世界を君は救えるか【 × NARUTO 】

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  自来也豪傑物語


「…そうか、うちはが…。それに三代目もお亡くなりに…。」

「うちはの事件については先程話した通りです。…大蛇丸が起こした木ノ葉崩しの際に我々は出払っていまして、三代目に尽力する事が出来ませんでした。」

「…。いや、仕方がない事だよ。悔やむ事はない。で、今の火影は誰が?」

「三忍の綱手様です。戦争も無くなり今は平和ですから、滞りなく里の政策は進んでいます。」



 ただ今は暁が尾獣を狙い暗躍していまして。…ま、大半は我々が間一族に引き込んでいるんですが。
 引き込んだ?そう訊き返したミナトに小さく頷いて正守が隣に座る黒凪に目を向けた。
 ああそうだ、彼女の紹介をまだ受けていなかったよね。
 そう言って笑ったミナトの視線と黒凪の漆黒の瞳が改めて交わった。



「彼女は間黒凪。間一族の時期当主です。」

「時期当主…と言う事は相談役の時守様の…、…お孫さん…かな…?」

『一応娘です。こんな姿をしていますが年齢的にはナルト君と同じですよ。』

「…え?」



 間一族特有の能力だと思っておいてください。彼女は自分の意志で姿を調節できるもので。
 困った様に笑って言った正守が背後に感じた気配に振り返る。
 ミナトも顔を上げると姿を見せた人物に大きく目を見開いた。



「…時守様、」

「暫くぶりだね波風君。身体はどうだい?」

「おかげさまでどうにか…。…それにしても、その…」

「ああ、姿が変わらないだろう?私はこの姿で100年生きているからね。今更変える気にもなれないのさ。」



 にっこりと笑って言った時守が黒凪の頭に手を乗せて少し腰を屈める。
 もう聞いているだろうが、この子は私の娘だ。これから何かあれば正守君かこの子に聞けば良い。
 その言葉に「ありがとうございます、」と頭を下げて顔を上げる。
 そこには既に時守の姿はなく「相変わらずのらりくらりと掴み所のない人だ」そう思った。



「…驚いた、本当に間一族の方は不思議な人が多いね」

「ええ。全くです。」

「…。さて、里の状況については分かったよ。これから僕は一体どういった扱いになるのかな。」

「…ミナトさんは表では亡くなった事になっています。クシナさんと共に。」



 正守の言葉にミナトは表情を変えない。何となく予想は付いていたのだろう。
 間一族で治療を受けて生き延びた者は全員死んだ事としています。それは我々間一族の内部の情報が洩れないようにするため。…ご理解ください。
 そう言って頭を下げた正守に「助けてくれただけで十分だよ。頭を上げて。」とミナトが笑顔で言った。
 その言葉に頭を上げ、正守が続ける。



「貴方も、クシナさんも、…そして奥で眠っているのはらリンさんも、この世にはもう存在しない事となっている。そしてこれから先も世に知られる事はない。」



 これが正解だったのかどうかは俺には分かりません。
 此処に居る方々を救ったのは我々の完全なエゴに近い。
 …死なせたくなかったと言う勝手な理由だけで我々が無理に生かした形になります。
 正守の言葉をミナトは何も言わずに聞いている。



「…。俺は、」

『でも方法が無いわけじゃない。』

「「!」」



 黒凪の言葉に2人が顔を上げた。
 これから先に恐らく大きな戦争が起こる。
 その戦争に木ノ葉が巻き込まれる様な事があれば、此方も戦力を出し惜しみする気はないからね。
 そう続けられた言葉に2人が徐に目を見開いた。



『波風ミナトさん。貴方がもしも16年前と同様かそれ以上の体力に戻ったとしましょう。そして我々間一族の戦力として数えられたなら。』

「…戦争にはナルトも参加する、」

『ええ。貴方は間一族として表に出る事が出来る。そしてナルトを助け、彼に会う事になるかもしれませんね。』



 我々の内部事情を話さないと約束するのならいっそそのまま生きてましたって事で里にお返ししても良いですし。
 そこまで良いのか、と言った風な視線がミナトから向けられる。
 その視線に黒凪がにっこりと笑う。その笑顔が時守のものと重なった。



『貴方を助けた事がプラスに働いたと世間に見せつけられれば良いんですよ。そうしたら私達が勝手にやった事を批判する人間は居なくなります。』

「…、正守君、」

「俺に許可を求めても無駄ですよ。…我々間一族は彼女を中心に回ってるんです。」



 彼女が我々の正義であり、全て。
 …俺にとっては困る事でもないですし、彼女の言葉の通りに捉えてください。
 正守の言葉に再びミナトの視線が黒凪に向けられる。



「…もしも、それが叶わなければ…」

『叶いますよ。…火黒も正守も無駄な事はしません。無駄な事をしてしまう様な馬鹿でもない。』

「!」

『貴方達を助けたこの子達を信じています。』



 …そうか、これか。
 目を見開いたままで正守に目を向け、少し離れた場所で退屈そうに立っている火黒に目を向ける。
 何故だろう、彼女が言うと本当に大丈夫な気さえしてくる。彼女は失敗なんて恐れていない、いや。…恐らく失敗した事がないんだろう。
 それほどまでの力を持ち、きっと途轍もない存在で。



「…。ミナトさん、貴方の中にある九尾の陰のチャクラは屍鬼封尽ではなくうちのまじない師のやり方で改めて封じてあります。そのチャクラを出す為にはまじないの一時的な解除が必要となっており、その鍵は一時的に俺が持っています。」

「!」

『とにかく身体を鍛えて以前の状態と同じ様にしてください。話はそれからです。…ま、1人ぼっちでは無いので大丈夫でしょう。』

「え、」



 1人ぼっちじゃ…、そう訊き返そうとした所で病室の扉が開かれた。
 そしてひょこっと顔を見せた少年に「あれ、」と少し驚いた様に言って正守が椅子の背もたれに肘をついて覗き込む。



「利守?」

「あ、正兄居たんだ!」

「うん。どうした?」

「菊水さん達があまりに元気だから連れていけって…。僕任務で怪我して絆創膏貰いに行っただけだったんだけど、」



 そう言ってぐっと腕を引き、車椅子を押して病室に入り込む。
 そして姿を見せた自来也がミナトを見てこれでもかと言う程に目を見開いた。
 思わず言葉を無くす自来也に不安気な顔で利守が黒凪を見る。
 彼自身菊水に言われて連れて来た訳だが、里の人間である自来也をこの病室に連れてきて良いのかずっと不安だったらしい。



『いいよ利守君。元々連れて来る予定だったし。』

「あ、よかっ――…」

「…ミナト…」

「!」



 震える声でそう言った自来也に利守が目を向け、ミナトが眉を下げて微笑んだ。
 お、お前何故…どうなって…。
 混乱した様子で言った自来也の元へ近付き、彼の車椅子を押してミナトの元へ。
 途端に彼の視界の端に2つのベッドが入り、その中でも彼の手前に眠るクシナにまた目を見張る。



「クシナ!?」

『順を追って説明します。』

「…お主等、2人を…」

『意識はありませんがね。それでも命は繋いであります。』



 ただ我々の独断且つ行き当たりばったりで連れて来てしまったもので。
 困った様にそう言ってミナトのベッドの側にある椅子に座る。
 自来也はまだ信じられない様子でミナトを見ていた。



「…俺が独断でお二人をこの屋敷に連れて来ました。」

「!」

「とても木ノ葉の病院では対処が無理なほどの重症だった為、うちの屋敷で治療しミナトさんは今まで昏睡状態で。」

「…昏睡状態…」



 自来也の言葉にミナトが頷き「その影響でロクに動けなくて…」と困った様に笑う。
 そんなミナトに「お前は…お前とクシナは死んだと…」そう唖然と呟いた自来也に黒凪が答えた。



『此処に居る方々は我々間一族にしか出来ない治療で生き永らえているもので、我々の情報漏洩を防ぐ為に亡くなった事にしました。』

「そんな事で…、…そんな事で…!」



 そう怒りを滲ませた声で言い自来也が黒凪の胸ぐらを掴んだ。
 ミナトとクシナが死んでナルトは独りになった!あいつはたった独りでどれだけ…!
 自来也先生、とミナトが静止の声を掛けるが彼は止まらない。
 悔しそうな顔をして絞り出す様に言った。



「…何故生きている事さえ教えてやらんかった…!!せめてナルトにだけでも、」

『一族を護る為です』

「一族一族ってなぁ…!」

『家族を護って何が悪い。』



 真っ直ぐに自来也を見て言った黒凪に思わず言葉が止まる。
 そんな自来也に息を吐いて胸ぐらの手を退け、黒凪の言葉が静まりかえった病室に響いた。



『貴方も今は同じ状態ですよ。』

「…何…?」

『我々の手で貴方を治療する気は元々無かった。…でも貴方はかなりの重傷を負い…』

「…待て、儂は今…」



 貴方は死んだ。…五代目とナルトが泣いていましたよ。
 目を逸らさずそう言った黒凪に前のめりになっていた自来也が力なく車椅子に座る。
 お主等は儂が死ねば里の損害だとして助けた筈だ…。
 その言葉に小さく笑う。



『ええ、そうです。だからもはや行動不能だった貴方を見捨てるべきかと思った。…でも』



 貴方はナルトの大切な人ですからね。
 その言葉に自来也が顔を上げる。黒凪の表情は依然笑顔のまま。
 私、ナルトの事は結構好きなんですよ。だって彼物凄く不幸で可哀相で、…いつも1人ぼっちで泣いて。
 そう笑顔のままで言う黒凪は沈みかかった夕日を見ている。



『アカデミーに入りたての時なんて毎日の様に独りぼっちで泣いてた。』

「……」

『…もう良いでしょう。彼にこれ以上の不幸なんて、もう。』

「?」



 自来也が怪訝に眉を寄せた途端に声が聞こえた。
 エロ仙人、…そんな言葉で、その声は。
 はっと自来也が顔を上げる。
 ミナトも少しだけ驚いた様な顔をしていた。
 黒凪が徐に自来也に近付いて言う。



『…ミナトさんの事は黙っていてくださいね。彼はまだ見せる訳にはいかない。』

「!」

『良いですね、ミナトさん。』

「…。」



 ミナトが何も言わずに頷き、黒凪が自来也の車椅子を押す。
 病室を出る寸前で黒凪が利守に目を向けた。
 あんたは隠れてなさい。その言葉に利守が頷いて正守の隣の椅子に座る。
 彼の手には木ノ葉の額当てが握られていて、それを見てミナトが懐かしそうに目を細めた。



「エロ仙人…!!」

「自来也!!」

「…ナルト、綱手…」



 駆け寄ってきた2人に自来也が驚いた様な目を向け、そして黒凪に目を向ける。
 彼女は笑って言った。



『二大仙人のフカサク様が貴方は死んだものだと思われて報告に行かれた様で。…ま、あの傷じゃあ普通死んでますしね。』

「エロ仙人!!」

「うおぉ!?」

『おっと。』



 物凄い勢いで自来也の肩を掴んだナルトに後ろに倒れ掛かった自来也の車椅子を結界で支える。
 そして自来也を見てぶわっと涙を見せたナルトに小さく笑うと一歩離れて目に涙を浮かべながら自来也を見ている綱手を見上げた。
 その視線が交わった途端に綱手の平手が此方に向けられ、それを避ける。
 綱手の平手は風圧だけで黒凪の着物を少し揺らした。



「何故もっと早く言わない…!!」

『手違いですよ。まあ生きてた事を知る事が出来たんですから良いじゃないですか。』

「っ、貴様…!」

「綱手。」



 自来也の声にぴたっと動きを止めて綱手が振り返る。
 笑顔を浮かべている自来也にまた涙を浮かべ、彼の元へ歩いて行った。
 それを見て黒凪が背を向け、入院棟の最も奥の扉をしっかりと閉める。
 中に居るミナトはナルトの声だと正守に教えられると静かに涙を流した。
































「いやあすみません!頭!」

「自来也ちゃん…お主生きとったんか…!!」

「そうだぞじいちゃん仙人!エロ仙人生きてたじゃねーかよ!」

「…あの傷でよく…、」



 間一族のおかげです。眉を下げてそう言った自来也にフカサクが目を見張る。
 共に戦ったあの者達か…!そう言ったフカサクに自来也が頷いた。
 その様子に「え、そんなにヤバかったのか…?」と顔を青ざめさせたナルトにフカサクが振り返る。



「ヤバいなんてもんじゃないわい!ありゃあどう考えても――」

「そんな傷を治すとは…。…貴様等はそれほどまでの技術を、」

『我々を当てにはしないで下さいね。…自来也さんを助けたのは私の独断です。一族は快く思っていない。』

「っ、」



 この件をしつこく追及するのなら私は今此処で自来也さんを殺し、此処に居る全員の記憶を操作する。…本当に死んだ、とね。
 冷たい目をして言った黒凪に「んだと!?」と食いかかるナルトをカカシが静止する。
 火影室の中に居る第七班、自来也、フカサク、綱手、シズネが黙り沈黙が降りた。



「…ま、そういう事だ。儂にも間一族の事は聞かんようにしてくれ。」

「!…エロ仙人…」

「こやつらに助けられた以上、儂も今は間一族に片足を踏み込んどる。情報はやれん。…恩もあるしのう。」

『……』



 自来也の言葉に目を伏せ、ちらりとナルトに目を向ける。
 ナルトは「分かったってばよ…」と呟いて黒凪の前にずかずかと歩いて行った。
 そして彼女の目の前で止まり、ばっと頭を下げる。



「…ありがとう。エロ仙人を助けてくれて。」

『……うん』

「…お前の事、ちょっと見直した。」



 顔を上げてそう言ったナルトに自来也が微笑み、黒凪に目を向ける。
 黒凪はナルトの目を見ず「任務があるから戻ります」と綱手に言って歩き出した。
 すると綱手が黒凪を呼び止め、黒凪が振り返る。



「私からも礼を言っておく。…ありがとう。」

『…。お礼ならナルトにどーぞ。』

「ぷっ、お主思ったよか不器用だのう!?」

『人に言える立場ですか?』



 じと、と呆れた様な視線を向けて言った黒凪に自来也が微かに目を見張る。
 しかしその表情を見て「いや、違うか…」と1人呟いて黒凪が笑って言った。



『貴方は器用過ぎるぐらいでしたね』

「…?」

『偶にはナルトの事も分かり易く褒めてあげる事です。あと2つに割るタイプのアイスキャンディーを一緒に食べてあげる事。』

「ん?」



 素っ頓狂な声を上げた自来也にナルトがはっとした様な顔をして勢いよく視線を逸らす。
 そんなナルトの気配に振り返った自来也は一向に目を合わせないナルトに微かに目を見開いた。
 自来也とナルトを見て小さく笑った黒凪が部屋を後にし、その背中を見送って自来也もまた目を伏せて小さく笑う。



《――…失礼します、絆創膏貰えますか…?》

《ん、よく来たな利守。ついでだ、この男を入院棟の奥の部屋に連れて行ってくれ。》

《え、…その人黒凪さん達が連れて来た人じゃ…》

《ああ。無駄に元気でな、仕事の邪魔なんだ。》



 邪魔とはとんだ言い草だのう!そう笑う自来也に顔を引き攣らせて利守が抗議の目を菊水に向ける。
 しかし結局断り切れず彼の車椅子を押して部屋を出る事になり、不安気な顔のままで部屋を後にした。
 利守は「わああ、三忍の自来也さんだ…」と内心で物凄く緊張しており何も言わない。
 そんな利守を見兼ねてか自来也が口を開いた。



《お主名前は何と言う?》

《え、あ…墨村利守です…》

《墨村と言う事は分家の方の者か!いやあ、小さいのにしっかりしとるのう!》

《あ、ありがとうございます》



 間一族の時期当主である黒凪とはよく話すのか?
 続けてそう問いかけた自来也に「少しなら…」と利守がバツが悪そうに言い、「うん?親しくないのか」と自来也が片眉を上げて言った。
 そんな言葉に「そういうわけじゃ、」と首を横に振って目を伏せて利守が言う。



黒凪さんはなんて言うか…雲の上の存在って感じで…》

《雲の上?》

《はい。…物凄く強くて、でもそんなのひけらかさないし…それに凄く優しくて。》



 僕達の事を一番に考えてて、悲しい人を放っておけない人なんです。
 笑って言った利守に「ほー…」と自来也が感心した様に言った。
 彼女はあまり表に姿を見せないし、飄々とした態度を見せていたからあまり優しいと言った印象は無い。



《綱手の奴は自分勝手で扱い辛いと言っておったがのう…》

《あ、でもそれはあると思います。…でもそれも全部誰かの為だから》

《!》

《…きっと自来也さんも分かると思います。これから暫くは此処に居る事になると思いますし。》



 どうしようもなく不器用で、大雑把で。
 でもきっと根っこは温かい、とても優しい子なのだろう。そう思う。
 笠を深くかぶり、歩いていた黒凪が「よう」と掛けられた声に顔を上げる。



『…シカマル』

「自来也様助けたんだってな。」

『……情報早いねえ。』

「まあ、な。…にしてもお前、本当にすげえよ。」



 え?と訊き返せばシカマルが微笑んで言った。
 お前は誰かの大切なものを護るのが上手いよな。
 ぴくりと黒凪が片眉を上げる。
 そんな黒凪の表情は笠の影に隠れていて、シカマルが徐に眉を下げた。



「お前はすげえ良い奴だよ。…そんな笠なんてかぶらなくても良いぐらいに。」

『…。そう思ってんのはあんただけ。私達は自分勝手よ。』

「その"自分勝手"に救われた奴も居んだよ。」

『!』



 目を見開いた黒凪にシカマルがしゃがんで彼女の顔を覗き込む。
 黒凪の瞳がシカマルを映した。



「お前もナルトみたいにいつかこの里で大手を振って歩けるようになりゃあ良いのにな。」

『……。あんた、アスマさんを助けてもらったからって信用し過ぎ。』

「!」

『私が大手を振って歩けるようになんてならないよ。』



 ふいと顔を背けて言って黒凪が歩いて行った。
 その背中を見送ったシカマルは困った様に後頭部を掻き、立ち上がって歩いて行く。
 そんなシカマルの横を木ノ葉丸達エビス班が走り抜けて行った。



「…。(俺達だってあんな時期があった筈なのにな)」



 アカデミーに居た頃の黒凪は周りの同級生よりも頭の良いシカマルとよく話が合った。
 シカマルは自分の会話に平然とついて来る存在が嬉しくて、黒凪と話すと楽しくて。正直結構好きな奴だった。
 アカデミーの演習の一件で"嫌い"だと言われた時には中々落ち込んだし、ちょっと距離を取ったりもした。



「任務に遅れるぞコレ!急ぐんだコレ!」

「木ノ葉丸君が寝坊したからでしょ。」

「ゔ、…行くぞコレー!」

「あ、ちょっと…」



 そんな会話に振り返る。見えた背中は4人。エビスの姿はない。
 …ああそうだ、エビスさんの班には間一族の人間が1人特例として組まれてたな。名前は確か。



「急げ利守ー!」



 そうそう。…墨村利守だ。
 木ノ葉丸について行く少年の背中を見送る。
 その背中にははっきりと間一族の家紋である正方形が刻まれていた。






























 僕は墨村利守、11歳。
 火の国でかなりの権力を持っているらしい間一族の分家である墨村家の末っ子。
 結界術はそんなに上手じゃない。かと言って同級生の様に忍術を使えるわけでもない。
 …あ、申し遅れました。間一族だけれど、僕は木ノ葉の下忍でもあります。担当上忍はエビス先生。
 過去にも僕みたいに里のフォーマンセルに間一族の人間を無理に組み込んだ事があるらしく、僕がアカデミーに通いたいと言えばすぐに通わせてくれたし、こうして下忍にもなれた。



「(でもやっぱり僕は出来そこないかもしれない…)」



 結界術だって半端だし、勿論チャクラが無いから術だって使えない。
 身体もそんなに大きくないから体術もそこそこ止まり。
 そんな感じだから僕を間一族だからって怖がる様な先生や同級生は居ない。…でも。



「こいつは人質だ。さあ、さっさと言う通りに間一族の人間をつれて来い。」

「人質取るなんて卑怯だぞコレ!」

「利守ちゃん!」

「ど、どうしよう…」



 下忍として何度目かの任務。…遂にやらかしてしまった。
 敵に捕まり、敵が狙う間一族の人間を連れて来るようにと仲間が脅されている。
 僕はいつも駄目だ。正兄や良兄みたいに強くなりたいと思ってアカデミーに入れて貰ったのに。



「おら、早く行け!」

「っ、…くそ…!」

「あっ、待って木ノ葉丸ちゃん!」

「(待ってろよ利守、すぐに助けてやるからな、コレ!)」



 木ノ葉丸が必死の表情で里に向かって走って行く。
 その背中を眉を下げて見て居た利守は改めてがっくりと肩を落とした。
 途端にどさっと乱暴に落とされ、きつく縄で身体を縛られる。



「大人しくしてろよ。ちゃんとあのガキ共が間一族を連れてきたら返してやる。ま、時間が掛かれば生傷が増えていくだろうがなぁ」

「……っ、」



 ああ、情けない。本当に。
 こっちの世界に来ても一緒だ。僕は、…僕は。
 …ずっと役立たずのまんまで。
 じんわりと涙が浮かぶ。徐に膝を抱えた。



「――…おーい!開けるんだコレー!」

「や、やっぱり無理だよ…間一族の人が会ってくれるわけないよ…」

「利守が危ないんだコレ!任務で敵に捕まっ―――」

「利守が捕まったじゃと!?」



 物凄い勢いで開かれた扉に3人が飛び上がる。
 そしてぞろぞろと現れた間一族の面々に「え、えええ…?」と木ノ葉丸が目をひん剥いた。
 立派な髭を蓄えた老人が「何処じゃ!利守は何処におる!?」と物凄く近い距離で言って来るし、真剣な顔をして足袋を履く丸刈りの男の人とその人と顔のよく似た青年も見える。
 また洗濯をしていた様子の髪の長い女の子も「利守君が!?」と顔を覗かせ、その後に続く様に黒髪の女性が無表情に玄関まで歩いて来た。



「母さん、俺と良守が行く。」

「…、あの子まだ小さいからきっと泣いてるわ。すぐに連れ戻してあげてね。」

「分かってる!」

「黒姫。」



 ぞわ、と里を囲う気配に木ノ葉丸達が目を見張る。
 静かに周辺に目を向けていた正守が目を細め、良守に目を向けて歩き出した。
 その背中を呆然と見送って木ノ葉丸が呟く。



「あ、あれ誰だコレ…?」

「利守君のお兄さんよ。」

「え…」

「此処まで知らせに来てくれてありがとう。利守君はこれできっと大丈夫。」



 微笑んで言った時音に「う、うん…」と木ノ葉丸達が頬を染めて頷いた。
 そんな木ノ葉丸達の後ろに音も無く現れた七郎が「あ、時音ちゃん。」と片手をあげ、びくっと木ノ葉丸達が飛び上がる。
 それを横目ににっこりと笑った七郎に「どうかした?」と時音が問えば彼は間一族の屋敷の中に目を向ける様にして言った。



黒凪さん居る?ちょっと話が…」

「あー…、ついさっき任務に出ちゃった。」

「あらら、タイミングが悪かったか…。出直すよ、ありがとう。」



 爽やかな笑みを時音に向けてまた音もなく姿を消し、七郎が間一族の屋敷の真上で黒凪を探す。
 すると森の中をサソリとデイダラと共に走り里の外へと向かう黒凪が見えた。
 また暁の人と任務に行ってる…。そんな事を考えてその様子を見つめ、退屈そうに扇一族の屋敷へ帰って行く。
 黒凪はデイダラの背中の上でちらりと上空を見上げた。



『…。(さっき正守の気配もしたし七郎君も見てたし…なんかあったのかな…)』

「…ん?なんか前が騒がしいな。うん。」

『え?』



 前方に目を向けた途端に白い光が黒凪、サソリ、デイダラを包み込んだ。
 その光に目を見開いた黒凪はすぐに人差し指と中指を立てて周辺の空間のずれを瞬く間に修復する。
 しかし黒凪を抱えていたデイダラとサソリが忽然と姿を消し、地面に着地した黒凪は前方で唖然と座り込んでいる利守に目を向けた。



「…え…」

「だ、大丈夫か利守!」

「何とも無いか?」

「な、何が…?」



 あれだけの力使って、何とも無かったのか?
 眉を寄せてそう言う正守に黒凪が「あー…」と目元を覆う。
 その声に振り返った途端に利守が目を回し、ぱたっと倒れ込んだ。
 …こうなる前である数分前に遡る。黒凪達が任務の準備を済ませて出発するほんの少し前。
 敵の忍に捕まったと言う利守の救出に向かった良守と正守は力任せに敵を一掃し、利守を助け出そうとした。しかし。



「く、来るな!近づけばこの餓鬼を殺す!」

「……。」



 苦い顔をする正守に利守の瞳に涙が溜まる。
 また迷惑をかけてしまった。そんな言葉が頭をぐるぐると回る。
 ずっと役立たずのまま。寧ろ迷惑を掛けるだけ。なんで僕には力が無いんだろう。
 …なんで僕には才能が、無いんだろう。



「……んで…」

「あ?」

「…なんで僕はいつも…」



 いつも、いつも。…迷惑ばっかり…!
 途端に利守を中心に大きな呪力が溢れ出す。
 その力の大きさは兄である正守と良守によく似ていた。



「利守! 落ち着け!」

「利守!!」



 正守と良守の声なんて届いていない。
 …そこに運悪く飛び込んだのが黒凪達だ。
 黒凪はすぐに利守の引き起こした時空を歪ませる大きな力に気付き、その亀裂を修復した。
 しかし一歩遅くサソリとデイダラがその亀裂に巻き込まれてしまったようだ。



「…まいったな。あの2人、下手をすれば別の空間に飛ばされた可能性も…。」

『利守君もちゃんとあんた達の弟よねえ…』



 よく大人2人も異空間に吹っ飛ばしたわ。
 困った様にそう言って利守の乱れた前髪を整えてやり、黒凪が何もない虚空に手を伸ばして空間の亀裂を作り出す。
 そして「ちょっとあの子達探して来る。」そう言ってごくごく当たり前の様に亀裂に入って行った。

























「――…何処だ此処…?」

「俺が知るか。」



 不機嫌なサソリをちらりと見てデイダラが困った様に周辺を見渡した。
 何処かの屋敷の様だ。和式で、外ではピヨピヨと鳥の囀りも聞こえてくる。
 しかし途端に「違う。」と静かで重く厳しい声が聞こえた。
 その声に顔を見合わせ気配を消して側の襖を開く。
 外には黒髪の少女と黒髪の男が立っている。



『…っ、』

「それは絶界だ。それでは他人を拒絶するだけになってしまう。」



 お前がやるべき術は創りかえる為のものだ。それでは根本的に違う。
 それじゃあ宙心丸を完全に封印する事は出来ない。
 男の言葉に「…はい」と感情を押し殺したような声で少女が答えた。
 そんな少女に畳み掛ける様に男が言う。



「先程から同じ様な事ばかりじゃないか。…良いか黒凪。お前が父を信じぬ限り術は完成しないぞ。」

『…はい』

「…え」

「は?」



 黒凪…?そんな2人の思考が一致する。
 そして不機嫌な表情で男に背を向けた少女の顔が見えた。
 黒髪で、彼等が知っている姿よりも少し幼いがその姿は黒凪そのもので。
 大きく目を見開いた2人の視線の先で黙り込んだ黒凪に困った様に眉を下げた時守が「散歩にでも出て来る」と言って姿を消した。



『…っ、』



 途端に黒凪の目に涙が浮かび、ぼろぼろと涙が頬を流れ落ちていく。
 その様子にデイダラが眉を寄せ、何故かすぐにこの考えが浮かんだ。
 本当はあんな修行なんてしたくないんじゃないか。あんな事などせず、



『…やっと絶界ができたばかりなのに…』

「(もっと他の事とか、褒めてもらいたかったり、)」



 …人は力が無くたって、役立たずだって大切に思われるものだよ。
 黒凪の言葉が過る。…この言葉を彼女に掛ける人間は誰も居ないのだろうか。
 独りぼっちで誰にも認められず彷徨う彼女を掬い上げる様な人は、居ないのだろうか。



【おやおや、また泣いてるのかい?】

『…まだらお』

【時守様も必死なのさ。そろそろ時間が無いからねぇ…】

『…それはわかってるよ。…はやく強くならなきゃ、父様が私を作った理由がなくなっちゃう』



 わたしは、宙心丸を封印する為に生まれて来たんだから。
 光の無い目で言った黒凪に酷く痛んだ胸元をデイダラが抑える。
 眉を下げた斑尾が「悲しい子だねえ、可哀相に。」そう言った。



『――見つけ、あ゙。』

「うおっ!?」

「っ!」

『……しまった、私が干渉した所為で変に歪んで2人がまた別の空間に…』



 項垂れてそう呟き、ちらりと無心に結界術を練習する幼い頃の自分を見る。
 その様子に眉を下げ、すぐにまた亀裂を作り中に入って行った。
 亀裂を閉じる寸前に聞こえた。



黒凪、どうか。」



 どうか早く役に立っておくれ――。
 ブツッと世界を区切る。
 2人に嫌なものを見せてしまったかな。そう思う。
 …ねえ、貴方達はどう思った?昔の私を見て。
 随分とちっぽけだったでしょ?…私だってちっぽけだったんだよ。





























「っ、次は何処だ…!」

「……。」

「おいデイダラ。何黙ってやがる」

「え、…あぁ…」



 歯切れの悪いデイダラが周辺を見渡した。
 また屋敷の中だ。しかし先程とは何かが違う。
 …そう、例えば年代だとか、そんな感じが違う様な。
 そう思った時だ。彼等の声が聞こえたのは。



「これから来る人はさ、良く言えば分かり易くて悪く言えば単純すぎる感じの人なんだ」

【あ?】

「好きな相手にはあり得ないぐらいに優しくて、嫌いな相手にはかなり無慈悲になる。」

【…俺に気に入られろってのか】



 まあそう言う事だね。
 笑い交じりの声が聞こえて耳をそばだて、襖をほんの少しだけ開く。
 中では胡坐を掻いた正守と鋼夜が静かに会話を交わしていた。



【俺は媚を売る様な真似はしねぇぞ】

「そんな事はしなくて良いよ。…大丈夫、お前は絶対に好かれるよ」

【…?】



 頭領と、確かあいつ黒凪の影に居る…。
 そう呟いたデイダラにサソリが小さく頷いた。
 そんな中で「あ、外に居るね。」と呟いたのか鋼夜に言ったのか判断し辛い口調で言って正守が立ち上がる。
 そして部屋を出て外で黒凪と一言二言交わすと共に部屋の中へ戻ってきた。



「――…こいつをとある山に帰したいんだけど…」



 やがて始まった鋼夜についての会話。
 その中で見た鋼夜と黒凪のやり取りは既視感があった。
 鋼夜の矛盾の痛い所を突き、捻じ伏せ、そして自分の側に居るように言う。
 相手は拒否しているのに、それがなんて事無い様な顔をして無理やりに自分の懐へ放り込む感じ。
 そして彼女は真剣な顔で言うのだ。



『私ならあの山の封印を解く事が出来る』

【……】

『たとえ100年経とうと、500年経とうと絶対に解いてあげる。だからそれまでは私と一緒に居な。』



 自分と一緒に居る事がお前の為だとあの女は自信満々に言ってくる。
 馬鹿げていると此方が思っていても、いつの間にかその言葉の通りになっている。
 そして彼女はこれまた的確に相手の欲しいものを提示するのだ。



《この傀儡が君にとっての最後の人間の部分。…人間だった頃を思い出すたった2つだけのもの。》



 眉を下げて彼女が言っていた言葉を思い起こす。
 俺の、最後の。たった2つだけの。
 そう呟いて小さく笑った。



「――なんにも変わらねえ」

「うん?」

「…あいつはなんにも変わらねえな…」



 ――あの女は俺に砂の悪しき風習に染まり過ぎていると言った。
 大事な何かを理解してないと。
 人間は武器だ。武器は壊れても修復できる。
 …人間が武器であるなら、何故俺の父と母は壊れてしまったのか。
 …父と母が武器であるなら、何故変わってしまったのか。何故帰って来なくなってしまったのか。
 ……何故、実際に武器にしてみれば虚しかっただけなのか。



「(変わらないものは、傀儡だけなのか)」



 人は変わってしまうものなのか。…もしもそうなら俺は、人ではいたくない。
 サソリ、デイダラ。
 そんな2人の名を呼ぶ声が聞こえて振り返る。



「…黒凪

「……」

『大丈夫だった?どれぐらい時空移動した?さっきのと今ので2回だけ?』

「…あぁ」



 そっか…。そんな風に安堵して息を吐いた黒凪をじっと見つめる。
 あそこに居るお前はいつのお前だ?
 無表情にそう問うたサソリに黒凪がちらりと目を向けた。
 そして懐かしそうに目を細めると口を開く。



『120年ぐらい前かなあ』



 その言葉に2人は特に驚かなかった。
 明確に何年生きているかを彼等に伝えた事は無かった筈だが、なんとなくそう言った事は分かっていた様だ。
 そんな中でサソリは1人考えていた。
 この女は変わらない。120年も前からずっと。今まで。…ずっと。



『それじゃあ帰ろうか。あんた達だけじゃ帰れないでしょ。』

「…あぁ」

「……。」



 デイダラとサソリがちらりと襖の先に居る黒凪に目を向ける。
 彼女は鋼夜を影に押し込み、正守と会話をして襖に手を掛けた。
 そして襖を開くと火黒が姿を見せ、影の中に居る鋼夜を覗き込む。
 続いて限や閃も姿を見せた。そうして楽しそうに話す黒凪を見て眉を下げる。



『――…ん?』

『あ、まずいこっちに気付いた。帰るよ。』



 焦った様に亀裂を作って振り返った黒凪の視線の先でデイダラとサソリが近付いてくる過去の黒凪を待つ様に足を止める。
 襖が開かれ、過去の黒凪のきょとんとした瞳が2人を映した。



『…誰?』

『(やば、ドッペルゲンガーとか怖過ぎるし…)』



 黒凪が咄嗟に亀裂に隠れ、デイダラが過去の黒凪の頭に手を乗せる。
 過去の黒凪は不思議気な顔をしてデイダラの手を見上げる様にした。
 …不思議だ。あの頃の私は彼等を知らないから攻撃でもしそうなのに。
 自分自身にそんな風に思いながらはらはらしてデイダラとサソリを待つ。
 デイダラが徐に口を開いた。



「…お前には分かりっこねえって思ってた」

『?』

「…でも、お前なら分かってくれるんだろうな。うん。」



 そうとだけ言って手を離し、サソリがぼそりと言う。
 そのまま変わるなよ、と。
 その言葉に「ん?…うん…?」と不思議気な顔をしたままで過去の黒凪が答えた。
 その様子に小さく笑って「またな。」とデイダラとサソリが伝えて亀裂に入る。
 そんな2人をじっと見ていた黒凪は限達の己を呼ぶ声に振り返った。



「どうした?なんかあったのか?」

『…ううん、何でも。何か変なの居たけど。』

「変なの?」

『うん。…なんか変な2人だった。』



 亀裂が完全に閉じられ、3人で空間の中を歩いていく。
 やがて元の世界に戻り全員で間一族の屋敷へ入って行った。
 するとどたどたと焦った様な足音が聞こえ、利守が飛び出してくる。
 そしてすぐに此方を見ると頭を下げた。



「ごめんなさい!」



 勢いよく放たれた謝罪の言葉に思わずデイダラとサソリが固まり、頭を下げたままで「迷惑ばかり、ごめんなさい」とまた利守が言う。
 そんな利守の頭に黒凪が手を乗せた。



『迷惑上等。あんたは子どもなんだからもっと周りに迷惑かけても良いぐらいよ。』

「!」

「違いねえな。ガキのくせに一丁前に謝るな。」

「実際は結構面白かったからチャラにしてやる。うん。」



 3人の言葉におずおずと頭を上げて利守が嬉しそうに小さく微笑んだ。
 すると翡葉が姿を見せ、黒凪を呼び寄せる。
 翡葉に近付いて彼の報告を聞いた黒凪が「え、そんな事なってたの?さっきまで普通に居たけど…。」そんな風に言うと翡葉が肩を竦めた。



 共感できる人、変わらない人。

 (これからもしも彼女を失うかもしれない窮地に立たされたら)
 (恐らく自分は後先考えず飛び込んでしまうのではないかと、思う。)


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