世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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暗部編
【おい頭領】
「ん?」
開かれた襖に正守が目を向ける。
彼は今しがた目を通していた資料を机に置き、ずかずかと中に入って来た火黒に向き直る。
既に九尾の事件が起きてから4年と言う月日が流れていた。
火黒は相変わらず暗部としてこの里の裏側でカカシと共に暗躍し続けている。
しかし四代目火影が居なくなったことで此方も色々と状況が変わった。
彼が此処に赴いたのもその事についてだろう。
「…その顔は、やっぱりそうだった?」
【あァ。三代目の奴、ありゃ俺を信用してねェな。】
「だろうね…。今もカカシさんを中心に裏でゴタゴタが起きてるらしいし。」
【らしいな。俺はなんも知らされてねェから知らねえけど。】
座っている正守の前に雑に胡坐をかいてそう言った火黒は「俺はカカシと違って根にも誘われなかったしよォ」と付け足す様に言って欠伸を漏らす。
火黒を里の暗部に組み込む為にと時守がミナトの班に組み込み、そのもくろみ通り彼が暗部に入ったまでは良かった。
その後は火黒とカカシを四代目が暗部として積極的に起用し、間一族にも里の裏側の情報が流れていたのだ。
しかしその四代目が死亡し、里の暗部を三代目が、そして過激派の暗部である根をダンゾウが扱っている現在、間一族を信用し切れない両者は火黒をあまり起用しなくなった。
「(三代目は本当は火黒を排除したいだろうが、恐らくカカシさんの計らいで存続しているだけ…)」
「頭領、火黒は来ていますか」
「ん、ああ。居るよ。」
「失礼します。」
襖を開いて入って来たのは刃鳥。彼女は胡坐を掻く火黒を見ると「ろ班から呼び出しよ」と文を差し出した。
"ろ班"とはカカシの率いる暗部の名前だ。火黒はその班に副隊長として参加していた。
恐らくこの待遇も隊長であるカカシの計らいだろう。
彼は火黒の一種の"危うさ"に気付いている節があり、何かと火黒の側に居たがっている様に思う。
「(ま、同期2人の死が根本に関係してるんだろうけど。)」
「呼び出しは今から?」
【あァ。新米が入って来るんだとよ。】
「へえ、仲良くね。」
笑って言った正守に「へいへい」と生返事をして出て行った。
そしてそんな火黒を見送った正守は「何か対策を立てないとな…」と呟いて目を伏せる。
刃鳥もその言葉に頷き、机に置かれた資料に目を向けた。
そこにある資料はどれも現在夜行に居る異能者や妖のものだった。
「また新しく此方の人間を里に売り込むつもりですか?」
「ん、いや…、それも考えたけど現実的に無理っぽくてね。なんたって俺と三代目とのパイプが0に等しいからさ。」
「…。三代目火影様は我々間一族を毛嫌いしてらっしゃるのでしょうか。」
「いや、そうでもないよ。ただ仲間として信用出来るだけのものがないだけ。実績としては申し分ないけど。…ま、立場的には暗部の根と同じ様なものだよ。」
根なんかよりは大分マシだと思うけどね。開祖が居るから。
そう言って笑った正守が火黒が出て行った時に閉められる事の無かった襖の外側を見上げる。
もうあれから4年も経ってしまったのだな、と改めて思う。
かつては自分も里の長と親しくしていただなんて、夢だったのではないかとすら思う。
今ではもはや里の人間には関わる事は勿論、姿を見せる事さえ止めてしまった。
「…時間が経つのは早いね。」
「…。そうですね。」
火黒が街を歩いて行く。
彼は間一族でありながら里の人間に姿形を認識されている唯一の人物だ。
かつての大戦に参加し、その影響で大きな火傷を負った。
猫背のままで歩く火黒の目がちらりと町中に立つ建物に目を向ける。
中では父親と母親らしき人物と会話をする3人の子供が見えた。
【……。】
まず最初に見えたのは光に反射した白髪。そして金髪、黒髪。
その顔は自分がよく知る人物そのもので。
特に白髪の少女など、柄にもなく待ち望んでいた存在で。
その姿を一瞬の内に目に焼き付け、ふいと顔を逸らして歩いて行く。
「…ぁ、あの。本日より根から此方に配属になった甲です。よろしくお願いします。」
「よう、テンゾウ。」
「!…テンゾウ?」
「甲は根でのコードネームだろ?こっちではテンゾウを名乗ったら良い。」
知り合いですか、隊長。
そう問うた部下に「あぁ。色々あってな」と返答を返したカカシはテンゾウに笑顔を向けた。
テンゾウはその様子に眉を下げると「テンゾウです。よろしくお願いします」と改めて頭を下げる。
その様子に頷いたカカシは「実力は俺が保証する。」と笑顔で言って目の前に歩いてきたテンゾウに目を向けた。
「テンゾウ、お前の配属は俺が隊長をしてる"ろ班"だ。副隊長もいるんだが…」
【そいつが新人か?】
「お、来たな。あいつが副隊長だ。」
「…!」
振り返ったテンゾウが目を見張る。その反応は新人の恒例となっていた。
その様子に「最初は皆驚くよ。…でも慣れてやってくれな。」そう笑ってカカシが火黒に目を向ける。
「名前は火黒。ぶっきらぼうだが実力は確かだ。仲良くしてくれ。」
「はい。…テンゾウです、よろしくお願いします。」
【……】
「おい火黒。返事してやれ。」
【あ?…あぁ、…ま、気楽にやれば良いんじゃねえの】
そう言って背を向けて歩いて行く。
その背中を見てヤマトが目を伏せた。
彼の噂は聞いたことがある。かつての大戦で重要地とされていた神無毘橋を落とした班の1人だ。
ただ彼が有名になったのはそれだけではない。
彼は"あの"間一族の人間なのだ。
そしてその間一族の不気味な噂と比例する様に、死んでも可笑しくない様な火傷を負いながら今も何食わぬ顔で忍として働いている。
「(あの人が、間一族の火黒)」
【―――。…あ、頭領かァ?】
≪何かあった?態々電話までしてくるなんて。≫
【新しく班に加わった新人さァ、テンゾウってんだけど。】
テンゾウ?…あぁ、大蛇丸の実験台の生き残りで木遁使いの?
そう言った正守に「やっぱそうだよなァ」と火黒が返答を返す。
見た事ある顔だった?と言う問いかけにも肯定した火黒に「じゃあ間違いないね」と正守が言う。
≪カカシさんが最近関わってたゴタゴタの根本だよ、その彼。≫
【へえ】
≪あれ、興味なさそうだね。それで電話して来たんじゃないの?≫
【別に?ただ俺等の監視対象だろ?テンゾウってさァ】
そうだね。ついでに監視も頼むよ。
笑って言った正守に「わぁったよ」と気だるげに返答を返して携帯を閉じる。
通話の切れた火黒に小さく笑った正守が今しがた翡葉から渡された写真に目を向けた。
着々と成長している黒凪達の姿に目を細める。
「(火黒も随分とこの一族に貢献している…ってよりは、黒凪に貢献してる、の方が正しいか。)」
これで万が一戻って来なかったら色々とやばいなぁ、と思う。
しかし彼女の場合はまた特殊だった。
そもそもの生まれが間一族では無い。それはつまり。
今の家族を捨てると言う事だ。添付された彼等の両親の写真にも目を向けた。
「(…黒凪、)」
君の破天荒さがそろそろ懐かしくなってきたよ。
そう思い浮かべて写真を仕舞い込む。
彼女を必要としている人間はこの間一族には沢山居る。
どうにか保たれてはいるが、やはり彼女に従わんとしているものが沢山居るのは事実だ。
鋼夜や火黒がその筆頭で、彼等は黒凪の為だと称したものにのみ従っている。
「…俺1人じゃ限界があるんだよな…」
つくづく彼女のカリスマ性が羨ましい。
彼女が居なければそろそろ間一族は機能しなくなってくる。
長としてまとめている時守でさえ、彼女には勝てないのだから。
そんな事を考えていた矢先に「頭領!」と己を呼ぶ声とドタドタと足音が聞こえてくる。
ん?と襖を見ていると勢いよく開かれ、染木が姿を見せた。
「どうした?そんなに焦って…」
「っ、…いと、」
「え?」
「…絲が見つかりました…!」
息を切らせて言った染木にガタッと立ち上がった。
そして恥ずかしそうに顔を見せたツインテールの少女に安堵した様に息を吐いて笑顔を見せる。
そんな正守に驚いた様な顔をした絲は小さく笑顔を見せて口を開いた。
「解呪、ですよね」
小さな声でそう言った絲に正守が「あぁ」と頷いた。
彼女は噛み締める様にその返答を聞くと小さく頷き、嬉しそうな染木と共に救護室の入院棟へ走って行く。
その背中を見送って改めて安堵したように息を吐いた。
絲が夜行に戻り、テンゾウが暗部に加入してから、また2年が経った。
これまでに"ろ班"は何度か死亡や移転などで中の人間が変わって来たが、変わらず隊長はカカシ、副隊長は火黒のまま。
2年前と変わった事と言えば、実力や人格共に優れたテンゾウが主に後輩の教育や命令の伝達役になった事だろうか。
「――…火黒、はたけカカシが来てる」
【あ?】
「5分後に第三演習所に行くらしい。大方此方に連絡を飛ばしても反応が悪いから呼びに来たんだろう。」
【チッ、わぁったよ】
のそりと立ち上がり玄関に向かった。
そうして扉を開いた先には暗部の服装のカカシが居る。
よう。と掛けられた声に「あぁ」と返答を返して屋敷の扉を潜った。
「新人が入って来たんだ。今日はその実力を確認する。」
【チッ、また新人かよ…。】
「あぁ。しかも若い。11歳だそうだ」
【はァ?んなのゴメンだ。どうせ要領も分からずに飛び込んできて死ぬんだろ。】
実力はあるらしい。…殺すなよ。
カカシのその言葉にニヤリと笑う。
邪魔なら斬るかもなァ。火黒のその返答にカカシがため息を吐いた。
ま、簡単に殺されはしないだろう。変に平和ボケしている様な人間はまず暗部には来ない。
それにダンゾウ様の推薦で来た人間だ…。火黒が殺したくなるような奴ではないだろう。
【…あれか?】
「ん、…あぁ。」
【ふーん。悪くねェな。…馬鹿共は分かってねェケド。】
暗部の服装で歩く少年にクナイや手裏剣を投げる部下達にカカシがため息を吐くと火黒がクナイを投げた。
そのクナイは少年に向かっていた武器を全て正確に落とし、続けて重く冷たい殺気を落とす。
少年は機敏に察知し振り返り、暗部の部下達が一斉に立ち上がった。
「ふ、副隊長」
【下らねェ事すんなよ、ダッセェなァ】
「…申し訳ありません」
「彼の配属は上の決定だ。文句は通らないぞ。」
続けて放たれたカカシの言葉に「いえ、そういうわけでは、」と歯切れ悪く部下が答える。
そんなカカシと火黒の後ろに立つテンゾウは火黒をちらりと見上げて目を伏せた。
相変わらずの雰囲気だ。実力と人格で束ねるのはカカシ、恐怖や圧倒的な力でねじ伏せるのが火黒。
あーあ、新人の子も警戒しまくってる。そう考えてテンゾウが静かにため息を吐く。
その後、張り詰めた空気の中で新人の技能が試されたわけだが、やはり11歳と言う若さで入った事はあるらしく、随分と優秀な様だった。
「彼、ダンゾウ様の推薦でしたっけ。」
「あぁ。」
「へえ…、…妙だな、彼はダンゾウ様が気に入る様には思えないんですが」
「どういう事だ?」
ダンゾウ様の中で暗部と根とでは要員に独自の基準があるそうで。
らしくないってかァ?そう問いかけた火黒に「僕からは何とも。」とテンゾウが答えた。
そんなテンゾウに「へえ」と一言で応えて火黒が欠伸を漏らす。
「(…この人、カカシ先輩以外を仲間だなんて思っていないんだろうな。…いや、それも違うか。)」
単純に興味が無いんだろう。僕等に。
その底知れぬ冷たさに、これが間一族なのかと思う。
だからこそダンゾウ様はこの人を根には誘わないんだ。
「(きっとこの人は、ダンゾウ様の顔すらも覚えていないに違いない)」
上司を上司とも思わないこの人を、仲間を仲間とも認識しないこの人を。
…信用するなんて、僕には出来ない。
カカシ先輩ぐらいだ。この人の事を仲間だと思っているのは。
そう考えて、軽蔑の意を心に浮かべる。
――僕はこの人が苦手だ。
「――…少しは暗部に慣れたか?」
「…いえ」
「そうなのか? 意外だな。」
「まだ任務に就いた事が無いので」
火影様の護衛も任務の内だぞ。
そう言ったカカシに振り返って「暗部は暗殺戦術の特殊部隊では?」とイタチが問い掛けた。
その言葉に「戦時中じゃないからな」とカカシが答える。
火影室の扉の左右に立つイタチとカカシ、そして天井にぶら下がる火黒。
中から現れたヒルゼンが3人に目を向けず口を開いた。
「カカシよ」
「はい」
「儂はあくまで公式に小隊を派遣する。じゃがこの任務には裏があると言うダンゾウの意見も無視は出来ん。今回は儂の命では無い。…ダンゾウの指示を仰げ。」
「分かりました」
ヒルゼンが去って行き、火影室の中に居るダンゾウが口を開いた。
表向きは平和外交となっている今回の任務は林の国の忍である般若衆と国境で情報の交換を行うものだ。
しかしダンゾウはこれを罠であると考えており、ヒルゼンもその考えに同意した。
「通常任務を行う部隊に暗部を護衛に着ける。そして相手が裏切り攻撃を仕掛けてきた場合は1人残らず殺せ。」
「…殲滅ですか」
「木ノ葉は裏切りを許さぬ。それを見せつけて来るのだ。」
「俺とイタチ、火黒のスリーマンセルを希望します」
カカシの言葉に「良いだろう」とダンゾウが答える。
その答えに小さく頭を下げたカカシにダンゾウが続けて声を掛けた。
「カカシよ。儂は暗部としてのお前を買っている。改めて根に引き抜きたいぐらいにな。」
「御冗談を。」
「いや、お前には資質がある。闇と言う資質が…。」
【俺をビビって引き抜く度胸もねェくせに偉そうに言うなよなァ。】
ぎろ、とダンゾウの目が火黒に向いた。
火黒は仮面の下でにやりと笑うと「俺等に手出しも出来ねェ腰抜けが。」と続けて言い放ち、地面に降りる。
その音の無い動きにダンゾウはぴくりとも動かない。
【カカシを買うんなら、徹底的にコイツを孤立させる事だ】
「…火黒」
【下手に群れさせてコイツの資質を奪うなよ。】
そう言って歩き出した火黒に「申し訳ございません、ダンゾウ様」と声を掛けてカカシも歩いて行く。
イタチは何も言わずに火黒を目で追うとカカシの後ろをついて行く様に歩き出した。
「それでは諸君!青春の熱き闘志を燃やして、いざ行くぞー!」
「ちょ、待って下さい隊長ー!」
「……。」
「…あの人達は今回の任務の真意を知らされてはいないのですね。」
走り去って行くガイを笑いながら見ていた火黒と無表情に見ていたカカシを見上げて言ったイタチは「あぁ」と頷きながら仮面をつけるカカシから目を逸らした。
今回の事を知っているのは上層部と俺達暗部だけだ。そう言って走り出したカカシについて行く。
火黒も徐に仮面をつけると一気に足を踏み出した。
「――…火黒さん。」
【あ?】
「「!?」」
「ああすみません、驚かせましたね。」
即座に武器を構えたカカシとイタチにそう言って現れたのは扇七郎だった。
七郎かァ?と目の前の存在に問いかけた火黒にカカシが驚いた様に目を向ける。
彼が名前を呼ぶ様な相手は自分やオビト達の他に初めて見た為だ。
「どうぞ足を進めてください。僕はついて行きながら話したい事を火黒さんに話すので。」
【…だとよ、カカシ】
「信用出来るのか?」
【あァ。俺の身内だ】
身内。それはすなわち間一族と関係のあるもの。
間一族の人間か?と怪訝な目を向けるが、少年はカカシなど見向きもせずに火黒の側をふよふよと浮かんで付いて来ていた。
イタチの目がちらりとカカシに向けられる。
カカシは何も言わず任務に集中しろ、と視線で応えた。
「1年程前から里の周辺を僕達扇一族が守護しているのは知ってますよね?」
【あー…、確かそうだったなァ】
「僕も9つになったわけですし、外の守護を今日から任せられたんです。」
【そりゃご苦労なこった】
扇一族。その名にカカシがぴくりと反応した。
確か元々実力の高い木ノ葉の一族としてそれなりの地位を持っていたが、1年程前から里の守護を任される様になり、重宝される様になったと聞く。
だが間一族と関係があると言うのは初耳だ。…いや、それより。
「(その扇一族が最も重んじるべき里の守護をこの少年が…?)」
【あの頃は随分好き勝手やってただろ?ちゃんとすんの?】
「ちゃんとしますよ、やだなあ。また好きにやってたら黒凪さんに怒られちゃうじゃないですか。」
【あれ?君わざと黒凪に怒られてたんじゃなかったんだ?】
変な言い方しないで下さいよ!
そんな会話をする2人を横目に見るカカシをイタチがじっと見る。
すると目的地である国境に近付いて来た為にカカシが徐に口を開いた。
「そろそろ目的地だ。火黒。」
【あ?…だってよ七郎クン。そろそろ帰った方がいいんじゃねえの?】
「あれ、もう国境近くまで来てましたか。それじゃあまた。」
手を振った七郎に「おー」と生返事を返して火黒が目を逸らす。
そして3人で足を止めると視線の先でガイ達と般若衆が落ち合った。
まず最初にガイが巻物を手渡し、次に般若衆が巻物を差し出す。
しかし瞬時に異常を察知したガイは巻物を蹴り飛ばし、上空で巻物が爆破した。
「交換するのは巻物だった筈だが!?」
「…チッ、――木ノ葉は我等に攻撃を仕掛けた。よって我等もそれ相応の対処をさせて貰う。」
「ふん、とんだ言いがかりだな!」
「「土遁・岩石崩し!」」
大量に隠れていた般若衆が術を発動して攻撃を仕掛けてきた。
それを見たカカシ達がガイ達の前に降り立ち、カカシの土遁で攻撃を防ぐ。
飛び散った破片を火黒が刀で斬り、ちらりとガイと共に来ていた忍に目を向けた。
【さっさと逃げなァ】
「あ、あぁ!」
ガイ以外の2人が走り出し、それを見て構えたカカシ達と共にガイも般若衆を睨み上げる。
お前も逃げろ、ガイ。そう言ったカカシに「任務の途中で逃げられるか!」と言い返してガイが再び落ちて来た瓦礫を伝って般若衆の元へ向かって行った。
「!体術だけであれだけの動きを…」
「感心してる場合じゃない、行くぞ。」
「はい。」
【全員皆殺しで良いよなァ、カカシ】
ガイに殴られる般若衆を見て言った火黒に「…あぁ」とカカシが頷いた。
その返答を聞くや否や、すぐさま手近なものから頸動脈を斬って行き、舞う鮮血にガイが目を見張る。
そして振り返るとカカシが雷切で、イタチがクナイや手裏剣で般若衆を躊躇する事無く殺していった。
最後にはガイが殴って気絶させた般若衆まで止めを刺す様に火黒が刀で貫き、その様子に「止めろ!」と火黒の胸ぐらを掴む。
「何をやってるんだ火黒!…お前もだ、カカシ!」
「止せ、任務中に暗部の名を呼ぶ奴があるか。」
【…。お前名前何だっけ?】
「俺はガイだ!それより何故殺す必要が――」
これが俺達の任務なんだよ。
そう言ったカカシの表情は仮面に隠されて見えない。
そんな変わり果てた同期の様子にガイが息を飲む。
やがて火黒の胸ぐらを掴む手の力がゆっくりと抜かれた。
「後は俺と火黒で報告に行っておく。お前は任務完了で良い。」
「はい。……あの、隊長」
「なんだ?」
「その左目の写輪眼はご自身で開眼されたものではないですよね。」
あぁ、と頷いてカカシが目を細めた。
この写輪眼は友から託されたものなんだ。決して仲間を死なせるな、と言う思いと一緒にな。
その言葉を聞きながらじっとカカシの写輪眼を見ていたイタチが再び口を開く。
「本来の自分とは違う力を手に入れた事に違和感はないのですか。貴方はうちはの者ではありませんが、その写輪眼がある限り貴方はうちはの力も持つことになる。…自分がどちらの忍なのか。そんな事は考えたりしませんか。」
「ああ。考えた事が無い。」
すぐにそう答えたカカシに「そうですか…」とイタチが目を伏せる。
その様子を見て背を向けたカカシと共に火黒も歩き出そうとしたが「副隊長はどうですか」と言うイタチの言葉に気だるげに振り返った。
「副隊長は間一族ですよね。でも今は里の手足として、暗部として…」
【俺ぁどっちのモンでもないんだなァ、それが】
「え、」
【ずっと俺は、……あー、やっぱいいや。】
お前に話す事でもねェし。
そう言って歩いて行った火黒にイタチは次こそ何も言わなかった。
カカシも歩いて行く。2人の背中を何も言わずに見送り、イタチが徐にアカデミーの方向へ歩き出す。
やがてアカデミーに到着すると、生徒たちが楽しそうに友人たちと話しながら校舎から出てくるところだった。
「――任務はもう終わったの?兄さん!」
こちらに気付いたのだろう、笑顔で駆け寄ってきたサスケにイタチも笑顔を見せた。
「ああ。一緒に帰ろう、サスケ」
共にうちはへの道を歩く。
聞いてよ兄さん、と毎回同じ切り口で始まるサスケの話に笑顔で徐に耳を傾けた。
イタチが暗部に加入してまた2年が経った。
この2年間の間で火黒以外の間一族は全くと言って良い程表舞台に出ていない。
代わりに裏側では時守を筆頭に里の為にと動き回っており、諜報を担当している翡葉が主に動き回っていた。
「――うちはシスイが自殺しました。両目の写輪眼はどちらも抜き取られた状態で。」
「…。そうか。死因は?」
「判明しています。…うちはシスイは両目に万華鏡写輪眼を宿し、別天神と言う能力を有していた。それはご存知ですよね?」
「ああ。その能力を明かしているのは三代目火影と親友のうちはイタチ。…そして開祖だけだって事もね。」
うちはシスイはヒルゼンやダンゾウと違って間時守と言う人間を深く信用していた。
その理由は彼曰く"間時守は感情で動かないから"であると言う。
シスイは間一族の根底に気付いていたのだ。
我々間一族は身内を護る為、失わぬ為だけに動いている事を。…そして、
「(火の国の木ノ葉の里と言うこの巨大な器を容易に手放すつもりはないと言う事も。)」
間一族は決して火の国を裏切らない。此方が彼等を見限らぬ限りは。
だからこそシスイは隠す事は返って危険であると理解し、己の能力、うちはの状況など全てを時守に流していた。
――別天神の事を志村ダンゾウにも伝えた事が原因であると思われます。
翡葉の言葉に伏せていた視線を上げる。
「志村ダンゾウはうちはを信用していない。あの男は里の事ばかりを考えていますから。」
「…成程ね。大方その能力に危機感を持ったダンゾウがシスイの目を奪ったわけだ?」
「ええ。…しかしうちはシスイは両目を奪われる程弱くはありません。片目は奪われたそうですが、もう片方はうちはイタチの元に渡ったそうです。」
恐らくこれで一旦はうちはの勢いも落ち、うちはが密かに企てているというクーデターの話も沈むだろう。
しかしこれだけで止まる様な一族では無いだろう、と言うのがダンゾウや時守の考えだ。
我々としては里を脅かす存在は邪魔でしかない。うちはに里を乗っ取られては困るのだ。
「…その内殺す事になるかもね。」
「うちはを、ですか」
「うん。…開祖なら…いや、」
黒凪ならやるよ。
真っ直ぐと前方を睨むような表情で言った正守に「そうですね」と目を伏せて翡葉が口を開く。
貴方でもやるでしょう。頭領。
続けて放たれた言葉にちらりと正守が翡葉に目を向ける。
「…ああ。違いない。」
間時守はこの屋敷に住んでいる妻である月影を失いたくない筈だし、正守自身も夜行の部下達を失いたくない。
墨村の家族も、雪村の家族も。…間一族の人間は誰一人として。
その為に非情になれる様にと里との関わりを一切絶ち、能力についても多くを語らず、そして圧倒的な力を蓄えてきた。
「――誰にも手出しはさせない。」
「…はい。」
それから数か月後。
三代目火影の元へ呼び出されたカカシは先に火影室の中で立っていた火黒に驚いた様に足を止めた。
カカシの気配に気付きながらも火黒は興味が無いように振り返る事はしない。カカシは驚いた表情のままで中に入り込んだ。
三代目火影であるヒルゼンがミナトと違って火黒を信用しきれていない事は分かっていた。
だからこそ、彼が火黒1人を呼んでいた事に驚いたのだ。
「火影様、お呼びですか。」
「うむ。…カカシよ、現在木ノ葉の里を護るのは里を囲う結界システムと扇一族の風であると言う事は知っておるな?」
「はい。確か、無断で侵入した人間を探知するって言う…」
「そうじゃ。…ところが近頃、その結界システムを何者かが擦り抜け里に侵入を繰り返している様なのじゃ。」
その話を聞いて何故火黒が居るのか納得出来た。
大方、守護に携わっている扇一族の当主も間一族の当主も現れる見込みがない為、唯一のパイプである火黒を呼んだのだ。
現に結界システムを担当する忍は火影室の中に立っている。
「特に多く侵入されている場所などは?」
「…うちは地区の周辺じゃ。」
「!…成程。」
「…。侵入方法についてお主はどう思う、火黒」
ヒルゼンの言葉に気だるげに「あー…、」と声を発して火黒が話し始める。
九尾の事件があった時、九尾が出現する寸前でうちの人間が侵入者を感知してた。
火黒の言葉に付け足す様に「その侵入の形跡は今回のものとよく似ているのです」と結界システムの責任者が言う。
その言葉に「まさか、」とカカシが眉を寄せた。
「うむ。儂はこの情報から今回の事は裏切り者の仕業などではなく、結界を通り抜けられる人間が外部に居ると言う事じゃと思うとる。…しかも里に何やら恨みを持つ者がな。」
「……、火黒。」
【あ?】
「お前達間一族はこれまでその侵入者について気付かなかったのか?」
気付いていたんだがね、人手が足りないもので。
その声にカカシが目を見開いて振り返る。
扉を擦り抜ける様にして火影室に入って来た人物にヒルゼンが微かに目を見開いた。
「…時守殿」
「侵入者に気付いてはいたんだ。だが今はうちはとのゴタゴタで此方も忙しくてね。」
「……。」
「ああ、何も見てみぬふりをしていたわけじゃないよ。侵入される度に火黒を向かわせていた。」
カカシが驚いた様に火黒に目を向ける。
最近君の"ろ班"にあまり火黒は来なかっただろう?
確かに最近は火黒は暗部の任務に参加していなかった。
「火黒はずっと侵入者を追い払う役目を全うしておった。こやつならうちは地区にも気づかれず入る事が出来たからのう。」
【…。】
「(…火黒…?)」
この2年の間にどことなく火黒と疎遠になっていた気はしていた。
しかしいつの間にかヒルゼンの信頼を受け、彼の任務に従っていたとは。
恐らく間一族の当主である時守様の手引きなのだろうが、それにしたって…。
「とにかくカカシ、お主にはこの件について調べて貰いたいのじゃ。…頼んだぞ。」
「…分かりました。」
頭を下げて出て行ったカカシを見送り、時守も火黒を引き連れて火影室を後にした。
里の中を進み、間一族の領地に入った所で暫く無言だった中で時守が口を開く。
「黒凪に会って来た。…間一族に戻って来ると言っていた。…まあ、気長に待っていると良い。」
そう言って姿を消した時守に、やはり何も言わずに火黒が歩き出す。
その背後にイタチが音も無く現れた。
何も言わずに振り返れば、彼は間一族の領地ギリギリに立っているのが分かる。
「…火黒さん、少しお時間良いですか? 暗部でお世話になったイタチです。」
【……面倒くせェ。帰れ。】
では一言だけ。
そう言って一旦口を閉ざしたイタチに火黒が目を向ける。
貴方は結局、誰の為に動いているのですか。
その問いに火黒がにやりと笑って言った。
【お前に言う事じゃねェよ】
「…そうですか。」
失礼します。そう言って去ろうとしたイタチの手首を小さな手が掴んだ。
動きを止めたイタチが振り返り、間一族の領地の中から手を伸ばす少年に微かに目を見張る。
「火黒! この人、お前に話聞いてほしいんだよ!」
【……だからなんだよ。】
聞いてやれよ!強い口調で言った少年に火黒が嫌そうな顔をする。
そんな火黒の表情を初めて見たイタチは少しだけ目を見張り、そして少年に目を向けた。
…年齢的にはサスケと同じぐらいだろうか。そう思う。
すると少年の首根っこを掴んで持ち上げた火黒がじと、と少年の顔を覗き込んだ。
【んな所で何してんだよ。良守クン】
「う、うるせえ!こっそり抜け出そうとかじゃねーからな!断じて!」
【はーん、抜け出そうとしてたわけね。】
「違うって!!」
オラオラ帰るぞー。そう言って歩いて行く火黒に「あ゙ー!」と叫んで良守がイタチに向かって口を開く。
あんた何に悩んでんのか知らねーけどさ!
そう言った良守に火黒を見ていたイタチの視線が動いた。
「誰の為にって、自分にとって1番大事な奴の為で良いと思う!あんたにはいねーの!?好きな奴とか、弟とか兄貴とか!」
「……。火黒さん、…お世話になりました。」
良守の言葉に小さく笑みを浮かべ、頭を下げてイタチが去っていった。
そしてこの日、うちはイタチによってうちは一族が滅ぼされた。…うちはサスケを残して。
「――…三代目、時守殿。来て頂き感謝します。」
ヒルゼンと時守の目が影に潜む様に立つイタチへ向けられる。
つい数日前にうちは一族は滅ぼされた。…彼の手によって。
ヒルゼンが徐に口を開いた。まずは礼を言う、と。
「お主のおかげで木ノ葉の内乱は未然に防ぐことが出来た。里は救われたのだ。」
「…はい」
これからどうするつもりだい?そう問うた時守に「暁と言う組織の手を借りました」とイタチが答えた。
"暁"とはS級犯罪組織として名高い者達の事だ。
「…暁におるのだな、木ノ葉へ侵入を繰り返していた者は。」
「はい。里に手出しをさせない事を約束している為、違えない為に側に身を置きます。」
「そうか…」
「…全て、サスケを護る為です。…三代目、時守様。サスケに手を出さない事をお二人にも確約願います。」
サスケにはこの里の子供達と同じ様に接していく。
やがてあの子も立派な里の忍となるであろう。
…しかしお主への憎しみまでは取り除く事は出来ぬぞ。
そう言ったヒルゼンに「覚悟の上です」とイタチが無表情に答えた。
「…もう行け。里の結界の術式は依然と変わらぬ様にしておく。」
「扇一族にも伝えておくよ、君の事は。」
「…ありがとうございます」
イタチが深く頭を下げ「時守様、あともう1つだけ」そう言って目を細めた彼に時守もその内容を察したのだろう、ヒルゼンの側から離れてイタチの元へ歩いて行く。
「…あの日、うちは地区で3人の子供を見かけました。」
「中に白髪の女の子が居ただろう」
「はい」
「あの子は私の娘でね。君の様子を見に行く様に言ったんだ。」
どう感じた?そう問うた時守に「不思議な存在だと思いました」と素直にイタチが答えた。
その言葉に小さく笑った時守はイタチに1枚の式神を手渡し、声を小さくして言う。
「これからはあの子が間一族を動かしていく。…きっと君の助けになる筈だ。」
「…俺の、助けに」
イタチの言葉に頷き、時守が彼から離れ、歩いて行く。
一瞬で姿を消したイタチにヒルゼンが目を伏せた。
これで良かったのでしょうか。そう言ったヒルゼンに時守が少しだけ笑って口を開く。
「…もし間違っていたとしても、新しい世代がきっと修正してくれる。」
「…新しい世代、ですか――。」
「――カカシ、火黒。お主等は暗部に入って何年になる?」
四代目の時からですから、かれこれ10年程かと。
カカシが答え、火黒は欠伸を漏らす。
そんな火黒に近付いて彼の頭にヒルゼンが手を乗せた。
「全くお前は、あの頃から何にも変わらぬのう」
【オイオイ、俺があんたの命令に従う様になっていい気になってんのかァ?】
「その減らず口も相変わらずじゃのう。…しかしそうか、10年か…」
離れた手を睨んで火黒が息を吐く。
随分と長く縛り付けてしまったのう。そう言ってヒルゼンが眉を下げる。
カカシ、お主を暗部に入れたのはお主の中に在る闇が少しでも晴れれば良いと、そうミナトが思ったからじゃ。
そう言ったヒルゼンに「そんな気はしていました」とカカシが小さく頷く。
「火黒、お主は単に危なっかしいからじゃがな」
【へえ。】
「後はカカシの友として。」
【…あ?友ォ?】
怪訝な顔をした火黒に「お主等はずっと昔から友ではないか」とヒルゼンが笑う。
カカシは否定も肯定もしない。火黒も何も言わなかった。
じゃが儂の元におるからと言ってお主の闇が晴れるでもない。
カカシを見て言ったヒルゼンは「随分とお主等に頼ってしまった。これを持って暗部の任を解く」と言い、2人の仮面を受け取った。
《もう戦時中じゃないし、そろそろカカシさんも長いから暗部の任を解かれるかもね。》
つい数日前にそう言っていた正守の言葉が過る。
その場合はどうすれば良い、と問えば「カカシさんと一緒に引退しても良いよ。」との事。
やっと面倒な任務から離れられる、と火黒が息を吐いた。
しかし次に放たれた言葉は。
「お主等には担当上忍をやってもらう。」
「は?」
【あ?】
カカシと火黒の素っ頓狂な声が重なる。
そして顔を見合わせ、互いに嫌な顔をした。
「(俺が担当上忍?…と言うか、火黒が…?)」
【(おいおい、なんで更に面倒なの任されてんだよ…)】
火黒に心配のまなざしを向けるカカシ、項垂れる火黒。
そんな2人にヒルゼンがニコニコと笑う。
この2人にも新しい風が吹こうとしていた。
「…おっ!?おーい、火黒ー!」
【あ?】
「一緒にどうだ!?団子!!」
【要らね。つかお前誰だよ。】
「俺はガイだー!」
あっそ。そう言って歩いて行く火黒に「ぐぬぬ…」と歯を食いしばってドカッと椅子に座る。
その様子を見ていた紅が「彼、ほんと変わらないわね」と茶を啜った。
その隣に座っているアスマも「そうだなあ…」と団子を頬張り、茶を飲む。
「ずーっと退屈そうな顔して。」
「…ああ、確かにあいつはなあ…」
「いつまで経っても俺の名前を忘れているしな!ったく…」
「多分私達の事も分かってないわよ。…興味がないんでしょうね。」
目を伏せて言った紅にアスマも小さく頷き、「まだオビトやリンが居た時はマシだった様に思うが…」と呟いた。
アスマの言葉に確かに、と目を見開いた紅が再び歩いて行く火黒の背中を見る。
「…そっか。彼、カカシとは話すもんね…」
「なんだかんだ一緒に死線を潜り抜けた仲間はちゃんと仲間なんだよ。」
「うぬう…、ならば俺とも青春を――…、お?カカシじゃないか!カカシー!」
「?」
一緒に団子を食わないか!?
火黒と同じ様な切り口で言ったガイに苦笑いを溢してアスマがカカシを見る。
カカシに至っては冷たい目をガイに向けて歩いて行ってしまった。
「…あいつの方が愛想ねぇな…」
「…、まるで暗部に居た頃の様な目だ…」
「この間も3人全員アカデミーに送り返したそうね。これで2回目よ?」
「いや、気にするべきはそこじゃない。カカシの心の闇の方だ。」
暗部を離れれば治るもんだと思っていたんだがな…。
そう言ったガイに「カカシの闇が分かるのはある意味火黒だけかもしれねえな」とアスマが答える様に言った。
だからこそ、あいつ等の仲はずっと変わらねえのさ。
そんなアスマが言葉を止め、ガイの背後に立つヒルゼンを見上げる。
隣に座っている紅も顔を上げ、唖然と呟く様に言った。
「…え、三代目?」
「三代目?…うおぉ三代目!?」
「良い良い、座れ。儂も一杯貰おうと思っての。」
そう言ってヒルゼンがガイの隣に座り、茶を貰って喉に流し込んだ。
そしてガイ達に先程の話を聞くと「そうお主等が思い詰めるでない」と穏やかな口調で応える。
でも、と食い下がったアスマにヒルゼンが湯呑をゆっくりと机に戻し、口を開いた。
「師弟とは互いに高め合うものじゃ。お主等や儂がどうこう言うものでもないわい。…ま、儂も無策と言うわけではないがな。」
そう言って出された生徒達の資料3枚。
そこに載っている生徒を見たガイ達は「おお、」と少し目を見張った。
随分と個性派な生徒が載っている。
四代目の息子であり人柱力のナルト、うちは一族の生き残りであるサスケ、そしてサクラ。
「この子達なら、きっとカカシを変えてくれるじゃろう。」
「た、確かに…」
「火黒の事も心配は無用じゃ。ずっと断り続けておった担当上忍の役を生徒指名で承諾しよった。」
「ええっ!?あの火黒が担当上忍に!?」
そうじゃ。…恐らくこの子達があやつがずっと待っておった者達なのだろう。
そう言って出された資料は3つ子の姉弟達。
ざっと来年度の卒業生の資料を見せた所、火黒が即決で指名したらしいこの子達は別段飛び抜けた存在にも思えないのだが。
「…ま、何はともあれ良い方向に事が進めばいいがな。」
「そうね…。」
「…きっと進むさ。そう信じるしかあるまい。」
「うむ。」
「…どんな奴だと思う?先生。」
『私はもう知ってるから何にも気にならないかなぁ。』
「は?知ってんの?」
『うん。…ね、限、閃』
頷いた2人にシカマルが「へー…」と相槌を打つ。
ガヤガヤとしている教室の中には新しく下忍となる子達が集められていた。
…扉が開き、一気に会話が止まり、ドアに視線が集中する。
「奈良シカマル、秋道チョウジ、山中イノ。お前達の担当上忍の猿飛アスマだ。早速ミーティングを行う。」
「はい、」
「じゃあねナルト!」
「じゃあね、サスケくーん!」
きゃーっと走って行く3人を見送って会話する相手を失った黒凪は欠伸を漏らした。
限と閃は退屈そうにしているし、黒凪は眠る様に机に伏せってしまう。
ナルトは1人「なんだシカマル達のトコの先生かよ…」と愚痴を漏らした。
するとまた扉が開き、次に呼ばれたのはキバ、シノ、ヒナタの3人。
「また違うのかってばよ…」
「遅いわね…、ね、黒凪…って寝てるし…」
「…時間通りに来ると思うか?」
「…いや」
「だよな…」
閃と限は呆れた様にそう会話を交わして眠っている黒凪をちらりと見下した。
すると扉が開き、「お?」と期待のまなざしを向けたナルトは見えた包帯に言葉を詰まらせる。
【…あ?何、お前等んトコの奴まだ?】
「ま、まだです…」
【ふーん。…黒凪。】
『んえ?』
顔を上げた黒凪に「もうちっと待っててくんない?」と火黒が声を掛ける。
ぼーっとした顔で火黒を見た黒凪は「いいよー」と返答を返して再び眠りに落ちる。
その様子にニヤリと笑って火黒が部屋から出て行った。
「こ、こわ…」
「すんげー火傷だったってば…」
「…火黒より遅いってヤバいな、お前等んトコの担当上忍。」
「え゙、そうなの…?」
【よォ、カカシ。】
「!…火黒…」
【お前んトコのガキが間抜け面で待ってたぜ?】
「…あぁ」
そう返答を返したカカシが慰霊碑に目を向け、火黒とともに歩き出し、教室のドアの前で足を止め、扉に手をかけた。
途端に落ちてくる黒板消しに瞬時に反応したカカシだったが、特に何もするでもなく甘んじて頭に受けた。
途端にバカ騒ぎをするナルトと言い訳をするサクラ、無言のサスケ。
閃と限は呆れた様にナルト達を見下し、黒凪は昼寝中。
見事に三者三様と言った様子だった。
【おーい、黒凪連れてこっち来い。】
「はいはい…」
「黒凪、動かすぞ」
『んー…』
歩いて行く限達をカカシがちらりと見る。
彼等を指名して火黒が担当上忍になったのは知っている。
それに彼等が長い付き合いであるらしい事も。
去っていく火黒達を見送り、カカシが己の担当する下忍に目を向けた。
「――これにて演習は終了!第七班は全員合格!…明日からよろしくな、お前等。」
ナルト達が喜ぶ声を聞いて火黒がにやりと笑う。
そんな火黒にずい、と顔を近付けた黒凪も小さく笑った。
ん?と黒凪に目を向けた火黒はにっこりと笑う彼女の顔を見て笑顔を一瞬だけ固める。
『私が居なかった間の事、沢山聞かせて貰うからね。火黒。』
【…面倒くせェなァ】
そう言いながらも嫌な顔をしない火黒に笑って彼の手を引いて歩く。
良い事はあった?こっちの世界に大切な人は出来た?…楽しかった?
沢山聞きたい事がある。でも何となくは分かってるよ。
暗部編
(きっと楽しかったんだね。)
("君が居ない世界でどう生きていけば良いんだ?")
(そんな悲しい問いをしたこの人が、ずっと心配だったんだ。)
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