世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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カカシ外伝
「…居た、ってばね。さっき。」
「あぁ。…あの人だったね。」
そう顔を見合わせて言うミナトとクシナの脳裏に浮かぶのは堂々たる様子で皆をまとめ上げていた女性。…名前は時子。
まだ2人がアカデミー生だった頃。つまり子供の頃。
クシナが人柱力であるが故に他里の忍に攫われた事があった。
「クシナ…!!」
あと少しでアカデミーを卒業するとは言え、まだまだ子供。
そんなミナトが大の大人であり、しかも現役である他里の忍に追いつける筈がなかった。
どうしよう、どうすればいい?どうすればクシナを―――。
「っ、うわっ」
「!」
足を木から踏み外して道に転がり落ちる。
そして焦った様に顔を上げれば、丁度傍を通りかかったらしい女性が此方を不思議気に見ていた。
小さくて華奢な女性は大体年齢的には50~60歳に見える。
しかしそんな女性に構っている暇はない、と足を踏み出そうとしたミナトはばっと立ち上がった途端に何かにぶつかり、どてっと倒れ込んだ。
目の前には薄い緑色の箱のようなものがある。
「っ!?」
「何事か説明して下さるかしら。」
「あ、あの、今そんな事してる場合じゃ…」
「……。他里の忍が人柱力を攫ったようですね。」
じっと左側を見て言った女性はちらりとミナトを見て口を開いた。
手伝います。私を抱えて走ってくださるかしら。
そう言った女性をぽかんと眺めていると「ほら、急いで。」と続けて声をかけられた。
その言葉にはっと目を見開いて何が何だか分からないままで女性を抱えて走り出す。
「…もっと速く。」
「は、はいっ」
ぐんっと足に力を込めて踏み込み、どうにか敵の背中が視界に入り込む。
途端に女性が人差し指と中指をピンと立ててぶんっと手を振り降ろした。
すると視界の端から糸の様なものが敵に伸びていき、瞬く間に捉えて地面に落とす。
地面に倒れて暴れている敵の傍に着地したミナトはすぐさま蹲っているクシナのもとへ。
女性は2人の忍のもとへ近付いて行った。
「…。霧隠れの忍ですね。」
「「……」」
「…血霧の里の忍がそう簡単に口は開きませんか。ではうちの屋敷でゆっくりとお話しましょう。」
懐から携帯を取り出して何処かに電話をかけている女性をミナトとクシナが眺める。
電話が繋がったらしい女性は「ああ時雄?」を皮切りにクシナが攫われていた事、それを助けた事、攫ったのが霧隠れである事などをつらつらと述べていった。
そんな女性を眺めていると、ふとミナトが女性の着物の胸元にある文様に気が付き目を細める。
「(…正方形の、文様)」
「…あの人、一体誰だってばね…?」
「…間一族だ…」
「え?」
あの人、間一族の人だよ。
真剣な顔をして言ったミナトにクシナが驚いた様に女性に目を向ける。
…あの人が間一族?里の皆に嫌われてたり、怖がられてたりするあの…?
女性が通話を終えて携帯を閉じ、此方にちらりと目を向けた。
「時期にうちの一族の者が来ます。貴方達は里に戻っていなさい。」
「で、でも」
「なんです?里まで送れと?」
「い、いえ…」
ほら早く。そう言う様な鋭い視線に固まり、クシナを抱えてミナトが走り出す。
そんなミナトの背中を見送った女性は傍に現れた青年に目を向けると不貞腐れている忍2人を示した。
「わあ、本当だ。まんまと入られてしまったね、母さん」
「ええ。今朝の見張りは墨村では?」
「うん。…でもそろそろ見張りを扇一族に任せるつもりらしいよ。その打ち合わせでちょっと見張りを離れてたらしい。」
「フン。役割を離れるなら一声かければ良いものを…」
守美子さんは"あの頃"の俺と色々あったからさ。多分母さんに嫌われてるの気付いてるから来ないんだよ。
どっこいせ、と忍を抱えて言った時雄に「フン」と再び時子が目を逸らす。
確かに"あの世界"では時雄を守美子が殺したのではないかと疑ったりもしたものだ。
…この世に時雄が転生してその疑いは綺麗に晴れたわけだが、それでもいけ好かないのは変わらない。
「――…あー!!」
「うわあ!?何、どうしたの!?」
「お礼!お礼言うの忘れたってばね!!」
「…あ…」
ホントだ…、と真剣な顔をして言ったミナトに「だってばね!」と頷いたクシナ。
その場で失速し、すぐさま来た道を戻る。
しかし先程まで時子が居た場所には何の形跡も残っていなかった。
場所を間違えたのかと周辺を捜索したが見つからず。…そうして彼等はそれから10年経っても見つからない彼女に、遂に出会う事が出来たのだ。
やはり時子は変わらず隙が無いし、礼を言うタイミングを逃し、しかも下手をすれば忘れられている可能性もある。
「…いつかちゃんとお礼を言いたいね。」
「そうだってばね…」
――事件が起きたのは、そんな会話をした矢先の出来事だった。
「頭領、火影様が呼んでます。」
「……はいはい。」
仕上げていた資料を置いて腰を上げる。
この様に刃鳥が呼びに来るのは何度目だろうか。
…何度目だろうか。火影室へ出向くのは。
「やあ、おはよう。」
「おはようございます。」
「時間は大丈夫かい?」
「ええ。」
何度も呼び出している自覚はあるのだろう、最近はこのように「今は時間があるのか」と言う事を聞く様になった。
その言葉に今まで俺は「いいえ」と返した事が無い。
それでも一応聞いてくる所に彼の人間性を感じた。
「今日も君と世間話をしようと思ってるんだけど、実はちょっと真面目な話もあってね。」
「?…何か問題でも、」
「ああいや、そうじゃない。でも火黒が関わってるから一応言っておこうと思って。」
今日からカカシと火黒の2人に特別任務を任せたんだ。
特別任務、ですか。ミナトの言葉にそう問い返せば「ああ」と頷いた。
そして彼は少し真剣な顔をして口を開く。
「君も知っているだろうけど、僕の妻であるクシナは九尾の人柱力だ。」
「はい。」
「人柱力の女性が妊娠するとね、その封印に使っているエネルギーがお腹の子に移行していくから尾獣の封印が弱まる傾向にあるんだ。だから2人にはクシナの護衛について貰ってる。」
「……。成程、分かりました。万一封印が弱まり危険な状態になった時は我々が対処します。」
ありがとう。そう言ってくれて助かるよ。
そう言って笑ったミナトに「はい。」と返答を返す。
そして此処で出来る事なら背中を向けて帰ってしまいたい所なのだが、
「ところで今日は団子を買って来たよ。一緒に食べよう、正守君。」
「…毎回お聞きしますが、お仕事の方は…」
「もう片付けたよ。毎回そうだろ?」
「…ええ、そうですね。」
もはや正守の為にと用意された椅子を引き寄せ、ミナトが座る様に指示を出す。
その指示に素直に従う様になったのも、此処に来て何度目の事だったか忘れてしまった。
差し出された団子に手を伸ばし、口に含む。
…これまでの間にミナトに自分が甘党であると言う事はばれてしまった様だった。
「頭領?……。(居ないのか?)」
「頭領はまた火影様の所。」
「!…副長」
「私が聞いて良い様な話なら聞いておくけど。」
ああ、じゃあお願いします。
そう無表情に言ったのは翡葉。
彼は手元の資料を持ち上げ、その表紙を刃鳥に見せた。
「頭領に頼まれていた三つ子についての詳細です。」
「…あぁ、黒凪と限と閃についてね。」
「一応顔を確認してきましたが、確かに面影はありました。」
「そう。…遂にあの子達もこっちに来たのか…。」
戻って来てくれると良いけど。
資料をパラパラ捲りながら言った刃鳥に「そうですね」と目を逸らして翡葉が言う。
翡葉は己の蔦を見下し、目を細めた。
「ああそうだ、あの入院棟に居る忍はまだ目を覚まさない?」
「ええ、恐らくまだ。…何も聞いていないので分かりませんが。」
「そう、ありがと。じゃあこれは私が頭領に渡しておくわ。ご苦労様。」
「はい」
背を向けた刃鳥に頭を下げて翡葉が歩き出す。
すると丁度廊下を曲がって正守が姿を見せた。
毎度の事ながら、火影室から返って来た彼は少し機嫌が悪い。
珍しく自分が振り回されている状況だから余計に疲れてしまうのかもしれないし、それを不快に思っているのかもしれない。
しかし彼はそれを露骨に出しては来ないから、まあ気にしないのだが。
「頭領、三つ子についての詳細を今しがた翡葉が持ってきました。」
「あ、ほんと?ありがとう。」
「…疲れてらっしゃいますね。遂に火黒について文句の1つでも言われましたか」
「いや、普段通りだよ。ただ今回は九尾の人柱力であるクシナさんの出産も近い事があってちょっとした要請を受けたけど。」
普段通り、なんて言葉をミナトとの会話に対して言ったのは初めてだ。
無表情のままで刃鳥がそう思う。
…もしかすると、頭領の中ではもう既に随分と火影様は…。
そう考えた所でふと火黒が脳裏に過った。そして目を伏せ、眉を寄せる。
「…。」
「…刃鳥?」
「…あ、はい」
「お前も疲れてるなら休めよ。ま、その身体じゃ働けても限度があるけどさ。」
そう言って襖を開く正守はまだわずか7歳。刃鳥は1つ年下の6歳だ。翡葉なんて正守の2つ下の5歳である。
小さな身体で無表情に淡々と会話をする彼等は傍から見ていると随分と奇妙なものだ。
しかし間一族として集結し始めている現在はそんな様子が所々で見られている。
例えばつい2年程前に生まれた雪村時音。彼女なんて2歳にも関わらず大学生レベルの数学の勉強を黙々としている。
その1つ年上の染木は嬉々として新しいまじないを開発し続けているのだった。
「――。」
ぴくりと眉を寄せて時雄が振り返る。
彼が現在居る建物は里の周辺に探査用の結界を張り易い様にと里の丁度中心に建てられたものだ。
本日の見張りは雪村家当主の時雄だった。彼はすぐに里に侵入した何者かの気配を察すると無線に手を掛ける。
「(まずいな、確か今日は火影様のお子さんの出産の日だった筈…)」
《……はい。どうかしましたか、時雄さん》
「侵入者だ。数は1人。…でも強力な奴だよ。」
《!分かりました、すぐに―――》
ドォン!!と巨大な音がする。
そして時雄の背中を一気に悪寒が走り抜けた。
探査用の結界が突如現れた巨大な力に反応している。
危険だと頭に警戒を呼び掛けていた。しかしこの場を離れる訳にはいかない。
何らかの攻撃があったにせよ、そのどさくさに紛れて他の人間が侵入しては二次災害になるからだ。
「里の北西だ。…と言っても、"見えてる"かな。」
《…ええ》
巨大な化け狐。そんなものが突如里に現れるなんて前代未聞だった。人柱力の封印が解かれてしまうなんて。
敵は里に侵入して短時間でミナトとクシナの出産の場に現れたと言うのか。出産の場には強力な結界も張られていたのに。
すぐに里の平定の為にと準備を整えた間一族の面々が集結する。
正守。と守美子の声が時雄と無線を繋げている正守に掛けられた。
「私達はとりあえず九尾を抑えに掛かるわ。貴方は夜行を連れて里の人間を避難させなさい。」
「…分かった。」
頷いた正守に背を向けて走り出した守美子の前方には準備を整えた繁守と時子が立っている。
あまりにも速すぎますね。そう呟いたのは時子。
その言葉にちらりと時子へ目を向けて「ええ。」と頷いた守美子が微かに目を伏せた。
「この場にお姫様が居ないのは困りましたね。」
「…間殿か…。確かにあのお方がおればもう少し楽に事は進むじゃろう。だがそんな事は嘆いておっても仕様がない!儂等で抑え込むぞ!」
「――…一族の皆は無事かい?」
「…時守様」
ふっと現れた時守が頷いた守美子に安堵した様に眉を下げ、共に九尾を見上げる。
九尾はあそこに居るものの、それを召喚した人間が見当たらなくてね。探査用の結界を更に広範囲に広げてみた。
するとこの場から少し離れた場所で四代目と忍が戦っているのを見つけてね。
「九尾は私と…、…そうだな、時子さんと繁守さんで抑え込もうか。守美子さんは四代目の元へ。」
「分かりました。」
「頼んだよ。」
守美子が一瞬で姿を消し、時守達が九尾の元へ向かって行く。
すると視界の端に三代目火影と多数の木ノ葉の忍が見えた。
「三代目!」
「!…時守殿…!!」
「今から九尾の動きを止める!その間に里の人間や若い世代の避難を進めておくれ!」
そうとだけ言って走り去って行く3人に三代目が頷き、部下達に指示を出した。
三方向に別れた時守、時子、繁守は守美子とミナトが戻って来るまでの時間を稼ぐ様に九尾の動きを結界で制限していく。
一方の火黒やカカシ達は三代目の命により1つの避難所に集められていた。
里内での問題に若い世代を巻き込む気はないと言う事だろう。
それらを理解したカカシは反発する事も無く、ただ皆の無事を祈って九尾を見上げているだけ。
【あんなデケェのが腹ん中に居たんだなァ】
「…あぁ。そうだな。」
「離せ!離せよ、母ちゃんや父ちゃんがまだ…!」
「チッ、っせぇな…」
【よォ】
あ?と顔を上げた翡葉が眉を寄せて「火黒…」と呟き、蔦で連れて来たイルカを避難所に放り込む。
そして翡葉も避難所に入り込むと火黒を見上げて口を開いた。
「来いよ。お前も招集掛かってる。」
【あー、やっぱりなァ。誰が呼んでる?頭領か?】
「な、火黒!お前出動するのか!?俺達は此処で待機――」
【俺は間一族だぜ?お前等と一緒にすんなよ。】
じゃあな。そう言って姿を消した火黒にガイが「ぐ、」と言葉を飲み込んで不機嫌に眉を寄せる。
火黒はそんなガイ達など見向きもせずに翡葉と共に正守の元へ赴いた。
現れた火黒を見た正守は「あぁ、来たね。」と緩く笑みを浮かべる。
遠目で見ていたよりはそこまで被害は大きくない。すぐに駆け付けた時守達の尽力があってこそだろう。
【こっからどうすんだァ?】
「粗方の避難は終わったからね、皆には里の忍達のサポートに回って貰ってる。…火黒、君は俺と一緒に九尾の所へ行くよ。」
【へいへい。】
…走り出した2人が九尾の元へ近付いた頃、丁度同じタイミングでミナトと守美子が到着した。
瞬身の術で現れたミナト達に目を向けた時守は守美子を呼び寄せ、すぐさま4人で四師方陣を完成させる。
結界の中に抑えられた九尾を見上げ、ミナトが考え込む様に眉を寄せた。
「…火影様」
「!…正守君」
「何か考えでも?」
「……。…うん。九尾を、…息子のナルトに封印しようかと思ってね」
自来也先生が言っていた予言があるんだ。
この先に起こる世界の変革、そして災い。
その災いを起こすのは恐らくクシナから九尾を引き剥がした男だ。
そしてそれを止めるのは。…ナルトだと、俺は思う。
目を伏せてそう話すミナトに正守が口を開いた。
「どうやって封印するおつもりで?今日生まれたばかりの赤子にあれだけのチャクラを封印する事は…」
「ああ。…だから半分を僕の中に封印して道連れにする」
「!」
「それしか方法が無い。…そうだろう?」
目を伏せた正守が小さく頷き、側に立つ母を見上げた。
共に話を聞いていた守美子は小さく頷くとミナトに九尾を転送する場所を伝えて一気に呪力を高める。
途端に結界の中から姿を消した九尾が少し離れた場所で咆哮を上げた。
その方向に目を向けたミナトが瞬身の術で姿を消す。その様を正守は眺めているだけだった。
「…さて、私達の仕事は終わりよ。後は時守様が里を修復するだけ。」
「皆お疲れ様。…惜しい人材を無くすことになるね、正守君。」
「……ええ、そうですね」
「それじゃあ私は真界で里を修復する。皆は屋敷に戻っておいておくれ。」
はい、と頷いて繁守達が屋敷へ戻って行く。
そんな中で1人九尾が飛ばされた方角を見る正守。
その様子に気付いた火黒だったが、やはり何も言わずに歩いて行く。
そんな火黒に正守が声を掛けた。
「火黒」
【あ?】
「…君はどうしてのはらリンを助けた?」
【……。さぁ、知らね。ただ屋敷に連れて行こうと思った時は――…】
火黒の言葉を聞いて正守が微かに目を見開いた。
そして小さく笑うと「じゃあ俺もそうするかな」と呟いて走り出す。
それを横目に見ていた時守が小さく笑みを浮かべて真界の範囲を広げ、九尾をも飲み込んだ。
途端に正守の身体にも変化が起こる。正守は己の両手を見下して驚いた様に時守に目を向けた。
「開祖、これは」
「あの子ならこうすると思ったのでね。」
「!」
「…"世界を恨むな"。そう言ったからには、君が恨んでしまわない様に手を貸すのも役目だ。」
後悔の無いようにね。
そう言って背を向けた時守に「ありがとうございます」と伝えて走り出す。
――身体が軽い。この姿で動くのは久々過ぎて、少しふわふわした感覚だ。
「よし、あとは八卦封印だ…」
「っ、うん、」
「―――火影様。」
「え、……!」
振り返ったミナトとクシナが目を見張る。
そこに立っているのは見慣れない青年だった。
でも何処か誰かに似ている様な気がする。そんな不思議な存在が立っていた。
「!…既に屍鬼封尽を発動していましたか」
「…君は一体…、この周辺には九尾を抑える為の結界が…」
結界なんて俺達結界師には通用しませんよ。
すぐにそう返答して小さくなった九尾を横目に九尾の封印の為の儀式用の台座へ近付いた。
台座の側には吐血し顔色を無くしたクシナも居る。
「…俺は貴方達を助けに来たんです」
「「!」」
「その子に九尾を封印する事は賛成です。その他に俺も方法は思いつかない。…でも」
貴方達を死なせたくない。
正守の言葉に2人が目を見張る。
…初めて我儘を黒凪以外に言ったなあ、と考えて眉を下げた。
そして己を封印させまいと伸ばしてきた九尾の手を一瞬で結界に閉じ込める。
その様にミナトが驚いた様に顔を上げ、再び正守に目を向けた。
「封印術は結界師の得意分野です。多少高度なものでも些細な隙を見つけて歪ませる事は出来る。」
「歪ませる…?」
「封印術を始めてください。…俺は全力を持って貴方達を死なせない様に努めます。」
真っ直ぐにミナトとクシナを見て言った正守に「分かった」と頷いて2人が八卦封印を発動させる。
封印されて行く九尾を横目に正守がクシナとミナトの背中に手を当てた。
ミナトの命を蝕んでいる屍鬼封尽は術によって発動された死神が術者の魂を縛っている。
此方は死神をどうにかすれば良い。大して八卦封印での危険な点は特にないが、どうにかすべきなのは九尾を抜かれたクシナの方だ。
「……っ、」
「…正守君」
「!」
「本当にありがとう。僕等を助けに来てくれて。…でももしも無理させるのなら、僕は…」
確かにこれは俺自身もやった事の無い様な無茶です。
ミナトの言葉を遮って言った正守に2人が微かに振り返った。
…でも。続けて言った彼の言葉に2人が眉を下げる。
「俺は無理をしてでも貴方達を助けたい。…言ったでしょう。感謝の意を持って難題な任務にも就かせて頂いていると」
同じですよ。これも。
ミナトに憑りついている死神が首を締め付けられたような声を発しながら消えて行く。
続いて里ごと此方を包んでいる真界の力を少し利用してクシナの対応へ向かった。
「俺は貴方に感謝しているんです、火影様。…だから何があっても助けます。」
「…ありがとう。」
「……ありがとう、だってばね…」
とりあえずの処置を終えて黙っている2人の顔を覗き込む。
意識を失っただけの様子である2人に安堵の息を吐き、様子を見に来た時守に目を向けた。
途端に真界が消え去り、正守の姿が元の7歳のものへと変化する。
「ありがとうございました。開祖」
「…とりあえずは上手く行ったようだね。救護室へ運ぼう。」
「はい」
そうして間一族、救護班の一室ではベッドの上で眠っているミナトとクシナを正守、火黒、鋼夜、そして救護班の菊水と白菊が見下ろしていた。
白菊がせっせと治療の為の道具を片付ける中でじっとミナトとクシナを見ていた菊水が口を開く。
「…随分と粗治療をしたものだな、頭領」
「あ、ばれた?」
「ああ。…開祖の真界に干渉してうずまきクシナの命を寸での所で繋ぎ止めた所までは流石と言うべきか。」
だが問題は波風ミナトだ。
そう言った菊水に「あぁ。俺も屍鬼封尽が終わってたのを見た時は肝が冷えたよ。」と正守が眉を下げる。
あ?死んだのか?とミナトを見下して言った火黒に微妙な顔をして首を横に振った菊水はミナトの額に手を乗せた。
「その場で術者の命を奪う筈の死神を無理に退けたに過ぎないが、今はまだ生きている。」
【退けただけならまた戻って来るだろう…】
「そうだ。だからまた死神が波風ミナトの命を奪う前に解呪せねばならん。しかも封印したと言う事実は残したままで、だ。」
「そんな高度な解呪が出来るのは絲ぐらいしか思いつかないなあ…」
顎を撫でて言った正守に「絲?」と彼の言葉を繰り返して眉を寄せた鋼夜に菊水が頷いた。
絲、とはあの頃の夜行のまじない班に所属していた少女で、染木と共に高度な技術を扱う異能者だったと言う。
しかし彼女はまだこの世界で見つかっていない。
「…何にせよ、うずまきクシナの一命は取り留めた。後は波風ミナトの解呪を行うだけだ。」
「うん、ありがとう。…絲は俺が探すよ。」
「…そう長くは保たん。早急になされた方が良い。」
菊水の言葉に頷いた正守を見て部屋を出て行った菊水は「頭領も変わった」と呟いてちらりと壁に凭れて立っている時守に目を向ける。
時守は菊水に笑顔を向けると背を向けて歩いて行った。
こうして四代目火影である波風ミナト、そしてその妻であるうずまきクシナは共に戦死として処理された。
間一族の端にある救護室の一室で密かに生き永らえながら。
あいつならこうするだろうと
(やりたい様にやっているだけなのだと)
(彼女はよく言っていた。)
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