を下げ、ネジ達に目を向けた。
「ネジ!此処は任せる!」
「分かった。行くぞ、リー、テンテン」
「はい!」
「オッケー!」
その会話を聞いて「させませんよ。」と嫌な笑みを浮かべて男が口寄せを発動する。
発動された大量の蛇が走り去ろうとするシカマル達に巻き付くが、テンテンが起爆クナイで攻撃し、シカマル達が走って行った。
その様子に舌を打った男の前にネジ達が降り立ち、静かに見据える。
「此処は僕達が相手です!」
「…気を付けろ2人共。こいつのチャクラ量は只者じゃない。」
「了解!」
「ほう…少しは楽しめそうですねぇ」
「ちょ、離せってばよ!」
【暴れんなよ。お前はちゃんと連れてってやるって。】
『ちょっと火黒、どういう風の吹き回し?』
【なんか懐かしい台詞が聞こえたんだよ。良いだろ別に。】
それ理由になってないんだけど。
呆れた様に言って黒凪がため息を吐き、「良いのか」と問い掛けてきた鋼夜に頷いた。
そうして1つ目の門を潜るが、また現れた同じ様な門を見上げて足を止める。
門の上に1人の女が巨大な犬と共に立っていた。
「さっきから私の御子達がお待ちかねだよ。いつかの借りを返したいってねえ…」
『…。新手だね。さっさと殺して進もうか。』
「ちょ、火黒先生!ナルトを離して!」
【っせえなァ。お前は放ってっても良いんだぜ?】
心底面倒臭そうに言った火黒にぐっとサクラが眉を寄せる。
その様子を横目にイタチが印を結ぼうとすると背後に追いついたキバが口を開いた。
「カカシ先生が操られてて危険なんだろ。此処は俺等に任せて先に行けよ。」
「キバ!」
「ナ、ナルト君達は間違ってないと思う…」
「掟やルールはどうあれ、結局此処は俺達に任せるべきだ。何故なら此方には獣のスペシャリストが居る。」
シノの言葉に「おうよ!」と威勢よく返答し、キバが赤丸と共に牙通牙で門ごと向かってきた巨大な犬を吹き飛ばす。
そうして門に開いた穴を見て黒凪達が進んで行った。
後ろの方からシカマル達の声が聞こえてくる。
扉を通り抜けた所で黒凪がため息を吐き、眉を寄せた。
『あー、気持ちわる。なんで里の子達に手助けされて動いてんだろ…』
【…あいつ等が死んだらどうする。それこそ面倒だろう。】
『それは大丈夫。正守が仮面君の元同僚達を派遣してくれたみたいだから。』
「…大丈夫なのか?」
ぼそっとそう言ったイタチにナルトとサクラが目を向ける。
そんな2人を全く気にしない様子で「大丈夫でしょ。」と黒凪があっけらかんと答えた。
印を結ぼうと構えた男にネジ達が構える。
それと同時だろうか。突然現れたフードを深くかぶった何者かが男の後頭部を蹴り飛ばしたのは。
「ゲハハハァ!すぐにテメェもジャシン様の元へ送ってやるぜェ!」
「あまり個人を特定されやすい様な言動は控えろ。」
「そこは任せるぞ、うん。」
「……」
「行くぞ。」
「はい。」
流れる様に会話をして去って行った4人の忍と自分達の側に留まった2人の忍。
彼等を唖然とリーとテンテンが見る中でネジだけが冷静に「何者だ?」と問い掛けた。
そんなネジに見向きもせず背丈が大きい方の忍が背中にある間一族の紋章を示す。
「間一族の者だ。分かったら黙ってそこに居ろ、すぐに片付ける。」
「行くぜ角…」
「名前は伏せろ。」
「いってェ!」
だ、大丈夫なんでしょうか。
そんな風に言ったリーにネジも少しだけ怪訝な顔をして頷いた。
そして2つ目の扉の前で戦っているキバ達第八班。
彼等の元にもフードを目深にかぶった4人が追いつき、彼等の上空を巨大な鳥が飛びまわる。
途端に無数の起爆粘土が降り注ぎ、キバ達3人をチャクラ糸で4人の内の1人が引き寄せた。
「っ!」
「何だお前等…!」
「(何この人、チャクラが身体の中心と関節の節々にしか――…)」
「余計な詮索はするな。俺等は間一族のモンだ。」
男の言葉に3人が目を見開いて抵抗を止める。
そして巨大な犬を瞬く間に吹き飛ばした起爆粘土に目を向け、目の前に降り立った男に目を向けた。
男は気だるげに肩を鳴らして息を吐くと余裕綽々と言った風な口調で言う。
「んじゃさっさとやっちまうからそいつ等頼んだぜ旦那。」
「3分で終わらせろ。」
「へいへい。」
軽く返答を返して印を結ぶ男の背中には大きく正方形の紋章が見える。
そして始まった圧倒的な戦いに3人は目を見開いて眺める事しか出来ない。
そんなキバ達の背後で男がちらりと振り返り口を開いた。
「お前等は先に行け。まだ一班残ってる。」
「あぁ。」
「頼みます。」
繰り広げられる戦いを避ける様に2人の忍が走って行く。
彼等の背中にも正方形の紋章が刻まれていた。
【いやー、なんかカカシもくせえ事するよなァ。まさか君等に教えてたなんてさ。】
「?何がだってばよ」
【さっき言ってたろ?仲間を大事にしない奴はクズだとか何とか。】
「!」
よく覚えてるよなァ。
懐かしそうに言った火黒を見上げてナルトとサクラが目を見合わせる。
あまりに暴れる為に先程からナルトは火黒から解放され黒凪達と共に走っていた。
「…そう言えば火黒先生ってカカシ先生と下忍の頃から一緒なんですよね?」
【まあなァ】
「…。それにしてはなんだか他の先生達とは違う感じ、ですよね。」
【そりゃあ俺は間一族だからなぁ。わざわざ会うもんでもねェし。】
なんで間一族だからって理由でそういうのがまかり通るんだってばよ。
ボソッとそう言ったナルトに火黒が目を向ける。
カカシ先生が言ってたんだ。火黒先生は唯一生き残った親友だって。
その言葉に火黒は表情1つ変えない。
「カカシ先生は慰霊碑に刻まれた親友の名前を見ながら言ってた。火黒先生だけは失いたくないって。…失えないって。」
【…。はっ、余計な世話だな。】
「…今までみたいに会えないんだったら死んじまったのと同じだってばよ。だからもっと――…」
【生きてんだから良いだろ。】
火黒の言葉にナルトが言葉を止める。
カカシに言っとけ。俺は死なねえってな。
…だから余計な心配はするな。火黒が止めた言葉の先にそう続く様な気がした。
そう思ったのと同時だろうか。上空から無数の羽のようなものが降り注ぎ、地面や岩に突き刺さり爆発する。
その爆発を避ける様に跳び上がり、黒凪がちらりと振り返った。
「話を聞けナルト!俺だってカカシ先生は助けたい!だがこうするしかないんだ!」
『(よし、無事だね。)』
ついて来ているシカマル、いの、チョウジに息を吐いて前方にまた目を向けた。
そして巨大な屋敷の様なものを見上げるとまた空から攻撃が降り注いでくる。
しかしそれを阻止する様に上空で明るい光が広がり、顔を上げた。
「――…ナルト、サクラ!乗るんだ!」
「サイ!」
物凄い勢いで超獣偽画の鳥に乗って現れたサイがナルトとサクラを乗せて飛んで行く。
それを見て黒凪も式神を出して巨大な鳥を作ると火黒達を乗せてその後について行った。
その様子を見上げて舌を打ったシカマルに「置いてけぼりだね…」とチョウジがぽつりと呟く。
そして顔を上げ、上空を飛ぶ鳥とその上に立つ男を見上げた。
「どうする?シカマル…」
「俺等は敵じゃないっつっても信じねえだろうしな…」
「さっさと終わらせるわよ!」
「――…その必要はない。」
ざっと3人の目の前で足を止めた男が首切り包丁を持ち上げ、肩に担いだ。
そんな男の背中の紋章を見たシカマルが目を見張ると同時に空から男と鳥が落ちてくる。
鳥の翼は凍りつき、男の腕には鋭い氷が突き刺さっていた。
「鳥の翼は凍らせました。多分もう飛ぶ事はないと思います。」
「よし」
「……間一族の人間か?」
「はい。貴方達を護る為にと派遣されました。」
振り返ってそう言った忍の唯一見える口元は笑っている。
どうか僕等から離れず、そこに居て下さいね。
そう言った忍を尻目にもう1人が敵に向かって走って行った。
【ちょっと良守。あんたそれ連絡来てるよ。】
「ん?お、ホントだ。…もしもし?」
≪…墨村、そっちは大丈夫か?≫
「志々尾か?大丈夫だぜ。なんか奇襲みたいなの掛かったけど。」
そうか、なら良い。
そうぶっきらぼうに言った限に「そっちは?」と良守が訊き返した。
その問いに「こっちは別に…。強いて言うならうずまきナルトがはたけカカシを助けに飛び出したぐらいで。」と限が返す。
「へー。すぐこういう時に飛び出すよな、そのうずまきって。」
≪まあな。…一応聞いておくだけだから気にしなくて良いが、そっちに夢路久臣って奴はいるか?≫
「いや、それらしい名前は聞いてねえけど…。…でもちょっと妙な奴はいる。」
≪!…どんな奴だ≫
限の緊張した様な声を聞いた良守は声を潜め、斑尾が気付いた匂いについて、また奇妙な兄弟についてを報告した。
そんな良守の報告を聞いた限は暫しの沈黙の後に「わかった」と答えて側に居る閃に目を向ける。
閃は小さく頷くと正守の元へ向かい、限が再び無線に向かって口を開いた。
≪いいか、そいつ等から目を離すな。風影が動いてもその兄弟の方が優先だ。≫
「分かった。…色々大変そうだな。大丈夫か?」
≪こっちは大丈夫だ。…お前も気を付けろよ。≫
少しだけ気恥ずかしそうに放たれた彼の言葉に小さく笑い「おう」と返答を返して無線を切る。
すると駕籠に乗っていた我愛羅が通信が終わったタイミングを見計らい「ナルトがどうかしたのか?」と駕籠の中から声を掛けた。
振り返った良守が「あぁ。なんかはたけカカシを追って里を出たみたいで。」そう返すと「?何故追う必要がある。」と我愛羅が問い返す。
「あー…、卑留呼を倒す為にはたけカカシが里抜けしたらしいんだ。で、多分それを追ってったんだと思う。」
「里抜け?」
「なんかはたけカカシを犠牲にして卑留呼を倒す術があるみたいだぜ。それしか勝算が無いから火影もカカシの申し出を許したらしいけど…、ま、それが許せなかったんだろ。」
「…そうか…」
そう言ってほんの少しだけ沈黙すると「すまないが先に行っておいてくれ。」と伝えて駕籠の中から砂がさらさらと風に乗って飛散した。
それを見た良守が「へ?」と砂を見上げている間にも他の砂隠れの忍達は歩き続けている。
1人状況が分かっていない様子の良守に月久が近付き、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫。いつもの事です。我々は木ノ葉に手を貸すつもりで動いていますし、それだけ守ればどうにかなります。」
「いつもの事って…」
「風影様は恐らくそのうずまきナルトの元へ向かったのでしょう。」
「…はあ!?」
ああ、悪しからず。風影様の行方は把握しておりますので。
その言葉に「どうやって、」と思わず問いかけた良守にまた笑って月久が人差し指で自分の頭を示した。
そんな月久に怪訝な顔をして良守が正面に目を向ける。
『――あ、降りた。私達も降りよっか。』
【別にあいつ等について行く事はねえだろ…。】
『一緒に行きたいって火黒が言ってるからね。ちょっと手間が増えるぐらい良いかなって。』
【へェ、優しいとこあるなァ】
当たり前でしょ。何年一緒に居んのよ。
そんな風に言った黒凪に火黒がにやりと笑う。
しかし側を通った大量の砂にぴくりと反応して振り返り、ナルト達の正面に現れた我愛羅を見下した。
我愛羅を警戒しつつ黒凪達もナルト達と同様に式神から降りて地面に足を着ける。
「我愛羅!?…なんだ、お前も来てくれたのか!」
「……ナルト。お前をこの先に行かせるわけにはいかない。」
「え、…お前何言ってんだよ!カカシ先生が――」
「カカシもそれを望んではいない。お前が行けばカカシの計画が全て台無しになる。」
んなわけにいくか!カカシ先生が死んで助かったって何も嬉しくねえんだよ!
そう啖呵を切ったナルトに何も言わず我愛羅が腕を上げる。
途端に大量の砂がナルト諸共サクラ、サイを遠ざけて行った。
黒凪は火黒、イタチ、鋼夜を結界で護り、流されて行くナルト達も救出する。
『こら、どうしても進みたいんだったらそんなに簡単に流されないの。』
「っ、悪い…。…我愛羅!なんで邪魔するんだってばよ!」
「いつかお前は俺に言ったな。仲間を護る為なら命も掛けると。…カカシは今、皆を護る為に犠牲になろうとしている。」
「だからそれが駄目なんだ!俺は誰も犠牲に何てしたくねえ!」
それは理想論に過ぎない。…俺の背には今、砂隠れの皆の命が掛かっている。
お前の理想を通すにはまだ俺達は弱過ぎる。
表情を変えずに言った我愛羅に黒凪が構え、細い結界を無数に我愛羅に向けて伸ばした。
砂の壁で全てを受け止めた我愛羅の目が此方に向くと同時に空間を歪めて黒凪が彼の目の前に出る。
『そうだった、君とは結局中忍試験でも殆ど話せなかったからね。私の事はあまり知らないのかな。』
「…そんな事はないと思うが。」
『なら私達をその"弱過ぎる"って言う枠に当てはめないでくれる?…あと、』
監視されてるけど大丈夫?
そう言って黒凪の手が我愛羅に伸ばされる。
すぐに動いた我愛羅の砂を火黒と鋼夜が弾き、一瞬で我愛羅の背後に回ったイタチが彼の腕を拘束した。
そして黒凪の片手が我愛羅の額に触れる。
『…。月久殿。』
「!?」
我愛羅がぼそっと呟いた黒凪に驚いた様に目を向ける。
しっかりと挨拶をしたい所ですが、生憎今は時間が無くてね。
黒凪の声はしっかりと月久の元へ届いている。
目を伏せてその言葉を聞く月久を遠目に日永が眺めていた。
『なので用件だけ。…貴方がこっちで何をしようと自由ですが、一族の人間に手を出したら容赦しませんよ。』
黒凪の言葉に月久が小さく笑い、日永に目を向ける。
そんな月久に少しだけ目を見開いて日永が目を伏せた。
そして小さく微笑むと空を見上げてゆっくりと右手を伸ばす。
――風向きが、少し変わった気がした。