世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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自来也豪傑物語編
「修史さん!今日もこの卵焼きはまっこと美味い!」
「ええっ、本当ですか!?嬉しいなあ…」
「…おい、あのじーさん毎回卵焼き褒めてねえか?うん」
『じーさんなんて言わないの。あの人だってまだまだ現役バリバリなんだからね。』
朝食を食べながら言った黒凪に「へえ…」と感心した様な目をデイダラが向けた。
どう見たって剥げたじーさんだけどな…。そう考えた矢先にまるっきり同じことを隣の飛段が言った為、がたーん!と音を立てて繁守が立ち上がる。
そして鼻息荒く「ならば儂の実力、とくと味わうが良いわー!」と構えた為、すぐさま時子がその後頭部を結界で殴りつけた。
「何するんじゃ時子ー!」
「あらあら食事中にはしたない。」
「なんじゃとぉ!?」
「だはは、夫婦漫才って奴か!?」
誰が夫婦じゃ!!誰が夫婦ですか!!
そんな言葉が繁守と時子から同時に放たれる。
その剣幕に「うお、」と目を見開いた飛段は途端に開かれた襖に目を向けた。
「何やってんすか、朝っぱらから…。」
『あ、閃。おはよう。』
「はよ。…頭領、ちょっと良いですか。」
「ん?どうした?」
あ、黒凪にも聞いてほしいんだけど。
そう前置きをして「どうやら暁の本拠地らしき雨隠れの里に三忍の自来也が潜入したらしくて」と報告を述べた。
その報告に「自来也さん1人で?」と訊き返した正守に閃が小さく頷く。
すると側で話を聞いていたサソリが徐に口を開いた。
「1人でリーダーの所に行ったなら確実に死ぬぞ。その自来也って奴。」
『今こっちに5人引き抜いてるけどまだ結構人数は居るの?』
「いや、リーダーのペインが6人居るんだ。1人でやるには分が悪すぎる」
『え゙、ペインだけで6人?そりゃいけないね。』
イタチの言葉に黒凪が驚いた様にそう返し、徐に食卓を見渡した。
6人か…。そう呟いた黒凪に「俺じゃ駄目か?」と飛段が笑顔で言う。
しかし暁に元暁をぶつけるつもりはない、とすぐに返答を返して夜行の面々の顔を見渡した。
すると襖が開き、白と再不斬が顔を見せる。
『…あ。2人連れてこ。』
「え?」
「あ?」
「チッ」
拗ねた様に舌を打った飛段に黒凪に向いていた怪訝な目が其方に移動する。
そんな中で夜行の面々を見ていた黒凪は正守の隣に居る閃と少し離れた場所で食事をしている限を見ると小さく微笑んだ。
『あとは閃と限をつれてく。鋼夜は今回閃が居るからお休みね。』
【チッ】
「お、久々だな。」
「……」
驚いた様に言った閃と顔を上げた限ににっこりと笑う。
その様子を見ていた正守は「じゃあまた新しく人が増える訳だ。」と味噌汁を喉に流し込む。
しかし黒凪がその言葉に首を横に振った。
『ううん、今回は自来也さんを死なせずに連れ帰るのが目的。下手に頭を潰すと暁がどうなるか分かんなくなっちゃうし。』
「そっか、了解。」
『じゃあ早速行って来るね!』
「え、今からですか?」
「待て。朝食を食わせろ。」
急いで席に着いた2人に小さく笑って黒凪も席に戻る。
白と再不斬は朝食を頬張りながら隣にいる良守と時音から任務についての話を聞いていた。
その様子に眉を下げた黒凪が味噌汁を飲み、一瞬で部屋の隅に結界を張る。
え?と振り返った閃が結界の中に居る虫に瞬時に跳び上がり、黒凪の背後に隠れた。
「ご、ご、ご…」
「ご?」
『久々に居るの見たね』
「…ゴキブリか」
最も結界の側に座っている角都が興味が無いようにそう呟いておかずを口に放り込む。
その様子を見て「よく食えるなあんた…」と閃が顔色を青くさせて言った。
しかしそれより凄いのは雪村家の女性陣だ。
「いや―――!!その悪しき名を口に出さないで―――!!!」
「いいい今すぐこの屋敷から、いえこの里、この国、この世からその悍ましい生物を滅却するのです!!」
「…貴様等それでも忍五体国お抱えの暗殺一族か…。たかがゴキブ」
「イヤ―――!!!!」
角都の額を正面から時音の結界が殴りつけようと出現する。
それに瞬時に反応した良守が「うおぉっ!?」と叫びながら己の結界をぶつけて角都を救出した。
目の前でぶつかり合った結界に目を見開いた角都はキャーキャー叫ぶ時音と時子に目を向ける。
「…。フン、暗殺一族なだけはあるか。」
「ゲハハハァ!なーにゴキブリなんかに」
「その名を口にするなあ!!!」
「いってぇ!」
飛段に向かったのは時子の結界。
流石に彼女の結界の形成速度に良守はついて行けなかったらしい。
正面から受けた結界の痛みに悶えている飛段を横目に呆れた顔をしているサソリが徐に黒凪に目を向けた。
「さっさと潰せよ。箱の中で動いてるから余計にキモいんだろうが。」
『此処で潰したら…』
「この中で潰したら奴の…、奴の細胞が飛び散るでしょう!?」
「…細胞すらも無理か」
無理!!!と時音と時子の声が重なった。
すると「何の騒ぎ~?」と穏やかな声が食卓に響き、はっと全員が振り返る。
顔を覗かせたのは修史と共に朝食を作っていた雪村家の母、静江。
「お母さん!奴が、奴が出たの!」
「え?…あらあら本当ねえ」
「静江さん、はいスリッパ」
「皆下がってるのよ~」
さっと静江にスリッパを手渡した時雄に暁の面々が頭に「?」と浮かべてゴキブリに近付いて行く静江を目で追う。
この結界は誰のかしら?と笑顔で言った静江に「解きますね」と黒凪が答え、静江が笑顔のままで「いいわよ」と言った。
途端に結界が解かれ、解放されたゴキブリが飛ぼうとした矢先に静江が目にも止まらぬ速度と適度な力加減でゴキブリを抹殺した。
決して潰れる事無く力尽きたゴキブリに夜行の面々の拍手が部屋に響く。
「…はい、これで大丈夫よ。」
「ありがとうお母さん…」
「…あの女、中々の手練れだな」
「間違いないな。うん。」
ぼそっとそんな会話をするサソリとデイダラの後ろを通って静江が去って行く。
するとこの騒動の間に全員が食事を終えたらしく、彼等の様子を見た黒凪が立ち上がった。
その後をついて行く様に部屋を出て行く4人に暁の面々が目を向ける。
「…リーダーはマジで強い。気を付けろ。うん。」
「……。後で無線で能力について知る限り教えてやる。…だがそれでも十分強い。」
「精々無様に死なない事だな。」
「殺られんなよォ!」
「…気を付けてな」
彼等の言葉に黒凪が小さく笑う。
いつものあっけらかんとした笑顔でない事に5人が微かに表情を変えた。
そして去って行った黒凪にデイダラとイタチが小さく微笑み、サソリと角都は目を伏せ、飛段は気にせず食事を再開する。
その様子を見て正守も小さく笑みを見せた。
忠告にはしっかりと従う。だからこそ彼女は強いが故の妬みなどにはあまり縁が無いのだ。そう思った。
「――また来たな」
「え?」
「侵入者だ。…しかも量が多い上に手練れ揃いと来た」
「…。」
ペインの言葉に小南が目を細める。
少し前にも相当の手練れであろう侵入者を察知したばかりだ。
今日はいつにも増して妙な来客が多い。
「…もの凄い雨ですね…」
「これが雨隠れの由縁だろう」
『情報によるとこの雨もペインの術らしいからね…。あんた達あんまり自分の名前言っちゃ駄目よ。』
「とりあえず今回の目標の居場所を探す。周り見といてくれ。」
そう言って微かに目を変化させて閃が地面に手を着いた。
途端に彼の妖気が雨隠れに充満していく。
微々たる妖気だが、ペインには気付かれているだろう。
案の定ペインはまたしても感じた妙な気配に目を見開き、怪訝に里に目を向けた。
「…。小南。雨を止める、早急に侵入者を探せ。」
「ああ。」
ペインが雨を止め、小南がチャクラを練り自分の身体を無数の折り紙へと変化させる。
そして蝶の形を作り、ざあっと里へ向かった。
雨が止んだ事に気付いた黒凪達は空を見上げ、閃に目を向ける。
「(…何処だ…?)」
『…。あの人蛙をよく使うからさ。』
「…あ、そっか。雨を逃れて海に行ってる可能性はあるな。」
そう言って更に広範囲に妖気を広げた。
すると黒凪の言葉通り、海の中に口寄せされた特殊な蛙が浮いている。
見つけた。そう言って変化を解いた閃が黒凪を抱えた限に目を向け、口を開いた。
「海だ。そこに口寄せされた蛙と自来也の気配がある。」
『了解。案内お願いね。』
「ああ」
走り出した閃に続く様に限と白、再不斬も走り出す。
暫く走っていると閃が徐に片眉を上げ、そして振り返り足を止めた。
その様子に限が黒凪を地面に降ろして足を踏み込み、路地の裏に居る紙で出来た蝶を掴む。
そして手の中でもがく蝶に怪訝な顔をして閃の元へ戻った。
「何だった?」
「紙だ。自力で飛んでいた。」
「……。まずいな、思いっきり居場所ばれてんぞこれ…。」
『そっか、分かった。それ頂戴。』
限が徐に蝶を差出し、それを摘まんで黒凪が目の前に持っていく。
そして徐に蝶に向かってこう言った。
『どうせ貴方はもう自来也さんを見つけてるんでしょ?』
「!(…相変わらず粗いやり方だな…)」
『私達は自来也さんを探してやってきた。で、場所も見つけてある。…すぐに合流するからそこで一気に掛かってきなさい。以上。』
そう言って蝶を離し、閃に目を向ける。
閃は呆れた様に後頭部を掻いてくいと前方を示した。
それを見た限は去っていく蝶を横目に黒凪を抱え、再不斬と白は顔を見合わせそんな限の側に近付く。
「…行くぜ。黒凪の言葉を信じたみたいで、さっきの蝶を造った術者が自来也の所に居る。」
『閃、あんたは隠れてなさいね。』
「分かってるよ。お前等を送り届けたら隠れてる。」
そう言って走り出した閃の後に続いた。
自来也と小南が戦っている場所までまだ少し距離がある。
数分程走っているとペインが合流したらしく、彼と自来也が戦闘を始めたと閃が言った。
途端に戦闘による地響きのようなものが此方にも伝わってくる。
その様子に限が目を細めた。
「閃、あとは分かる」
「…ああ。気をつけろよ。」
「ありがとうございます。閃君。」
「何かあればすぐに呼べよ。」
「そっちの手は煩わせませんよ。」
再不斬の言葉に笑ってそう返し、閃が1人離脱する。
そうして先頭に立った限が自来也とペインが戦うパイプに囲まれた大きな空間に入り込み、聞こえた言葉に目を細めた。
――俺は人から神へと成長した。
はっきりと聞こえた言葉に足を止め、下を覗き込めば自来也が立ち、彼の長く巨大に伸びた髪がペインを拘束している。
「神となれば考えも言う事も神のそれになる。…先生、貴方はまだ人のままだ。俺の言っている事が理解出来なくとも仕方がない。」
「…そこまでずれとるとはのう…」
「人の時には見えなかったものが今は見える。そして神となったからこそ、人には出来なかった事が出来る。」
「…。お前は一体何をするつもりだ。」
自来也の言葉にペインが静かに目を閉じ、そして言った。
この争いだらけの世界に終止符を打つ。と。
そしてその方法はこの世界に痛みを教えてやる事であると。
「痛みを知ればこの世界は大きく成長するだろう。俺の様に。」
「世界を平和にするために痛みを教えるだぁ!?冗談を言う様になったのう長門!」
『…長門?』
「あのお二人は顔見知りの様ですね。」
先生。貴方はまだ成長しきれていない小さな存在だ。
俺の邪魔をするなら此処で殺す。増援諸共な。
ペインの言葉に自来也の目がちらりと黒凪達に向けられる。
「お主等もペインを狙って来たのか知らんが、手出しは無用だぞ!」
『…。では此処で見ています。但し危なくなれば手を出しますからね。』
「ふん、相変わらず何考えとるか分からん奴等だのう。…口寄せの術!」
ぼふん、と煙が起こり壁にくっついている巨大なカメレオンの上に乗っているペインが目を細める。
自来也の足元に巨大な蛙が口寄せされていた。
ペインが徐にカメレオンの口の中へ入り、カメレオンの姿が景色と同化して見えなくなる。
その様子に自来也が二大仙人の口寄せの準備に入ると共に結界忍術を発動した。
「流石は三忍の自来也…。敵の術にすぐ対応できる術を多く持っている。」
「…。!」
白が顔を上げた途端にペインが新しく口寄せし、3つの頭を持つ巨大な犬が自来也へ向かって行った。
その様子に自来也によって口寄せされていたガマケンが刺又を持ち上げ、犬に応戦する。
すぐさまガマケンが刺又で犬を捕えるが、犬はすぐに3匹に分裂しガマケンに襲いかかった。
「…凄い…。あんな口寄せ動物何処で…」
「…。おい黒凪。手を貸さなくて良いのか?」
『見てる限り押されてるもんねえ。…よし、限行こうか。』
「分かった。」
限が黒凪を降ろして手を差し出し、その手に黒凪が手を乗せる。
途端に限の妖力が強まり、両手両足を変化させて物凄い勢いで犬と応戦しているガマケンの元へ向かった。
その速度に白が目を見張り、再不斬が感心した様に目を細める。
「!…あんたは…」
「手助けに入る。早速押されてるみたいなんでな。」
「ふん、だがお主じゃ些か犬に対して小さすぎやせんかのう」
あれぐらいの体格差ならどうにかなる。
そうぼそっと言って走り出し、向かってくる犬を次々に切り刻んでいく。
その様子に「おお!あいつやりおる!」と自来也が笑顔を見せたが、分裂する犬に目を見張った。
限もそれに気付いて一旦距離を取ると分裂した犬を見渡してちらりと黒凪に目を向ける。
『ありゃ。ちょっとあれじゃ分が悪いね。』
「どうする」
『私がやる。』
そう言って黒凪が人差し指と中指を立て、小さく上下に振った。
途端に犬が全て押し潰される様に消え、大量に増えた犬に押されていたガマケンが顔を上げる。
驚いた様に周辺を見る自来也とガマケンの側に限が降り立った。
「…一瞬、ですか」
『結界張って犬だけ潰したの。増えるなら増える前に潰せば良いかなって。』
「(この人は本当に…)」
まるでそれが運命であるように敵を倒してしまう。
そう思い浮かべて身震いした。…怖い。この人は。もしも自分の敵だったと考えたなら、尚更。
ほんの少しの手間だけで、三忍の自来也さんがあれだけ手間取っていた口寄せ動物を。
「さっきの犬はどうなった?お主がやったのか?」
「いや、黒凪だ」
「ほー…、相変わらず珍妙な…」
「!」
微かに聞こえた鳥の甲高い鳴き声にガマケンが反応し振り返る。
しかしその時には遅く、巨大なくちばしと上半身に3本の足と言った奇形の鳥の物凄い速度に自来也が眉を寄せた。
途端に突き刺さる様に鳥がガマケンが咄嗟に出した皿に直撃し、その衝撃でガマケンが倒れ込む。
思わず二大仙人の口寄せの為に合わせていた両手を離しかけた自来也の手を限が抑え、すぐに彼を背負って限が走り出した。
「お、おお!めちゃくちゃ速いのう!?」
「……、」
鳥が物凄い勢いで限の速度について来る。
そして産み落としていく卵が次々に爆発し、その爆風に限がちらりと振り返った。
そんな限に「もう少し、もう少しで口寄せ出来るんだが…!」と自来也が眉を寄せて言う。
その言葉に目を細め、限が妖力を高めていく。
「…一旦手を離す」
「ん?おおっ!?」
手を離された自来也が体勢を崩しながらも着地し、しゃがむ様にしてから跳び上がった限に目を向ける。
そしてその姿に目を見開いた。黒くて長い髪、刃の様な鋭い手足、緑色の鋭い目。大きな口から垣間見える牙。そして。
およそ人とは思えない程の速度とその一撃の威力。
「(…あれが間一族、と言う事かのう…)」
「…。(…あの家紋…)」
カメレオンの中から見ているペインが限の背中にある正方形の紋様に目を細めた。
成程、木ノ葉の増援だと思っていたがあれは間一族の人間か。
そう考えてちらりと傍観しているだけの黒凪達にも目を向ける。
そして黒凪の側に立つ2人に微かに目を見開いた。
「(あれは鬼人・再不斬…?あの男は死んだ筈だが…)…!」
此方に向けて笑顔で手を振った黒凪に一瞬だけ動きを止める。
――あの女、俺に見られている事に気付いている。
そう考えた途端に鳥が限によって粉々に斬られ、ペインがまた次に犀を口寄せした。
其方に目を向けた限が肩を鳴らしてまた走り出す。
「(よし、ここはあやつに任せて儂は口寄せを――…)」
自来也が建物の影に隠れ、チャクラを練る。
その間に限は犀も斬り伏せて飛び散る血の中で立ち上がり、すん、と匂いを嗅いだ。
そしてちらりとカメレオンに目を向けるとゆっくりと自来也が影から姿を現す。
自来也達の戦いを見物する様に移動し姿を見せた黒凪達の元へ限が徐に戻った。
『ありがと限。大丈夫?怪我はない?』
「ああ」
戻ってきた限の変化した両頬に黒凪が手を添えて限を元に戻し、ちらりと自来也に目を向けた。
彼の両肩には小さな蛙が2匹乗っており、敵を前にして流暢に会話をしている。
しかし瞬く間に左肩に乗っている蛙が舌を伸ばして姿を消していたカメレオンを殺したその手際の良さに時間をかけて口寄せしただけはあるのだろう。
ペインも警戒したのか、次に口寄せしたのは己と同じく輪廻眼を持つ2人の忍だった。どちらも暁の羽織を着ている。
『…。確かサソリの話だと全員が視界を共有してるんだったよね。』
「ああ。それが最高で6人だとも言っていたな。」
「これで3人…。」
サソリの言っていた通り、確かに視界を共有しているらしく不意を突いた自来也の攻撃が当たらない。
彼等もその短時間で輪廻眼のカラクリに気付いた様で一旦引く事にしたらしく、3人の視界から消えた。
そんなペイン達を見ているとちらりと彼等の目が此方に向けられる。
「…貴様等は何故此処に来た」
『自来也さんが1人でやるって言ったから手は出さないよ。』
「さっきは出していただろう」
『じゃあ付け足す。…"時と場合による"ってね。』
笑って言った黒凪に冷たい視線を向けて3人が走って行く。
黒凪が微々たる呪力で探査用の結界を張った。
途端にペインの位置も、自来也の位置も頭の中に正確に流れてくる。
『…。お、6人全員口寄せした。』
「チッ、いよいよ見てるだけにもいかねえな。準備しておけよ、白。」
「はい。」
『自来也さんは生きて連れ帰る。出来れば肢体満足でね。…あ、勿論第一はあんた達の命だから危ないなら見捨てる事。』
ま、そこまで追い詰められる様な事は私がさせないけど。
そう言って限の腕を引いて彼の背中に乗り、徐に自来也の元へ向かう。
自来也は二大仙人と共にペイン3人を幻術に掛けて殺した。
そして安堵して背を向けた所に予め口寄せされていた1人が向かっていく。
そのペインの手が自来也に触れる寸前で黒凪の結界が自来也の正面の壁を破壊し、彼を外に押し退けた。
「っ!?」
『――自来也さん。』
「!」
『流石に6人はきついでしょう。それに今私達が来なければ片腕無くしてました。』
その言葉に自来也が何も言い返せず「うぬ…」と唸る。
自来也の視線の先には新しく現れた3人のペインと先程殺した筈の3人のペインが何食わぬ顔で立っていた。
ペインの数を改めて目でカウントし、自来也に向けて黒凪が笑って言う。
『もう良いですね?手を出しても。』
「…あぁ。よろしく頼む。」
丸めていた背をゆっくりと伸ばして言った自来也に笑って黒凪が限の背中から降りる。
目の前に立つペイン達6人の冷たい目が此方に向けられた。
そうして黒凪達が構えた訳だが、自来也がはっと目を見開いて黒凪達を静止する。
『自来也さん?』
「ま、待ってくれ。…お前は弥彦か…?」
「ふん、俺に弥彦の面影を見たか。流石はかつての師だ。」
「どういう事だ、弥彦は死んだと長門自身が…」
そうだ。弥彦は死んだ。…此処にいるのはペインだ。
無表情に言う6人の中で中心に立つ短髪の青年。
彼を驚きの表情で見つめる自来也が「なんじゃ、どうした」と問いかける右の肩に乗る蛙、フカサクの問いに応える。
「あのペインの中にかつての教え子が居ます。しかしあの子は輪廻眼を持っていなかった…」
『…。(ペインのからくりはサソリ達も誰1人知らなかった。)』
分かっているのは数が6人居る事、その中でも主にリーダーと呼ばれているペインが短髪の青年である事。そして6人に固有の能力が1つずつある事。
恐らく先程から"弥彦"と自来也に呼ばれている男がそのリーダーだろう。
目を細めた黒凪が静かに自来也に近付いた。
『貴方の教え子と言うのがその弥彦と、戦う前に言っていた長門ですか?』
「あぁ、そうだ。」
『弥彦があの青年だとして、長門はあの口寄せばかりをするペインで間違いないんですね?』
「…いや、輪廻眼を持つからと長門を奴だと思い込んでいたが、奴に長門の面影はない。」
対して輪廻眼を持たない弥彦の面影を持つペインが居る。
儂も今色々とこんがらがっておってのう…。
そう眉を寄せて言い、自来也が口を開いた。
「お前達は一体何者なんだ…!!」
「…我々はペイン。――…神だ。」
そう言い放ち6人が無表情に走り出す。
逃げるんや、自来也ちゃん!
フカサクの言葉に応える暇もなくペインに応戦する。
そして他のペインに見向きもせずに弥彦の面影を持つペインの元へ一直線に向かった。
『(…あの顔は逃げる気なんて毛頭ないな…)』
「氷遁・万華氷」
迫りくるペインを氷の刃で白が応戦するが、その術をペインの1人が吸収し、その間に斬り殺そうと再不斬が斬り掛かるが他のペインに阻止される。
その間にも他のペインの攻撃を避けながら限が後退して行った。
一方の自来也は弥彦の面影を持つペインに拳を受け止められ、腕を捻じられペインから離れると限と戦っていた内の1人が腕からミサイルの様なものを放ち自来也が避けていく。
その内のミサイルが1つ黒凪に向けられたが、其方に目を向けず絶界で弾いた。
『…弥彦君だったかな』
「!」
『君が話しだした途端に他の全員話さなくなったけど…何か理由あったりする?』
「…。」
何も言わずに目の前に現れた黒凪をちらりと見て彼女から視線を外さず自来也に手を向け、自来也のすぐ側にある壁が崩れた。
其方に一瞬だけ目を向けて黒凪が人差し指と中指を立てる。
それを見たペインが此方にも手を向け、黒凪を吹き飛ばした。
『!』
「…チッ」
物凄い勢いで吹き飛んで来た黒凪を見て咄嗟に両手で持っていた首切り包丁を左手で持ち、彼女を再不斬が受け止める。
その勢いに目を見開いた再不斬は少し後退すると黒凪の安否を確認する様に顔を覗き込んだ。
すると途端に再不斬、白、限の足に蛙の舌の様なものが巻き付いて全員を水の底に引き摺り込む。
ちらりと水の中で目を開くと少し離れた所で最も最初に戦ったペインも引き摺り込まれていた。
そして瞬きをすると、どうやら自来也の結界の中に引き摺り込まれたらしく周辺に数個の瓦礫の様なものが浮かんでおり、下では胃液がぶくぶく音を立てている。
「――螺旋丸!」
「!?」
『!』
丁度結界に入ったばかりのペインの腹部に自来也が螺旋丸を直撃させ、ペインが胃液の中に落ちていく。
それを見て広い瓦礫の上に降りた自来也の元へ黒凪達が集まった。
自来也は目に見えて消耗しており、そろそろ体力的にも限界が来ているのだと悟る。
『自来也さん、此処は逃げた方が良い。』
「…それは分かっとるんだがなあ、自分の弟子が相手だと…刺し違えてでも…」
「何を言っとるんや自来也ちゃん!死んでもーたら元も子も――…!」
そう言った途端に胃液の中からペインが姿を見せ、右手の袖から長く黒い槍のようなものを伸ばして自来也の右肩を貫いた。
それを確認する様に目視して目を見開いたまま息絶えたペインに自来也がドサッと座り込む。
血が流れ落ち、白が自来也の元へ駆け寄り傷口を覗き込んだ。
「…。当たり所は悪くありません。ゆっくりと抜いて…」
「っ、う、身体が…チャクラが、乱される…!」
「!(武器も特殊なのか、)」
目を見開いた白が眉を寄せて力任せに槍を引き抜き、すぐに応急処置に入る。
奴等事態も奇妙だが、武器も奇妙なもんを使ってくるわい…。
眉を寄せて言ったフカサクに小さく頷いて「こいつらはもう人やあらへん、もっと別のもんや!」と自来也の左肩に乗るシマも言った。
「ぐ、…」
「…。もう限界です。僕もこのまま逃げてしまった方が良いと思います。」
「…っ、」
自来也が痛みに眉を寄せながらそう言った白に目を向け、そして考える様に虚を見つめる。
どういう事だ…。あのペインの顔は間違いなく弥彦だった。だとすれば長門から輪廻眼を奪い取ったのか?
しかしそうなれば他のペインの眼はどう説明をつける。それにやはり最初に戦ったペインの言動は長門のものだった。
「…だとすれば、やはりこの男が…長門……?」
カラン、と音がする。目を向ければ息絶えているペインの額当てが瓦礫の上に落下していた。
そしてその額当ての下には横一文字の傷が残っている。
その傷を見て自来也が大きく目を見開いた。
「――…違う、この男は長門じゃない。」
『!…この男を知ってるんですね』
「ああ…。過去に手合せした時がある…、その時にあの額の傷を儂が付けた…!」
そうだ、この男は風魔一族の人間だ…。
唖然とそう言った自来也に「なんでそんな奴が輪廻眼を持っとるんや!」とシマが眉を寄せて言う。
その問いに応えず考える様に自来也が目を伏せ、そして言った。
「…確かめたい事があります。お二人はお帰り下さい。…お主等も今の内に逃げろ。」
「はぁ!?何を言うとるんや自来也ちゃん!今出て行ったら確実に殺されるで!?」
「母ちゃんの言う通りや!今なら気付かれずに逃げられる!出て行ったらあかん!」
「…出て行けば殺されるかもしれません…。しかしこれ程までにペインに近付ける者はこれから先におらんでしょう。」
ペインの正体を見抜くには今しかない。頭と姐さんはこのペインの死体と情報を持って木ノ葉に戻り、綱手の元へ…。
そう言った自来也の言葉を遮る様に「それは母ちゃんだけで十分や。」とフカサクが言った。
そして続ける様に「我々も引き下がるつもりはありません」と黒凪が自来也の前にしゃがんで言う。
『私達の目的は貴方を殺させない事です。極秘ですがね。』
「何?…綱手か…?」
『いいえ。我々の独断で。』
「…何故だ…何故儂を…」
木ノ葉にまだ必要な人間だからですよ。貴方は大きな損失になる。木ノ葉のね。
そう言って黒凪がにっこりと笑った。
私は家族を護る。貴方はその1つの手段に過ぎない。…この意味が分かりますね。
最後まで聞いて自来也が小さく笑った。
「お主等は自分の護りたいものの為に儂を何が何でも死なせん。…そう言う事だのう」
『ええ、その通り。』
「…なら、此方も儂の確かめたい事をお主等に言っておこう」
今儂等の目の前で息絶えているこのペインと弥彦は輪廻眼を持っていなかった。
儂は此等を踏まえて姿を見せたペインの6人は全員長門ではないと考える。
長門は別の場所に居て奴等6人を遠隔操作で操っているのではないか。
つまりペインを倒すには何処かに居る長門を倒さなければはない。そう思った。
『…成程、その線は当たっているかもしれませんね。』
「まだ断定は出来ん。それを確認しに行く。」
『…分かりました。行きましょうか。』
笑って言った黒凪に眉を下げ、自来也がフカサクと共に外に出る。
黒凪達も出ると気配を消して自来也と共に水面から顔を出した。
そして自来也が出した武器を投げ、全てのペインが此方に目を向け静かに佇む。
その顔を自来也が確認して行った。
「(やはりか…)」
『(自来也さんの考えは当たり、か。)…白。』
「はい。」
白が印を結んで水を自分達の周辺を残して凍結させ、水の底から迫っていたペインを止める。
そして氷の柱を作り、一気に崩してペイン達4人に向けて倒した。
その間に水面を上がり、限が自来也を引き上げて氷の柱を避けて向かってくる弥彦の面影を持つペインの一撃を首切り包丁で受け止める。
しかしペインの能力で吹き飛ばされ、再不斬の腕を瞬時に限が掴み取った。
途端に自来也を狙ったペインの攻撃を結界で弾き、白も水から上がって黒凪を抱える。
『逃げますよ、自来也さん。』
「…あぁ…」
そう返答を返した途端に白の氷がペインによって吸い取られ、それを見て再不斬が霧隠れの術を発動する。
氷を吸い取っていたペインがすぐさま其方に目を向け、両手を向けた。
それを見て舌を打ち、限が自来也を抱え、白が黒凪を抱えて走り出した様子を見て追撃が来ない様に武器を構えつつ再不斬も走り出す。
「……。」
弥彦に似たペインが手を伸ばし、目を細める。
途端に全員が引力に引き摺られる様にぐんっと引き戻され、黒凪が結界を張ろうと構えた。
しかしそれより早く他のペインが武器を構え、その武器に向かう様に物凄い勢いで引っ張られる。
『っ、』
全員が背中を向けていた為に後ろ向きで引っ張られる中で白に抱えられていた黒凪が一瞬で空間を捻じり己を白の背後に移動させた。
再不斬は首切り包丁をどうにか背中に移動させ、限は背負っている自来也をどうにか移動させようとしたが速度に敵わず眉を寄せる。
どん、と鈍い音が響き、再不斬は首切り包丁にヒビが入ったが無事、黒凪は白の代わりに串刺しになり、自来也の背中にも武器が突き刺さっていた。
『げほ、』
「――…」
「おい、しっかりしろ!」
「自来也ちゃん!」
血を吐いた黒凪の隣で自来也ががくりと頭を降ろす。
そんな自来也に限が焦った様に声を掛け、再不斬がすぐに背後に居るペインに向けて首切り包丁を振り降ろした。
それを避けたペインにすぐさま白が氷遁で作った氷の刃を飛ばす。
しかしそれもすぐにペインに吸収され、その間に向かってくる他のペインに針を投げた。
『(っ、動けない…っ)』
「白!殺せ!」
「…すみません、黒凪さん」
黒凪の心臓をクナイで突き刺し、その様子に弥彦に似たペインが目を細める。
再不斬達がペインに対応する中で自来也は独り薄れゆく意識の中で考えていた。
失敗なのか、と。
自来也の弟子が、忍の世にそれまでにない安定か破滅という形で大きな変革をもたらす。
そしてその二択は自来也の選択によって決められる。そんな予言を大ガマ仙人から受けていた。
自来也は今回の戦いでペインを止める事が自分の選択であると思っていた。
だからこそ、今のこの状況は"失敗"以外の何物でもないのだ。
「(これが儂の生き様か…最後の最後まで、失敗ばかりで…)」
綱手にフラれ続け、大蛇丸を救えず、師匠と弟子も護れず。
そうして最後の最後にこうして己の選択すらも失敗して。とてもくだらない。ちっぽけな、人生。
――そんな事ありませんよ。そんな声が頭に響く。
ピ、と電子音の音の間隔がほんの少しだけ狭まった。
丁度病室の掃除をしていた白菊が振り返る。
「――…」
「……。」
ピ、とまた音がなった。
3つ並んだ内の最も端にあるベッドに眠る男、波風ミナト。
彼の右手がぴくりと動く。白菊が微かに目を見開いて彼に近寄った。
「……ん、……い」
「?」
「…せん、せい」
僕は先生のド根性忍伝、大好きですよ!
だから俺、この主人公みたいな忍になって欲しくて…子供に同じ名前を付けようと思ってるんです。
笑って言ったミナトに「お、おいおい!良いのかそんな名前で!?」と焦った様に自来也が言った。
しかしその言葉に応えたのはミナトではなく彼の妻であるクシナ。
《ナルト。…とても良い名前だと思います。》
《クシナ…、…って事は儂が名付け親か?良いのか儂で…》
《先生だからこそですよ。》
…そうだ。儂はあの子に。
ナルトの言葉が頭を過る。ナルトの笑顔が蘇る。
…そうだナルト。お前はあの小説の主人公にそっくりではないか。
しっかりとミナトとクシナの思いや願いを受け取っているではないか。
ぴくりと自来也の手が動く。
「(忍とは忍び、耐えるもの)」
忍の才能で最も大切なのは持っている術の数では無い。…大切なのは諦めないド根性。
真っ直ぐ自分の言葉は曲げない。いついかなる時も諦めない。
自分がナルトに教えた事ではないか。
自来也の瞳に光が戻り、ゆっくりと顔を上げる。
その様子にフカサクが目を見開いた。
「(気力で息を吹き返した…)…自来也ちゃん!」
「げほ、…っ、」
「(声が出とらん、もう限界じゃ…!)」
「限!」
閃の声に限がはっと顔を上げる。
再不斬達とペインとの戦いの流れ弾を避けながら閃が限の側に駆け寄り、虫の息の自来也に目を向けながら口を開いた。
「頭領と医療班に連絡は取っておいた!今蜈蚣さんがすぐ近くに来てる!」
「分かった」
「急いでそっちに行かないと…!――…黒凪!早く起きろ!」
『……っ、』
今蜈蚣さんがこっちに向かってる!そっちには転送用のまじないもある、こっちから一気にそっちに飛ぶぞ!
焦った様に言う閃に自来也が顔を上げ、フカサクが背中を自来也に向ける。
フカサクの背中に自来也が指先にチャクラを込めて文字を書き残して行った。
そして全てが書き終わるとフカサクが印を結んで姿を消す。
「――…」
『…全員こっちへ』
起き上がって構えた黒凪の元へ再不斬、白、閃、そして自来也を抱えた限が集まった。
其方に一気にペイン達が向かって行くが、黒凪が結界で弾き式神を出してぼふんっと煙と共に姿を消す。
彼等が居た場所にドンッと武器を突き刺したペイン達は周辺を見渡し、弥彦に似たペインがぼそりと呟いた。
「…気配が消えた。もう雨隠れにはいない…」
逃げられたか。そう呟いて目を細めた。
一方の黒凪達の様子に蜈蚣が驚いた様に目を見開き、そして重症の自来也を見てムカデの速度を上げる。
随分と疲れた様子で、それでも自来也を助けようと応急処置を行う白の隣に再不斬がどさっと座り込んだ。
再不斬の武器の中央には大きな傷が残っている。弥彦に似たペインの力の強力さを物語っている様だった。
「…。もう傷は塞がってんな。」
「…あぁ」
限の背中の傷やらを見ていた閃がそう言い、限が小さく頷いて疲れた様に項垂れる。
彼等が此処までやられるなんて。そう口には出さずに考え、蜈蚣が一直線に木ノ葉へ向かった。
自来也の傷は木ノ葉の医療機関では癒す事は出来ないだろう。…ある意味正守の言葉は的中したと言った所か。
また入院棟の人間が増える。
『いやあごめんね菊水さん。結局入院棟の人間が1人増えた事に――…』
「いや、そうでもないぞ。」
『え?』
「1人目が覚めた。だが20年近く眠っていたからな、ロクに身体が言う事を聞かんらしい。」
菊水の言葉に目を見開いて黒凪が入院棟の最も奥の部屋へ向かう。
扉を開くと中には火黒と正守が立っていた。
そして彼等の視線の先で上半身を起き上がらせているのは。
『…波風、ミナトさん』
「え、…あぁ、間一族の方かな…?」
会った事無い筈、…だよね?
そう言いたげな目を側に立つ火黒に向ける。
彼自身20年近く眠っていた事を知らされ、自分の記憶に自信が持てなくなっていたのだ。
しかしその不安以上に驚いたのは火黒の表情で。驚いた様に正守にも目を向けて、同じ衝撃を受けた。
「お帰り。大丈夫だった?」
『まあどうにか。…それにしても急だったね…』
【こんなもんだろ。起きるタイミングまで空気読めるワケねえしさ。】
『そうだけど…』
当たり前の様にそう話す火黒と正守と、そして白髪の少女を交互に見て小さく笑みを浮かべる。
あの頃は、と言うより今もなのだろうが、間一族の事を深く知る者は里には居ない。
だからこそ自分自身も近くに居た筈の火黒や、よく会っていた正守の事も深くは知らなかった。
でも何処か寂しそうだったり、虚しそうだった事は分かっていて。
彼等が何かを待っている事はなんとなくだけれど分かっていて。
「…そっか、やっと会えたんだね。」
【あ?】
「!」
「…よかった。」
眉を下げて言ったミナトに火黒がきょとんとし、正守が照れた様に目を逸らす。
そして切り替える様に咳払いをすると側にあった椅子を引き寄せて正守が座った。
「火影様、…いや、ミナトさん」
貴方に話さなければならない事が沢山あります。…どうか落ち着いて聞いてください。
静かにそう言った正守にミナトも笑顔を見せて背筋を伸ばした。
うん。君の言葉ならどんなに信じられない事でも信じられる気がするよ。
笑顔で言ったミナトに正守が目を伏せたままで笑顔を見せる。
「(懐かしいな…)」
俺の事を迷わず信じて、小さな傷でも心配して、どんなに拒んでも入り込んできて。
…そんな所が黒凪に似てるから、俺は貴方を信じてみようと思ったんだ。
先程も言いましたが、貴方が気を失ってから16年経っています。従って貴方の息子であるナルト君は16歳です。
そうして始まった正守の言葉にミナトは黙って耳を傾けた。
目覚めた世界は、
(驚いたな。此処に運び込まれた人間の中で最も年寄りのくせに生命力はダントツだとは。)
(それは貶しとるんか?それとも褒めとるんか…?)
(半々と言った所だな。結局他の連中もかなりの重傷でも生きてはいる。)
(他の連中?)
(…。黒凪が説明する。暫しそれまで待て。…とは言っても好きに動き回れんだろうが。)
(だはは、確かにのう!)
((…背中の傷とチャクラの消耗で自力で歩けないくせに、変に気力はあるらしいな))
(菊水、黒凪は目覚めた男と話してから此方に来るらしい)
(お、お主等双子か!?いやー、よく似とる!)
(…菊水、こいつ元気だな。私達が付いている必要はあるか?)
(全くだ。)
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